みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『スパイダーマン ファーフロムホーム』についてお話していこうと思います。
今年の4月に公開された『アベンジャーズ エンドゲーム』はまさにMCUの1つの集大成と呼ぶにふさわしい作品であり、全世界で特大のヒットを記録しました。
ただ、MCUのプロデューサー陣もMCUの「インフィニティサーガ」の最終章は今作『スパイダーマン ファーフロムホーム』であることを明言しています。
『アベンジャーズ エンドゲーム』でアイアンマン(トニースターク)の死が描かれ、そしてマルチユニバースへの突入が描かれました。
本作に登場するミステリオが予告編の中でも「マルチバース」について言及しておりましたので、そういったMCUが次なるステージに進む上で今作が非常に重要な位置づけになることは間違いありません。
- 『スパイダーマン ファーフロムホーム』はまずヒーロービギンズとして完璧な仕上がりでした。
- そして、前作ホムカミの続編としても完璧な内容です。
- さらにMCUの「インフィニティサーガ』の結末としてもこの上ないものです。
- おまけに次なるサーガへの第1章としても完璧です。
とにかくとんでもない作品だということを最初にお伝えしておきたいと思います。
『アベンジャーズ エンドゲーム』からわずか2か月後にそれに匹敵する、いや超えるレベルの映画が公開されるとは全くMCUは驚かせてくれますね。
さて、本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『スパイダーマン ファーフロムホーム』
あらすじ
ピーター・パーカーは『アベンジャーズ エンドゲーム』の戦いの後に日常を取り戻していた。
しかし、彼には常にトニー・スタークの影が付きまとい、世間でも彼が後継者ではないかと期待されていた。
その重圧に押しつぶされそうになる彼は、平穏を望み、普通の高校生としていきたいと切望していた。
そんな時、学校の科学旅行でヨーロッパへと旅行へ行くこととなる。
好意を寄せるMJに何とか、旅行中に告白しようと計画していたピーターだったが、突然現れたニック・フューリーに夏休みを「ハイジャック」されてしまう。
ニック・フューリーはトニースタークが彼を自分の後継者に指名したことを明かし、彼の残したジャーヴィス同様のAIが搭載された眼鏡イーディスを手渡される。
彼は突然世界に現れたエレメンタルズというヴィランと戦うよう進言してくるが、ピーターは応じない。
しかし、ヴェネチアで突然現れた水のエレメンタルズに学校の仲間を危険にさらされた彼は、ニック・フューリーとそして「ミステリオ」と呼ばれる男と共に戦うこととなる。
プラハへと向かい、エレメンタルズ最強の「火」と戦い、ミステリオと共に何とか撃退することに成功する。
戦いを終えて、自分がアイアンマンの後継者として役不足であることを悟った彼はトニーから託された眼鏡を「ミステリオ」に渡してしまうのだった・・・。
スタッフ・キャスト
- 監督:ジョン・ワッツ
- 脚本:クリス・マッケーナ&エリック・ソマーズ
- 撮影:マシュー・J・ロイド
- 編集:ダン・レーベンタール&リー・フォルサム・ボイド
- 音楽:マイケル・ジアッキノ
監督を務めるジョン・ワッツは前作『スパイダーマン ホームカミング』の監督を務めたことでも知られています。
併せて脚本を担当したクリス・マッケーナとエリック・ソマーズも前作から続投ですね。
前作はMCUの中では、それほど評価が高い作品ではないのかな?というイメージですが、個人的には非常にハイレベルな作品だったと記憶しています。
とりわけヴァルチャーの扱い方、ティーンムービーとしての魅力、未熟なスパイダーマンのビギンズという3つの点が優れていたと思っています。
ですので、あのクオリティの「スパイダーマン」ムービーを作れるこの監督・脚本コンビが引き続き担当するのであれば、安心して見られるだろうと楽観視しています。
撮影には『パワーレンジャー』のマシュー・J・ロイドがクレジットされ、編集にもMCU常連のダン・レーベンタールが加わりました。
音楽を担当したマイケル・ジアッキノは前作でも劇伴を担当していましたが、加えて『リメンバーミー』での音楽担当などの功績も持っています。
