みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『オールドガード』についてお話していこうと思います。
『タイラーレイク』や『ハーフオブイット』といった傑作を世に送り出したかと思いきや、その一方で『ラストデイズオブアメリカンクライム』や『愛は365の日々で』といったRotten Tomatoesのメーターが0%を叩き出すような駄作を世に送り出し、バランスを保っているのです。
そして、今作『オールドガード』はシャーリーズ・セロンが主演を務める形で、作られましたが、やはり彼女は自ら「製作」に入る形で作品に携わるので、出演作にハズレがないですよね。
『アトミックブロンド』や『スキャンダル』といった彼女の代表作のクレジットを見ても、必ず「製作」に名を連ねていますし、本当に自分が望んだ作品にしか関わらないし、出演もしないという姿勢が伝わってきます。
また、今作もかなりハードなアクション映画ではあるのですが、アクションシーンも『タイラーレイク』には及ばないまでも、かなり作りこまれており、Netflixでここまでのクオリティのアクション映画を見られるのは、ありがたいなと思うばかりです。
今回は、そんな『オールドガード』について自分なりに感じたことや考えたことを綴っていきます。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事です。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『オールドガード』
あらすじ
アンディが率いる秘密の特殊部隊「オールド・ガード」は人助けのために活動していた。
その部隊は永遠の命を持つ不死身の傭兵たちで構成されており、たとえ致命傷を負ったとしても再生することができた。
また、彼らは何世紀にもわたり、歴史の影で暗躍しており、これまで誰にも知られることなく人類のために活動を続けていたのだ。
そんなある日、この世界に新たに不死身の人間が誕生したことが判明する。
アメリカ軍に従軍し、アフガニスタンに駐屯している女性兵士ナイルこそが新たに不死身に目覚めた人類であり、彼女は戦闘で負った致命傷からの復活を果たしていた。
彼女は、その能力故にドイツの研究施設へと送られそうになっており、それを引き止めるためにアンディは単身でアフガニスタンに乗り込んだ。
何とかナイルを自分たちの仲間に引き入れることに成功した「オールド・ガード」だったが、次なる刺客に迫られる。
世界を股にかける巨大な製薬会社マーメリックのCEOであるメリックが「オールド・ガード」の特殊な能力に目をつけており、傭兵を雇って、身柄の確保に動き出していたのだ。
百戦錬磨の彼らだったが、隠れ家を襲撃され、その際にジョーとニッキーの2人が誘拐されてしまう…。
スタッフ・キャスト
- 監督:ジーナ・プリンス=バイスウッド
- 製作:デビッド・エリソン / ダナ・ゴールドバーグ / シャーリーズ・セロン 他
- 脚本:グレッグ・ルッカ
- 撮影:タミ・レイカー / バリー・アクロイド
- 美術:ポール・カービイ
- 編集:テリリン・A・シュロシャイアー
- 音楽:フォルカー・ベルテルマン / ダスティン・オハローラン
ジーナ・プリンス=バイスウッドは日本でも2009年に公開された『リリィ、はちみつ色の秘密』の監督を務めました。
この映画は個人的にも大好きで、人種や世代、宗教といった垣根を超えて、人と人が手を取り合って生きていくという物語を正面から描いた素晴らしい作品です。
『オールドガード』の物語的な特性を考えると、すごく『リリィ、はちみつ色の秘密』ともつながりを感じるので、腑に落ちますね。
そして、今作『オールドガード』はアメリカのコミックスを原作として作られた映画でもあります。原作を著したのはグレッグ・ルッカであり、彼が脚本も併せて担当しています。
撮影には『ハートロッカー』や『スキャンダル』のバリー・アクロイドが、編集には同じく『リリィ、はちみつ色の秘密』のテリリン・A・シュロシャイアーが加わりました。
劇伴音楽を手掛けたのは、『LION ライオン 25年目のただいま』でも知られるフォルカー・ベルテルマンとダスティン・オハローランの2人です。
- アンディ:シャーリーズ・セロン
- ナイル:キキ・レイン
- ジョー:マーワン・ケンザリ
- ニッキー:ルカ・マリネッリ
- メリック:ハリー・メリング
- クィン:ベロニカ・グゥ
- ブッカー:マティアス・スーナールツ
- コプリー:キウェテル・イジョフォー
今作の主人公であるアンディを演じたのは、シャーリーズ・セロンですね。
