(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね実写版映画『キングダム』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけ下さい。
良かったら最後までお付き合いください。
実写映画『キングダム』
あらすじと原作との違い
実写版『キングダム』は基本的に原作の第1巻から第5巻までの内容をベースにしています。
そして、脚本としては多少の省略はありつつも、かなり忠実に作られているのが特徴です。
ただ、微妙に変わっている部分もありますので、その点に触れながら物語全体を整理しておこうと思います。
夢見る2人の少年
(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会
戦災孤児の少年である信は、幼少期に秦の国の大将軍である王騎が軍を率いている様を見た。
その時から、彼はいつか自分もそうなるんだという「夢」を持ち始めた。
奴隷として里典という男の下に売られ、彼はそこで漂という同い年くらいの少年と出会う。
漂もまた夢を持っており、剣の鍛錬を積むことでいつか奴隷という立場から抜け出そうとしていた。
出会ったその日から2人は意気投合し、山に薪木を取りに行った際に剣の鍛錬と称した真剣勝負をするようになった。
月日は流れ、2人がこなした勝負の数は1000を優に超えるほどとなっていた。
そんなある日、山でいつものように剣の鍛錬を積んでいた2人をその場を偶然通りかかった秦の王官である昌文君が見つめていた。
【原作との違い】
後ほど解説しますが、大きく原作と違っているのは、信が子どもの頃に王騎将軍を一目見ている描写が映画版ではインサートされている点でしょう。
また、映画版では、物語が信と漂が出会うシーンから始まっており、そこから一気に2人が成長するという作劇の仕方をしています。
漂の仕官と異変
里典の家に戻ってみると、昌文君は漂を見受けし、王宮で働かせたいと進言してきたのである。
漂は自分の夢のために王宮に向かうと告げ、信は必ず追いつくと宣言し、2人は別れることとなった。
信はその日からも剣の鍛錬を欠かさず、さらに日々の肉体労働も今まで以上に精を出すようになった。
そんなある夜、彼は納屋の外に人の気配を感じ、扉を開けた。
何と、そこにあったのは血まみれで今にも息絶えそうな漂の姿だった。
漂は死が目前に迫る中で、信に地図を手渡し、そこに向かえとだけ告げる。さらに死を悲しみその場から動くことができない信に「俺とお前は一心同体だから、お前が将軍になって、俺を天下に連れて行ってくれ」と願い、息絶える。
信は彼の死を無駄にするわけにはいくまいと、地図の場所が指し示した場所へと向かうのだった。
道中でゴロツキに攻撃される信だったが、鍛えぬいた武術によりあっさりと突破し、地図が指し示す黒卑村に何とか辿り着く。
そこで彼が見たのは、漂にそっくりな青年だった…。
黒卑村からの脱出と秦王
漂にそっくりな青年の正体は、秦王のえい政であり、漂は王宮の反乱に巻き込まれて、王の身代わりとして命を落としたことが判明する。
怒りに身を任せ、信はえい政を殺害しようとするが、そこに成蟜の刺客朱凶が現れ、交戦状態に突入した。
漂が殺害された怒りを戦闘力に変えた信は、圧倒的な力を発揮し、信を打倒する。
しかし、成蟜は黒卑村に軍隊を差し向けており、2人は退路を断たれ、絶体絶命の状況に陥ってしまう。
そこに河了貂を名乗る少年(後に少女だと分かる)が現れ、2人を秘密の抜け道を使って、村から脱出させた。
何とか難局を逃れたえい政は、信に漂が自ら望んで、身代わりという大役を引き受けたことを明かす。
それを聞いた、彼は悲しみに暮れながらも、死に際の漂の言葉を思い出し、えい政と共に王宮奪還へと向かうことを決意するのだった…。
絶体絶命のえい政の起死回生の一手
王宮では、成蟜がえい政の首を待ちわびていたが、その頃大将軍の王騎がえい政の唯一の味方でもある昌文君の首を取ったと現れた。
