【ネタバレあり】『スペシャルアクターズ』感想・解説:上田監督は「どんでん返し」の人ではなく「愛」の人だ

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『スペシャルアクターズ』についてお話していこうと思います。

ナガ
『カメラを止めるな!』で時の人となった上田慎一郎監督の最新作だね!

『カメラを止めるな!』は映画を生み出すことの苦しみと喜びを込めた「映画クリエイター讃歌」として非常魅力ある作品でした。

それに続く『イソップの思うツボ』という作品は、かなり残念な出来になってしまっていたので、今回の新作はかなり心配だったんですが、十分に期待に応えてくれる作品になっていたと思います。

何と言うか、当ブログ管理人としては上田監督の映画には「応援したくなるような魅力」があると思っています。

評価という尺度で測るならば、それほど高くないのが本音なのですが、それでもこの映画を作った人たちや出演している人を愛おしく思えたり、応援したいと思わせてくれる力があるんです。

『イソップの思うツボ』についてはそこが失われていたのが、心配だったんですが、『スペシャルアクターズ』ではきちんとその魅力を再確認させてくれたように思います。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『スペシャルアクターズ』

あらすじ

役者としてまったく芽が出ない和人は、緊張すると気絶してしまうという持病のためにバイトもクビになってしまい、家賃も払えない状況だった。

そんな彼は、偶然街で弟の宏紀に再会し、俳優事務所「スペシャル・アクターズ」で働かないかと誘われる。

「スペシャル・アクターズ」では、通常の映画や舞台で演じる仕事以外にも、現実の世界で演じる行為(言わばサクラ)的な活動をしており、その稼ぎで何とか生活をしていけるのだと言う。

そんなある日、1人の女子高校生からカルト集団から旅館を守ってほしいという依頼が飛び込んでくる。

あまりの大仕事に狼狽する面々だったが、300万円という金額を提示され、それなら・・・と請け負うことにし、和人は弟の宏紀と共にその中心メンバーとなる。

彼らは、カルト集団の「ムスビル」の内部に潜入し、捜査を始めるが、和人は持病のために思わず気絶してしまう。

気絶したことで、「ムスビル」本部の裏側にある救護室に運び込まれた彼は、そこで組織の「裏経典」の存在を知る。

その「裏経典」を明るみに出すことができれば、組織を崩壊させることができると踏んだ「スペシャル・アクターズ」はデータを奪取すべく行動を開始するのだった・・・。

 

スタッフ・キャスト

スタッフ
  • 監督:上田慎一郎
  • 脚本:上田慎一郎
  • 編集:上田慎一郎
  • 撮影:曽根剛
  • 照明:本間光平
  • 監督捕:ふくだみゆき
  • 音楽:鈴木伸宏 伊藤翔磨
ナガ
編集まで自分でやってしまうのが上田慎一郎流ということですね!

映画において編集ってすごく大切で『万引き家族』でパルムドールを受賞した是枝裕和監督も基本的に自分の作品は編集まで自分で担当されています。

「モンタージュ理論」の信奉者であるアルフレッド・ヒッチコックは「編集こそ映画の本質」と考え、重要視していました。

上田監督の作品は、かなり細かく伏線を張ってあるので、その点で編集権を持っておくことは重要なんだと思います。

撮影や劇伴音楽には、『カメラを止めるな!』と同じスタッフを起用し、作品の雰囲気は寄せてきていますよね。

キャスト
  • 大野和人:大澤数人
  • 大野宏紀:河野宏紀
  • 富士松卓也:富士たくや
  • 富士松鮎:北浦愛
  • 津川祐未:小川未祐
ナガ
今回も全キャストを公開オーディションで決定したそうですね!

今回の作品では、上田監督が1500人を超える応募の中からキャストを15人選んだそうです。

さらにキャストが決定してから、脚本を当て書きするという手法も健在で、キャストの雰囲気に寄り添ったセリフや物語になっているのが良いですよね。

ちなみにですが小川未祐さんは今年、深田監督の『よこがお』にも出演していました。

より詳しい情報を知りたいという方は、映画公式サイトへどうぞ!

ナガ
ぜひぜひ劇場でご覧ください!!



