みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『ハッピーデスデイ』『ハッピーデスデイ2U』についてお話していこうと思います。
公開当時、Twitterの方でたくさんの方におすすめしていただいたのですが、あまり公開規模が大きくない作品だったこともあり、見逃していた作品です。
Amazon Primeの方で、この2部作が配信がスタートしたということで、早速鑑賞させていただきました。
まず、この2部作はそれぞれが単体の映画として非常に完成度が高いのですが、それ以上に2部作としての関連性が素晴らしくて、特に2作目の『ハッピーデスデイ2U』は圧巻でした。
1作目は、ワンアイデア型のホラー青春映画で、よく出来た映画ではありますが、それほど強い印象を残すものではありません。
しかし、2作目は、そんな1作目からの風呂敷の広げ方があまりにも巧すぎるのです。
1作目で起きた事象の謎を追うSF的な要素も強まっていますが、主人公のツリーの成長譚としてもきちんとした続き物となっており、さらにはワンアイデアのリピートの仕方にも趣向が凝らされています。
今回はそんな2部作について語っていこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『ハッピーデスデイ』
あらすじ
9月18日月曜日。遊んでばかりの女子大生ツリーは、誕生日の朝に、見知らぬ男のベッドで目を覚ます。
一夜限りの関係だからと男に釘を刺し、大学の構内に繰り出すと、ありふれた日常が広がっていた。
環境保全活動への勧誘、バスケットボールの応援グッズのスタンド、そして言い寄って来る以前に関係を持った男。
寮に戻ると、部屋で彼女の友人ローリーが誕生日を祝う小さなカップケーキを作ってくれていた。
ツリーは、ろうそくの火を吹き消すとそのケーキをゴミ箱に放り投げ、ローリーを唖然とさせる。
昼間は大学に向かい、グレゴリー・バトラー教授の講義を受け、後に病院を訪ねると、不倫関係にある彼に性交渉を迫った。
夜になると、彼女は誘いを受けていたパーティーへと赴くこととなる。
小さなトンネルへと差し掛かると、そこにはなぜかオルゴールが置かれており、不気味にメロディを奏でていた。
振り返ると、そこには大学のマスコットであるベビーのお面をつけた人物が立っていた。
恐怖を感じ、逃亡を図るツリーだったが逃げ切ることは叶わず、ナイフで刺し殺されてしまうのだった。
しかし、彼女は殺されたにもかかわらず、再び目を覚ます。日付を確認すると、何と「9月18日月曜日」。
彼女は、再び誕生日の1日を繰り返そうとしていた…。
スタッフ・キャスト
- 監督:クリストファー・ランドン
- 製作:ジェイソン・ブラム
- 脚本:スコット・ロブデル
- 撮影:トビー・オリバー
- 編集:グレゴリー・プロトキン
- 音楽:ベアー・マクレアリー
本作は、製作を『ゲットアウト』や『パラノーマルアクティビティ』といった傑作ホラーをこれまでにも製作してきたジェイソン・ブラムが担当しています。
低予算ながらも、非常にアイデアと趣向が凝らされたホラー映画を多く世に送り出しており、非常に信頼が持てます。
監督を務めたのは、『ゾンビワールドへようこそ』や『パラノーマルアクティビティ2』などで知られるクリストファー・ランドンです。
正直、この監督の過去作はそれほど傑出した作品はなく、それだけに今作は大きなサプライズでした。
特に、秀逸だった『ハッピーデスデイ2U』の方は、彼が自ら脚本も担当しているんですよ。
ちなみにですが、1作目の脚本を担当したのは、スコット・ロブデルでした。
撮影には、ジョーダン・ピール監督の『ゲットアウト』にも参加したトビー・オリバーが起用されていて、コメディテイストもありつつ、絶妙に恐怖を煽る映像を完成させています。
劇伴音楽には、『ゴジラキングオブモンスターズ』なども担当したベアー・マクレアリーが起用されました。
- ツリー:ジェシカ・ローテ
- カーター・デイヴィス:イズラエル・ブルサード
- サマール・ゴーシュ:スラージ・シャルマ
- ドレ・モーガン:サラ・ヤーキン
- ロリ・シュペングラー:ルビー・モディーン
主人公のツリーを演じたジェシカ・ローテは、何と『ララランド』にミアのルームメイトとして出演していたようです。
気になった方は、ぜひ確認してみてくださいね。
また、カーターを演じたイズラエル・ブルサードはソフィア・コッポラの『ブリングリング』などに出演していたことでも知られています。
キャストの面々を見ても、それほど予算がかかった映画だとは感じませんでしたが、そこをアイデアと工夫で乗り切り、素晴らしい作品に仕上げてきたと思いました。
『ハッピーデスデイ』解説・考察(ネタバレあり)
青春イニシエーション2部作としてこの上ない出来である
(C)Universal Pictures
この『ハッピーデスデイ』『ハッピーデスデイ2U』2部作は、ジャンル的なくくりで言うと、ホラー映画ということになります。
ただ、ホラー要素はそれほど強くなく、むしろSFや青春映画のテイストの方が強くなっているのではないかと感じました。
SFとしては、劇中でも言及されていたように『バックトゥザフューチャー』シリーズを思わせる展開が見られます。
