みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章 後編』が発売されたので、それについてお話してきます。
前編がとにかく重たくて、心臓がキューっと縮むような思いで読み進めたので、後編に耐えられるかどうかが心配でした。
前編について書いた記事の方で、後編についての予測を書いていたんですが、ばっちり的中しておりまして、それが余計にきつかったですね・・・。
というのも、こうなるんだろうけどこうはなって欲しくないというちょっと回避的な願望だったもので・・・。
部活でキャプテンをやっていた経験がある当ブログ管理人としては、吹奏楽部で部長を務める久美子の苦悩や葛藤に共感しまくりで、本当に他人事とは思えないような内容にただただ心が抉られました。
そんな不穏な空気を漂わせまくりの前編から、後編はどんどんとその不穏の種が芽を出していき、北宇治高校吹奏楽部を蝕んでいきます。
その中で久美子がどんな決断を下すのか、北宇治高校吹奏楽部は全国金賞の目標を達成できるのか?
いろいろなことを考えながら読みました。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
目次
『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章 後編』あらすじ
駆け出すオブリガード
京都府大会で金賞を獲得し、無事に関西大会へと進むことになった北宇治高校吹奏楽部は練習漬けの毎日を送っていた。
今年からコンクールのメンバーを大会ごと選出していくシステムに変更されており、部員たちはその緊張感のためにピリピリとしている。
そんな中オーディションが行われる合宿前に3日間のお盆休みが与えられる。
久美子は部員たちを誘って毎年恒例になっているがプールに遊びに行ったり、大学説明会に赴いたり、夏紀と優子、希美と共にみぞれの音大の演奏会に行ったりと、充実た日々を過ごす。
そしていよいよ合宿が始まり、コンクールの時が迫っていた。
悩めるオスティナート
いよいよオーディションの時が迫ってくるが、その直前大浴場で一緒になった久美子と真由。
すると突然真由は「今日のソリのオーディション、私辞退しようか。」と告げる。
それに対して、久美子は北宇治高校吹奏楽部は実力主義であり、転校生だからと言って遠慮する必要はないと諭す。
そしてオーディションがその夜行われ、翌朝、Aのメンバーとソリの発表が行われた。
波乱が起きたのは低音パートで、京都府大会ではチューバ3人、ユーフォ3人の編成だったが、チューバ4人、ユーフォ2人の編成に変更され、奏が落選してしまう。
さらにソリの発表では、久美子が落選し、真由が選ばれるという大波乱が起きた。
これをきっかけに関西大会へと向かう北宇治高校吹奏楽部内に、滝先生への不信感が蔓延していく。
麗奈はそんな不信感を募らせる生徒に厳しい対応をするが、久美子も滝先生への不信感を拭いきれなくなっていた。
そんな彼女に麗奈は「部長失格」の烙印を押すのだった。
つながるメロディー
厳しい練習とピリピリした空気感に疲弊しながらも北宇治高校吹奏楽部は何とか関西大会を突破する。
しかし、部内の空気はさらに悪化していき、幹部である秀一と麗奈も会議の場で衝突するようになる。
進路や将来のこと。
部長としてどうすべきかということ。
そして1人の演奏者としてどう行動すべきなのかということ。
久美子は様々な苦悩を1人抱え、自分を見失ってしまっていた。
そんな時、全国大会へ向けてのオーディションを前にして再び真由がソリのオーディション辞退を申し出てくる。
久美子は真由がそんなことを理由を尋ね、その答えに衝撃を受け、何も答えることができなかった。
1人で抱えきれなくなり、途方に暮れた久美子が縋ったのは1枚の絵ハガキでした。
『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章 後編』感想・解説
部活動と空気
これについては前編から続く問題ではあるんですが、後編でより踏み込んだところに言及されていました。
部活動、とりわけ団体競技の部活動をやる場合、その集団を支配する空気というものが非常に重要になります。
『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』は、その空気がネガティブな方向へと向かって行くと、もはやだれにも止められなくなってしまうという恐ろしさをも描いていました。
そしてこのシリーズの1つ名物ともなっているのが、年度の始まりに部員全員で目標を決めるというイベントです。
この時、全員が「全国大会金賞」を目標にするということに賛成の意を表す挙手をしているんですが、1人1人のその挙手が同じ重みなのかと言うとそうではないんですよね。
もちろん麗奈のように心の底から全国大会金賞を渇望しての挙手もあれば、とりあえず挙げざるを得ない雰囲気だからの挙手もあるでしょう。
ただそういう個々人の思惑は集団の空気に取り込まれ、残るのは「全員の総意で全国大会金賞を目標にした」という事実だけです。