『スペシャルアクターズ』感想・解説(ネタバレあり)

上田監督は「どんでん返し」の人ではない

(C)松竹ブロードキャスティング

当ブログ管理人は『カメラを止めるな!』の時もすごく感じていたんですが、上田監督を「どんでん返し」の人みたいに評する流れがすごく苦手です。

『カメラを止めるな!』が社会現象になったときには、やはりその構成の部分に注目が集まりましたが、ただそれだって斬新ではないですし、当然のように前例があるものです。

そして今作『スペシャルアクターズ』についても、これって最近『コンフィデンスマンJP』がドラマや映画でやっていたこととほとんど変わりないですよ。

映画で言えば『マッチスティックメン』『鑑定士と顔のない依頼人』なんかが似たようなことを既にやっていますし、構成そのものを斬新と評するのは気が引けます。

ナガ
『オーシャンズ11』とかも似てますかね・・・。挙げていくとキリがないですが。

では、何が重要なのかと言うと、それはプロットや「どんでん返し」的な構造そのものではなく、その構成を無名の新人キャストでクリエイター讃歌として作り上げるところだと思うんですね。

『カメラを止めるな!』も、劇中劇を撮影しているという作品構造・構成そのものは借り物ですが、そこに映画を作り上げていくことの苦労と喜びとそして上田監督自身の熱い思いを込めたからこそ、あれだけ多くの人を惹きつけることができたのだと思います。

それが、冒頭で書いた「思わず応援したくなる映画」である所以なのだとも思いますね。

では、『スペシャルアクターズ』の方に話を移していきましょう。

複線の張り方が丁寧なのは評価すべきポイントですが、そもそも作品の構成そのものは先ほど挙げたものの他にも類似作品が数多く存在しており、必ずしも「斬新」ではありません。

しかし、それを無名の新人役者たちで作り上げたことによってすごく味わい深い映画になっているのです。

これまた映画との対比としては使い古された題材ではあるのですが、本作には「カルト団体」が登場しますよね。

ナガ
このカルト団体が作品の重要なカギを握ってるんだよね!

考えてみて欲しいのですが、「カルト団体」と映画にどんな違いがあるのでしょうか。

映画だって見る人からお金を徴収しているわけですし、劇中でもセリフにあったように「嘘を本物に見せる」のが映画であり演技なんですよ。

であれば、劇中に登場したカルト集団と「スペシャルアクターズ」ないし映画そのものって何が違うんだ?という疑問は当然ありますよね。

確かに構造そのものは似ています。

そこで重要なのは、カルト集団というのは多数の人から搾取する構造を作り上げることで、教祖1人に利潤が集中していく仕組みであるという視点ではないでしょうか。

映画も確かにビジネスですから、観客からお金を集めて製作した人たちにそれが集約されていくという構造が明確に存在します。

しかし、作り手の視点から見れば、映画って劇場に足を運んで作品を見てくれるたった1人の「あなた」のために作っているんじゃないかって思うんですよね。

これは私がブログを書いている時の思いにも重なるのですが、当然私の意見は違うと感じている人も大勢いるでしょうし、心無い誹謗中傷を受けることもあります。

それでもブログで感想や考察を発信し続けているのは、私の書いたものを読んで「映画にこんな見方があるんだ!」と思って感動していただけるたった1人の「あなた」に向けて書いているからです。

つまり、映画というものは、大勢のスタッフやキャストがいて、その汗と涙が作品に集約されて「あなた」の下へと届けられるというカルト集団の構造とは真逆の側面も持っているんです。

映画『スペシャルアクターズ』の中でも、オーディションの中から選ばれた15人の役者たちの粗削りながらも、映画愛と情熱を感じられる演技に心を打たれました。

そして何より、そんなキャストたちが作り上げていく物語が和人という世界にたった1人の「あなた」のための物語になっているという構造が、まさしくメタ的に上田監督の映画観を表現しているのではないかと思いました。

