今回はですねディズニー+で配信がスタートしたMCUのドラマシリーズである『ワンダヴィジョン』についてお話していこうと思います。
『アベンジャーズ エンドゲーム』そして『スパイダーマン ファーフロムホーム』を持ってMCUのフェーズ3が終わりを告げると共に、壮大な「インフィニティサーガ」が幕を閉じました。
そのため、今回お話する『ワンダヴィジョン』は、まさしくMCUの新章の最初の1ページとなるわけです。
ただ、本来の公開スケジュールを鑑みると、『ワンダヴィジョン』はフェーズ4の5番目の作品と位置付けられていました。
- 2020年5月:『ブラックウィドウ』
- 2020年秋:『ザ・ファルコン・アンド・ザ・ウィンター・ソルジャー』
- 2020年11月:『エターナルズ』
- 2021年2月:『シャン・チー』
- 2021年春:『ワンダヴィジョン』
そして『ワンダヴィジョン』に続く作品が何か?というのも非常に重要で、こちらが『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』ということで、『ドクターストレンジ』シリーズの続編となっております。
まず、『ブラックウィドウ』と『ザ・ファルコン・アンド・ザ・ウィンター・ソルジャー』はフェーズ3までのキャラクターを主軸に据えた「これまでの遺産と継承」の色合いが強い作品ですよね。
一方で、それに続く『エターナルズ』と『シャン・チー』はフェーズ4のキーになる新キャラクターのお披露目的な色合いも強い作品です。
そして5つ目の『ワンダヴィジョン』がMCUにとっての大きな転換点になっていくわけですよ。
その理由は、『ワンダヴィジョン』が「マルチバース」の幕開けを描くとされる『ドクターストレンジ』シリーズの続編と密接に関わりを持つことが既に発表されているからです。
今作は『アベンジャーズ インフィニティウォー』で最愛のヴィジョンを失ったワンダが60~70年代シットコム風の幻想世界に生きている様子を映し出していきます。
このように明確に現実と幻想という軸を打ち出し、そして2人のIFを複数の幻想の世界線に投影した本作は、まさしくMCUの世界が本格的にマルチバースへと突入していく「前菜」的な位置づけと言っても過言ではないのです。
今回はそんなドラマ『ワンダヴィジョン』について個人的に感じたことや考えたことを綴っていきます。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事です。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『ワンダヴィジョン』
あらすじと各話解説
第1話
(『アイ・ラブ・ルーシー』より引用)
第1話は『ディック・ヴァン・ダイク・ショウ』や『アイ・ラブ・ルーシー』へのオマージュがふんだんに盛り込まれたシットコムとなっています。
ワンダとヴィジョンは郊外の住宅で暮らし始めるが、いつから暮らし始めたのか、記念日はいつなのかといった記憶が存在せず、結婚指輪もしていない。
2人はカレンダーに書き込まれた「♡」の意味が分からず、勘違いを深めていくのだが、その日は上司のハート氏を自宅に招く日だったのだ。
昇進に関わる重要なディナーに際し、2人の勘違いとバタバタが笑いを巻き起こしていく…。
第2話
(『奥様は魔女』より引用)
第2話のオープニングは完全に『奥様は魔女』へのオマージュでしたね。この独特のアニメーションは見覚えのある方も多かったのではないでしょうか。
ワンダとヴィジョンが郊外の住宅で暮らし始めてしばらくが経過し、それぞれ街の集まりに顔を出すこととなる。
ヴィジョンは町の治安を守るための活動へ、そしてワンダは「袋小路の女王」と称される近所でも有名な女性の邸宅に招かれる。
そうして、2人は町のショーで出し物をする流れになるのだが、ヴィジョンは異変をきたしており…。
まず、ヘリコプターには「S.W.O.R.D.」と呼ばれる組織の紋章が描かれていました。
この「S.W.O.R.D.」は地球内ではなく、宇宙に拠点を置き超人たちの行動を監視している組織となります。
そして、「S.W.O.R.D.」は既に、MCUに一度登場しているとも言われていますね。