しかし、その首は顔がつぶれており、昌文君の死を判別できるものではなかった。
一方の、信たちは400年前の王家の楼閣で、昌文君たちと合流すべく、森の中をひたすらに突き進んでいた。
すると、竹藪の中で吹き矢の使い手であるムタが突然襲い掛かってきたため、信はえい政を守るべく戦いを挑む。
ただ、初めての真剣勝負に一抹の不安を感じていた信は苦戦を強いられる。
それでも、えい政の「前に出ろ!ひるむな!」という言葉を受け、懸命に前に出続けた信は何とかムタに勝利する。
【原作との違い】
原作では、信がムタの毒矢を受けることはないのですが、映画版では、毒矢を食らった彼が意識を失う一幕があります。
この際に河了貂が解毒を担当し、えい政がを背負って逃げたと述べられていますね。
山の民との共闘へ
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続々と仲間が集ってくるも、圧倒的な兵力不足に悩む信らは、かつての友好を頼り、山の民に共闘を仰ぐよう動き始める。
奥深い山道を何とか進軍していくと、えい政たちはいつの間にか気味の悪い仮面をつけた山の民たちに囲まれてしまいます。
えい政たちは山の民によって捉えられ、山の王 楊端和の引きずり出される。
山の民たちは、かつて平地の民から強い迫害を受けたことで、強い憎しみを抱いていたのである。
それでもえい政は、なぜ山の王が自分に協力すべきなのか、そして自分の本当の願いがどこにあるのかを語る。
さらに、信は山の民たちに、彼らの祖先が夢見た平地の民との共生を実現してやれるのはお前たちだけだと力強く語った。
それを聞いた、楊端和はえい政らと共に王宮へ攻め入ることを決断するのだった…。
【原作との違い】
基本的には同じ流れですが、山の民たちの描写はかなりカットされていますね。
まず、原作ではえい政だけが楊端和の元へと連行され、それ以外の面々は特に囚われるわけでもありません。
ただ、信と河了貂は、えい政を追いかけたが故に囚われてしまいました。
そこで、檻に囚われた信と河了貂を攻撃する山の民がいたり、その一方でタジフという楊端和に忠誠を誓った武人が2人を助けたりというような関わりも描かれています。
その点で、このパートは原作からかなり削られていたとは思いました。
いざ王宮へ!
王座奪還のため咸陽に向かう、えい政らは、山の民が成蟜に和睦を申し入れるという設定をでっちあげ、王宮付近まで一気に接近することに成功する。
そして、朱亀の門へと至り、門番から武器を捨てるように告げられた一行は、一気に攻撃を開始するのだった。
仮面を取ったえい政や楊端和は、王宮正面で敵兵の注意を集め、その隙に信たち一行は迂回ルートで王宮の中枢を狙う。
するとそのルートを読んでいた敵の策略により、そこには処刑人ランカイが配置されていた。
ランカイの圧倒的な力に苦しみながらも、何とか信たちは抜け道を突破し、成蟜のいる王宮の中心に辿り着くことに成功します。
しかし、そこには最強の用心棒である左慈が待機しており、圧倒的な力を見せつける。
【原作との違い】
ここは少し原作からの改変点としては勿体なかったように感じますね。
確かに左慈という最強の用心棒をラスボスに据えるというのは、展開的には見応えがありますが、この改変によりランカイがただの化け物に成り下がってしまったのが悔やまれます。
彼は、成蟜にかつてより拷問と調教を受け、戦うことを宿命づけられた悲しき人間です。
こういったランカイのバックグラウンドがカットされてしまったのは、何だか残念でした。
この改変には、意図があったと思っていて、それは視覚的な「インパクト」の違いだと思いますね。
というのも、実写映像だと見てお分かりの通り、CG感が全面に出てしまい、原作にはあったランカイの恐ろしさが軽減してしまいます。
そのため、実写映像の持つ特性を考えた時に、最強の用心棒である左慈の方が、ラスボスにふさわしいと考えたのではないでしょうか?
決着…!