想像もつかないような顔ぶれと言うよりは、前作からの続投が多くあったりやMCU常連スタッフを起用したりしていることで「安心して見られる映画」になっているように思いました。
- トム・ホランド:ピーター・パーカー(スパイダーマン)
- サミュエル・L・ジャクソン:ニック・フューリー
- ゼンデイヤ:ミシェル・“MJ”・ジョーンズ
- コビー・スマルダース:マリア・ヒル
- ジョン・ファブロー:ハッピー・ホーガン
- ジェイコブ・バタロン:ネッド
- ジェイク・ギレンホール:ベック(ミステリオ)
基本的に主要キャストは前作からの続投なんですが、前作よりもMCUの内の1作なんだという位置づけが濃くなっています。
まずサミュエル・L・ジャクソン演じるニック・フューリーとコビー・スマルダース演じるマリア・ヒルの登場は1つ印象的ですね。
『アイアンマン』シリーズや『キャプテンアメリカ』シリーズ、そして『アベンジャーズ』を強く想起させるキャラクターたちですからね。
前作時点ではピーターはまだアベンジャーズに加入していたわけではありませんでしたので、こういったキャラクターが存在感を放つことはありませんでしたが、今回は一転して彼らが予告編から存在感を放っています。
そして何と言ってもジェイク・ギレンホールがミステリオ役で起用されているのが非常に気になるところですよね。
そのようですね。
ただ予告編等を見る限りでは、ピーター・パーカーのある種のメンター的な役割として描かれていたので、一体どういうことなんだろうとファンの間でも様々な憶測を呼んでいます。
『ドクターストレンジ』でも原作ではヴィランだったモルドがヴィランとしては描かれず、ヴィランとして目覚めるまでの描くという手法を取っていたのがMCUです。
つまり必ずしも原作通りに描かれるわけではないというところが非常に楽しみなんですよね・・・。
より詳しい情報を知りたいという方は映画公式サイトへどうぞ!!
『スパイダーマン ファーフロムホーム』感想・解説・考察(ネタバレあり)
MCUというジャンルを内包するメタ映画
さて、予告編等を見ていると、原作ではヴィランだったミステリオがピーター・パーカーのメンター的存在として登場していたので、非常に混乱しましたよね。
今作『スパイダーマン ファーフロムホーム』はMCUがこれまでに作り上げてきたもの、打ち立ててきた功績を内包するようなメタ映画でもありました。
まず、本作のヴィランであるミステリオは特殊なプロジェクターを使って幻覚を見せ、ヴィランと戦う自分を演出していましたね。
これにより世界中の人々が、ニック・フューリーが、そしてピーター・パーカーが彼に騙されることとなったわけです。
とりわけピーターは、彼がアイアンマンの後継者になってくれるであろうと、自身の責任を放棄して、自分は1人の学生に戻ろうとしていましたよね。
これってMCUという巨大なヒーロー映画シリーズが存在する我々の世界にも言えることなのではないかと思うんです。
MCUは確かに世界中で多くのファンを抱えるコンテンツですし、それが多くの人々に影響を与えてきたことな否めません。
しかし、MCUはあくまでも映画であって、私たちの現実ではありません。
では、本当に大切なことは何なのかというと、このシリーズを見て、私たちが感じ取ったものを、ヒーローたちから受け取ったメッセージを現実世界をより良いものにするためにどう生かしていくのか?というところなんだと思っています。
その点でミステリオというヴィランはある種、これまでのMCUというジャンルのメッキを剥がすような形で登場しました。
ヒーロー映画のVFX撮影現場さながらに、幻影を作り出してエレメンタルズやスパイダーマンと戦う彼は、ある種ヒーローというフィクション内存在の欺瞞を暴く存在です。
作中に「君はアイアンマンにはなれない。この世界の誰も。トニーさえも。」という印象的なセリフが登場しました。
私たちはMCUを見て、そして確かに何か大切なものをヒーローたちから受け取ってきたはずです。
しかし、どこかできっと彼らのように強くはなれないと諦めて、ピーター・パーカーがイーディスを手放したように、私たちもその意志を継ぐことを放棄してきたのかもしれません。