『アトミックブロンド』でも華麗な身のこなしと超絶アクションを披露してくれていましたが、今作でも見事な戦闘シーンを見せてくれました。
また、映画『ローガン』のように、急激に迫る老いと死の恐怖と戦いながら、前に進んでいくヒーロー像を体現しており、そのエモーションをしっかりと表情や挙動で見せてくれたのも素晴らしかったです。
また、『ビール・ストリートの恋人たち』で注目を集めたキキ・レインがナイル役を務めました。
一方で、脇にも『それでも夜は明ける』のキウェテル・イジョフォーが出演するなど、豪華な顔ぶれが揃っており、非常に見ごたえのある1本に仕上がっています。
『オールドガード』感想・解説(ネタバレあり)
「これまで」を作ってきた人と「これから」を作る人の共闘
(映画『オールドガード』より引用)
ジーナ・プリンス=バイスウッドが以前に監督を務めた『リリィ、はちみつ色の秘密』も、異なる人種、宗教、年代の人たちが手を取り合って前に進もうとするという物語でした。
その点で、先ほども少しだけ書きましたが、今作『オールドガード』にも通じているところがあります。
今作における登場人物の配置を見てみますと、主人公は太古の昔より生きてきた白人女性のアンディです。彼と比較的長く行動を共にしているのがブッカーという白人男性です。
また、彼らの部隊を構成している残りの2人、ジョーとニッキーは同性愛カップルとなっており、彼らも十字軍に参加していたという経歴を持つほどに長生きをしていますね。
そして、今作の現在の時間軸で新たに仲間に加わったのが、黒人女性のナイルということになります。
「オールドガード」は、歴史の陰で暗躍してきたわけで、彼らの功績によって多くの人が命を救われたり、正当な権利を手に入れることができたりと言った恩恵を被っています。
悪しきを断ち、常に自分たちの信じる正義の側(とりわけ弱者の側)に立って戦い続けてきたことで、世界の歴史を「作って」きたわけですね。
一方で、今作のヴィランとして君臨する巨大な製薬会社マーメリックのCEOであるメリックは、「オールドガード」に通じる部分もあります。
なぜなら彼も、薬の開発という形で多くの人間の命を救ってきたわけで、その点でアンディと同じく自分の考える「正義」を貫いていると言えるかもしれません。
しかし、アンディとメリックを決定的に隔てているのは、弱者や何の罪もない人間の命を実験のために奪うことにためらいがないという彼の残虐性です。
コプリーというメリックの協力者も、薬の開発のためという名目で協力していましたが、そのためなら人の命を踏みにじることを何とも思わない彼の行動を見て離れていきました。
もちろん歴史というものは、数々の戦争の歴史でもありますから、その過程の中で多くの何の罪もない人間たちが巻き込まれて命を落としていったことは間違いありません。
アンディだってそうした歴史ないし戦争に加担してきた人間の1人ですから、その罪を背負っていないというわけではありませんよね。
ナイルがアンディの殺害した人の死体の数々を見ていく中で、徐々に彼女に対して恐ろしさを感じ、部隊を離れようと決断したのも無理はないでしょう。
それでも、ナイルは歴史の陰でアンディが常に正義のために、弱者のために戦い続けてきたことを知り、共に戦うことを決断します。
先日、アメリカのヒーロー映画やコミックスが単純な勧善懲悪を描いていて時代遅れであるという記事が話題になっていましたが、ああいった短絡的な記事を書く人から見ると、今作もまた「単純な勧善懲悪」の域を出ないのでしょう。
しかし、『オールドガード』はあくまでもアンディの正義とメリックの正義の衝突を描いているのであり、それを絶対的な正義として信奉するようなアプローチは取っていません。
そして、あくまでもこの映画は大義のために弱者や何の罪もない人々の命を軽んじることはどんな場合であっても認められないのだという姿勢を明確にしているだけなのです。
だからこそ、今作の終盤においてアンディは当初は敵であったが改心したコプリーを仲間に引き入れ、自分を裏切ったブッカーをも取り立てて断罪することもしませんでした。
歴史を見てみると、やはり「これまでの」アメリカ史の中心にいたのは、いつだって白人たちだったように感じます。
そしてそれを体現しているのがアンディという女性であり、ブッカーもそうでしょうか。
一方でナイルはまさしく「これから」を作っていく人物であり、彼女は黒人女性です。
今、アメリカでまさしくそうした人種の分断が浮き彫りになっており、大規模なデモが起きるまでに発展しています。
そんな状況下で、『オールドガード』はという作品は多様な人種、宗教、価値観、年代の人々が手を取り合って、1つの未来へと前進していくことの重要性を改めて強調していると感じました。
やはりアクションシーンは見応え抜群!
