みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね実写映画『とんかつDJアゲ太郎』についてお話ししていこうと思います。
公開の数か月前には、伊勢谷友介さんが薬物関連で逮捕、さらに公開前日には伊藤健太郎さんが轢き逃げの容疑で逮捕されるという不運を経ての公開日。
当ブログ管理人も、鑑賞したときはそうした「色眼鏡」なしで見られたとは言い切れません。
伊勢谷友介さんがDJ業界から干される描写。
伊藤健太郎さんの「まんまとアゲられちゃった」。
そんな展開やセリフが映画の中に散りばめられており、笑ってしまいそうになるほどでしたね。
ただ、舞台挨拶での主演の北村匠海さんの悲痛な声を聴いて、心を改めました。
正直『この映画をフラットに見てくれる方がどれだけいるのか』と不安な気持ちがあることと……。僕も今日、ここに立つことが少し怖かったり……、いろんな思いがありました。でも、この映画はコメディであり音楽映画であり、サクセスストーリーなので。
(映画comより引用)
北村さんの立場から考えると、本当に災難ですよね。自分の主演作がこんな形で公開を迎えるということがどれほど不本意か…想像しただけで辛くなります。
「僕は決して、(自分のことを)可哀想な奴ではないし、とても幸せ者だと思っています。本当に人に恵まれて……」
(映画comより引用)
『Hello World!』のプレミア舞台挨拶の時に、野外の会場で大雨の中で観客の前に立ち、観客が傘もさせずに舞台を見つめている姿を見て、「じゃあ俺たちも傘やめます」と言って雨に濡れながらお話をしてくださった姿。
「あ、この人は本当に誠実な人間なんだな。」と男の自分も思わず惚れてしまいそうでした。
そんな彼が主演を務めた映画がこのコロナ禍に、しかも2つの不祥事に阻まれながらの公開。個人的には応援したいとそう強く思います。
確かに伊勢谷友介さんや伊藤健太郎さんが出演されていることもあり、見るのを控えようという方もいるかもしれません。
それでも、涙ながらにステージから言葉を発した誠実な北村さんの主演作ということで、1人でも多くの方に届いて欲しいなと思うばかりです。
さて、ここからは当ブログ管理人が個人的に感じたことや考えたことを綴っていきます。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事です。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
実写映画『とんかつDJアゲ太郎』
あらすじ
渋谷の老舗とんかつ屋「しぶかつ」の3代目・アゲ太郎は、父の手伝いをしながら、友人たちと自堕落な日々を送っていた。
ある日、弁当の配達で訪れたクラブで苑子という女性に出会い恋をする。そして訪れたクラブを包むグルーヴ、ステージ上で観客をアゲるDJオイリーに憧れを抱き、DJの道を志す。
その日以来、友人たちと自作のDJセットで活動を開始し、奇抜なファッションで踊る姿を撮影し、YouTubeで「とんかつDJ」として配信を始めたところ反響を集める。
一躍有名となったアゲ太郎は、意気揚々とクラブで苑子に話しかけるが、一向に振り向いてもらえる気配はない。
アゲ太郎は、何とかしてDJとしての実力をつけようと、DJオイリーに弟子入りすることとなる。
彼の友人の経営する旅館のバックヤードに居候するようになったDJオイリーは、当初彼に教えるつもりはなかったが、アゲ太郎のポテンシャルを見抜き、その練習に付き合うようになる。
そんな時、彼の初めてのステージが決まるのだが…。
スタッフ・キャスト
- 監督:二宮健
- 原作:イーピャオ 小山ゆうじろう
- 脚本:二宮健
- 撮影:工藤哲也
- 照明:藤田貴路
- 編集:穗垣順之助
- 音楽:origami PRODUCTIONS 黒光雄輝 a.k.a. PINK PONG
- 主題歌:ブルーノ・マーズ
今作の監督を務めるのは、『チワワちゃん』や『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY』などで知られる二宮健さんです。
若者のカルチャーやサイケな世界観を表現するのに長けた監督だと思いますし、彼がこの『とんかつDJアゲ太郎』という作品の監督に抜擢されたことが個人的には本作を鑑賞する決め手になりました。
撮影に関してですが、鑑賞している時に不思議な既視感と、あまり好みではないなという感覚がビンビンしていましたが、調べてみますと福田雄一監督作品でおなじみの工藤哲也さんが担当されていたようです。
一方で編集には、実写版『ちはやふる』の立役者の1人でもある穗垣順之助さんが起用されており、今作は彼の編集がとにかく輝いております。これについては後程お話しますね。
劇伴音楽を手掛けたのは、渋谷発の音楽クリエイター集団origami PRODUCTIONSです。映画の舞台が渋谷ということで、親和性も高いですね。