そして、この2部作が素晴らしいのは、何と言っても青春映画のパートなんだと思います。
主人公のツリーは、自分の母親を失ったことを引きずっており、大学でも自堕落で、性に奔放な日々を過ごしていました。
周囲の人に対しては、ぶっきらぼうに接し、異性関係を巡って、周囲の人たちからは恨みを買っています。
しかし、そういった周囲の人から反感を買う行為を繰り返すのは、母が死んで以来、どんなことからも逃げるようになり、自分自身に価値を見出せなくなったためとも言えるでしょうか。
とりわけツリーは、父から何度もかかって来る着信には応じようとしません。父と会うということは、否が応でも母の不在と向き合うことになるからです。
また、彼女が男性との一夜限りの関係ばかりを繰り返すのも、失うことを恐れて「大切な人」を作ることができないという心情の表出なのではないかと推察します。
繰り返す「9月18日月曜日」に直面しても、最初に彼女が選ぶのは、向き合うことではなく、そこから何とかして逃げるという道でした。
しかし、どんなに遠くに逃げようとしても、「死」は確かに迫ってきて、逃れ得ないものとなっていたわけです。
だからこそ、彼女はこれまで逃げていた人生ときちんと向き合う必要がありました。
それは、その喪失から逃げてきた母の存在であり、また彼女の「大切な人」になり得るカーターという青年でした。
『ハッピーデスデイ』において、ツリーが初めて自ら「死」を選択する場面に注目してほしいのです。
このシーンは、これまで殺され続けていた彼女が、初めて自ら死を選択するというプロットの転換点であると共に、彼女がカーターという自分の「大切な人」と向き合い、彼を救おうと決断したことが明確になったシーンでもあります。
そうして、次の「9月18日月曜日」では、不倫関係にあったグレゴリー・バトラー教授との関係を解消したり、父からの連絡に応じて会いに行くなど、逃げてきた人生と直面する努力をしました。
1作目のラストでは、カーターと結ばれるハッピーエンドを迎えるわけですが、2作目では新たな試練を課されます。
2作目はマルチバースものとなっており、ツリーは自分の母親が生きており、しかしカーターは他の人の恋人になっているという世界線に送られます。
ツリーが巻き込まれた世界線は、最愛の母が生きている世界線であり、望めば彼女はそこに留まるという決断もできます。幸せな夢の中に留まり続けるという線枠ができるわけです。
しかし、その世界に生きている人々は彼女の記憶とは違っており、家族の記憶も友人やカーターとの関係性も大きく異なっています。
つまり、それは彼女の人生であって彼女の人生ではないのであり、留まるということは本来の人生から逃げることを意味しているわけですね。
だからこそ、彼女は迷い苦しみながらも、自分が生きていた人生を取り戻す選択をします。
物語のマザータイプの1つとも言われる『オイディプス王』では、「父殺し」のイニシエーションが有名ですが、『ハッピーデスデイ2U』ではむしろ「母殺し」のイニシエーションが描かれているわけですね。
そうして、彼女は自分が生きていた本来の人生から逃げない選択をするわけですが、今作のプロットが見事すぎるのは、ツリーにローリーを救出させるという展開を用意したことです。
ローリーは、ツリーのルームメイトであり、同時に『ハッピーデスデイ』のメインヴィランでもありました。
彼女は、グレゴリー・バトラー教授に好意を寄せていたために、ツリーが彼と不倫関係にあることを知って、強い憎悪を抱いていたわけです。
ただ、その雑さを『ハッピーデスデイ2U』は丁寧に回収してくれました。
2作目の世界の中で、ツリーは自分の「大切な人」であるカーターが別の女性の恋人になっているという状況を体験し、1作目でローリーが置かれていた状況を追体験します。
また、面白いのが『ハッピーデスデイ2U』の世界線では、ローリーがグレゴリー・バトラー教授と不倫関係にあり、そして彼の奥さんから命を狙われているという状況が成立しています。
つまり、2作目のローリーって1作目のツリーなんですよね。
だからこそ、『ハッピーデスデイ2U』の終盤でツリーがローリーを救う決断をするという行為は、彼女なりのローリーへの贖罪であると共に、過去の自分を救うという行為でもあるのです。
過去と向き合うということは、過去を赦すことでもあるのだという強いメッセージを感じる展開に思わず胸が熱くなりました。
喪失や苦痛から逃げずに、それらと向き合い前に進み続ける決断をするまでの物語ということで、ツリーの成長譚として本当に見事な2部作だったと思います。
ファイナルガールになるために
60年代以降のアメリカホラー映画には「純粋な若い女性が男の殺戮者と対決するが最後には生き残る」という構造があることが研究で注目されています。
このことからホラー映画において最後に生き残る女性は、しばしば「ファイナルガール」と呼ばれます。
面白いのは、『ハッピーデスデイ』『ハッピーデスデイ2U』におけるツリーは、そういったファイナルガール像からはかけ離れていて、むしろホラー映画では真っ先に命を落とすタイプのキャラクターです。
これまた面白いのは、『ハッピーデスデイ』のメインヴィランであるローリーって映画『ハロウィン』のファイナルガールを思わせる名前なんですよ。
