みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『きっと、またあえる』についてお話していこうと思います。
既にヒットした作品や認知度のある作品にあやかった邦題をつけることは時々ありますが、インド映画でこのタイトルは本当にドンズバですよね。
なぜならインド映画の中で最も知名度と評価が高い作品の1つである『きっと、うまくいく』を強く意識した作品になっているからです。
このタイトルに寄せるということは、観客から比べられることを覚悟しなければなりませんし、それに匹敵する作品でなければ名前負けしてしまいます。
そう思うと、今作の日本配給の方は、作品に相当自信をもって邦題をつけたのだと思いました。
そして、作品を見た上で言えるのは、『きっと、うまくいく』に負けず劣らずの傑作であるということです。
原題は『Chhichhore』ですが、これは「お気楽な(人)」という意味です。
作品を見ると、この原題はしっくりくると思いますね。
というのも何事にも自分にプレッシャーをかけすぎて、シリアスになりすぎると、生きる気力を失ってしまうので、「お気楽」くらいでちょうど良いんだよという作品の主題に合致しているからです。
ともあれ、作品は本当に素晴らしい出来ですので、ぜひ多くの方にご覧になっていただきたいですね!
さて、ここからはそんな映画『きっと、またあえる』について自分なりに感じたことや考えたことを綴っていきます。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事です。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『きっと、またあえる』
あらすじ
アルニット(アニ)は、名門ボンベイ工科大学を卒業し、ビジネス界で名を轟かせるエリートビジネスマンである。
彼は最愛の妻マヤと別れ、その後は一人息子のラーガヴと二人きりで暮らしており、仕事に追われながらも何とか向き合い続けてきた。
自信家で常に人生の勝ち組の側にいるように見えるアニとは違い、大学受験に苦心する息子のラーガヴは気弱な性格で、「負け犬」と呼ばれることを極度に恐れていた。
そして、いよいよ合格発表の日、友人の家で発表を見た彼は自分が「不合格」だったと知り、そのショックでマンションのベランダから飛び降りてしまう。
アニはマヤと共に病院に駆けつけるが、ラーガヴは意識不明の重体で、手術をしなければ命も危ぶまれる状況だと告げられた。
そして医師はラーガヴの最大の問題は彼自身に生きる気力が欠けていることだと指摘する。
アニは自分の息子に対する向き合い方を反省し、そして自分がかつて「負け犬」と呼ばれていた頃の大学時代の経験を語り始める。
話が進むにつれ、アニの下にはかつての仲間たちが集っていき…。
スタッフ・キャスト
- 監督:ニテーシュ・ティワーリー
- 脚本:ニテーシュ・ティワーリー他
- 製作:サジッド・ナディアドワラ
- 音楽:プリータム・チャクラボルティー
- 撮影 :アマレンドゥ・チョウダリー
- 編集 :チャル・シュリー・ロイ
- 美術 :ラクシュミ・ケルスカル
今作の監督を務めたのは、『ダンガル』で知られるニテーシュ・ティワーリーです。
『ダンガル』もインド国内のみならず、日本でも非常に評価が高い作品ですので、2作連続で傑作を届けてくれたということになりますね。
今作では、脚本についてもご自身で担当されたようですね。
インド映画には欠かせない温顔を担当したのは『バジュランギおじさんと、小さな迷子』や『ダンガル』にも参加したプリータム・チャクラボルティーです。
- アニ:スシャント・シン・ラージプート
- マヤ:シュラッダー・カプール
- セクサ:ヴァルン・シャルマ
- へべれけ:サハルシュ・クマール・シュクラ
- デレク:タヒル・ラジ・バーシン
- アシッド:ナビン・ポリシェッティ
- マミー:トゥシャール・パンディ
主人公のアニを演じたスシャント・シン・ラージプートは映画の完成後に、自殺の道を選んでしまわれたということです。
まだまだこれから活躍して…というところだったと思いますし、本作では自死を一度は選んでしまった息子のために奮闘する役どころだっただけに余計に悔やまれますね。
ヒロインのマヤを演じたシュラッダー・カプールは、先日公開された『サーホー』にも出演されていました。
その他にも個性的なキャストたちが集結し、映画を盛り上げてくれました!