主題歌にはブルーノ・マーズの「Runaway Baby」が選ばれています。
- 勝又揚太郎:北村匠海
- 服部苑子:山本舞香
- 屋敷蔵人:伊藤健太郎
- 室満夫:加藤諒
- 夏目球児:浅香航大
- 白井錠助:栗原類
- 積タカシ:前原滉
- 勝又ころも:池間夏海
- DJオイリー:伊勢谷友介
まず、主人公の北村匠海さんですが、これまでは寡黙な役どころが多かったのですが、今回はコメディに挑戦ということで新境地を開拓しました。
何と言うか序盤の中途半端に面白いことをやろうとして自分本位過ぎて空回りしているところなんかは、彼のこれまでの役のイメージもあってすごく「リアル」でした。
そういう意味でも、今作の主人公を演じたのが北村さんだったことは非常に重要だったと言えるでしょうか。
そして、ヒロインを演じた山本舞香さん。ネット上では伊藤健太郎さんと恋人同士だった?というところから派生し、素行が悪い、態度が悪いなどと勝手な憶測や印象で叩かれていて、何だかいたたまれなくなってきます。
山本舞香さんは、何と言うか「クラブのファム・ファタール」感が強く出ていて、個人的には相当なハマリ役だと思いました。
そもそもこの映画では主人公のアゲ太郎以外のキャラクターはほとんど掘り下げられません。
だからこそ、端的な記号的役割をビジュアルや空気感で果たせる役者が必要でしたし、そういう意味でも彼女の存在は重要と言えます。
あとは、当ブログ管理人が『ニセコイ』以来密かに作品を追っている池間夏海さんですね。もっと見せ場があるのかと期待して映画を見に行くと、ほとんど出番がなく、肩を落としましたが、やはりかわいい。うん。
そして、伊勢谷友介さん。やっぱり良い役者ですね。彼にしかできないもの、演じられない役。たくさんあると思いますし、今作のDJオイリーもその1つではないでしょうか。
情けなさとクールさをシームレスに「素」の佇まいで繋ぐ絶妙な演技でしたし、あれほどキャラクターの掘り下げが甘いながらも魅力的に感じたのは、彼の演技あってこそでしょう。
実写映画『とんかつDJアゲ太郎』感想・解説(ネタバレあり)
映画館がちょっとしたクラブと化す!
(C)2020イーピャオ・小山ゆうじろう/集英社・映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会
最近、アメリカでは映画の新作公開がネット配信という形で行われることも珍しくなく、コロナ禍で映画館の存在意義が今一度問われようとしています。
そんな中で公開されたこの『とんかつDJアゲ太郎』という映画ですが、個人的には映画館で鑑賞する価値がある作品だと感じました。
中盤くらいまでは、福田雄一監督作品でも見ているのかという、共感性羞恥を抱くようなギャグの空回りや、主人公のオナニーっぷりが目立ち、「あっ、これダメなやつだ…。」と思いました。
ただそうした、「空回り感」というのがしっかりと後半の展開に活かされていくので、作品を見終わってみると、そうした前半の悪い印象払拭されていました。
そして、今作を映画館で体感して欲しいその最大の魅力がクライマックスのクラブでのライブパフォーマンスのシーンですね。
このクライマックスでは、映画館にいる私たちもあのクラブにいるかのような感覚を味わうことができますし、あの空間のグルーヴを、スクリーンを超えて共有することができます。
え~と、当ブログ管理人、一度だけ友人に連れられて梅田の動物の名前がついている某クラブにお邪魔したことはあります。
その友人が「音箱がどうたら、ナンパ箱がどうたら…」と語ってくれましたが、正直よく分かっていません。
まず、踊ることも苦手ですし、ナンパなんて多分一生できない陰キャなので、クラブに行くなんて肺呼吸の生き物が水に潜るのと同じ感覚です。
当ブログ管理人は、その友人がクラブにいた女性と話し始めたのを見て、「先帰っとくわ…」とフェードアウト。溺死寸前で、何とか水中から急浮上し、九死に一生を得ました。
ただ、あの音に身を委ねるという感覚そのものは嫌いじゃなかったですし、ここでノレたら楽しいんだろうなという憧れめいた感情は抱いております。
さて、私が訪れたクラブの空気と比較すると、今回の『とんかつDJアゲ太郎』で描写されたクラブは、どちらかと言うと、ポップスがメインで、EDMがガンガンかかっているという感じではなかったですね。
ここについては、原作の再現なのか、はたまた映画を見に来るライト層向けのアレンジなのかは分かりません。
ただ、比較的わかりやすいポップスを主体に据えることで、映画を見に来た観客を圧倒しすぎずにアゲていくという絶妙なラインをつけていたのではないかと思います。
そうしてスクリーンの向こうと、そして映画館にいる私たちとが、空間を超えてリンクし、グルーヴを共有できるわけですから、本作を映画館の映像や音響の設備で見る価値はあると言えるでしょう。
また、やっぱりクライマックスの「おまえのための1曲」演出は男としてロマンです。(ですよね?)
