みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』についてお話していこうと思います。
最近映画館に行くと、やたらとこの映画の予告編を見かけますが、「ジョーカーと別れたハーレイクインが…」と紹介ナレーションが流れている時に、紹介されるのがホアキンフェニックスのジョーカーなんですよね。
節子、それお前が分かれたジョーカーやない…。
『スーサイドスクワッド』がファンの間でも「黒歴史」的な扱いをされているがために、ジャレッドレトのジョーカーがすっかりなかったことになっているということなのか、単に昨年大ヒットした『ジョーカー』にあやかりたいのか。
彼は自ら孤独な環境を作りそれに耐えたり、精液まみれの雑誌やブタの死骸を共演者に贈りつけたりするなど、ジョーカーを自分に憑依させるために徹底的に役作りをしたそうです。
しかも、昨年ヒットした『ジョーカー』公開の際には、自分を差し置いて、DCが次のジョーカー像を打ち出してしまったことに強く抗議していたんだとか。
閑話休題、今回の『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は、そんなジャレッドレトのジョーカーと恋人関係を解消したハーレイクインが主人公です。
一体どんな「覚醒」を見せてくれるのでしょうか、アクションにかなり気合の入ったスタッフ陣ということで、期待が高まります。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』
あらすじ
ハーレイクインは悪のカリスマ、ジョーカーの恋人で彼と共に数々の犯罪に手を染めてきた。
しかし、彼女の手柄は全て彼の物という状態に少しずつ嫌気が差すようになり、周囲から「彼女だけでは何もできない」というレッテルを貼られることに悩んだ彼女は、少しずつ自分が前に出ようとする。
ただ、そんな前に前に出ようとするハーレイクインをジョーカーはあっさりと捨ててしまう。
失恋を経験し、失意のどん底に沈む彼女だったが、悲しんでいる暇はなかった。
彼女がジョーカーと別れたと知った裏社会の人間たちが一斉に彼女へのリベンジを誓い、動き始めたのだ。
ゴッサムを牛耳ることを目論むローマン・シオニスは、彼女を捕らえ、命を助ける代わりに、彼が大金を手に入れるためのキーとなるダイヤモンドを探すよう命令する。
ダイヤモンドを探すハーレイクイン。
歌手でありながら、ローマン・シオニスの運転手に任命され、女性たちが虐げられる姿を苦々しく見守るダイナ・ランス。
両親の復讐を誓い、静かに動き始めたヘレナ・ベルティネリ。
そしてダイヤモンドの秘密を握る少女カサンドラ・ケイン。
「小鳥」たちの物語が交錯し、男性権威社会への痛烈なメッセージを叩きつける意欲作。
スタッフ・キャスト
- 監督:キャシー・ヤン
- 脚本:クリスティーナ・ホドソン
- 撮影:マシュー・リバティーク
- 美術:K・K・バレット
- 編集:ジェイ・キャシディ エバン・シフ
- 音楽:ダニエル・ペンバートン
いくつか短編映画を手掛けてきた気鋭の女性監督がDC映画の最新作に大抜擢され、高評価されています。
フェミニズム的な視点からも批評性が高い映画だということで、非常に注目ですし、今後のキャシー・ヤン監督から目が離せません。
脚本には、少女とバンブルビーの出会いとつながりの物語を描いた『バンブルビー』で高く評価されたクリスティーナ・ホドソンが起用されました。
撮影には『アリー スター誕生』や『ヴェノム』で知られるマシュー・リバティークが参加し、編集には『ジョンウィック』シリーズのエバン・シフが起用されています。
音楽には、女性キャスト主体で蘇った『オーシャンズ8』を彩ったダニエル・ペンバートンが手掛けています。
- ハーレイクイン:マーゴット・ロビー
- ヘレナ・ベルティネリ/ハントレス:メアリー・エリザベス・ウィンステッド
- ダイナ・ランス/ブラックキャナリー:ジャーニー・スモレット=ベル
- レニー・モントーヤ:ロージー・ペレス
- ビクター・ザーズ:クリス・メッシーナ
- カサンドラ・ケイン:エラ・ジェイ・バスコ
- ローマン・シオニス/ブラックマスク:ユアン・マクレガー
キュートさがあるだけでなく、強さと狂気を内包したあの素晴らしいハーレイクイン像を体現できるのは、マーゴット・ロビーしかいないと思います。
『スーサイドスクワッド』の作品自体は低評価でしたが、彼女の評価は高かったですからね。
その他にも注目のキャスト陣が登場していて、『10 クローバーフィールド・レーン』のメアリー・エリザベス・ウィンステッドや、『ハンズ・オブ・ストーン』のジャーニー・スモレット=ベル、独特の雰囲気を放つエラ・ジェイ・バスコなど新時代の女性キャストたちが躍動します。
男性キャストを見てみると、名優ユアン・マクレガーが出演しており、彼が演じるブラックマスクがどんなヴィランっぷりを見せてくれるのかにも注目ですね。
『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』感想・解説(ネタバレあり)
「BIRDS OF PREY(バーズオブプレイ)」の意味って?