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信はボロボロになりながらも、何度も立ち上がり、ついには最強の左慈を打倒する。
追い詰められた成蟜はオロオロと辺りを見回し、彼に従っていた大臣たちは我先にとその場から逃げ去ろうと試みる。
しかし、突如としてそこに大将軍の王騎が現れる。
血の滾る戦場や野望に憧れる王騎は、えい政に「王になって何を成し遂げたいのか?」と問う。
えい政は少しの言いよどみもなく、中華の唯一王になると高らかに宣言する。
それを聞いた王騎は、再び血の滾るような戦いに身を置く日々が始まることを予感しながら笑顔でその場を去っていく。
そうして、何とか王宮の奪還に成功したえい政たちは勝利の喜びに沸く。
次なる戦いへの予感を漂わせながら、信の将軍の座へと辿り着くまでの壮大な物語が幕を開けるのだった…。
スタッフ・キャスト
- 監督:佐藤信介
- 原作:原泰久
- 脚本:黒岩勉&佐藤信介&原泰久
- 撮影監督:河津太郎
- 撮影:島秀樹
- 照明:小林仁
- 録音:横野一氏工
- 美術監督:斎藤岩男
- 音楽:やまだ豊
- 主題歌:ONE OK ROCK
- アクション監督:下村勇二
まず本作『キングダム』は原泰久さんの同名のマンガの実写版となっております。
現在、単行本にして50巻以上発売されている大人気マンガで、今日本で最も勢いのある作品の1つではないでしょうか?
そして監督を務めるのが、『いぬやしき』や『BLEACH』の実写版を手掛けたことでも知られる佐藤信介監督ですね。
当ブログ管理人は、『デスノート Light Up The New World』を劇場で見た時に、冒頭のロシアパートの高級感のある映像と圧倒的な演出力を見ながらそう思っていました。
ですので、今回日本映画の規格を超えた圧倒的な超大作の監督に佐藤信介さんが抜擢されたことに、少し感動を覚えました。
そして今回の『キングダム』では、前作の『BLEACH』から引き続きアクション監督の下村勇二さんとタッグを組んでいます。
下村勇二さんの本気のアクション映画を一度見てみたいという方は『RE:BORN』という映画が本当に素晴らしいので、ご覧になってみてください。
本当にここ数年の日本映画で、断トツで優れたアクション映画ってこれくらいしかないんじゃないか?ってほどに圧倒的な作品でした。
また、これまでの佐藤監督作品を支えてきた撮影監督の河津太郎さんや照明の小林仁さんも参加していて、日本映画の中でもトップクラスに高級感のある映像を作り出しています。
最後に、主題歌を担当しているのがONE OK ROCKで、曲目が『Wasted Nights』となっています。
ボーカルのTakaさんは今回の主題歌について以下のようにコメントしています。
Taka(Vo)は「“壮大さ”、“ビッグアンセム”をテーマに楽曲を作り、試行錯誤を重ねていき、自他共に『これはいい!』と思える曲、“Wasted Nights”が完成しました」とコメントし、曲の出来栄えに自信をうかがわせている。
「明日ことは考えず、ただ今この夜を思って生きよう」という今を必死に生きることの大切さを込めた歌詞は、まさしく映画『キングダム』の物語にもマッチしていると言えます。
- 山崎賢人:信
- 吉沢亮:えい政&漂
- 長澤まさみ:楊端和
- 橋本環奈:河了貂
- 本郷奏多:成きょう
- 満島真之介:壁
- 高嶋政宏:昌文君
- 大沢たかお:王騎
キャスト陣の魅力については、後程詳しく解説していこうと思いますが、やはり豪華なメンバーですよね。
主演の山崎賢人さんはしばしばマンガの実写映画に出演しすぎであると揶揄されることもあるんですが、その一方で演技に関してはすごく成長してきています。
昨年の『羊と鋼の森』で魅せた演技は本当に圧巻だったので、ぜひ多くの人にご覧になってほしいと思っています。
そしてえい政&漂を1人2役で演じるのが吉沢亮さんですね。
あまりにも顔立ちが整いすぎていて、現実のものとは思えないほどの「美しさ」を有していて、これまでの実写『銀魂』や『BLEACH』でも本当に原作のキャラクターの際限度100%という状態でした。
今回の『キングダム』でも難しい役どころでしたが、見事に2役を演じ分け、存在感を放っていました。
他にも語っていきたいキャスト陣はたくさんいるんですが、これについては後程書いていくこととします。
映画『キングダム』の予算と興行収入について
今回の『キングダム』は事前の情報でも製作費が10億円を超えていることが明らかになっています。