いわゆる中性的な名前で、本作におけるローリーってその出で立ちもどこか中性的ですよね。
つまり、「ファイナルガール」とそれとは対照的に映画では真っ先に死ぬタイプの女性がいて、本作では前者がヴィランに、後者が主人公に割り当てられているのです。
この文脈で見ると、本作はメタホラー的であり、真っ先に死ぬタイプのツリーが映画の中で成長を遂げ、最終的には「ファイナルガール」の座を奪うというプロセスを描いているのです。
ホラー映画要素は弱めだと言われがちな本作ですが、メタ的な視点で見ると、非常に面白いホラー映画であることが分かります。
様々な映画からの引用と小ネタが面白い
『ハッピーデスデイ』『ハッピーデスデイ2U』には、とにかくたくさんの映画からの引用が見られます。
とりわけ2作目の方は、一気に映画へのオマージュ・小ネタ要素が増えていて、映画好きにはたまらない内容となっております。
例えば、カーターの部屋に貼られているポスターを見てみると、『ゼイリブ』や『バックトゥザフューチャー』などがありますよね。
(C)Universal Pictures
劇中でツリーがモーテルで母親と映画を見ているシーンで見ていたのは、『大アマゾンの半魚人』でした。
また、他にも登場人物の会話の中では、『インセプション』や『バックトゥザフューチャー2』、『恋はデジャヴ』加えて『ハンソロ』(スターウォーズ)なんかも話題に挙がっていました。
『インセプション』は、多層世界を扱ったSFということで、また『バックトゥザフューチャー2』は非常に設定や展開の面で『ハッピーデスデイ2U』と共通点があります。
同作では、マーティとドクが2015年の世界に言っている隙に、1985年の世界を書き換えられてしまい、戻ったときには全く違う世界になってしまっていたという展開が描かれます。
また、1作目のラストシーンのカーターのセリフの中でも挙がっていた『恋はデジャヴ』は2作目でも印象的な引用がありました。
ツリーがドライヤーをバスタブの中に落として感電自殺をするというシーンがあったかと思いますが、これは『恋はデジャヴ』における有名なトースターをバスタブに落とすシーンからの引用でしょう。
(C)Universal Pictures
そして、『ハンソロ』(スターウォーズ)についてはライアンの同胞の大学生たちの会話の中で登場しており、有名な「ミレニアムファルコンでケッセルランを12パーセクで飛んだ」という逸話に関する議論がなされていましたよね。
他にも映像的な側面で言うと、たくさんの作品から引用が見られます。
まず、ツリーが木の粉砕機に身を投じて自殺するシーンがありますが、これは「ツリー=木」が木の粉砕機で死ぬという洒落でもありとある映画へのオマージュでもあります。
(C)Universal Pictures
『タッカーとデイル』の中で、粉砕機で木を粉砕していたタッカーに襲い掛かってきた学生が、粉砕機の中に落ちて粉々になってしまうというシーンがあります。おそらくはここから引用が為されていますね。
ちなみに粉砕機の車には「Biff’s Tree Removal」と書かれており、これは『バックトゥザフューチャー』のビフ・タネンからとった小ネタでしょうか。
また、鐘堂でツリーが転落死を選ぶシーンがありますが、これは露骨に『アメイジングスパイダーマン2』に寄せた演出です。
(C)Universal Pictures
時計塔でグウェンが転落するシーンと全く同じ構図で、全く同じ演出だったので、思わず吹き出してしまいました。
あとは、公開時期が近いので、意図的なオマージュかどうかは分かりませんがパラシュートなしのスカイダイビングで自殺するシーンはどことなく『デッドプール2』を想起させます。
(C)Universal Pictures
他にも、これは明確な引用とは言い難いですが、ツリーが何とかしてシシーの作動を止めようとして、変電所に車で突撃するシーンは、映画『君の名は』を想起しました。
アメリカでもある程度の規模で公開された映画ではありますので、もしかすると引用だったのかもしれませんが、これはまあ軍全の範疇でしょうか。
おそらく細かく見ていくと、もっとたくさんの映画への映画への言及があると思いますし、それを探してみるだけでも楽しめると思いました。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『ハッピーデスデイ』『ハッピーデスデイ2U』についてお話してきました。
1作目だけだとそれほど印象に残る作品ではないのですが、やはり2作目があることで評価がグッと上がりますね。
特に、個人的には『ハッピーデスデイ2U』の終盤にツリーが、ローリーを救うために命の危険を冒す展開が大好きです。
1作目の流れもあってこそですが、前作のメインヴィランと主人公の状況を重ね、更には彼女を救済するという選択は見事と言わざるを得ない構成だと思いました。
これがあったことで、ツリーの成長譚としても綺麗にまとまった印象がありますね。
また、先ほども書きましたように、映画の小ネタが非常に多く、映画好きであればあるほど楽しめる内容だったのではないかと思います。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。