(映画『オールドガード』より引用)
『オールドガード』はヒューマンドラマとしても作りこまれている一方で、やはりコミックス由来のアクション描写も見どころとなっています。
まず巧いなと感じたのは、前情報を仕入れずに見た人は、冒頭の戦闘シーンでアンディたちがあっさりと全滅してしまっという絶望感を感じさせられる点です。
敢えて、「オールドガード」という組織がどんな人間の集まりなのかを明かさないことで、敵兵に一斉射撃されるシーンの絶望感を強調しています。
また、アンディの戦闘シーンというくくりで見ると、教会での戦闘シーンが見応えがありましたし、このシーンが後々に効いてくるという効果もありました。
このシーンでは、彼女が不死身であるという設定が明かされているので、アンディの一騎当千的な戦いぶりを見ることができます。
この戦闘シーンを見ている時、観客の我々は、彼女が不死身であるという安心感を持ってみることができますし、何より彼女自身が自分は死なないのだと自負している様子が垣間見えます。
一方で、その後不死身の能力が消えてしまったことが分かると、観客もそして彼女自身も1つの戦闘に対する緊張感が一気に高まるんですよ。
同じ戦闘であっても、アンディの身体に起きた異変が判明する前と後で、ガラリとその雰囲気や彼女の表情や空気感が変化しており、それによって観客にも臨場感を与えているのは良かったですね。
そして、何と言っても敵の本拠地であるビルに潜入してからのチーム戦は本当に最高でした。
手持ちの武器が少ないので、倒した敵の銃や弾を回収しながら戦うというスタイルが非常にスタイリッシュでしたし、銃撃戦の中にもCQCや剣や斧を使って戦う近接戦闘の描写をミックスしていて、すごく視覚的にバリエーションが豊富なアクションシーンになっていました。
また、主人公たち(アンディを覗く)が不死身であるという設定もきちんと生かされていたのが良かったですね。
致命傷でなければすぐに再生できる特性を生かして、仲間をかばったり、攻撃を受けながらも敵に向かって行ったりと、この特性を持っていない人間には不可能な戦闘スタイルが持ち込まれているのは説得力がありました。
2人をを追いかけて一緒に飛び降りていくかのようなライブ感のあるカメラワークになっていて、このシーンは映画館で見ることができたらすごかったんだろうな…と思いましたね。
あとはもうシャーリーズ・セロンの身のこなしがとにかくクールで華麗なので、それを見ているだけでも幸せになれますよね。
単純なアクションシーンだけの完成度で言えば『タイラーレイク』に軍配が上がるとは思いますが、不死身の設定を巧く盛り込んだ戦闘になっている点で、『オールドガード』はオリジナリティに富んでいました。
原作との違いと続編への布石
冒頭にも書きましたが、本作はアメリカのコミックス原作の映画となっております。
そのため、海外のサイト等を調べておりましても、やはり原作と違っていたり、映画版では省略されていたりという情報もあるようですね。
とりわけ個人的にはラストの「続編への布石」部分の詳細が気になっておりましたので、いろいろと調べてみました。
その中で分かったことなのですが、原作ではアンディが不死身の能力を失うという展開は描かれていなかったようですね。
コミックスもかなりシリーズ化されていっているようなので、不死の能力を早々に失ってしまうと、物語の幅も狭まってしまいますし、当然と言えば当然のことかもしれません。
また、クインというアンディがかつて救えなかった女性ですが、彼女は原作では日本人の「ノリコ」という名前で登場するようです。
そしてこの「ノリコ」が『The Old Guard: Force Multiplied』という原作の中でヴィランとして登場するとのことでした。
ちなみにですが、映画版のクインはおそらくベトナム系の女性ですよね。(演じている女優自身もそうですし、製作段階で女優側からのキャラクターの国籍変更の要求があったとも言われています。)
そして、原作のその後の展開ですが、アイアンメイデンに閉じ込められて、海の底に沈められた「ノリコ」(クイン)は人類に激しい憎悪を抱き、そして自分たちが不死になったのは人類を救うためではなく、人類を苦しめるためだと錯覚するようになっていきます。
「ノリコ」(クイン)はそのための闘いへの協力をアンディに求めますが、決裂し、その後対立関係へと移行していくという流れになるようです。
映画版ではアンディから不死の能力が失われたことにより、彼女自身もただの「人間」になっていますから、その辺りの設定の変更がプロットにどのような影響を与えていくのかも気になるところですね。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『オールドガード』についてお話してきました。
Netflix配給作品は、ひどい作品がとことんひどいので、あまりの高低差に耳がキーンなりますよ…。
今作は、ヒューマンドラマとしても主題が明確であり、単なる「ポリコレ」にはとどまらないメッセージ性を内包した作品だと感じました。
そこにバリエーションに富んだアクションシーンの数々が合わさり、1本の映画としてはかなり楽しめるものになっていたのではないでしょうか。
また、アメコミ映画の定番ではありますが、最後の最後で続編への布石を打ってきたのは、驚きました。
おそらく彼女はアンディがかつて魔女狩りの折に救うことができなかったと語っていたクインという女性なのでしょう。
原作を読んだことがないので、その辺りの関係性はいまいち掴めていないのですが、どういった展開になるのか非常に楽しみです。
あとはエンドロールは世界史を勉強した人必見の小ネタ満載の映像になっているので、これは要チェックです。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。