それが悪いというわけではなくて、多様な考え方の人がいて、部活動に対する重きの置き方も人それぞれですからむしろ当然です。
今回の 『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章 後編』には、真由という異質な存在が重要な役割を果たします。
奏が「宇宙人」であると評していた彼女には「コンクールへの執着がない」んです。
「私は、リズって欲張りだなって思ったよ。」
「一緒に過ごしていた動物はほかにもたくさんいたのに、青い鳥だけに固執した。最初から欲張らなきゃ、お別れも寂しくなかったんじゃないかなぁ」
( 『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章 後編』pp.71-72より引用)
このセリフって本当に端的に彼女の異質な性質を表しています。
彼女は両親の事情で転校を何度も繰り返してきたわけですが、そんな本来であれば辛い境遇にも達観しているのは、彼女がこういう価値観を持っているからでもあります。
彼女はコンクールをあくまでも「おまけ」要素だと考えていて、部活動は楽しむものであるという考えを優先しています。
だからこそ部活動内の空気が悪くなることを懸念し、楽しい部活動のために「今日のソリのオーディション、私辞退しようか。」という言葉を告げ、自らが身を引こうとします。
彼女がしばしば自身のカメラで写真を撮ろうとするのは、コンクールでの金賞よりも友人たちと楽しく部活動をしたという「軌跡」を尊重しているからです。
しかし、こういう考え方が間違っているのか?と聞かれたら、それは間違っていませんと答えるしかありません。
ただその部活動を支配している空気に適応していいないというだけなんです。
それにつけても真由が大きな問題になるのは、彼女が久美子とほとんど同等のユーフォニアムの技術を持っているということでもあります。
技術を持っているにも関わらず、技術を向上させることやソリに選出されることに興味がありません。
それでも部活動は、とりわけ集団競技であれば、異なる考え方や価値観を持った人が同じ方向に向かって努力しなければなりません。
その難しさと真っ向から向かい合い、その答えのない問答に北宇治高校吹奏楽部なりの、久美子なりの答えを出していったという点で、このシリーズは部活モノとして傑出した作品だと思いました。
滝先生は神か人間か
前編でもこういう描写があり、この前後編が滝先生という存在を見直そうという方向性にあることが分かりました。
先輩たち・・・いまの三年生にとって、滝先生って神域なんだと思います。弱小校を強豪校に導いたカリスマだし、先輩たちは部が強豪校に変貌していくところを目の当たりにしている。でも一年生、二年生にとって、北宇治は入部した時点で強豪校なんです。私たちは北宇治が弱小だったころを知らない、滝先生は素晴らしい顧問だと思っていますが、でもきっと、三年生ほど滝先生を絶対視することはできない。」
(『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』331ページより引用)
前編でここに踏み込んできたか・・・と感心していましたが、後編ではさらに掘り下げてきましたね。
久美子たちの世代にとって、滝先生は弱小を強豪にしたある種の神的存在ですし、ある種の不可侵領域です。
しかし、すでに強豪だと知って入部してきている下の世代の子たちにとって彼は最初から強豪校の顧問であるという認識です。
それ故に、彼がオーディションで下す「評価」を絶対的なものとして見ることはできません。
前編では、2年生のさつきからAパートの座を奪った釜屋すずめの評価が部内で割れ、不協和音が起きました。
一方で後編では、久美子と真由のソリ問題、そして奏の落選と低音の編成の変更問題が部内で賛否を巻き起こします。
そして久美子自身も滝先生に懐疑的な視点を持つようになり、それがきっかけとなり滝先生を妄信的に信頼している麗奈と衝突します。
それに対するアンサーを提示するのは、OGであるあすかでした。
彼女は滝先生と麗奈の2人が似たような存在であると指摘し、そして人間関係に関しては掌握が未熟であると言ってのけました。
だからこそあすか世代の北宇治高校吹奏楽部においても滝先生というカリスマが独力で全国大会まで導いていたように見えて、実は部員たちが滝先生の未熟な部分を補完していたというのです。
つまり、これまで神的存在のように思っていて、妄信的に従うべきだと思っていた滝先生という存在を、久美子は初めて、未熟さも併せ持つ1人の人間として見ることができたのでしょう。
そして彼女は1つの答えに辿り着きます。
「滝先生と考えが違う瞬間だってある。滝先生は完璧じゃない。だからこそ、私たちは滝先生についていくべきだって思った。」
( 『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章 後編』p319.より引用)
今作で京都府大会と関西大会の間にメンバー編成への迷いを見せるなどし、部員からの不信感を集めてしまった滝先生。
確かに彼にはカリスマ性というものが備わってはいますが、彼は全能の神ではありません。