本作のタイトルは『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』、オリジナルタイトルは『Birds of Prey: And the Fantabulous Emancipation of One Harley Quinn』となっております。
さて、この「BIRDS OF PREY」というキーワードにはどんな意味があるのでしょうか。
大前提として原作のコミックスに『Birds of Prey』というシリーズがありますので、そこから派生していることは自明です。
ただ、この言葉のそもそもの意味は「猛禽類」なんですよ。
猛禽類と言えば、鋭い爪や口ばし、強い脚をもった鳥で、ワシやトンビといった空の生物ピラミッドの頂点に君臨する生き物たちが属するカテゴリです。
本作の映画を見ていただくと、ユアン・マクレガー演じるローマン・シオニスがたびたび女性に対して「小鳥」という表現を使いますよね。
これは「女性なんて声を上げることすらできないだろう」、「男性の前では無力だ」といった旧来的な価値観を象徴するキーワードとして用いられていると感じました。
マフィアの娘だった、ヘレナ・ベルティネリは抗争相手に一家を皆殺しにされた際に、自分だけは命を落とさずに済み、結果的に自分を殺害したマフィアに育てられました。
なぜ、彼女を殺さずに育てたのかと言えば、もちろん「女性に何ができるんだ」という男性側の傲慢があったからでもあるでしょう。
しかし、そんな「小鳥」たちが立ち向かい権威を盾に取る男性たちに食らいついていく、その様は小鳥などではなく猛禽類と言う他ありません。
そういう意味でも『Birds of Prey』は、絶妙なタイトルと言う他ないと思いました。
きちんと、ラストシーンで原作を踏襲したコスチュームの彼らが登場するというサービスもコミックスを読んでいる人たちにとっては嬉しいサプライズと言えるでしょう。
『スーサイドスクワッド』との絡み
冒頭にも書いたように、世間的にはDC映画の黒歴史的扱いを受けている『スーサイドスクワッド』ですが、一応今作はその続編(スピンオフ)に当たる作品です。
個人的には、見ておく必要はほとんどないと思いました。
というのも、DCはユニバース映画の道を一旦諦めて、個々の作品のクオリティを高めていくというアプローチでMCUと戦っていくことを決意しました。
そういった潮流もあり、今作『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』はかなり独立した作品としての色合いが強まっています。
『スーサイドスクワッド』で描かれていた内容で、知っておきたい部分って、正直ジョーカーとハーレイクインの馴れ初めくらいのものだと思いますが、それも映画の冒頭で「前回のあらすじ」的に解説してくれます。
もちろん、余裕がある方は見ていただきたいんですが、いきなり『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』から見ても何ら問題はないということは申し上げておきます。
唯一見ておいて得があるとすれば、「キャプテンブーメラン」がちらっと劇中の手配書に登場するところで、ニヤッとできるくらいでしょうか。
『スーサイドスクワッド』は個人的には好きな映画ですので、見て欲しい思いはありますが、時間がない方は、いきなり今作から見ちゃってください。
「Bombshell」からの脱却と自立
今作『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は、近年の映画の潮流を象徴するような作品で、その構図も大胆です。
『ワンダーウーマン』にせよ『キャプテンマーベル』にせよ女性を主人公に据えた映画ではありますが、「男性は全員敵だ!」という振り切ったところまではいっていなくて、あくまでサポートには重要な男性キャラクターが配置されていました。
ただ、今作がそういった女性ヒーロー映画と圧倒的に異なるのは、「女性VS男性」という構図を驚くほどに明確にしている点です。
警察官、マフィアの人間、中華料理店の店主、ジョーカー…登場する男性キャラクターが片っ端から「クズ野郎」と「無能」しかいないという徹底っぷりには驚かされます。
