みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『フラグタイム』についてお話していこうと思います。
前作の『あさがおと加瀬さん。』はどちらかと言うと癒し要素強めだったので、そのイメージで見に行きましたが、そういう意味では予想を裏切ってくる内容でした。
前半は、王道のラブストーリーかな?と思わせておいて、後半に差し掛かるにつれてどんどんと重たい展開になっていきました。
ただ脚本は非常にしっかりとしていて、きちんと2人が結ばれる理由に説得力があるのも好感が湧きます。
また、「3分だけ時間を止めることができる」という設定も、ただ単にイチャイチャするためのものではなくて、それがきちんと登場人物の心理的な成長にまで作用しているのも良かったと思います。
60分尺の小品ながら、非常に丁寧で繊細な作りで、心を揺さぶられました。
今回はそんな映画『フラグタイム』について書いていきます。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
映画『フラグタイム』
あらすじ
付き合いが苦手な高校生・森谷美鈴は、3分だけ世界の時間を止める能力を持っている。
人と関わることに難を抱えており、クラスメートに話しかけられると、それを憂鬱に感じて、時間を止めて逃げ出してしまう毎日を繰り返していた。
そんなある日、彼女は時間を止めて逃げ出した中庭のベンチに座っている美しい少女村上遥を見かける。
一目見て、彼女に好奇心を抱いた美鈴は、思わず彼女のスカート中を覗き見てしまう。
すると、遥は彼女に声をかける。時が止まっているにも関わらず動くことができたのだ・・・。
その日から2人の秘密の交流が始まる。時間を止めて秘密の時間を共有する毎日。
しかし、2人の距離は縮まっているように見えて、どこか縮まらないままだった。
そんな状況を経て、もっと遥のことを知りたいと願った美鈴は彼女の家を訪れるのだが、そこでとんでもない秘密を知ってしまうのだった・・・。
スタッフ・キャスト
- 監督:佐藤卓哉
- 原作:さと
- 脚本:佐藤卓哉
- キャラクターデザイン:須藤智子
- 色彩設計:岩井田洋
- 撮影監督:口羽毅
- 編集:後藤正浩
原作はさとさんの同名のマンガですね。
そしてアニメ化に着手したのは、前作『あさがおと加瀬さん。』を自らの提案でアニメ化にまで漕ぎつけた佐藤卓哉さんです。
テレビアニメの経歴を見ていると、印象的なのは『STEINS;GATE』や『WIXOSS』シリーズなどの少しダークなタッチの作品でしょうか。
その一方で、前作もそうですし、『好きっていいなよ。』のような王道恋愛ものも手掛けていて、かなり幅広いジャンルを手掛けている監督と言えるでしょう。
キャラクターデザインには、前作にも作画監督として参加し、これまでも数々の作品で作画監督の経験を積んできた須藤智子さんが起用されました。
色彩設定にも前作から引き続いて岩井田洋さんが加わっています。
個人的に岩井田さんの色彩に惚れたのは『アウトブレイクカンパニー』の時ですね。
アニメーションは視覚的にビビッドな映像が多い中で、非常に淡い色遣いが魅力的で衝撃を受けたのは今も覚えています。
- 森谷美鈴:伊藤美来
- 村上遥:宮本侑芽
- 小林由香利:安済知佳
主人公の美鈴役には、今や日本の女性声優で5本の指に入る人気を誇るのではないかというほどの勢いのある伊藤美来さんですね。
アイドル声優的な売り方をされているのは事実ですが、もちろん演技面も非常に素晴らしくて、今作の役どころはどことなく彼女の人気に火をつけるきっかけとなった『ろこどる』の宇佐美奈々子を想起させました。
そしてもう1人の主人公である遥役には『SSSS.GRIDMAN』の六花役で人気急上昇中の宮本侑芽さんが起用されています。
また、クラスメートの小林由香利役には実力派の安済知佳さんが起用されており、こちらも注目です。
より詳しい情報を知りたいという方は、映画公式サイトへどうぞ!