このことから考えて、国内だけでこの興行収入をペイしようと思うと、かなりの数字が必要になることは自明です。
あくまでも参考数値ですが、一般的に映画の製作会社の取り分は、興行収入の35%付近と言われています。
そのため製作費12億円の映画の損益分岐点は「12÷0.35」の計算をして約37.1億円ほどになるということです。
そう考えると、『キングダム』は国内だけで損益分岐点に達しようと思うと、興行収入40億円付近を狙う必要があるのではないかと思います。
おそらく海外市場も視野に入れて製作した作品でしょうから、満額を国内で稼ぎ出そうという目論見では作っていないのかもしれませんがそれにしてもかなりの大勝負です。
かなり出だしから上々の動員推移のようで、土日で6億円に迫る数字を叩き出してきそうな印象なので、その出だしであれば、作品の評判が良いことに加えて、GWの10連休もありますので、40億円をクリアできるのではないかと思います。
『キングダム』は公開初日である金曜日から日曜日までの3日間で、50万6,861人を動員、興行収入は6億9,021万9,500円を記録しています。
この数字であれば、30億円はほぼ確定的で、GWの10日間で好調が続けば、40億超えも視野に入ってくる大ヒットと言えるでしょう。
何はともあれ、日本映画の中でも非常に高額な予算がかかっている作品だけに、ぜひ大ヒットしていただいて、今後のマンガ実写映画の在り方を変えてほしいと思っています。
実写映画『キングダム』感想・解説(ネタバレあり)
マンガを実写化するということ
日本映画界は、他の国と比べても破格に安い原作使用料と安定してヒットを出せるという都合で、クオリティの伴わない実写化作品も含めてたくさんのマンガの実写映画を公開してきました。
特にイケメン俳優と若手女優を起用する場としての役割も果たしているのであろう少女マンガの実写化は、予算があまりかからないということも相まって毎年5本~10本ほど公開されているような状態です。
日本には優れたマンガがたくさんありますが、その中でも大作と呼ばれるようなものは、やはりアクションやバトルが主体になっている作品でしょう。
ただそういった作品を日本で実写化しようとなったときに、大きな障害になるのが予算です。
例えば、三池崇史監督の手掛けた『テラフォーマーズ』や『ジョジョの奇妙な冒険』の実写版には苦心の跡が見え隠れしています。
どう考えても、この2作品を本気で実写化しようと思ったら10億円以上の予算は必須のように思われますが、作品を見ると、やはり予算がかけられないが故の及ばなさもあり、悲しくなります。
ただ三池監督は、これまで本当に日本映画の最前線で戦ってきた人物で、そんな少ない予算でどうやって実現するのかを常に考えてこられました。
彼が以前にシネマトゥデイのインタビューで興味深い発言をしていたので、引用しておきます。
自分にとって原作の存在というのは、壊すものじゃなくて、手当てするもの。作家が本気で書いた原作を誰かが強烈に映画化したいという気持ちがあって実写化となるわけだから、僕にはやりたいという動機はいらない。逆に動機を強く持ちすぎると、この原作の解釈はこうこうこうでってだからこの予算ではできない! っていう結論になっちゃう。でも僕の役割は、脚本家、プロデューサー、原作者全員の希望を聞いた上で、「じゃあこういう風にしたら、面白いんじゃない?」っていうアイデアを出すこと。
だからこそ実写版『テラフォーマーズ』なんかは、もちろん映像やCG、美術は非常にチープな印象を受けますが、限られた予算で「マンガを実写の世界に再現する」アプローチを徹底し、アイデアも垣間見える意欲作となっていました。
ハリウッド映画界では、今ヒーローという人間を超越した2次元の象徴的なキャラクター達を、現実の世界にいるように錯覚させるようなアプローチで撮っているMCUが栄華を極めています。
MCUの作品たちは、とにかく潤沢な予算があり、それが故に映像的な面で圧倒的なクオリティを備えていて、「ヒーローが現実に存在している」というコンテクストに説得力を与えています。
ここに今の日本とハリウッドにおける「実写化映画」に関する大きな溝があったわけです。
今回の『キングダム』を手掛けた佐藤監督もそんな現状と戦ってきた映画監督の1人です。
『アイアムアヒーロー』は、近年の韓国映画を想起させるようなアプローチで、演出面にこだわり、少ない予算ながら一級品のゾンビ映画に仕上がっていました。
『いぬやしき』は、CGにかけられる予算も限られるなかで、チープ感を出さないために、スピードとアングル、演出に徹底的にこだわり、新感覚のアクション映画になっていました。
