みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですねNetflixで配信中のオリジナル映画『ELI イーライ』についてお話していこうと思います。
『ROMA』や『アイリッシュマン』、『マリッジストーリー』のような大傑作から『セレニティー 平穏の海』や『アースクエイクバード』といった微妙な作品まで非常に高低差があります。
そして、この『ELI イーライ』はと言うと、明らかに後者寄りの作品でしたね。
『アポストル 復讐の掟』や『セレニティー 平穏の海』がそうなんですが、Netflix配給の映画って、入口と出口があまりにも繋がっていない映画が多かったりします。
今作も、入り口としては『シックスセンス』や『エヴォリューション』を想起させるような、典型的な院内ホラー路線でかつ、幼少期の病院や医療処置に対する潜在的な恐怖を投影した作風で、非常に期待しておりました。
ただ、出口はなぜか『ブライトバーン』のような悪魔ビギンズとなっており、これがイマイチしっくりこないのです。
そんな映画『ELI イーライ』について今回は語っていこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『ELI イーライ』
あらすじ
4年前に11歳の少年イーライは、自宅の庭で突然、重度の自己免疫疾患を発症した。
大気中の不純物やウイルスなどに過剰に反応するようになった彼は、自宅の無菌室で生活することを強いられ、外出時は防護服を身に纏っていた。
両親は彼の治療をするために、ホーン医師が運営する医療施設に彼を入居させることを決断する。
施設内が全面無菌室となっていることによりイーライは、久々に自由な生活を取り戻し、母とハグをすることができた。
そんな安心もつかの間、治療と投薬が始まると、彼の身の回りに不思議なことが起き始める。
施設の外から窓越しに彼に語りかけてくる少女ヘイリー。施設内のあちこちで起こる心霊現象。
そして、治療がステージ1からステージ2へと移行すると、さらにその悪夢のような現象は激しく起きるようになり、次第にイーライは病院での治療に対する懐疑心を強めていくのだった…。
スタッフ・キャスト
- 監督:キアラン・フォイ
- 原案:デヴィッド・チャーチリッロ
- 脚本:デヴィッド・チャーチリッロ&イアン・ゴールドバーグ&リチャード・ナイン
- 音楽:ベアー・マクレアリー
- 撮影:ジェフ・カッター
- 編集:ジェイソン・ヘルマン
2012年のサスペンススリラー『フッテージ』の続編を手掛けたキアラン・フォイが監督に抜擢されました。
そして原案と脚本を担当したのは、小規模なホラー映画にいくつか携わった経験のあるデヴィッド・チャーチリッロですね。
共同脚本には、『ジェーン・ドゥの解剖』のイアン・ゴールドバーグやリチャード・ナインが携わっています。
音楽には、『ハッピーデスデイ』のベアー・マクレアリー、撮影には『エスター』や『10クローバーフィールドレーン』のジェフ・カッターが起用されていますね。
あまり褒めるところが多い作品ではないですが、撮影に関してはかなりテクニックが感じられて良かったです。
- チャーリー・ショットウェル:イーライ
- ケリー・ライリー:ローズ
- マックス・マーティーニ:ポール
- リリ・テイラー:イザベラ・ホーン
- セイディー・シンク:ヘイリー
ハリウッド映画界の子役も競争が激しいとは思いますが、ここのところ存在感を発揮しているのが主人公を演じたチャーリー・ショットウェルでしょう。
『はじまりへの旅』や『ナイチンゲール』など話題作に出演し、本作『ELI イーライ』への出演以降、一気に注目度を高めています。
主人公の母親ローズ役には、『シャーロックホームズ』シリーズや『フライト』のケリー・ライリーが起用されています。
他にも『フィフティ・シェイズ』シリーズで知られるマックス・マーティーニや『死霊館』のリリ・テイラーが脇を固めています。
『ELI イーライ』解説・考察(ネタバレあり)
意外と細かく張り巡らされた伏線
『ELI イーライ』という作品は、意外と丁寧に伏線を張ってくれてはいるんですが、これが意外と細かくて、よくよく考えてみると、結構面白いんですよ。
(映画『ELI イーライ』予告編より引用)
これは、もう言うまでもなく『シャイニング』に登場する「REDRUM」→「MURDER」をリスペクトしたギミックでしょうし、それ故に2番煎じ感があって、驚きはありません。