色彩と光を自在に操る水彩画のようなアニメーション
(C)さと(秋田書店)2014/「フラグタイム」製作委員会
まず、本作『フラグタイム』において目を引くのは、温かい光に溢れて靄がかかったかのようなアニメーションでしょう。
この淡い色使いはひとえに岩井田洋さんの貢献でしょうね。
それもただ映像に入り込む光の量が多いだけではなくて、すごく温度感を感じさせてくれるような光の使い方になっていて、見ていて心の奥がじんわりと温まります。
光の演出に合わせて色使いも全体的に淡いものが多くなっており、映像が水彩画のような味わいのある仕上がりになっているのです。
そしてこの一連の色彩や光の演出が素晴らしかったのは、これがきちんと物語とリンクしていた点だと思います。
観客の多くは、このタッチの映像で女子高生2人の恋愛を描くとなると、必然的にそれが「尊さ」の象徴として機能する眩しき青春譚を想像しますよね。
しかし、彼らが過ごしている青春の暖かな輝きは、実は本当の気持ちを内側に隠して形作られた幻想のようなものでした。
誰ともかかわりを持たないことで、自分自身の世界の穏やかさを守ろうとする美鈴。
逆に誰とでも関わりを持ち、愛される自分を演じ続けることで心の平穏を保とうとする遥。
彼らは自分の本当の気持ちをひた隠しにして、必死に「平穏」を保とうとしていて、そんな本心をしまい込んだ結果出来上がった紛い物の「平穏」こそが本作の陽光差し込む淡い映像の正体だった時だつかされるのです。
そして何と言っても、エッジが効いていたのは、2人がお互いの本心を打ち明けて、本当の意味で結ばれる終盤の一幕でしょう。
この時、遥が流す涙は絵の具になっていて、それもこれまで画面全体を支配していた水彩画のような淡い色使いとは違って、ビビットで強烈な色たちです。
つまり、この映画は遥が「平穏」な淡い色の世界を守るために、自分の本心であるビビッドな色たちを心の内側に閉じ込めていたという演出を視覚的に施していたのです。
そうして、美鈴に「好きだ。」を言ってもらえたことで、彼女の心は解き放たれ、閉じ込めていた美しくも鮮やかな色たちが涙として溢れ出てきます。
ストーリー的には、特に秀でた作品ではないと思いますが、こういったアニメーション的な部分での丁寧な描写がキラリと光っていて、見て良かったと純粋に感じることのできた作品でした。
時間を他者と共有するということ
本作『フラグタイム』の大きな主題は時間についてということになっていました。
主人公の美鈴には3分間時間を止める能力があります。
そんな最強のスタンド使いである美鈴は、その力を使って「自分だけの時間」を作り出し、そこに逃げ込むことで他者と共有する時間をさけようとしています。
一方で、遥は他者と共有する時間を多く持っていますが、それに傾倒しすぎるがあまり、「自分だけの時間」を失っていました。
そんな2人が、共有することになったのが、「3分間」の世界が停止する時間です。
美鈴はその時間の中で、遥と交流する時間を持ち、「他者と共有する時間」を手に入れようとしていました。
一方の遥は、止まった世界の中で自分のやりたいことを見つけ出そうとする行為、つまり「自分だけの時間」を手に入れようとしていたのです。
そういう意味でも、2人は「世界が止まった3分間」そして日常と、それぞれに全く別の向き合い方をしていました。
しかし、自分のやりたいことを見出せないのは、美鈴も遥も同じでした。
それでも美鈴は保健室で彼女に自らキスをするという一件を通じて、少しずつ自分の思いを伝えるようになります。
しかし、遥がしていたのは、相手がやりたいこと、自分に臨むことを忖度して、それに合わせるという作業的な人付き合いだったのです。
どこまでも噛み合わない2人ですが、終盤になってようやく思いが通じ合うこととなります。
この2人の思いが通じ合う様を、「3分間」という2人の間にしか存在しない時間を同じ「重さ」で感じることができるようになったという形で描いているのが、巧いなと思いました。
きっと、それまでの2人にとってあの「3分間」はお互いの思いが通じ合っている様で、通じ合っていなかった時間です。
2人にとっての時間の「重さ」が違っていて、だからこそ思いはすれ違い、空回りを繰り返していたわけですよ。
しかし、物語の中で2人は「他者と時間を共有すること」の本当の意味と温かさに気がつくことができました。
相手のしたいことに合わせるのではなく、自分のしたいことを押しつけ合って受け入れ合えるような関係。
2人は「3分間」という時間をお互いにとって大切で、一瞬で、そして永遠のように感じるようになりました。
他人と関わるということは、すごく難しいことで、誰だって1人でいる方が楽に違いありません。
『フラグタイム』はそれでも誰かといることでしか経験できない温かい感情があるのだと、そっと気がつかせてくれるような作品になっていました、
同じ時間を同じ温度で、同じ重さで過ごすことができる人に出会えたらなら・・・。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『フラグタイム』についてお話してみました。
非常に短い作品で、特別秀でた点がある作品ではないのですが、映像的な演出、心情描写の丁寧さを感じることができました。
佐藤卓哉監督は、前作に続いてこのタイプの作品を手掛けており、公開予定の映画は志村貴子さん原作の『どうにかなる日々』なんですよ。
ストーリー面でのインパクトを強めるというよりも、丁寧で繊細なアニメーション的な魅力を追求していくという確かな意思が感じられる作品だったと思います。
次作にも期待大です。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。