この記事のタイトルにもしましたが、上田監督は「どんでん返し」の人ではなく「愛」の人だ!と当ブログ管理人は思っております。

「どんでん返し」というのはどこまでも手法に過ぎず、彼の作品の真の魅力は、それを粗削りながらも情熱を持った新人のキャストたちと共に作り上げる過程にあるはずです。

そしてその熱や愛がスクリーンを越えて見る者に確かに伝わってきます。

そういう意味でも、上田監督は、観客が映画と出演している役者たちに「親近感」を感じられる映画を作る「天才」なんだと思いました。



フィクションの中で人を救うということ

(C)松竹ブロードキャスティング

近年「誰だってヒーロー系」の映画は増えてますよね。

『スパイダーマン スパイダーバース』『スターウォーズ 最後のジェダイ』『ミスターガラス』などなど挙げていくとキリがなくなってきます。

こういった作品たちは、映画の中から「私たちは1人1人が誰だってヒーローになれるんだ!」と私たちを勇気づけてくれています。

そしてそれを作品の中にメタ的に内包させたのが、今作『スペシャルアクターズ』と言えます。

本作の主人公和人『レスキューマン』というヒーロー映画に憧れて、俳優を志していますが、持病のためもあり、芽が出ません。

彼は真っ暗な部屋で、1人モニターに映し出されるレスキューマンの活躍を眩しそうに見つめています。

彼はいつも訪れているカウンセラーの先生に「暗闇に自分で電気をつけるしかない」言われていましたよね。

このセリフには、実はすごく深い意味が込められていると思いました。

というのも暗闇というのは、おそらく和人『レスキューマン』を見ているあの暗い部屋のことを指しているんだと思います。

つまり、彼はあの暗い部屋にいる限りは、レスキューマンというヒーローを映画の外の世界から眺めているだけの観客に過ぎません。

そこから脱するためには、モニターの向こうの眩しい世界の中に飛び込むためには、電気をつけて「映画」を終わらせる必要があるのです。

そして、終盤に入ると、まさに彼の姿がレスキューマンの戦闘シーンに重なり、そしてカルト集団たちをバタバタとなぎ倒していきます。

その様はまさに彼がモニタを越えて、映画の中の世界に入ったかのようでした。

上田監督は映画が心の底から大好きなのだと思いますし、それは『カメラを止めるな!』の時も作品から伝わってきました。

だからこそ主人公をフィクションの中の世界で救いたいと考えたのだと思いますし、それは彼自身が映画で見る人を勇気づけたいと考えているのと同じことでしょう。

映画の世界に憧れ、映画の中の人物に自分を重ねてきた人ほど本作の終盤の展開には涙が止まらなくなるのではないかと思います。

私自身も幼少の頃に見た『スターウォーズ』に憧れて、ライトセーバーのおもちゃを振り回して、ジェダイになった気分でいたことがあります。

そんなものは幻想だと大人になってあきらめてしまいはしましたが、上田監督は純粋な情熱で、君は何にだってなれるんだ!と全力で背中を押してくれているようでもあります。

今作『スペシャルアクターズ』に勇気をもらえる人はきっとたくさんいるはずです。

 

映画としての構成にはいくら何でも難がある

『カメラを止めるな!』を見た時に、冒頭のゾンビ映画パートで退屈さを感じた人は少なくないことでしょう。

もちろんこの作品は、そこにすらも意味を持たせてきたからこそ評価されたわけですが、映画の冒頭30分近くをいわゆる「前フリ」に使ってしまう構成は諸刃の剣でもあります。

ナガ
単純に「前フリ」を見せられている間が退屈だからね・・・。

ただ『カメラを止めるな!』が良かったのは、「前フリ」の時間が30分程度でギリギリ鑑賞に堪えうる時間だったというところかな?と思います。

これ以上長いと、いくら何でも・・・のギリギリのラインで本題に入っていき、「前フリ」をテンポよくひっくり返していく構成が出来ていたからこそ、鑑賞に堪えうる作品になっていたと思います。

ただその後の『イソップの思うツボ』や今回の『スペシャルアクターズ』を見ていた時に、その「前フリ」のバランスが明らかに悪化している印象を受けてしまいました。

『スペシャルアクターズ』は109分もある上映時間の大半が「前フリ」になっているのは、いくら何でも見る側としてはかなり退屈なのです。

未熟なキャストが作品内で劇中作品を演じているという構造でもって、長すぎる「前フリ」内にあるご都合主義感やこじつけ感、チープさを正当化できるようにはなっているのですが、当然「前フリ」を見せられている間はそういったマイナスイメージをずっと持って映画を見続けなければなりません。

そうなると、ラスト1分がどれほど面白かったとしても、もう映画に対する印象って覆らないと思うんですよね。

B級感のある演出をメタ的に生かすという手法は結構なのですが、『スペシャルアクターズ』に関しては、観客の耐えうるラインを越えてしまっていたんじゃないか?と感じてしまいました。

上田監督が今後も内田けんじ監督のようにこの作品構成で勝負していくというのであれば、ここで指摘した点は乗り越える必要があるのではないかとは思いますね。

少し批判的な論調にはなってしまいましたが、すごく応援している監督ですし、期待値もすごく高いのです。

だからこそ、個々をクリアできれば、もっと映画の完成度が高まるはずだと期待してやまないのです。

 

おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『スペシャルアクターズ』についてお話ししてきました。

やはり上田監督は「役者」を本当に生き生きと撮りますし、それは彼の溢れる「愛」が故なんでしょうね。

何と言うか映画を見ていて、作っている人たちの喜びや情熱が透けて見える映画ってあんまり出会ったことがありません。

しかし、彼の映画にはそういう映画の中のキャラクターたちに「親近感」を感じさせてくれるような作りになっています。

だからこそ、彼らを応援したいという思いに駆られますし、映画としての評価が決して高くはなくとも、見て良かったとそう思える作品になっているんだと思います。

「どんでん返し」的な手法はあくまでも借り物であり、そこに「愛」を宿らせて自分のものにできる。自分の信じたキャストとスタッフたちのものにできる。

それこそが上田監督の映画クリエイターとしての天性の魅力なのだと思います。

もちろん映画そのものとしては粗削りな部分もあり、改善点は多いですが、そこをクリアして、より高みに到達していけるのではないかと思います。

これからも応援したい映画監督の1人です。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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