みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『彼女は夢で踊る』についてお話していこうと思います。
鑑賞予定には当初入れていなかったのですが、個人的には見ることができて良かった。劇場で見る価値のある作品だと思いました。
特に歴史あるストリップ劇場を舞台にした作品ということもありますので、ミニシアターで鑑賞すると、すごく雰囲気がでるんじゃないかな?と思っています。
レディオヘッドの「CREEP」がとても印象的で、そこに美しいストリッパーの方のダンスが合わさり、見応えがあります。
それでは、まず作品概要やスタッフ・キャストの情報からお話させていただきます。
『彼女は夢で踊る』作品情報
本作は1975年に完成し、何度も閉館の危機に瀕しながらも、今も営業を続けている広島第一劇場というストリップ劇場を舞台にしています。
そんな実在の歴史ある場所を舞台にしているということもあり、その独特の雰囲気や空気感が映像を通して伝わってきます。
「鯉のはなシアター」「シネマの天使」「ラジオの恋」など広島を舞台にした作品を数多く手がけてきた同県出身の時川英之さんが監督を務めました。
キャストとしましては、まず主人公の木下社長を『アンフェア』シリーズの加藤雅也さんが演じています。
その他にも『ぐらんぶる』の犬飼貴丈さんや『私は渦の底から』や『ビジランテ』などでも知られる岡村いずみさん、現役ストリッパーとして活躍されている方も出演しておられます。
10月23日より公開となりますので、ぜひご覧になってみてください。
『彼女は夢で踊る』感想
ストリップに無垢な眼で向き合う
© 2019 TimeRiver PICTURES INC.
本作『彼女は夢で踊る』の予告編をご覧いただくと、主人公を演じる犬飼貴丈さんがストリップ劇場を初めて訪れるシーンが描かれています。
そこには何かいやらしいものがあるのかと思ったが、そうではなかった。
2020年の夏に公開された映画『ぐらんぶる』では全裸でバモス!と絶叫しながら全裸で暴れ回っていた犬飼さん。
しかし、今作ではそんな彼がストリップというある種の男の欲望のイデアを、純粋な美術品を愛でるかのような目で見つめるのです。
このシーンはまさしく映画で起きる全ての出来事の発端でもあり、主人公のその後の人生を決定づける重要な契機でもあります。
そうした作品内での重要性に加え、周囲の欲剥き出しの観客に混じって凛とステージを見つめる子どものような無邪気さを孕んだ犬飼さんの演技にも圧倒されました。
さて、当ブログは基本的に映画の解説や考察を主軸にしておりますが、ときおり映画やアニメのパロディAVのレビューを書くことがあります。
- レビューを書くために原作を予習する。
- 何度も本編を見返してディテールまで見る。
- レビューを書くまでは「おかず」として見ない。
そして、この鑑賞のポリシーと言いますか、作品に向き合う姿勢が自分と本作の主人公とで似ていると感じたからこそ惹かれたのかな?なんて思いました。
そのため、見ている時は一切の欲という欲を廃した無の表情をしていますし、面白ければ子どものように無邪気に笑っています。(AVは18歳からの嗜みですが…。)
話が逸れてしまいましたが、共通点は確かにあると思っています。
それは表面的なエロスの向こう側に不思議な”美しさ”や芸術性を感じる点です。
そして、その深淵に触れてしまったが最後、その魅力に囚われ、抜け出せなくなってしまいます。
ひょんな動機で劇場を訪れた犬飼さん演じる主人公。その瞬間に彼はエロスの向こう側を垣間見てしまったのでしょう。
だからこそ彼は人生を賭して、その向こう側にあるものの正体を掴もうとした。
そういう強烈な魔力や呪いめいたものを感じさせる映画でしたし、それ故に彼とストリップのファーストコンタクトのシーンには強い引力を感じました。
ぜひあのファーストコンタクトの不思議な引力というか、何かを”見てしまった”感覚を劇場て体感していただきたいなと思っております。
強烈な「場」の呪いの映画
© 2019 TimeRiver PICTURES INC.
