みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『タイラーレイク 命の奪還』についてお話していこうと思います。
当たりはずれの激しいNetflix配給映画ですが、今回は当たりと言って間違いない内容だったと思います。
クリス・ヘムズワース主演のアクション映画ということで、当然アクションに期待して鑑賞したわけですが、これがヒューマンドラマとしても割としっかりとしていて、見応えがあります。
邦題は、Netflixあるあるの「カタカナタイトル+日本語サブタイトル」のフォーマットに落とし込まれていますが、原題は「Extraction」でした。
この単語にはいくつか意味がありますが、本作の場合は「引っ張り出すこと」という意味で捉えるのが良いのかなと思います。
傭兵のタイラー・レイクが、ムンバイで拉致された麻薬王の息子オヴィを救出し、彼を常に狙われて生きなければならない環境から救う、引っ張り出すというのが、本作の主軸でもありました。
また、アクション面でも後程お話しますが、かなり視覚的快楽を増長させるシーンが多く、見ていて非常に高揚感がありました。
今回はそんな映画『タイラーレイク 命の奪還』について語っていきます。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『タイラーレイク 命の奪還』
あらすじ
ムンバイで友人と青春を謳歌していた少年オヴィは、ある日突然バングラデシュのダッカへと拉致される。
それは、父親の麻薬組織と敵対する組織の犯行であり、彼らはオヴィの父親に対して高額な身代金を要求した。
父親は、身代金を出してしまうと自分の組織の名誉にかかわると考え、何としてでも武力行使で取り戻すことを部下のサジュに要求する。
サジュは自分1人では、奪還は厳しいと考え、裏社会の傭兵として暗躍するタイラー・レイクらに協力を依頼した。
かくしてタイラーたち傭兵はオヴィを奪還するべくダッカへと向かい、苦心の末何とか身柄を確保することに成功する。
しかし、敵組織の監視網と裏切ったサジュが大きな障害となり、タイラーはダッカから脱出することが困難になる。
仲間も船やヘリコプターでの救出を試みるが、様々な場所で検問が実施されていることもあり、容易には近づけない。
そんな状況を鑑みて、仲間は報酬がもらえないのだからオヴィを置いて自分だけで脱出するべきだとタイラーに助言するが、彼は聞く耳を持たない。
頑なにオヴィを助けようとする彼の心の底には、かつて幼くして命を落とした息子の存在があった…。
スタッフ・キャスト
- 監督:サム・ハーグレイブ
- 製作:アンソニー・ルッソ&ジョー・ルッソ
- 脚本:ジョー・ルッソ
- 撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル
- 編集:スタン・サルファス
- 音楽:アレックス・ベルチャー&ヘンリー・ジャックマン
監督を務めたのは、『戦狼 ウルフオブウォー』や『アトミックブロンド』のアクション監督やスタントコーディネーターを担当してきたサム・ハーグレイブです。
大胆で見栄えのするアクションというよりは、タイトでスマートなアクションが主体になっていたので、すごく見応えがありましたね。
そして、脚本を『キャプテンアメリカ ウィンターソルジャー』や『アベンジャーズ』シリーズでおなじみのジョー・ルッソが担当しました。
やはりMCUを一気に硬派でタイトな作風に転換させた方でもあるので、今作『タイラーレイク 命の奪還』も想像以上にヒューマンドラマとしてもアクションとしても洗練されていました。
撮影には『X-MEN』シリーズや『ボヘミアンラプソディ』などにも参加してきたニュートン・トーマス・サイジェルが加わりました。
音楽には、『キャプテンアメリカ ウィンターソルジャー』や『キングスマン』などで知られるヘンリー・ジャックマンが担当しています。
- タイラー・レイク:クリス・ヘムズワース
- オヴィ:ルドラクシャ・ジェイスワル
- ニク・カーン:ゴルシフテ・ファラハニ
- サジュ:ランディープ・フーダー
- ギャスパー:デヴィッド・ハーバー
『マイティ・ソー』シリーズや『メンインブラック インターナショナル』など近年はコメディよりなイメージが強いクリス・ヘムズワースですが、硬派な役もいけますね。
また、基本的にその出で立ちからも軽々と敵を倒していくようなイメージが強いので、確実に消耗していく消耗戦のテイストが強い今作での役は魅力的でした。
その他にも『パバールの涙』のゴルシフテ・ファラハニや多くの大作に出演してきたデヴィッド・ハーバーなどが脇を固めました。
『タイラーレイク 命の奪還』感想・解説(ネタバレあり)
消耗戦&子連れ狼&序盤の敵との共闘!