構図があまりにも単純すぎるので、脚本が安直な内容に仕上がっているのではないかという懸念もあるかと思いますが、これが実によく練られています。
ハーレイクインはジョーカーと別れるわけですが、この原因は、彼が彼女を自分の都合の良いように利用して、属物のように扱っていたからですよね。
しかし、劇中でも言及されていたように、彼女にとってジョーカーの存在は裏社会を生き抜いていく上で必須とも言え、彼の存在があるだけで誰もが自分に一目置いてくれるのです。
これは、先日公開された映画『スキャンダル』でも全く同様のことが描かれていて、女性たちの中には自分の地位やキャリア、安定した生活を守るために男性優位社会を維持しようとする人間がいるんです。
それは、彼らがそういった生きにくい社会からの脱却を望んでいないというわけではなくて、望んではいるけれども、そうしない方が都合が良いからという側面があります。
ハーレイクインも劇中で、何度もそういった男性社会を維持する代わりに、自分の保身を図ろうとする瞬間がありました。
例えば、ジョーカーと別れたにも関わらず、それを誰にも言うことなく、ローマン・シオニスの店に行って自由気ままに振舞う様は彼女が、彼への依存を振り切れていない証拠でした。
彼女は裏社会に足を突っ込んだ人間として「ジョーカーのガールフレンド」という立場が必要だったんですよね。
しかし、彼女はそれを何とかして振り切ろうと、1人戦いを始めます。
それでも、上手くいかず、一度はローマン・シオニスに囚われ、唯一信頼していた男性にも裏切られ、失意のどん底にいた彼女は、カサンドラ・ケインをローマンに引き渡そうとします。
ハーレイクインが自立することを諦め、再び男性優位社会の中で自分を殺して上手く世渡りをしていくしかないのか…と絶望させられた瞬間でした。
ただ、そこに「小鳥」たちが集い、そして「猛禽類」と化し、集まってきた男たちに牙をむきます。
既存の社会のシステムや伝統に迎合する必要はなく、自分たちらしく戦えば良いんだという覚悟が彼女たちからは感じられ、その戦いは圧巻の一言でした。
未だに私たちの社会には、女性は声を上げられない、声を上げたとて無意味な「小鳥」のような存在だと軽んじる風潮があります。その状況は、近年変わってきてはいますが、すぐに劇的な変化があるわけではありません。
しかし、そんな「小鳥」たちの声が集まり、立ち上がる勇気を得たならば、きっと猛禽類のように牙をむいて、男性はそのツケを払うことになるのでしょう。
この映画に対して、不満を抱くことがあるとすれば、それは「共生」ではなく、あくまでも「カウンター」に徹した部分になって来るかとは思います。
ただ、劇中でハーレイクインがマリリン・モンローのオマージュのようなミュージカルシーンを披露していたことを考えると、その意図も透けて見えてきます。
(C)2019 WBEI and c&TM DC Comics
典型的な「Bombshell」であり、セックスシンボルとされたマリリン・モンローですが、彼女はロマンチックコメディでクラシカルな「頭が悪いブロンド」を演じていました。
彼女は、そんな男性に求められる型に自分を当てはめてしまい、そこから抜け出せなくなってしまい、苦悩と葛藤を抱えていた人物とも言われています。
心にはきっと、そんな強い思いがあったはずなのですが、それを表に出せば、自分が当時のハリウッドのシステムから放り出されてしまうという懸念もあったはずです。
そんな人物が確かにいて、そしてハリウッドのシステムを維持するために自分をすり減らしていった女性がたくさんいるかっらこそ、今作『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は、痛烈なカウンターとして機能しています。
この映画には、警察官を除くとアウトローしか登場しません。
つまり、ハーレイクインたちを初めとするキャラクターたちは、決して正義の側にいるわけではなく、今の社会システムからはみ出した人間たちです。
しかし、女性たちは、これから旧来的な男性中心の社会システムからどんどんと抜け出していかなくてはなりません。
そう考えると、ハーレイクインが仮にも「ヴィラン」であるという立ち位置が絶妙な皮肉として効いてきますね。