MCUがこれまで世に送り出してきた「インフィニティサーガ」と呼ばれる映画シリーズは、今や神話であり、『アベンジャーズ エンドゲーム』という壮大なフィナーレを経て手の届かないところに行ってしまったような感覚を覚えます。
ただ、その壮大なサーガの最終章として公開された本作は、そんなMCUという巨大なヒーロー映画シリーズを、ピーター・パーカーという等身大の青年の視点から再解釈するような趣に満ちています。
シリーズの中でヒーローたちが問い続けてきたものを、亡きスタンリーが残したものを、そしてトニー・スタークが我々に託したものを、受け取って私たちは前に進まなければなりません。
大いなる力には大いなる責任が伴う。
私たちには、「大いなる力」なんてものは備わっていません。
それでも私たちは「受け取った者」としての責任を果たしていかならないはずです。
ピーター・パーカーという等身大のニューヒーローの誕生は、「インフィニティサーガ」を神話へと昇華させ、物語を次なるサーガへと導きます。
『スパイダーマン ファーフロムホーム』は11年の積み重ねがあったからこそできた最高にして、もう誰にも真似ができない壮大なヒーロービギンズだったと言えるでしょう。
前作同様の二重構造が光る
前作に当たる『スパイダーマン ホームカミング』は間違いなく傑作でしたが、その素晴らしかった点としてピーター・パーカーという青年とスパイダーマンというヒーローの二重構造が挙げられます。
1つには、ピーター・パーカーとリズの恋愛関係の描写が挙げられます。
リズは作品の冒頭でスパイダーマンに好意的な感情を持っていることを明らかにしていましたよね。
これを聞いたピーターは冴えない自分のままでは彼女を振り向かせられませんが、スパイダーマンであることを明かすことで、彼女を振り向かせられるのではないかと葛藤します。
しかし、彼はトニーに未熟者だと叱責を受け、スーツを剥奪されてしまいます。
そして、彼は何とかして自分の力でリズと恋仲になろうと、ホームカミングデイのパーティに彼女を誘いましたよね。
この試みが実を結ぶかと思われたその瞬間、一瞬にしてそれが水泡に帰します。
リズの父親はトゥームス、つまりヴァルチャーだったという衝撃の事実が明かされたからです。
『スパイダーマン ホームカミング』は、スパイダーマンであることを明かせばリズを振り向かせる可能性があるという状況を冒頭に作り出しました。
しかし、物語の後半に入ると、今度はスパイダーマンであることが足枷となってリズと恋仲になれないことが決定的になるという二重構造とその反転を巧く作り出しました。
彼は普通の青年ピーター・パーカーとして生き、リズと恋仲になるか、それともスパイダーマンとして生き、リズの父親の野望を止めるのか、その二択を迫られることとなったわけです。
結果的に彼は後者を選び、リズと恋仲になることは叶いませんでした。
ヒーローになることで確かに得るものがあり、そして同時に普通の人生を失っていくという悲哀も描き出された結末はまさにビタースイートでした。
そして今作『スパイダーマン ファーフロムホーム』でもそんなピーター・パーカーの二重構造によるコンフリクトは続いています。
彼は、「親愛なる隣人」スパイダーマンとして身近な人を助けるレベルのヒーロー活動にいそしんでいたわけですが、そこにトニースタークの後継者という重圧がのしかかります。
ミステリオも劇中で述べていましたが、ヒーローになることを選んでしまえば、人並みの人生を送ることは叶わなくなってしまいます。
前作の物語の中で彼自身も痛感したことを、ミステリオの口からリマインドされたことで彼の心は揺れ動きます。
結果的に彼は、「親愛なる隣人」からのステップアップを前にして、ミステリオにその重圧を押しつけ、自分は普通の人生を取り戻そうと決意しました。
しかし、彼はそこで別の「責任」を背負うことになってしまいました。
それはスタークから託された「大いなる力」をミステリオに渡してしまい、世界を危機に陥れてしまうことに対して生じる「責任」です。
彼は再びMJとの逢瀬を諦め、ヒーローとして戦いの場へと舞い戻ってきます。
そしてミステリオとの死闘の末に、勝利し、世界を、そして仲間を救うことに成功します。
『スパイダーマン ファーフロムホーム』は物語のラストに、前作とほとんど同様のシチュエーションを用意しました。