Netflix映画「タイラーレイク 命の奪還」より
今作『タイラーレイク 命の奪還』は何というか、話しの流れには少年漫画の王道のような熱さがありました。
まず、個人的に胸が熱くなったのは、主人公のハードな消耗戦を描いた点です。
主演のクリス・ヘムズワースは近年、『ソー ラグナロク』や『メンインブラック インターナショナル』と言った作品のイメージも相まって、個人的には涼しい顔で悠々と敵を倒していく姿が浮かぶんですよ。
そんな彼が演じるタイラー・レイクが戦いの中で、少しずつ傷を負っていき、満身創痍の状態でそれでも戦い続ける姿に胸が熱くならないはずがありません。
それに加えて、子連れ狼的なプロットになっていた点も見ていて、面白かったですね。
最近ではディズニーのドラマシリーズの『マンダロリアン』が子連れ狼的なプロットを持ち込みましたが、やはり歴戦の強者が「ハンディ=守るべき存在」を背負って戦うというのが良いですよね。
最初はあくまでも依頼の範疇で救出しなければという思いだったのが、徐々に心情が変化していき、依頼や金銭といった他意なしに、心から守ろうとするのも熱い展開でした。
加えて、序盤には敵対関係にあったキャラクターと主人公が最後は共闘するという『天元突破グレンラガン』的な展開にも心が躍りましたね。
今作において、サジュが序盤の最大の敵であり、タイラーは一進一退の攻防を繰り広げていたわけですが、敵として強かったからこそ、そのキャラクターが味方になるという「心強さ」が大きいんですよ。
こういったある種の少年漫画の王道的な展開や設定が積み重なったことで、純粋にアクション映画として非常に手に汗握る内容になっていたと思います。
アクション映画としても圧巻だ!
Netflix映画「タイラーレイク 命の奪還」より
『キャプテンアメリカ ウィンターソルジャー』もアクション的には非常にタイトで無駄のない動きを積み重ねたことで、これまでのヒーロー映画の常識を覆しました。
今回は監督が『アトミックブロンド』のアクションを手掛けた人物であるということもあり、スマートさとスタイリッシュさが同居する見事なアクションに仕上がっていました。
近年、最も傑出したアクション映画は、やはり『ジョンウィック』ではないかと思っておりますが、あのシリーズはキアヌ・リーヴスという役者の個性も上手く引き出しているんですよ。
そのため、『ジョンウィック』はダイナミックさという点では、少し水準を下げてその代わりにスマートさやエレガントさを高めた「静」的なアクションだと思うんですね。
ただ、今回の『タイラーレイク 命の奪還』は主演がクリス・ヘムズワースということもあり、どちらかというとダイナミズムを優先した動きやカメラワークが目立ちました。
特にアクションを捉えるカメラワークは特徴的で、登場人物の動きや意識のベクトルに合わせて、POVまではいきませんがカメラがかなり動き回る映像でした。
中盤に、住宅街でのチェイスがありますが、このシーンの撮影なんかは実に『アトミックブロンド』のアクション監督らしい作りだと思っていて、細かくカット割りをするのではなく、カメラが登場人物を追うように動いていき長回し風の映像になっています。
これにより、観客が登場人物と同じ視点に置かれ、どこから狙われているのかが分からない緊迫感や臨場感が伝わってきました。
また、終盤の橋でのラストバトルでのサジュとタイラーのアクション面での対比やアクセントのつけ方も見事だったと思います。
2人とも強いのは間違いないのですが、きちんとキャラクターの特性に合わせて、アクションにも癖づけがされているように感じられました。
サジュは機動力が高く、動きもスマートで無駄がないのが特徴的です。
