みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『ジェミニマン』についてお話していこうと思います。
まず、もう最初に断言しておきますね。
この『ジェミニマン』は物語を楽しむ映画ではなくて、純粋に映像を楽しむための映画です。(当ブログ管理人の見解)
というのも正直に申し上げて、ストーリーそのものは特に盛り上がりません(笑)
とにかくヌルヌル動くアクションや圧倒的な映像美を楽しむという意味で、間違いなく見て欲しい作品なので、ぜひより良い環境で見るようにしてください。
そもそも今作『ジェミニマン』は監督のアン・リーが4K / 3D / 120fpsのコンボで楽しんでもらうことを想定して撮影したようです。
今回、日本でもHFR(High Frame Rate)対応の映像で上映する劇場がちらほらとあり、そこでは60fps(1秒間に60フレーム)で鑑賞することができます。
60fpsがどんな映像なのかというのを何となく知りたいという方は、iPhoneのカメラ設定のところでビデオ撮影のフレームレートを調整できるので、そこを変えて試してみてください。
通常の映画が基本的に24fpsで、そのレートで撮影した映像と60fpsで撮影したものを比較すると一目瞭然でしょう。
現在日本で3つの劇場にてドルビーシネマは導入されています。
- 埼玉県のMOVIXさいたま
- 大阪府の梅田ブルク7
- 福岡県T・ジョイ博多
何とここでは、ドルビーシネマ3Dに加えて、120fps(1秒間に120フレーム)という通常の24fpsの5倍のフレームレートで上映されるのです。
ここまでくると、もう本当にこれまでに体感したことの内容な圧倒的に実在感のある、ヌルヌルとした映像を見ることができます。
今後、増えてくる可能性はありますが、120fpsで撮影した映画なんて現状では、それほどありません。
ですので、この機会に120fpsで展開される圧倒的な映像を見ておいて欲しいと思います。
さて、本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となります。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『ジェミニマン』
あらすじ
史上最強とうたわれるスナイパーのヘンリーは政府に依頼され、高速で走る電車の中に乗っているターゲットを遠距離から射殺する。
しかし、そのターゲットは無実な研究者であり、ヘンリーは何者かによってハメられたことが判明した。
彼は、追われる身となり、アメリカ国防情報局の捜査官ダニーと友人のバロンの協力を得ながら、情報を探る。
すると、彼らの前に謎の襲撃者が現れ、交戦状態に入るが、その襲撃者は若かりし頃のヘンリーにそっくりだった。
疑問に思ったダニーは遺伝子調査を依頼し、その襲撃者が秘密裏に作られていたヘンリーのクローンだということが判明する。
その事実を知った彼は、自身のクローンが宿敵ヴァリスに利用されていると聞き、何とか救い出したいと考えるようになるのだった。
スタッフ・キャスト
- 監督:アン・リー
- 脚本:デビッド・ベニオフ / ビリー・レイ / ダーレン・レムケ
- 撮影:ディオン・ビーブ
- 編集:ティム・スクワイアズ
- 音楽:ローン・バルフェ
- 視覚効果監修:ビル・ウェステンホファー
彼はやはり映像技術にすごく高い意識を持っている監督で、前作『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』でも圧倒的な3D映像で、見る者に衝撃を与えました。
そして今作では、「4K / 3D / 120fps」のトリプルコンボで圧倒的な映像を実現したのです。
今作については物語にそれほどこだわりを持っている様子はないのですが、『ブロークバックマウンテン』と『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』でアカデミー賞監督賞も受賞しました。
脚本には、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』のデビッド・ベニオフや『シャザム!』などで知られるダーレン・レムケがクレジットされました。
正直に申し上げて、ストーリーがあってないようなものに近い作品なので、脚本に関して言うなら「イマイチ」としか言いようがないですね。
撮影には『オール・ユー・ニード・イズ・キル』や『メリーポピンズ リターンズ』などにも参加していたディオン・ビーブが、編集にはアン・リー監督の過去作でもお馴染みのティム・スクワイアズがクレジットされました。
音楽には『ゴーストインザシェル』や『ミッションインポッシブル:フォールアウト』でアクションにマッチした音楽を作り出してきたローン・バルフェが起用されました。
- ヘンリー:ウィル・スミス
- ジュニア:ウィル・スミス(CG)
- ダニー:メアリー・エリザベス・ウィンステッド
- ヴァリス:クライブ・オーウェン
- バロン:ベネディクト・ウォン
このキャスティングとジュニアをCGで再現するという試みにもメタ的な意味がありそうなので、後ほど解説してみようと思います。
ヒロインのダニーを演じているのは、『10 クローバーフィールド・レーン』で主演を務めたメアリー・エリザベス・ウィンステッドでした。
非常にアクション映えする女優だと思いましたし、今後もっと出演機会が増えていってほしい女優の1人です。
他にも名優クライブ・オーウェンや『ドクターストレンジ』でおなじみのベネディクト・ウォンが脇を固めます。
より詳しい情報を知りたいという方は、映画公式サイトへどうぞ!