また、昨年の夏に公開され、興行的には失敗した実写版『BLEACH』も衣装や映像面でのチープさはありつつも、アクションシーンの魅せ方でカバーし、見応えのあるものになっていました。
彼も長きにわたってそういった邦画の限られた予算の中で、如何にして「マンガの実写化」を実現するのかを考え、アイデアで何とか乗り越えてきた人物というわけです。
そんな日本映画界における多くの映画監督の苦心を思うと、今回の実写版『キングダム』には感慨深いものも感じます。
1本の映画に100億円単位で投じてしまうハリウッド映画規模とは言いませんが、10億円以上の予算が投じられたとされる今回の映画は本当の意味で「邦画大作」と呼ぶに値する作品でしょう。
- 王宮での戦闘シーンはオープンセットで撮影。
- 王宮シーンの撮影には、スタッフだけで700人超が参加。
- 参加したエキストラの数は1万人を超えるとも言われている。
- 本場中国でのロケも敢行。
- 馬も本物を100頭以上用意し、草原を駆け抜けるシーンを撮影。
『いぬやしき』で東京がパニックに陥るシーンで、エキストラが大量に動員されていたんですが、実は佐藤監督ってエキストラの使い方が非常に巧いんです。
彼は、エキストラをただ画面に映りこむ人として扱わず、映画の中に「ホンモノ」の空気感を作り出すために使っています。
だからこそ『デスノート Light Up The New World』の序盤のノートによる虐殺シーンも、『いぬやしき』の東京が突如パニックに陥るシーンも「ホンモノ」感がありました。
その点で、今作では予算が潤沢にかけられたということもあり、徹底的に「ホンモノ」志向が盛り込まれ、圧倒的な映像に仕上げてきています。
日本はこれまで、少ない予算の中で、何とかアイデアで実写化を成功させようと試みてきました。
- 福田監督の『銀魂』のようなコント映画スタイル
- 三池監督の実写を漫画化するスタイル
- 佐藤監督の限られた予算の中でハリウッド映画に近づこうとするアプローチ
本当に様々なアプローチがあった中で、実写『キングダム』は直球ど真ん中勝負で、予算をかけて本気で「マンガの実写化」を実現するんだという気概を感じる内容になっています。
何はともあれ、この映画が日本映画の「実写化」の潮流を変える作品になってくれると嬉しいですね。
凄すぎる本作のキャスト陣
最初にですが、なぜ中国の秦の話なのにキャストが日本人なんだというツッコミは、特にするつもりもありませんし、映画を見終わって、そんなツッコミはする気も起きませんでした。
先ほど今回の『キングダム』は徹底的に「マンガをそのまま実写化する」ことにこだわって作られているというお話をしましたが、これって俳優陣の演技もそうなんですよ。
基本的に映画においてセリフを読んでいる感満載の演技であったり、日本映画に多い過剰すぎる演技というのは、ご法度とされていますし、当ブログ管理人としても高評価はつけません。
いえ、むしろ高評価をつけます!!
今回の『キングダム』に関しては、製作陣が明確な意図をもって「マンガチックな」過剰演技を俳優陣に求めているように見受けられるからです。
今作に出演している大沢たかおさんがインタビューで以下のように述べているのが印象的でしたね。
「原作のキャラクターは、人間離れしているじゃないですか。さすがにイコールは厳しいですが、近づけられるものは近づけようと思った。そして原作では、その存在によって信と政が何かを得ていくという意味で、王騎はキーパーソンでもあります。そんな存在ではありたいと思った。だから見た目のインパクトを強くだとか、キャラを濃くだとかは一切しなかった。それをやってしまうと、あまり面白くないとも思った」
(映画com「“ハマり役”を超えた“役への没入” 山崎賢人&吉沢亮&大沢たかお「キングダム」で見た天下統一の夢」より引用)
まあそれに関しては、これまでの実写化作品でも取られていたアプローチなので、それほど驚くべき点ではありません。
映画『キングダム』が偉大だったのは、妥協なしで本気で原作のイメージを再現できるキャストを起用したことあります。
まず、主人公の信を演じた山崎賢人さんですが、他のキャスト陣がインパクトが強いので、少し影は薄くなってしまいますが、原作の信そのままな印象を受けます。
また彼の演技が素晴らしいと感じるのは、そういう「マンガチックな」演技を嘘くさく感じさせないだけの雰囲気と熱量を持っていることなんだと思います。
そして1人2役を演じることとなった吉沢亮さんですが、彼がもう本当にすごい!!