ただ、そういう印象づけが為されているからこそ、彼が満身創痍となり、スマートさを欠いた状態でバタバタと足掻くように戦う姿が妙にエモーショナルに感じられるのです。
一方のタイラーは、動きがスマートというよりは、ダイナミックさがあり、その戦いぶりは大胆に見えました。
終盤になるにつれて、どんどんと傷や損傷が増えていき、どんどんと動きに安定感がなくなり、身体の軸が定まらずブレているような印象を与えるのもグッときます。
先ほど、最大の敵と主人公の共闘が熱いという話をしましたが、この2人をアクションシーンでもって上手くキャラづけすることに成功していたのは、本作のアクション監督や撮影監督の功績ではないでしょうか。
また、多くの人が語っているように、本作の中盤の住宅街でのチェイスシーンはFPSのゲームをしているような視点と長回しが特徴的でした。
サム・ハーグレイブが手掛けた『アトミックブロンド』にも建物での戦闘シーンで10分弱のワンカットシークエンスがありましたが、更に撮影面でも進化した印象です。
サム・ハーグレイブが自ら危険な撮影に挑戦?
映画を見ていて、カーチェイスの臨場感満載のカットをどう撮ったのか?は非常に気になっていたのですが、まさか監督が自ら車のフロントに乗ってカメラを回していたとは思いませんでした。
これも、サム・ハーグレイブが元スタントマンだったからこそできた撮影手法でしたね。
監督が半ばスタントマンとして車のフロントに乗りこみ、カーチェイスやアクションの最前線に立つことで、観客にその場に居合わせたようなライブ感を提供してくれました。
ちなみにカーチェイスから始まり、市街地をタイラーとサジュが戦闘するに至るまでの一連の11分30秒程度のシークエンスはワンカットで撮られています。
こうした挑戦的な試みがあったからこそ、今回のダイナミックなアクションシークエンスが実現したと言えるでしょう。
親子のリンクと水、ラストシーンの解釈
Netflix映画「タイラーレイク 命の奪還」より
本作『タイラーレイク 命の奪還』は親子の物語でもあります。
タイラー・レイクには妻と息子がいましたが、幼くして息子は病気のために命を落としてしまいました。
しかし、彼は息子の死に直面することを恐れ、妻から距離を置き、水に潜っては海辺で過ごした幸せな日々のことを思い出しているのです。
物語の中で、タイラー・レイクとオヴィは絆を深めていき、親子のような情で結ばれることとなります。
彼にとって、オヴィを救うという行為は、あの時自分が逃げ出してしまった息子の死に向き合うことでもあります。
そしてもっと言うなれば、息子を若くして死なせてしまったからこそ、オヴィには生きて欲しいのだという父性的な感情も交じっていることでしょう。
個人的に感動したのは、傭兵のギャスパーがタイラーに襲い掛かったときに、迷いながらもオヴィが彼を射殺するシーンです。
オヴィは父親が誰かの命を奪った時に、その殺された人も誰かの父親だったのだと考え、嫌悪感に襲われるということを話していましたよね。
だからこそ、家族がいるギャスパーを射殺するという選択は、自分が憎んでいる、嫌悪している父親に自分を重ねる行為でもありました。
そんな行き場のない悲しみに襲われるオヴィを優しく抱きしめるタイラーの姿には、涙が止まらなくなりました。
家族が一番苦しい時に、一緒にいて、共に向き合う勇気が持てなかった男がオヴィの苦しみを分かち、共有しようとしているのです。
そうして2人の結びつきが強くなっていくからこそ、ラストにタイラーが命を落とすシーンは切なくなります。
皮肉にも、彼を殺害したのは、彼が見逃した少年兵でした。
彼には、自分の息子が早くに死んでしまったという記憶があります。それ故に倉庫であの少年兵と対峙し、殺害できるチャンスがあったにもかかわらず見逃しました。