『ジェミニマン』感想・解説(ネタバレあり)
とにかく圧倒的に美しい3D in HFRでの映像
(C)2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
正直予告編を見ただけでは『ジェミニマン』が普通のアクション映画にしか見えないのと同様に、通常の2D上映で見ても真価は味わえないかなとは思います。
ジェームズ・キャメロンやピーター・ジャクソン、そしてアン・リーは映画の映像技術にすごく強く思い入れを持っている映画監督です。
アン・リー監督の前作『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』もジェームズ・キャメロンが『アバター』で活用した3D技術を提供し、実現した作品です。
ピーター・ジャクソンは自身の監督作である『ホビット』シリーズで48fpsの映像を活用し、世界を驚かせました。
ジェームズ・キャメロンは、今後メガネ不要の3D技術やハイフレームレートの映像を自身の作品に取り入れることを示唆しており、映像技術の進化を自身の作品の中で表現しようとしています。
こういった「映像技術」推しの監督を作品を見るにあたっては、やはり物語そのものよりも映像が重要になります。
というよりも映像の邪魔をせず、さらに言うと、映像表現を引き立たせるためのシナリオや設定であるべきです。
そういう意味では、『ジェミニマン』を中身がないと批判する人は多いでしょうが、本作の意図するところはあくまでも映像なのであり、物語はそれを引き立たせるものでしかないので、個人的にはそれほどこだわりません。
物語的にはクローンの扱い方もかなりアウトオブデイトな印象は受けますが、120fpsのヌルヌル感を活かすうえでは必要な設定だったのではないでしょうか。
そもそも映画が基本的に24fpsで撮影されていることには大きな意味があります。
これは、適度に実物感がなく、適度に動きが滑らかで、適度に重厚感があって、私たちが自分の生きている世界とは異なる世界だと知覚できる最適なバランスを追求した結果辿り着いたフレームレートです。
少し上げて30fpsにすると、安っぽい印象を与える映像になるとも言われていますが、この24fpsという数字は本当に微妙なバランスの上に構築された「映画らしさ」なんですね。
では、フレームレートを上げていくとどうなるのかと言いますと、当然映像の「ヌルヌル感」が増して、映像の実物感が増していくんです。
一方で、現実に近づくのかと聞かれると、それも微妙なところでして、120fpsまでいくと私たちが普段近くしている現実を明らかに超越している印象を受けますし、それはそれで「フィクション感」はあるんです。
ただ、素晴らしいのは映像が持つ質量だと私は思いました。
ハリウッド大作映画のアクションシーンはどちらかと言うと「軽い印象」を与えるように作られているものが多く、特に近年はVFXも発達してきて、スピード感のあるアクションが作れるようになったことで、その傾向が顕著です。
その中で『ジェミニマン』は、人間が確かにスクリーンの中に存在していて、バトルを繰り広げているという状況を「質量」をもって体感できるので、その点ではすごく映像を「体感」したという感じがします。
ウィル・スミスも動きはヌルヌルなんですが、CGで作られたジュニアはクローン感を出すためか更にヌルヌルの「ヌル・スミス」仕様になっているので、異物感があり、作品性にマッチしています。
バイクチェイスの撮影も、アクションカメラで、狭い路地を抜けていく映像をダイナミックに撮影していたり、追う側と追われる側の一人称視点の映像を織り交ぜたりと、映像に緩急をつけてあります。
さらに、120fpsにより映像の美しさとスピード感が実現され、これを見ただけでも高い映画の鑑賞料金を払う価値があると思ったほどです。
また、人間以外の事物の映像で素晴らしいのが、ガラスと火、そして何より水の映像ですね。