さて、先ほど本作には不思議な”呪い”が込められているとお話させていただきました。
そう聞くと、まず考えるのは主人公がストリップで踊る女性に惹かれて取り憑かれてしまうという、ある種のファムファタール的なものでしょう。
確かに劇中で主人公は1人のストリッパーの女性に好意を寄せていく展開を描いてはいます。
しかし、主人公がストリップの虜になるのは彼女だけが原因ではありません。もっと大きな、深淵に存在する力に彼は引き寄せられています。
それは何か?それはストリップ劇場という「場」なんですよね。
記事の冒頭にも書いたように本作は実在したストリップ劇場である広島第一劇場をベースに作り上げられた映画です。
まさしくこの実在する劇場そのものが強烈な磁場のような空間であることも否定できません。
ステージ裏の壁に残された無数のキスマーク。幾たびも閉館の危機を迎えながら乗り越えてきた長い歴史。
あの場所には人を惹きつけて止まない不思議な引力があります。そして主人公にとって、それは人生の全てを奪われるような”呪い”でした。
初めてこの場所で見た何かを、その何かを知りたくて、何年も何年も、訪れる人が減って経営が苦しくなろうと、彼はあの場所の手放すことができないのです。
この映画には、そんな人間を虜にしてしまう空間が持つ魔力ないし”呪い”が描かれています。
ストリッパーに恋をしたなら、その人と結ばれて、劇場を閉める選択もてきたでしょう。
しかし、現に主人公にはそれが出来なかった。
そして、なぜそれが出来なかったのか?
口下手な主人公はそれを作中で言語化することはありません。取材をされても言葉にすることはできないのです。
ただ、私たちはこの映画の中に、その魔物めいたものの朧げな輪郭を垣間見ることができます。
独特な構成の面白さ
© 2019 TimeRiver PICTURES INC.
また、この映画の不思議な魔力を際立てているのは、その独特な構成だと感じました。
基本的に映画の中で異なる時間軸、空間、コミュニティ、世界線を描く際には、その隔てを明確に描きます。
それは観客を混乱させないための重要なアプローチでもあります。
しかし、この『彼女は夢で踊る』という作品は極めて意図的にその隔てを曖昧にしてあるんですよ。
そのため、作品を見ていて、私もどの描写が現在で、どれが過去で、はたまたどれが現実で、どれが幻想なのかが分からなくなり混乱しました。
しかし、その虚実と異なる時間軸が入り混じる構成が本作の魔性を強める方向に働いていると感じましたね。
この独特な構成は物語が散漫であるとか、不可解であるという印象を与えかねないものではあります。
それでも本作はこのアプローチに意欲的に挑み、作品全体の輪郭に”ぼかし”を与えていました。
ただ、この”ぼかし”こそが本作の本質でもあると私は感じるのです。
ストリップ劇場がもたらす魔力や呪いのようなものが時間を超えて、そして虚実の境界を超えて主人公を取り込んでいく。その渦の中に観客もまた巻き込まれていくかのようなそんな感覚を味わうことができます。
また、個人的に作品の中で最も印象的なシーンの1つは、朝日が昇る海辺で裸のストリッパーの女性が踊るシーンです。
映像全体が淡い光と靄に包まれ、裸体が彫刻のように美しく演出されていきます。
その光景に私たちはなぜか惹かれます。
現在や過去、現実、幻想。そんな細かいことを抜きにして、この光景をずっと見ていたいと、そう思わせるだけの映像的な説得力があるのです。
この感覚を言語化することは難しいですし、誰にも共有することはできないのかもしれません。
しかし、本作の主人公はいつかそこに辿り着けると信じていました。時を超えて、現実と幻想の境界が曖昧になりながらも、あの光景に抱いた感動を求め続けたのです。
だからこそ本作にそうした”隔て”は不要なのでしょう。
時間と虚実の境を超えて、頭がクラクラするようなカオスの中で、あの美しさだけは紛れもない真実なのだと。彼はそう信じ、追い求め続けたのです。
この映画においてはその構成も相まって、あらゆるものが朧げで、どこか不安定です。
ストリップ劇場という「場」でさえも閉館の危機に瀕しており、不確定なものとなっています。
それでも、彼がそう信じているということの確かさだけは、何もかもが朧げな本作の映像の中で明確に描かれています。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回は映画『彼女は夢で踊る』についてお話してきました。
実在のストリップ劇場を舞台に、なぜ支配人である主人公が人生のほとんどを捧げるほどにあの場所にこだわったのか?に焦点を当てていく不思議な作品でした。
構成的な面白さもあり、映像の美しさもあり、そして犬飼さんの存在感も際立つ良作と思います。
ストリップ劇場を扱った作品と聞くと、つい下心が自分の前を歩き始めてしまうかもしれませんが、ぜひ自分は何か崇高なものを見に行くのだという清い心で望んで欲しいですね(笑)
ちょっとエロくて、懐かしいにおいがして、それでいて不思議な映画になっています。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。