ただ、物語全体を見た時に、2回目に見ると、全く印象が変わるシーンが多いのも事実で、それは非常に楽しめるポイントだと思います。
まず、これは小ネタ程度のものではありますが、開始から7分程度のモーテルからイーライたちが車で道路へと繰り出していくシーンで、意味深に看板が映し出されることに気がつきましたか。
(335)-173-TRUTH
そしてその上には、旧約聖書の引用が書いてあります。以下にその意味を書いておきますね。
偽りの証人は罰を免れない、偽りをいう者は滅びる。
まず、最初の電話番号の方は「173」という数字が明らかに「ELI」の逆読みですし、そこから「TRUTH」が続くことで、彼が真実に到達する物語であることを仄めかしています。
そして、その上に書かれていた旧約聖書からの引用は、完全にホーン医師や両親が、彼に「嘘」をついていることを指しており、それらが許されざるものであり、罰せられるものであることを強調しています。
ただ、この看板に散りばめられた露骨なヒントは、まあ初見ではあまり気に留めない一瞬のシーンでありますので、良しとしましょう。
冒頭のシーンで伏線として挙げられる描写があるとすれば、イーライが心の奥に強い憎悪や攻撃性を抱えていて、自分を差別してくる人間にいつか暴力を差し向けたいと語っているところでしょうね。
さて、一行は病院施設へと辿り着きますが、ここからは両親のローズとポール関係で、かなり伏線めいた描写が増えていきます。
まず、2人の会話を見ていると、やたらと宗教的な内容が多く、キリストにたびたび祈りを捧げる様子が描かれているのが印象的です。
そして、何とも面白いのが、ローズとポールの関係は、どことなく良好ではなくて、ふとしたシーンで、その関係性が明かされるのも大きな伏線の1つだったと言えるでしょう。
例えば、2人はイーライが手術室へと向かって行くのを、手を繋いで眺めているんですが、扉が閉じると、すぐに手を放すちょっとした描写があります。
表情を完全にフレームアウトさせて、扉が閉じていく様子と、2人の手が自然と離れる様を対比的に映すことで、2人がイーライの前では良好な関係であることを装っていることが見えてきました。
他にもベッドでの会話を見てみると、父ポールが「俺は信心深い男だ。」とローズに嫌味のように告げるシーンがありますが、これも実に細かい伏線です。
終盤になると、父ポールは明らかに妻に対して怒りを抱いているような様子が表出します。
そのため、クライマックスのイーライ覚醒シーンの直前には、再び息子を守ろうと必死の抵抗を始めたローズを静止し、ホーン医師たちに、儀式を継続するよう促しています。
一方で、幽霊がたびたびイーライの周囲に登場するようになりますが、これも大半が伏線です。
最初に出てくるのは、小さな少女の幽霊ですが、彼女が医療用のカーテンの影として彼に襲い掛かろうとすると、その影が父ポールのものだと明かされるシーンがあります。
そして、その次に現れた幽霊は、彼に「317」の暗証番号を伝えようとし、彼を施設の外に引っ張り出そうとした幽霊はイーライが自己免疫疾患ではないことをダイレクトに伝えようとしていました。
また、病院の看護師たちの言動にも、細かい伏線が散りばめられていました。
例えば、彼らが着用している手術着がシスターの修道服を想起させるようなビジュアルになっているのは、重要でしょう。
セリフを紐解いていくと、少しスピリチュアルな表現や単語が含まれていたり、医学的に治療するというよりは、「治癒」といった表現を多く使っているように見受けられました。
このように、1番大きなギミックである「317」は割とアホらしいのですが、伏線そのものはかなり細かく張られており、脚本的には丁寧だったと言えるかもしれません。
病院や医療処置に対する潜在的な恐怖
(映画『ELI イーライ』予告編より引用)
当ブログでも考察記事を書いた『エヴォリューション』という作品がありまして、その監督を務めたルシール・アザリロヴィックがパンフレットのインタビューで次のように述べていました。
11歳の頃に虫垂炎で入院した時、初めて知らない大人に自分の体を触られ、開腹されました。思春期だったこともあり、とても奇妙で強烈な経験として自分の中に響きました。それがこの作品の一番のアイデアの原点だと思います。
(映画『エヴォリューション』パンフレットより引用)
実は、当ブログ管理人も幼少期に、医療というものに強い不信感を抱いていました。