これまでも3D映画の演出で、砕けたガラスの破片が鑑賞者側に飛び出してくるというのは、しばしばありましたが、今作『ジェミニマン』のそれは過去の作品とは比較にならないほどに素晴らしいです。
まず、ガラスの粒の1つ1つが息を飲むほどに美しく、さらに質量がちゃんと1つ1つの粒にあるので、飛び出してきたときに迫力があります。
あとはやっぱり水の描写ですよね。
私たちって水の中に潜って裸眼で目を見開くことはできませんから、本作のクリアすぎる水の映像ってある種現実からはかけ離れているんです。
ただ、あまりにも「そこに水が存在している感」が凄まじいので、映画を見ていて自分が水の中にいると錯覚させられます。
チャンスがある方は、少しでも良い鑑賞環境を選んで、そしてご覧になってみてください。
そして日本でまだ3つしかないですが、製作陣の意図した120fpsの圧倒的な映像を鑑賞できるドルビーシネマもありますので、当ブログ管理人としては、こちらが推奨です。
『ホビット』の48fpsの映像を劇場で見たことがありますが、これと今作『ジェミニマン』の120fpsでは映像が別次元です。
「ヒルビリー」を思わせる家族の宿命と打破
ドナルド・トランプ氏が大統領に当選した際に、その支持基盤として大きな話題になったのが、「ヒルビリー」と呼ばれる白人労働者階級です。
J.D.ヴァンスが著した『ヒルビリーエレジー』は当時、大きな話題になりました。
いわゆる「ヒルビリー」の中で育ち、貧困と凄惨な家庭環境から抜け出し、富裕層と呼ばれる場所へと辿り着いたのが、この本の著者です。
彼は「アメリカの労働者階級の白人」たちについて次のように評しています。
「貧困は家族の伝統だ。祖先は南部の奴隷経済時代には(オーナーではなく)日雇い労働者で、次世代は小作人、その後は炭鉱夫、機械工、工場労働者になった。アメリカ人は彼らのことを、ヒルビリー(田舎者)、レッドネック(無学の白人労働者)、ホワイトトラッシュ(白いゴミ)と呼ぶ。でも、私にとって、彼らは隣人であり、友だちであり、家族である」
つまり彼らは「貧困」という伝統を親から脈々と受け継いでしまうのであり、そこから抜け出すことができる教養や技術、姿勢を涵養することすらままならないというのです。
そうして貧困という負のサイクルから抜け出すことができず、自分たちの貧困や失業を社会や国家のせいにするしかなくなってしまうというわけです。
映画『ジェミニマン』においてジュニアが背負った宿命とは、まさにこの類のものに思えました。
父親が凄腕のスナイパーであるという宿命を背負い、クローンとして作られた彼は、彼と同じ道を辿り後継者になるというレールしか敷かれていません。
劇中でもヘンリーに「あいつの元を離れて好きなことをすれば良い」と言われながらも、「道がないよ。」と答えていました。
つまり、ジュニアは言わば「家族の伝統」の中に引きずり込まれるしか道を教えられていないのであり、そこから抜け出すための方法を与えられていないのです。
そんな彼を、ヘンリーは自分とは違う道を歩ませることで、救ってやりたいと考えるようになりました。
自分が歩んできた孤独で、恐怖や不安に苛まれる人生をジュニアに背負わせたくないからこそ、ヘンリーは自身の宿命から彼を解き放ち、自分の人生を歩むための「道」を示してあげようとします。
終盤に、ヴァリスに対して銃口を向ける彼を制止し、ヘンリーは自ら銃を取り発砲しました。
まさに自分の宿命を息子には背負わせないという父の姿だったと言えるでしょう。
「ヒルビリー」に限らず、世界中どこでも共通する話で、親というものの存在が、ある程度子供の限界値を決めてしまうという状況が存在します。
それは、そこから抜け出すための方法や力、努力を子供たちが教わらないままに成長してしまうことで起きてしまう悲劇です。
そういう状況を変えていかなければならないのは明白で、まさしく本作のヘンリーが為したように、彼らにそこから抜け出すための「道」を示してあげる必要があります。
「家族」という題材で見た時に、脚本はあってないようなものではありますが、意外と深い主題性を持っている作品でもあるということが伺えます。