部員と共に迷い、そして葛藤し、最善解を常に模索し、部員の誰よりも努力している1人の人間なんですよ。
自分が正しいと過信しているわけでもなく、「本当の意味で正しい人」になりたいと語る彼だからこそ信用に足ると久美子は判断したのではないかと思います。
滝先生にだって、麗奈にだって、そして久美子にだって不完全な部分や未熟な部分があります。
それでも支え合いながら、補い合いながら前へと進んでいくその過程こそが部活動というものなのかもしれません。
久美子の物語の結末として
(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会
『響け!ユーフォニアム』シリーズって、やっぱり久美子の物語なんですよね。
それはシリーズの最初から最後まで一貫していたと思いますし、だからこそこの作品は部活動モノとしても優れていますし、同時に1人の少女の部活動に懸けた青春を丸ごと詰め込んだ伝記的な作品としても読みごたえがありました。
彼女は、入部当時中学時代のコンクールへの執着の弱さとそれが原因で麗奈とぶつかったことを引きずっていました。
しかし北宇治高校吹奏楽部に入部し、そこで懸命に練習する中で「上手くなりたい!」と心の底から思えるようになりました。
そして、あすか先輩の退部騒動の際には、「自分が一緒に演奏したいんだ!」というエゴを正面から伝え、彼女の心を動かしました。
波乱の第2楽章に入ると、奏という後輩が入部し、久美子は彼女の中に過去の自分を見ます。
「上手くなりたい!」という必死さから逃げ、一歩離れた場所から達観しているような奏に対して久美子は報われなくとも本気で向き合うことでしか得られないものが、見られない光景があるんだということを伝えます。
そうして常に他人のために行動してきた久美子は、その功績も買われ、部長に指名されます。
これまでも他人の問題に介入しては一歩引いた冷静な立場から助言し解決の手助けをしてきた彼女ですから当初は部活運営もスムーズに進みます。
しかし、『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章 後編』では久美子自身が北宇治高校吹奏楽部の「問題」になるという何とも残酷な展開を描いています。
これまで常に他人の問題に第三者的な立場から介入することで上手く立ち回っていた彼女ですが、自分のことになった途端、急にどうすれば良いのか途方に暮れてしまいます。
進路のこともそうですが、部長として、1人のユーフォニアム演奏者として「自分が何をしたいのか」を彼女は持っていなかったんですね。
その事実を突きつけられ、迷う彼女に1つの道を示してくれるのが、かつて彼女が救った明日香であるという展開には、ただただ涙が止まりませんでしたね。
彼女は「北宇治の音楽が好きだ。」という当たり前だけれども、コンクールの熾烈な部内争いの中で見失っていた答えに辿り着きます。
かつて明日香に告げた「諦めないでくださいよ!」という言葉を自分の中で反芻し、そしてその特大のエゴを部員たちにぶつけます。
いつだって周りのために尽力してきた久美子。
そんな彼女が最後の最後に「努力は自分が納得するためにするものなんだ。」という言葉を告げる瞬間に思わず鳥肌が立ちました。
そうした彼女自身の変化が、自然の進路や未来のビジョンへと繋がっていき、エピローグでは彼女が北宇治高校吹奏楽部の副顧問として勤務する様子が描かれます。
努力することを知らなかった久美子が、3年間の物語を経て、その意味を知り、そして未来へと羽ばたいていくという「1人の少女の青春」を丸ごと描いたかのようなシリーズの完結には、言いも知れぬカタルシスがありました。
あすかが久美子に託した「響け!ユーフォニアム」という楽曲。
その曲が久美子から真由や奏に受け継がれる。
そしてきっとこの曲は北宇治高校吹奏楽部に長く受け継がれていくことになるでしょう。
久美子という少女にフォーカスした物語だった「響け!ユーフォニアム」は確かに受け継がれ、そして永遠に続いていく物語へと昇華していったのです。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章 後編』についてお話してきました。
これまでのシリーズの未回収テーマを纏めて清算しようとかなり詰め込んだ節は見られますが、久美子の物語としての『響け!ユーフォニアム』シリーズの完結ということで、それだけでこみ上げるものがありました。
実はそうなんですよ。テレビシリーズなのか劇場版なのかは不明ですが、既にアニメ化が決定しています。
劇場版で公開となると、尺的に前編・後編でということになりそうですが、『誓いのフィナーレ』が個人的には納得のいかない出来だったので、テレビシリーズでやって欲しいというのが本音です。
かなり内容が重く、自分自身の経験とも重なるストーリーだったため、シリーズの中で最も読んでいて胃が痛い前後編でしたが、すごく感慨深い完結編でもありました。
ぜひぜひお手に取って、読んでみてくださいね。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。