スパイダーマンとしての人生を選んでしまえば、普通の人生は選べないし、自分の恋愛感情を成就させることもかなわない、それこそが前作のラストでもありました。
しかし、今作のラストは、そんな二重構造の二律背反を否定し、ヒーローとしての人生と普通の人生の両立を描きます。
ヒーローとしての自分を隠し、「ナイトモンキー」と呼ばれた謎の黒いスーツに身を包んで隠れるように戦っていた彼が、最後にはスパイダーマンのスーツ姿でMJとキスをします。
本作の幕切れは『スパイダーマン ホームカミング』の続編としても完璧だったと言えるでしょう。
次なるアイアンマン誕生の物語
©2019 Sony Pictures Digital Productions
これについては多くの人がお気づきではないかと思いますが、『スパイダーマン ファーフロムホーム』は映画『アイアンマン』の構成を準えて作られています。
『アイアンマン』はざっくりと説明してしまうと、トニースタークがテロリストに襲撃を受け、自身の会社で製造している兵器がテロリストやゲリラの手に渡り世界を危機に陥れていることを知りスーツを製造しアイアンマンとして戦うようになるという物語です。
そしてそのラストシーンでは「私がアイアンマンだ。」と世界中に発信する有名なシーンがありましたね。
『スパイダーマン ファーフロムホーム』には展開の点でいくつか共通点がありますよね。
- 何かを「受け継ぐ者」の物語であるということ
- 自身の持っていたイーディス(スタークから託されたもの)をミステリオに手渡してしまう
- 電車に轢かれ、意識を失ってオランダで収監される
- 自身が手放した兵器が世界を危機に陥れようとしていることを知り、戦うことを決意する
- スーツを製造するシーンがある
- ポストクレジットシーンで「ピーター・パーカー」の名前が全世界に発信される
ピーター・パーカーが機内でスーツを作成しているシーンでハッピーがAC/DCの『Back in Black』を流したのも熱いですよね。
そして何よりそんな若き2人ニューヒーローの両方寄り添ってきたのがハッピーであるという共通点も泣かせますね。
では、なぜ『アイアンマン』をなぞらえるような物語構造にしたのでしょうか?
その理由は明白です。
『アイアンマン』がMCUのインフィニティサーガ1作目の作品だったからであり、そして『スパイダーマン ファーフロムホーム』がMCUの次なるサーガへの始まりを告げる物語だったからです。
ただ面白いのは、共通するポイントが多々あるんですが、肝心の「名前」を世界中に発信するシーンだけは全く色合いが異なるものになっているんですよね。
トニー・スタークは世界を救ったヒーローとしてその名前が世界中に轟くこととなりました。
一方で、ピーター・パーカーは世界を救おうとしたヒーローを殺害したヴィランとしてその名を世界中に発信することとなりました。
この差異が次なるサーガにどんな影響を与えていくのかが非常に楽しみですよね。
ミステリオというMCUを否定するヴィラン
©2019 Sony Pictures Digital Productions
改めて今作のヴィランであったミステリオについて言及していくのですが、彼は端的に言うと、MCUというシリーズを否定する存在なんですよね。
この記事の冒頭でも書きましたが、彼の衣装はあくまでも光学迷彩的なものであり、その様子は、ヒーロー映画のVFX撮影の現場のようでもあります。
さらに言うと、本作のラストバトルに当たるロンドン決戦は、『アベンジャーズ』のニューヨーク決戦を強く想起させるものになっていましたよね。
ドローンが宇宙から大量に地球へと降下してきて、街を崩壊させていく様はチタウリの軍団が地球へとやって来て、ニューヨークを破壊した光景に重なります。
あの時は、アイアンマンが、キャプテンアメリカが、ソーが、ハルクが、ブラックウィドウが、ホークアイが、チームとなって戦いニューヨークを救いました。
しかし、ロンドン決戦に立ち向かうヒーローはスパイダーマンただ1人なんです。
ミステリオが自身の最期の瞬間に言及していましたが、「人間は信じたいものを信じる」生き物なんですね。
ただ人間は「信頼」によって社会を形成した生き物でもあります