『きっと、またあえる』感想・解説(ネタバレあり)
インド版の『IT』とも言える青春映画
『きっと、またあえる』より引用
今作は、大学時代と卒業後の現在の2つの時間軸を行き来しながら物語が展開されるという特性もあり、おそらくは『きっと、うまくいく』と比べられることになるのでしょう。
ただ、個人的にはそれよりもむしろスティーブン・キングの『IT』を思わせる物語に仕上がっているのではないかと感じました。
学生時代の仲間たちが大人になってから再び集うという基本設定が共通していることもそうですが、それ以外にも共通点が多いと思います。
それは、学生時代に一度打ち勝った「敵」と、大人になってから再び相まみえ、再会した仲間たちと共に乗り越えていくという展開でしょう。
本作は、インドの受験戦争を1つの背景に据えた作品でもあります。劇中でも触れられていましたが、100万人が毎年受験して、その内の1万人しか合格しないというような過酷な戦いが待っているのです。
ラーガヴはそんな戦いに敗れ、常に勝ち組であろうと信じていた父との差に劣等感を感じ、そのプレッシャーに押しつぶされてしまいました。
しかし、そんな父アニもかつて劣等感に苦しみ、そして「負け犬」と呼ばれてきた人間の1人だったんですよね。
アニはH4という劣悪な環境の遼に所属し、その大学の寮の優劣を決定づけるGCというスポーツ大会に参加しました。
「ルーザーズ」たちは、懸命に戦いましたが、惜しくも最強のH3寮の面々に敗れてしまいます。
それでも、彼らはH3から、そして周囲の人たちから讃えられ、最後の最後でバスケットボールのスリーポイントシュートを外したアニも仲間に支えられ、立ち直りました。
この時、彼らは「敗者になることへの恐怖」に打ち勝つことができたのだと思いますし、例え敗れたとしてもそこに至るまでの過程で懸命に戦ったのであれば、それは讃えられるべきであり、胸を張るべきなのだと知ったわけです。
しかし、成長し、大人になって、自分が親の立場になってみて、そんな「敗者になることへの恐怖」と再び戦うこととなります。
アニはラーガヴに常に「合格したら…」「合格したときは…」と彼が「勝者」になることを想定した立ち回りしかしてこなかったわけで、あたかも「敗者」には価値がないというような姿勢で向き合ってきてしまいました。
だからこそ、ラーガヴは「敗者になることへの恐怖」に打ち勝つことができなかったわけです。
というよりも、息子が「敗者」になることを誰よりも恐れていたのは、アニ自身なのだと思いますし、だからこそ不合格だった時の話をしてあげることができなかったんですよ。
そうして、アニが「敗者になることへの恐怖」と戦う第2ラウンドがスタートするわけです。
徐々に病院にはかつての仲間が集っていき、大学時代のGCの再現のようなシチュエーションになり、彼らは再び「敗者になることへの恐怖」を乗り越え、そしてラーガヴに生きる気力を与えることに成功します。
誰だって、人生において「敗者」の側に回りたくないと思いますし、「勝者」でい続けられる人生があるならば、それは幸せなことでしょう。
ただ、当ブログ管理人自身も順風満帆な人生ではありませんでしたし、人生の大きな転機において失敗や挫折を経験して、心が折れそうになりました。
それでも、自分を支えてくれる人がいて、そして「敗者」になったとしても、そのために努力した自分を誇るべきだと思えたことで、乗り越えたのです。
また、自分自身は乗り越えることができたとしても、親の立場になると、次は自分の子どもに「敗者」になって欲しくないという新たな恐怖と向き合うこととなります。
自分自身はその恐怖に打ち勝ったにもかかわらず、自分の子どものことになると、どうしても冷静ではいられなくなるのは、本作『きっと、またあえる』でも描かれた通りです。
そうした「同じ敵=恐怖」と、違う時間軸で、違う立場として戦わなくてはならないという主題を描いていく上で『IT』を想起させる構成を持ち込んだのは巧かったと思います。
「ルーザーズ」たちは、二度あの恐怖に勝利し、戦いを終わらせることができたのです。
インド映画らしいポジティブさが魅力
『きっと、またあえる』より引用
本作『きっと、またあえる』のプロットや演出を紐解いていくと、際立つのがその圧倒的なポジティブさ、ないし底抜けの明るさです。
日本映画だと、主人公の息子が自殺未遂なんて導入から始まった映画で、コメディをぶち込むなんて芸当はなかなかできませんし、そういった作品を見たこともほとんどありません。
ただ本作『きっと、またあえる』はそうはならず、導入で暗い空気が立ち込めるも、すぐに軌道修正をして、アニの学生時代のナラタージュを次々にインサートすることで、観客の笑いを誘うのです。
息子が自殺未遂…。というシリアス展開の1分後には、俺の”ムスコ”の話に話題が移っていて、「セ〇クス!セッ〇ス!」と叫んでいるような急激な作品のテンションやトーンの変化に最初は面食らいますが、慣れてくるとそれが心地良いものにすら思えてきます(笑)
涙ではなく、笑いを誘うというのが、何ともインド映画らしいと個人的には思いますし、そこがこの作品の魅力でもあるんですよね。
どんなことであっても、深刻に考えすぎると、自分にプレッシャーを与えてしまい、上手くいかなかったときの逃げ場がなくなってしまいます。
だからこそ「お気楽な人」くらいでちょうど良いのだというタイトルにも関連したことですが、辛い時こそ、追い詰められたこそ、笑っていこうぜ!というメッセージが作品の作りそのものからも感じられるようになっているんですよ。
生きる力を失ったラーガヴを励ましていくと同時に、冒頭のショッキングな展開に打ちのめされた観客をも取り込んで、全員をハッピーエンドに導こうとするその力技に惚れました。
そして、何と言っても本作がすごいのは、ラーガヴの悲劇的な展開に関連した部分で観客の涙を誘うのではなく、底抜けに明るい回想中の青春譚の中で、観客の涙を誘うところなのだと思います。
個人的には、へべれけが断酒の影響で病院送りになるシーンはかなり感動しましたね。
シチュエーションだけを考えると、本当にバカみたいなものだと思いますが、それでも君たちがいたから頑張ろうと思えるんだという「スポ根的な熱さ」に思わず涙腺が緩みました。
主人公の息子が自殺未遂をするという、どう考えてもそして、悲劇的なプロットでありながら、その方向での感動路線を一切追求せずに、一気に劇場を笑いに包み、そしてそのポジティブさの中で観客を感情的にさせるというとんでもない芸当を本作はサラッとやってのけています。
これはインド映画の全体としての良さでもあると思いますし、同時に本作『きっと、またあえる』の良さでもあるでしょう。
「失敗」や「敗北」を多角的に捉えよう!