彼が演じたえい政と漂って、見た目はそっくりなんですが、そのパーソナリティも持っている雰囲気も全く異なります。
そのためその違いを1人の演技で演出するとなると、相当な技量が求められることは自明です。
しかし、吉沢亮さんはそれを完璧な形でやってのけたんです。
最も圧倒されたのは、えい政の最初の登場シーンです。あのシーンでは、えい政が漂にそっくりであるという情報は提示されていないんですが、吉沢亮さんが醸し出す雰囲気は明らかに冒頭の漂のものとは異質でした。
えい政には、どこか風格と威厳が備わっていて、見た人に外見は全く同じなのに、この人物は漂ではないと視覚的にそう感じさせられるだけの説得力があるんです。
そしてこれも触れないわけにはいかないのが、楊端和を演じた長澤まさみさんですよね。
野蛮な戦闘民族の王を務める人物であるということで、戦闘シーンでは圧倒的なアクションを披露しているのですが、それ以外のシーンでも山の民の他のキャラクターたちとは一線を画する雰囲気を身に纏っています。
長澤まさみさんって演技面はもちろんなんですが、やはり「美人」「可愛い」といった女性的な魅力が支持されている女優の1人だと思います。
ただ映画『キングダム』における彼女を見ていて、そういう彼女の女性的な魅力を全面に押し出そうとしている印象をあまり受けませんでした。
というよりもむしろ男性や女性という垣根を越えて、1人の「戦士」として、「王」として純粋に「かっこいい」と思わせてくれるような雰囲気とアクションが徹底されていて、心を揺さぶられました。
最後に今作のMVPといっても過言ではない大沢たかおさん演じる王騎ですよね。
(C)原泰久/集英社 (C)2019映画「キングダム」製作委員会
先ほど引用したインタビューで「見た目のインパクトを強くだとか、キャラを濃くだとかは一切しなかった。」と語っているんですが、そんなことをせずとも、放っている存在感もビジュアルも完全に王騎そのものでした。
終盤に彼が現れただけで戦闘がストップし、彼の動向を全員が固唾をのんで見守るというシーンがありますが、並みの役者ではこんな「普通ではありえない状況」に説得力を与えることはできません。
しかし、大沢たかおさんにはそれができてしまったわけです。
そして、メインキャスト以外では映画『RE:BORN』で主演を務めた坂口拓さんの左慈は素晴らしかったですよね。
映画『RE:BORN』でのアクションで高い評価を獲得した彼が今作では、夢を失った最強の戦士として立ちはだかりました。
役作りのためか、かなり体重を増やしてきた印象がありますが、それが彼がもともと持っている風格を一層際立たせていて、圧倒的な存在感を放っていました。
映画『キングダム』は徹底的にホンモノ志向でマンガを実写化するんだというアプローチをとってきたわけですが、それを実現できたのは、キャスト陣の熱演があったからこそなんですね。
「夢」というテーマで再構成された最高の脚本
今回の『キングダム』の脚本には原作者の原泰久さんも参加しています。
この映画版で扱われたのは、原作でも本当に序盤のパートでして、第1巻から第7巻までの内容ということになります。
日本のマンガの実写映画って、どうしても原作が完結していない作品を扱う都合上、映画として1つの物語を完結させることが認められず、中途半端にぶつ切りで幕切れている作品も珍しくありません。
『キングダム』も原作は完結していませんし、映画版で扱われたエピソードの後にも、まだまだ物語は続いていくこととなります。
それでもこの映画版は、きちんと1本の映画として1つの主題を据え、それに基づいて原作を再構成して1つの物語として完結させられていたのが素晴らしかったと思います。
では、今作の主題は何だったのかというと、それは「夢との距離」なんだと思います。
まず、印象的なのが冒頭のシーンです。
これは原作にもなかったシーンなのですが、彼が幼少期に王騎将軍が草原を軍を率いて進むところを信が幼少期に奴隷商人の檻の中から見ていたという場面が追加されていました。
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これってまさしく彼にとって「夢」が生まれた瞬間であり、同時にその夢がまだまだ遠いものであることが視覚的に表現されたシーンなんですね。
その後、昌文君が漂を王官として招き入れようとするシーンがありましたが、その時納屋の窓の格子から信が眺めているシーンは、あの冒頭のシーンとリンクします。
つまり、あの頃よりも少しだけ夢に近づいたけれども、自分はまだ策の内側にいる奴隷で、柵の向こう側にいる漂は夢を実現しようとしているということが明確になっていますよね。
このように冒頭に、彼の「夢との距離感」を感じさせるシーンを持ってきておいて、そこから彼が少しずつ夢へと近づいていく様を視覚的に演出しているわけです。
さて、今回の『キングダム』において1つ大きく改変されていたポイントがありましたが、お気づきでしょうか?