国家という概念だって、法律という概念だって、そして貨幣だって、人間が「信頼」という血を通わせることによって成立している仕組みです。
だからこそ人間の世界においてヒーローという存在が「実在」するために重要なのは、「信頼」なのです。
しかし、ミステリオはMCUが描いてきたヒーローという存在をVFXが作り出した欺瞞であるという事実を突きつけてきます。
我々がMCUに熱狂した11年間を否定しようとしてくるのです。
そんな強大なヴィランに対して、アイアンマンでもキャプテンアメリカでもソーでもない、ネクストヒーローたるスパイダーマンがたった1人で立ち向かう展開に胸が熱くならないはずがありません。
スパイダーマンによるミステリオの打倒とは、MCUに熱狂した我々の11年間の肯定であり、ヒーローが実存すると信じてやまない者たちへの激励なんですね。
ただ『スパイダーマン ファーフロムホーム』が素晴らしかったのは、インフィニティサーガの総決算としてという枠には収まらなかったところにあります。
『アイアンマン』から始まったシリーズが11年間の年月の中で、ヒーローという存在を普遍的なものへと変えていきました。
つまりインフィニティサーガとは、ヒーローの存在に「信頼」という血を吹き込んできた神話なんですよ。
「ピーター・パーカー」の名前がミステリオの策略によって、ヴィランとして全世界に発信されてしまうという結末。
この結末が面白いのは、これまでのシリーズが確立してきたヒーローへの信頼を一瞬にして覆してしまったところでしょう。
ヒーローが存在しない世界にヒーローの存在への信頼を勝ち取ってきたのがインフィニティサーガなのだとしたら、次のサーガはヒーローが存在する世界でヒーローがヒーローたる信頼を勝ち取っていく物語になるのではないでしょうか。
本当にいろいろな想像が膨らむラストになっていましたから、次作公開までいろいろと考えてみたいところですね。
ポストクレジットシーンの意味
『スパイダーマン ファーフロムホーム』にはポストクレジットシーンが2つありますが、これが非常に面白かったです。
1つ目は先ほども言及したピーター・パーカーの名前が世界中に知らされるというものなんですが、ここで1つサプライズがあります。
何とサムライミ版の『スパイダーマン』シリーズにも登場したJ・J・ジェイムソンが最後の最後に登場したんですね。
これはこれまでのスパイダーマンを追いかけてきた人にとって非常に嬉しいサプライズだったように思います。
ただ個人的には2つ目がユーモアに満ちていて好きでしたね。
理由としては『エージェント・オブ・シールド』からの繋がりが描かれているからです。
フューリーが南国の風景を眺めているシーンが描かれましたが、おそらくこれはT.A.H.I.T.I計画へのオマージュです。
これは彼がアベンジャーズに死者が出た際に活用しようとしていた技術で、クリー人の死体から抽出した血清を利用して死者を生き返らせるという計画なんです。
コールソンが『エージェント・オブ・シールド』の中でこの計画によって生き返るという展開がありますが、生き返った際に精神に異常をきたさないように「タヒチでバカンスをしていた」という記憶を植え付けるんです(笑)
クリー人が登場していたということも相まって、余計にT.A.H.I.T.I計画を強く想起させるものになっていた点は笑いました。
また、クリー人が登場しているということで、映画版とのつながりで言えば『キャプテンマーベル』を見ておくと分かりやすいですね。
ちなみにポストクレジットに登場した巨大な宇宙船は原作コミックにもあるS.W.O.R.D.ではないかと言われております。
これは、宇宙からの外敵に対抗するための宇宙ステーションです。
ファーフロムホームというタイトルに込められた意味
さて、最後に今作のタイトルである『スパイダーマン ファーフロムホーム』に注目していきましょう。
個人的には3つの意味が含まれているんじゃないかと思っています。
- アメリカのホームから遠く離れたヨーロッパへの旅物語である
- ヒーローとして目覚めるピーター・パーカー
- 11年間のMCUの1つの締めくくりとして
1つ目は単純明快ですね。
この作品はピーターが科学旅行ということでホームであるアメリカを離れ、ヨーロッパへと旅をする物語になっています。