人間というものは「失敗」や「敗北」に直面すると、どうしても今まさに自分が置かれているこの状況しか見えなくなってしまい、絶望してしまうことがあります。
「失敗」や「敗北」は、ある種自分自身を否定されたように冠させるものですし、それ故に突然視野が狭くなってしまうのです。
だからこそ、そうした状況に陥ったときには予防線とマインドセットが大切になって来るのだと、この『きっと、またあえる』は言っているように思います。
まず、「お気楽な人」であることの大切さを今作は繰り返し伝えようとしていました。
これは、たとえ敗北したとしても、自分には逃げ場や受け入れてもらえる場所があると思えるかどうかなのではないでしょうか。
ラーガヴには、それがなかったわけですし、逆にかつての「ルーザーズ」の面々はお互いがお互いの居場所になって、支え合うことができました。
そういった失敗したとしても自分は大丈夫だと思える「気楽さ」を持っておかなければ、人間は簡単に折れてしまうのだと思います。
その一方で、「失敗」や「敗北」はその瞬間に全てが終わりになってしまうわけではなく、自分さえ望んで、努力をすれば、またやり直すことができるということを覚えておかなければなりません。
デレクは何年も続けて、GCに敗北し、辛酸をなめてきましたが、それでも諦めなかったからこそ、最後の年に1つの成功を掴むことができたのです。
また、アニとマヤは離婚の道を選択してしまいましたが、それでも自分たちの過ちと向き合い、そして再び共に生きる道を選択することができました。
「失敗」や「敗北」を経験したとしても、人は何度だってやり直して、「成功」や「勝利」に近づいていくことができるのです。
こうしたマインドセットや予防線は備わっていれば、人は「敗者になることへの恐怖」と向き合うことができるはずです。
そして、本作『きっと、またあえる』が素晴らしかったのは、単なる楽観主義者や敗北を受け入れて何もしない人間を肯定するような映画にはなっていない点だと思います。
つまり、「成功」や「勝利」を得るために最大限に努力した「ルーザーズ」だけがその「失敗」や「敗北」を誇れるのだという点を明確に示しているのです。
H4の寮の面々は毎年GCで勝利しようと試みてはいましたが、結局本気で取り組んでは来なかったわけで、それ故に学生たちの嘲笑の対象にされてきました。
しかし、勝利にどん欲になり、真にそれを勝ち取ろうとした姿勢が、彼らを「ルーザーズ」のままで讃えられる存在へと昇華させたのです。
ここのコンテクストを物語のプロットの中に自然に落とし込んできたのは流石の一言ですし、だからこそ本作のメッセージ性はストンと心に落ちてくるのだと実感しました。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『きっと、またあえる』についてお話してきました。
ネガティブな展開をネガティブに演出するのではなく、底抜けの明るさとポジティブさと笑いで包み込み、それでいて観客の涙をも掻っ攫っていくという「欲張り感」がまさしくインド映画という感じです。
鑑賞前は、『きっと、うまくいく』と比較をしてしまって、あまり高い評価にはならないだろうなという印象は持っていましたが、それが全くの杞憂でした。
作品のタイトルを似せるにふさわしい傑作だと思いましたし、ぜひとも多くの方にご覧いただきたい1本です。
とにかく笑える映画が見たい、ポジティブな気持ちになりたい、最高のハッピーエンドを見たいという方はすぐさま見に行くべきでしょう。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。