超絶アクションと舞台装置のユーモア
(C)2019 WBEI and c&TM DC Comics
本作『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』の大きな見どころの1つは、やはり圧巻のアクションシーンです。
というのも『ジョンウィック』シリーズの監督であるチャド・スタエルスキが、今回アクションシーンの撮影に手を貸しているのです。
『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』のアクションは、単純にスピード感や身のこなしが素晴らしいのもありますが、アイテムや舞台装置の活かし方が絶妙なんですよね。
例えば、ハーレイクインが警察署に突入して、カサンドラを探すシーンですが、クラッカーボムの様なものをぶっ放して、カラースモークを炊きながら華麗に警察官を倒していきます。
警察署という殺風景な建物が一瞬で、ハーレイクインのカラーに染め上げられ、彼女のステージへと変貌していく様が見て取れますよね。
また、女性キャラクターが旧来的な「男性らしい強さ」に囚われるのではなく、女性として強いというところに重きを置いていることが作品のいたるところから伝わってきます。
例えば、ダイナ・ランスは足のシルエットが際立つスキニーパンツをはいているのですが、そんな長い足を活かしたキックアクションを多く披露していて、こちらも非常に見応えがあります。
先ほどもハーレイのシーンも、緊張感が損なわれないタイトさは維持しつつも、そこに彼女の個性が前面に出たアイテムや舞台設定を選ぶことで、非常に印象的に仕上がっていますよね。
とりわけ本作は、アクションシーンのシークエンスの中で、女性たちのアイデンティティを表現するのが非常に巧かったと思いました。
カサンドラ・ケインの終盤のワンシーンでも、彼女の手癖の悪さ、抜け目のなさが表出し、ローマン・シオニスの打倒に繋がりました。
そして、何と言っても最大の見どころと言えるのは、終盤の遊園地のブービートラップでの戦闘シーンですよね。
アクションシーンのタイトさと、視覚的なユーモアがこれほどまでに絶妙なバランスで実現されている映画って他になかなかないと思うんです。
ユーモアに寄せすぎると、B級コメディテイストなアクション映画になってしまうと思いますが、この『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』は、決してそうなってはいません。
ハーレイクインたちが『三国志』の麦城の戦いさながらの絶体絶命の状況で戦っているという緊張感は漂わせつつも、遊園地のアトラクションのギミックを最大限に活かして戦闘を繰り広げます。
このクールさとユーモアの同居には、思わず拍手を贈りたくなりましたね。
男性らしさ、女性らしさという価値観を超越した「ハーレイクインらしさ」を体現するアクションシーンの数々だと思いましたし、そういったアイデンティティをアクションシークエンスの中で描ききったのは、流石ですね。
アメコミ映画の中でも、アクションは屈指の出来栄えと言えるでしょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『ハーレイクインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』についてお話してきました。
近年、女性を主人公に据えた映画は増えていますが、個々まで大胆に「女性VS男性」の構図を作り上げた作品も他にないでしょう。
その点で、嫌悪感を感じる人もいるかもしれませんが、「カウンター」としては納得がいく作りではありますし、構造の単純さとは裏腹に脚本は緻密です。
そして、アクションシーンは、他のアメコミ映画とも一線を画するような圧巻のビジュアルとタイトさを持っています。
コロナウイルスの影響で、映画館に積極的に行ってくださいとは、言いづらい部分はありますが、それでも見て欲しいとそう思っております。
くれぐれも体調には十分に留意し、予防や対策をきちんとした上で見に行きましょう。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。