ステージ上からたくさんの人をアゲるために選曲をしているわけですが、そうしたたくさんの人の中で、たった1人「君だけ」のための曲をかける…。
ということで、俺、DJになります(嘘です)。
あとは、本作はクラブだけでなく「とんかつ屋」にいるときのグルーヴ感も見事に表現してくださっています。
映画の中で、何度もインサートされるキャベツを千切りにする音、とんかつが揚がる時の油の音、とんかつを噛むときの衣の音。
私は、現在トレーニングをしようと意気込んでおり、ここ2週間くらいは揚げ物を控えていたという状況だったのですが、そんな食欲が満たされていない状況で、こんな映画を見せられると、鋼のように硬い決意も脆く崩れ去ってしまいます。
ということで、「まんまとアゲられちまったぜ…。」
トレーニング中なのにまんまとアゲられちまったぜ。全くなんて飯テロだ。(何かの映画を見た) pic.twitter.com/HkEX3BJlB5
— ナガ@映画垢🐇 (@club_typhoon) October 30, 2020
はい、見事に映画館の帰り道にとんかつ屋に吸い込まれ、「並」でいいのに「上」を注文し、帰宅してから罪悪感に苛まれて1時間ランニングしました。
さて、話しが脱線しまくっておりますが、結局何が言いたいのかというと、本作はそれくらいスクリーンの向こう側が近く感じられる、というより繋がっているように感じられる映画だということです。
だからこそ、本作を見ると、リズムに身体が動き、思わずDJなります宣言をしたり、帰り道にとんかつ屋に吸い込まれてしまったりするわけですよ。
まさしくDJの大切なものである「グルーヴ」を、大切にした唯一無二の映画体験と言えるでしょう。
編集が生み出す気持ちいいリズムとテンポ
(C)2020イーピャオ・小山ゆうじろう/集英社・映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会
さて、今作『とんかつDJアゲ太郎』を語る上で欠かせないのが、やはり編集の凄さですね。
今作の編集を担当したのは、実写版の『ちはやふる』の編集を担当したことでも知られる穗垣順之助さんです。
彼の編集は、かなりテンポが速いのですが、それにより作品にスピード感とリズムをもたらしてくれます。
特に『ちはやふる』のかるたシーンの演出なんて、タメとモーションの使い分けが完璧すぎて、心を鷲掴みにされました。
『とんかつDJアゲ太郎』の編集の仕方は、DJが音を自分流にミックスしていくかのように、奇想天外で、独特なテンポになっています。
序盤は比較的王道のコメディテイストではあるのですが、アゲ太郎がDJを志すようになると、編集が作品のリズムを一変させます。
前半の「間」を意識したいわゆるコント的なつなぎ方から、サクサクとテンポよくシーンを切り替えていく方向へとシフトし、現実と幻想、イメージ映像を自由自在にミックスすることで見ている方も視覚的な快感が生まれます。
そして何と言っても本作の「編集」の最大の仕事はこの1点に限ります。
それは「とんかつとDJが似ている」というハッタリめいたものに説得力を持たせることです。
常識的に考えて、とんかつを揚げることと、DJが似ているという風には考えられませんし、現に映画を見ていても最初の方は何のリンクがあるのか、さっぱり分かりません。
しかし、作品を見進めていくと、「あれ?確かにとんかつとDJって似てるかもな…。」と思わされてしまうんですよね。
そうしたハッタリを観客に信じ込ませるのが、今回の「編集」の仕事だったと言えるでしょう。
シーンを繋ぐ際に、DJブースの映像ととんかつ屋の厨房の描写をシームレスにリンクさせたり、DJプレイのシーンでとんかつのイメージをインサートしてみたり…。
ある種の「サブリミナル効果」でも狙っているのか?というような編集スタイルが、私たちの脳裏に自然とDJととんかつをミルフィーユのように積み重ねていき、それがあたかも妥当であるかのように信じ込ませてしまうわけですよ。
この「編集」はとんでもないですし、恐ろしいとすら言えます。
だって、普通の人はクライマックスのDJプレイのシーンで主人公の作り出す音が「とんかつ」に裏打ちされるとは思わないわけですよ。
しかし、本作の編集により絶妙にそのリンクを刷り込まれてきた私たちは、あの音がとんかつ屋のそれにしか聞こえないのです…。
そう、この映画は見ている人に「とんかつDJ」などという素っ頓狂な設定を当たり前のように受け入れさせてしまう、何とも恐ろしい映画なのです。
映画を見終えて、スクリーンをみて階段を駆け下りる。
この音もキャベツを千切りにする時の音みたいだな…そんなことを思う帰り道。
自分の日常生活の音がいかに「とんかつ屋」のそれだったのかということに気がつかされる。
見る前と見終わった後では、世界の音が違って聞こえるよね。そんな映画でした。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『とんかつDJアゲ太郎』についてお話ししてきました。
やはりスクリーンの向こうとこちら側の空間のリンク、グルーヴの共有という観点で考えた時に、家ではそれを味わうことが難しいですし、それを体感できるのが映画館という場所なのだと再確認させられました。
また、ここまでにも書いてきたように、編集がお見事であり、「とんかつ、DJ、とんかつ、DJ、DJ、とんかつ」とそのリンクを脳裏に刷り込んでくるようなテンポの良い編集スタイルはもはや観客を洗脳してしまう勢いです。
今作は、「とんかつDJ」という概念を観客に受け入れさせることができてしまえば、もう「勝ち」みたいなものですからね。
「とんかつ、DJ、積み重ね、信じさせたなら、俺の勝ち!」
それが出来ているという点で、本作は評価に値します。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。