そういう意味で、今作単独で見た時にまずプロットが「ファーフロムホーム」という言葉に繋がります。
そして2つ目ですが、これは前作からの繋がりで見た時の意味合いでしょうか。
ピーター・パーカーは『スパイダーマン ホームカミング』の中で「親愛なる隣人」としてホームのために戦うことを決意しました。
しかし、彼は今作でトニー・スタークの後継者という重圧に苛まれます。
つまり「ホーム」に根差したヒーローからはるか遠く、世界を股にかけたヒーローになるというステップアップへの選択を迫られるということです。
彼はその期待に懸命に答え、ミステリオを打倒し、世界を救いました。
まさに彼が今作の物語の果てにたどり着いたのは「ファーフロムホーム」の境地と言えるでしょう。
そして最後に3つ目の意味ですが、これは11年にわたって作品を生み出し続けてきたMCUがこれまでの長い旅路を振り返っているかのような趣があります。
MCUの最初の作品である2008年の『アイアンマン』から考えると、本当に随分と長い旅をしてきましたよね。
「ついにインフィニティサーガが完結だけど、振り返ってみると本当にいろいろあったなぁ」というMCUを作り出してきたスタッフとそしてそれを追いかけてきた我々がこの11年間を讃えるかのようなタイトルでもあると言えますね。
物語の側面から見ても、ホムカミの続編という側面から見ても、そしてMCU内の位置づけの側面から見てもまさに完璧と言えるタイトルだったのではないでしょうか?
MCUだからできた革新的なメタ構造
©2019 Sony Pictures Digital Productions
先の『アベンジャーズ エンドゲーム』はまさにMCUの11年間の積み重ねの結晶とも言える作品でした。
6月の中旬に『X-MEN ダークフェニックス』が公開されましたが、シリーズの集大成としての力量の差は明確でした。
さて、とりわけ『アベンジャーズ エンドゲーム』の何が革新的だったのかと考えてみますと、それはMCUという巨大なシリーズが私たちの住んでいる世界とは別に、もう1つ世界のレイヤーを作ってしまったという点ではないでしょうか。
そもそも『アイアンマン』に端を発するシリーズが追求したのは、我々の住む世界と地続きの世界にヒーローが存在していると思わせるような映画でした。
そして圧倒的なクオリティで製作される映画はヒーローの市民権を勝ち取っていき、MCUは世界的に大ヒットしました。
とりわけヒーロー映画ながらリアルベースかつ硬派な作りでヒーロー映画に対する印象を一変させた『キャプテンアメリカ ウィンターソルジャー』はその1つの結実と言えるでしょう。
ただそこから徐々にMCUは私たちの世界にヒーローを実存させるというよりも、MCUの世界を確立させるという方向へと動いていったような気がします。
『キャプテンアメリカ シビルウォー』が描いたソコヴィア協定とヒーローたちの対立という展開も1つの世界の切り離しのための手法だったように思います。
ヒーローたちが存在するリアルだからこそ生じる問題と求められた法律、そしてそれを巡るヒーローたちの攻防はまさにMCUが作り出した世界内でのリアリスティックです。
ただですよ、MCUにも不完全なところはあって、メタ的な要素や社会性というものを我々の住んでいる世界から切り離すことができなかったんです。
それが顕著に表れていたのが、『ブラックパンサー』で、この作品は現代アメリカの政治や外交・移民問題の影響を強く受けたポリティカルな作りになっていました。
そして今年公開された『アベンジャーズ エンドゲーム』は、タイムトラベルという形でこれまでのMCUが作り上げてきた世界を旅するという、まさに「MCUはもう1つの世界を作ったのだ!」という事実を誇示するかのような作品でした。
私たちの世界の歴史や社会に依拠するのではなく、MCUの世界における歴史や事象に完全に依拠した作品であり、そこに本作の革新性がありました。
そんな『アベンジャーズ エンドゲーム』以後の世界を描く作品として公開された『スパイダーマン ファーフロムホーム』はこれまでにMCUができなかったもう1つの高いハードルを越えてきました。
それがMCUという映画が作り出した世界をベースにしたメタ構造を作品の中に取り込んでしまうという手法です。