それは、王宮にたどり着くまでの回廊と成きょうのいる王宮で信が戦う相手です。
- 回廊:左慈→ランカイ
- 王宮:ランカイ→左慈
この改変って、まさしく映画のテーマに「夢」を据えたからこそ為されたものだと思うんですね。
というのも映画『キングダム』は、左慈というキャラクターを「夢を失った最強の武人」として位置付けています。
対してランカイは、原作では彼が成きょうに従っている理由が明かされる悲しいエピソードもあったりするんですが、基本的に「夢」というテーマで考えた時に「ラスボス」向きではありません。
という点で、「夢」という言葉を作品の主軸に据えた際に、信という「夢」を追いかける青年が越えるべき「ラスボス」として、左慈を据えたのは、至極真っ当な経緯だと思うんです。
そして彼は、絶体絶命のピンチに陥りながらも、漂と共に見た「夢」を実現するために奮起し、彼を打倒します。
まさに「夢を見ること」が強さに繋がるんだということを証明し、この勝利が主題性の昇華にも直結しています。
その後、信は幼少の頃憧れた、天下の大将軍である王騎と対面します。
この時、彼はもう奴隷商人の檻の中にいるわけでもなく、そして納屋の窓の格子の内にいるわけでもありません。
彼は幼少の頃から憧れてきた王騎という存在を今まさに目の前に捉えています。
この冒頭のシーンとの対比が、彼が少しだけ「夢」へと近づいたことを仄めかしている点が何とも素晴らしいです。
しかし、王騎の放っている存在感はまだまだ大きく、信にはまだずっと遠くの存在に見えていることでしょう。
それでも、「夢との距離」が少しだけ近づいたというところに、本作を信の物語として見た時、1つのカタルシスが感じられます。
『キングダム』という原作の序盤のエピソードを、信という名もなき青年が漂と共に「夢」へと近づいていく物語ということで再構成し、1つの映画としてきちんと完結させた点は高く評価されるべきです。
そして原作通りではありますが、この映画が巧かったのは、信が憧れ続けてきた王騎その人にも「夢」を見せるというラストを選択したことです。
そこに先ほど信に倒されてしまった左慈とのコントラストが見え隠れしていることは言うまでもありません。
王騎がなぜこれまで最強として君臨してきたのかというと、それは中華統一という「夢」があったからです。
しかし、昭王が逝去した後は、夢を見失ってしまい、彼は一線を退いていました。
そんな彼にえい政は、再び「夢」を見せたんですよ。
奴隷の少年であっても、そして一時は天下の大将軍にまで上り詰めた人物であっても、「夢」を見ることができるからこそ強くあることができるのだという強いメッセージをこの映画は打ち出しています。
誰もが「夢」を見ながら、それぞれの道へと戻っていくラストシーンは非常に美しい幕切れでした。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は実写映画『キングダム』についてお話してきました。
予算がこれだけしかないから、これで何とかして実写化してくれないかというのが、これまでの日本映画界の方針だったわけです。
それに対して、『キングダム』はこれを実際に撮るためにどれくらいの予算が必要なのかという点を妥協なしで考え、そしてそれを実現してしまいました。
この作品が、飽和し、形骸化してしまいつつある日本のマンガ実写映画の潮流を変えるものになれば嬉しいですね。
何はともあれ、今回の『キングダム』が予算を回収でき、黒字が出るくらいのヒットになってもらわないと困りますので、当ブログ管理人ももう1回くらい劇場で見ておこうと思います。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。
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