それが巡り巡って、彼の命を奪うことになるというのは、何と切ない宿命なのでしょうか。
子どもを殺すことができなかった、見殺しにすることができなかった、そういった自分の息子への償いの思いが、今作で描かれた彼の運命の全てに繋がっています。
あの時向き合わなかった「罰」が下されたのだと言わんばかりに、苦しみながらも死を受け入れるような表情が印象的です。
そういう意味でも、今作が描いたのは、タイラーの罪と罰、そして救済の物語だったのかもしれません。
そして、何ともエモーショナルなのが「水」というモチーフの使われ方です。
作品の冒頭にもありましたが、タイラーにとっての息子の記憶は海に纏わるものであり、それ故に彼は水の中で息子とリンクしています。
加えて、ラストシーンにて、オヴィはプールにダイブし、水の中で物思いにふけっています。
そして、水中から顔を出すと、プールサイドにタイラーを思わせる人物が立っていました。
今作のラストシーンは、彼が生きていたということが言いたいのではなくて、水の中に落ちて死んでいったタイラーとオヴィは水の中でリンクすることができるということが言いたいのだと思います。
水というモチーフは古来より命の源流として扱われていましたし、グリム童話やドイツの伝承においては水の底には「あちら側」の世界があると言われています。
そう考えると、水の底に沈むたびに、例えこの世界には存在していなくとも、大切な家族の存在を思い出すことができるのだという希望を描いたのでしょう。
タイラーが息子と強く繋がっていたように、オヴィもまたタイラーと強く結ばれたのです。
続編が決まったが…
どうやら今作『タイラーレイク 命の奪還』は続編の制作が決定したようです。
現時点で出ている情報としては、前日譚になるのか、後日譚になるのかは、はっきりしていないようですね。
ただ個人的に感じているのは、後日譚をやるのはやめて欲しいということです。
脚本を担当したジョー・ルッソは、あえてタイラーの生死をぼやかしたラストにすることで、続編の可能性を残したとは語っています。
しかし、今作『タイラーレイク 命の奪還』は「命」をテーマにした作品であることを忘れてはいけません。
一度明らかに死んだキャラクターを続編の都合で生き返らせてしまうと、作品における「死」がすごく軽くなってしまうんですよね。
これをやってしまったのが、『キングスマン2 ゴールデンサークル』や『ワイルドスピード9(公開予定)』なんだと思います。
一度死んだキャラクターが、生きてましたという展開をやってしまうと、次から「死」を作中で扱った時に、「どうせ生きてるんでしょ?」という邪念を見る側に抱かせてしまいます。
そのため、シリーズ全体としては、マイナス要素の方が大きいと思うんですね。
こういった前例や事由があるために、『タイラーレイク 命の奪還』が続編を作るのであれば、後日譚ではなく前日譚にして欲しいと思っております。
今作のラストシーンは、余韻の残る素晴らしいものでしたし、だからこそそれを台無しにはして欲しくないですね。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『タイラーレイク 命の奪還』についてお話してきました。
アクション映画として超一流ですし、何より親子の物語としても心理描写や登場人物の関係性の描写がしっかりしており、引き込まれました。
中盤の長回しワンカット映像が目につきやすいのは事実ですが、それ以外のシーンでも登場人物や役者のパーソナリティを反映させたアクションコーディネートが目立ちました。
タイラーも良かったんですが、個人的には機動力が高くスマートなサジュの戦闘スタイルがグッときました…。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。