つまりMCUというジャンルを描く映画だったのが『スパイダーマン ファーフロムホーム』なのです。
メタ構造を実現させていたのは、先ほどもご紹介したミステリオというヴィランですよね。
そして彼がMCUが作り出してきた世界を虚構であると言わんばかりに、スパイダーマンに戦いを挑み、そして彼がそれに立ち向かいました。
自分たちが作り出した世界観やジャンルでメタ構造を作り出せてしまうというところにMCUの積み重ねの凄まじさを感じます。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『スパイダーマン ファーフロムホーム』についてお話してきました。
『アベンジャーズ エンドゲーム』の直後ということでどうなることやらと思いましたが、正直完成度はMCU最高と言っても過言ではなかったような気がしています。
ヒーロービギンズとしても、MCUのインフィニティサーガの締めくくりとしても、そして新たなサーガの始まりとしても完璧に近い出来栄えだったように思います。
今作で一旦自分の中のMCU熱は落ち着くかな?とも鑑賞前には思っていたんですが、その熱がより高まることになるとは驚きです。
一体、MCUはフェーズ4に突入してどんな方向へと進んでいくのか?今から楽しみで仕方がありません。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。
MCUはフェーズ4でどこに向かう?
MCUのフェーズ3は『スパイダーマン ファーフロムホーム』で終わりました。
その後の作品のラインナップの一部が既に噂されている状態です。
- 『ブラックウィドウ』(ナターシャの単独作)
- 『エターナルズ』
- 『ドクターストレンジ2』
- 『ブラックパンサー2』
- 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.3』
- 『シャン・チー』(アジア系ヒーロー単独作だが噂)
これまでの作品からフェーズ4に繋がっていきそうな要素を考えていきますと、まずはやはり『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.2』シリーズのポストクレジットシーンは未消化ですね。
シルベスター・スタローンが演じたスタカー・オゴルド(スターホーク)が率いるチームであったり、サノス打倒のカギになるとも噂されていたアダム・ウォーロックが未回収です。
そして『アベンジャーズ エンドゲーム』でもガーディアンズのメンバーたちはソーと共にガモーラ捜索のために宇宙へと旅立っていきました。
これらのキャラクターたちが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.3』で絡んでくることは間違いないでしょう。
あとは前作で命を落としたブラックウィドウの単独作の時系列がどこに来るかには注目ですね。
単純に彼女のオリジンの物語にしてしまうのか、それとも何らかの形で『エンドゲーム』以後の物語にするのか・・・。
『エターナルズ』もフェーズ4でどういう位置づけになるのか注目が集まりますね。
あのサノスもエターナルズという種族であったということが原作コミックの中では描かれています。
この作品が登場するということは、MCUは宇宙規模のストーリーへと拡大していくということはもはや明確です。
また、今作『スパイダーマン ファーフロムホーム』以後のピーターがどうなっていくのかにも注目が集まりますよね。
前作『スパイダーマン ホームカミング』のポストクレジットシーンで登場していたスコーピオンや帰ってくることが予見されるヴァルチャーの存在も見逃せません。
ただピーターはとにかく顔を知られてしまい、テロリスト的な認知をされてしまったわけですから、まずは身を隠す必要性に駆られるはずです。
そうなると、必然的に『ブラックパンサー2』あたりでクロスオーバーしてくるのではないかとも考えられますね。
トニーとの繋がりの深さ的に考えると、ドクターストレンジと絡んでくる可能性もありますが。
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