ウィル・スミスという俳優が1人2役を演じた意義
本作『ジェミニマン』では、ウィル・スミスが1人2役(3役?)を演じ、ヘンリーと彼のクローンの両方を演じています。
フルCGで若きウィル・スミスを再現し、創造するというとんでもない技術を用いて製作されているというわけです。
(C)2019 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
ちなみにアン・リー監督作品の『ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日』ではフルCGのトラが登場しますし、近年では『アリータ バトルエンジェル』がフルCGで主人公を作り上げました。
さてウィル・スミスという俳優を語る上で欠かせないのは、やはり彼の人気に火をつけた『メン・イン・ブラック』でしょう。
この作品は当時流行していたSFX技術をふんだんに使用した映画になっており、映画技術的にも1つ際立った作品ですが、同時にトミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスの親子的関係が重要な映画でもあります。
トミー・リー・ジョーンズ演じる偉大な先輩エージェントからウィル・スミス演じる新米エージェントが、生き方や戦う術を学び後継者になるというところに熱さを感じる作品です。
そしてそこから一気にスターダムを駆け上がり、彼はハリウッドを代表する俳優の1人になりました。
今作のヘンリーは作中でしきりに「51歳」という年齢を強調していましたが、これは演じているウィル・スミス自身の年齢と同じです。
そして『メン・イン・ブラック』の主人公2人を思わせるかのように、今作のヘンリーとジュニアが登場します。
ウィル・スミスがハリウッドを代表するスターなのであれば、彼のクローンは、これから彼の後を追ってハリウッドのスターになろうとする俳優の卵的存在と言えるかもしれません。
そう考えると、本作がやたらと映像の進化や映像技術の凄さを誇示するように作ってあるのも、『メン・イン・ブラック』からの進化を感じさせる1つの要素になっていると思いますし、同時に時代の変化を如実に感じさせるようになっています。
本作は、成功している自分と同じ道を歩むこと、歩ませることの苦悩を強く感じさせる作風に仕上がっています。
ウィル・スミス自身は、自分の道を歩み成功したわけですが、それと同じ道を後進の者が歩もうとしたって上手くいかないと思います。
だからこそ同じ道を歩むのではなく、自分なりの道を探してほしいというメッセージが込められているように感じます。
「継承」が大きなキーワードになった『メン・イン・ブラック』という作品の疑似親子関係のコンテクストがあったからこそ、本作は対照的に「継承」とは違う道の示し方をしたように思います。
そういう意味でも、彼の息子ジェイデン・スミスは俳優としてのキャリアを歩むかに思われましたが、その道からは外れ、自身の道を歩んでいることも本作とリンクしているように思えます。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『ジェミニマン』についてお話してきました。
この映画について言えるのはこれだけです。
ストーリーそのものはクラシカルなB級映画みたいなもので、正直期待しても・・・です。
ただ本作は映像に物語が寄与する形になっていて、映像技術の素晴らしさを伝えるための物語と言えます。
だからこそ、アン・リー監督を初めとするスタッフ陣が志向した、素晴らしい映像体験を味わって欲しいと思います。
あまりにも映像に「実在感」と「質量」があるので、ファーストルックで衝撃を受けること間違いなしです!
当ブログ管理人もドルビーシネマで本作を鑑賞しましたが、48fpsや60fpsから1秒当たりのフレーム数が2~3倍になっているわけですから、もう映像の「ヌルヌル感」も「実在感」も全然違います。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。