小学生の頃に、ぜんそくで入院したことがありまして、その時に点滴の注射をある種の「新人研修」代わりにされたのが、トラウマなんですよ。
1度刺されるのだって嫌なのに、新人の看護師の方が何度も点滴の注射を指すのに失敗して、刺し直しを繰り返されて、号泣した記憶は今でも忘れません。
あとは、それまでかかったことがなかったのに、中学時代にインフルエンザ予防接種を受けた年だけインフルエンザにかかって、それ以来怖くて予防接種を長らく受けていなかったというのもあります。
何かと、ちょっとしたことで病院や医療処置に対して嫌悪感を抱いてしまって、敬遠するようになるというのは、子ども特有の現象だと思っています。
そして、ルシール・アザリロヴィック監督も述べているように、そこには自分の身体を好き勝手に蹂躙されるような「気持ち悪さ」が存在しています。
『ELI イーライ』という作品は、見ず知らずの大人から施される医療処置の気持ち悪さや、差し出された薬を飲むことへの抵抗などを妙に生々しく描いていて、その恐怖感が「幽霊」という形で具現化していると考えると、結構面白かったんですよ。
そういう意味では、よく分からない治療をされることに対しての、子どもなりの恐怖感を描き、それと向き合い、戦っていくイーライという少年の物語と位置づければ、ホラー映画としても成長物語としてもなかなか「見れる映画」になったのではないかと思っております。
た
昨年鑑賞した『ブライトバーン』なんかは、自分の内に眠る邪悪な力の存在と家族と暮らす日々との葛藤なんかも巧く映画いてて、こちらは悪魔誕生譚としてお見事でした。
しかし、『ELI イーライ』については、最後の最後まで基本的にイーライには、自分が悪魔の子であるという自覚はない状態で進行していくので、どうしてもラストの展開に「とってつけた感」が出てしまうのです。
作中には、宗教的な匂いが漂ってはいましたし、薄々こういった展開になることは予想できましたが、そこを子どもの視点で見ると医療行為が怪しげな宗教ないし呪術的な行為に見えるという解釈でも面白かったと思うんですよね。
単に、彼は悪魔でしたし、嘘をついていた人間を全員殺害しますというパワープレイすぎるオチにしてしまうには、少し勿体ないプロットと題材だったかなとは思います。
なぜ母のローズは殺さなかったのか?
(映画『ELI イーライ』予告編より引用)
イーライは、悪魔の力を覚醒させると、それこそ片っ端から周囲の看護師や自分の父親を殺害していきました。
しかし、母親のローズを殺すことはしなかったのが、なぜ?となるところではないでしょうか。
それを考える時に、最初にも紹介した看板に書かれている旧約聖書からの引用が重要な意味を孕んでいたのではないでしょうか。
偽りの証人は罰を免れない、偽りをいう者は滅びる。
本作において、イーライの周囲にいた人間は、みんな嘘をついていましたから、全員が罰せられる対象であることは明白です。
ただ、母親のローズがたとえ悪魔の子であったとしても、イーライのことを愛していて、殺すのではなく救いたいと願っていたことは「真実」だったんですよ。
だからこそ、愛に対しては嘘偽りのなかったローズを殺めることはしなかったのだろうと私は解釈しました。
立場こそ、逆転はしていましたが、彼が最後に母親にかけていた言葉は、かつて自分が発作を起こした時にローズがかけてくれていた言葉でした。
その言葉というのは、まさしく偽りのない愛の表象だったのであり、その言葉をイーライが発するということが、まさしく彼なりの母への愛情表現なのでしょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『ELI イーライ』についてお話してきました。
伏線の張り方は面白かったですし、もっと良くなるエッセンスは入っていただけに悪魔誕生譚にしちゃったのは雑だったかなとは思います。
撮影も優れていて、院内ホラーとしても王道を攻めれたと思いますし、医療行為や病院の人間に対する子供なりの嫌悪感を全面に出した作品にしてもなかなか興味深い内容になったのではないかと思っています。
悪魔誕生譚としては『ブライトバーン』のクオリティに遠く及ばないというのもあり、少し分が悪い内容でした。
『セレニティー 平穏の海』や『アースクエイクバード』のレベルと同列に語るところまではいきませんが、NEtflix配給作品の中では、あまり良くない方に分類される1本でした。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。