ここで、巨大な宇宙ステーションが映し出されるのですが、これがコミックスの「S.W.O.R.D.」の拠点に似ていることから、多くのファンがフェーズ4での彼らの登場を期待していました。
何らかの形で、「S.W.O.R.D.」がワンダの暴走に介入しようとしている様の表れとして、あのヘリコプターのラジコンが第2話で登場したのかもしれません。
そして、もう1つの謎となった、マンホールから出てきた「ハチ男」についてですが、これは「A.I.M.」という組織のメンバーであるという見立てができますね。
この組織は、ナチスの化学部門として組織され、後に独立し、暗躍したとされています。
「A.I.M.」のメンバーが戦闘・研究を行うときのスーツが、養蜂業者が蜂に刺されないように着る服に似ているため「ビーキーパー」という愛称で親しまれていることからも、『ワンダヴィジョン』第2話で登場した男が「A.I.M.」関連という見立てはかなり可能性として高そうです。
そうなると、ワンダを巡って、彼女を安定させようとする「S.W.O.R.D.」と彼女を利用しようとする「A.I.M.」がそれぞれに幻想世界にアクセスしているというシチュエーションが何となく考えられますね。
また、これが「スウォーム」と呼ばれるヴィランではないかという噂もあります。
元ナチスの科学者であり、無数の蜂の群れが人の形を成しているヴィランとされていますね。
仮に『ワンダヴィジョン』に「スウォーム」が登場するのであれば、何らかの形で『スパイダーマン』シリーズ3作目の方にリンクしていく可能性があります。
第3話
(『The Brady Bunch』より)
ただ、これ単なるオマージュや模倣に見えるんですが、重要な意味が込められています。
なぜなら、キャラクターを囲む枠の形状が四角形ではなく、六角形に変更されているからです。
この六角形が集まると蜂の巣のような見え方をしますよね。これが前回の第2話で登場した「ビーキーパー」を想起させるようなルッキングになっているわけですね。
さて、第3話ではワンダに突然の妊娠が発覚します。
面白いのが、ヴィジョンが生まれてくる子どもに「ビリー」という名前をつけようとしていたことですね。
ただ、ヴィジョンがこの名前をつけようとしていた理由が「シェイクスピアの劇作にちなんで」であり、その後のセリフでこんなことを言っていました。
「この世は舞台、人は皆、役者だ」
まさしく今作の世界観の核心をつくようなセリフですよね。
そして、今回の第3話では、まさしくヒドラ勢力とS.W.O.R.D.側のワンダの世界への介入が何となく仄めかされるような内容になっていました。
面白いのは、この入浴剤がCMの女性に辛く厳しい現実からの逃避を促しており、さらには「Find the Godness Within(内なる女神を見出す)」というキャッチコピーで売られている点です。
ヒドラ勢力は何らかの形で、ワンダに現実逃避をさせ、そして彼女の内に眠る真の力を引き出し、それを自分たちの野望のために利用しようとしているのではないかという思惑が読み取れますね。
そして、今作では『キャプテンマーベル』ではまだ子どもだったモニカ・ランボーが大人になり、S.W.O.R.D.のエージェント「ジェラルディン」としてワンダの世界に介入していたことが明らかになりました。
しかし、彼女は「ウルトロンにピエトロ(ワンダの双子)」は殺されたという事実を突きつけようとしたがために、あの世界から追放されてしまったのです。
(『ワンダヴィジョン』第3話より引用)
ペンダントのシンボルに描かれていたのは「3人の魔女」なのです。
以前から隣人の「アグネス」という名前が、コミックスに登場するアガサ・ハークネスにそっくりだという指摘がありましたが、この人物はワンダが弟子入りもしたことのある魔女と言われています。
ただ、それ以上に今回の第3話で登場した彼女が身につけていた「3人の魔女」のペンダントが劇中での言及も相まってシェイクスピアの『マクベス』に登場する3人の魔女を強く想起させるんですよ。
マクベスにおける魔女は「異界と現実の橋渡しをする存在」として捉えられ、マクベスに予言的な言葉を授ける存在として劇中に登場します。
その点で、「アグネス」という隣人もまた「MCUの世界=現実世界」からやって来たキャラクターであり、そしてワンダを導くという何らかの目的を持っていることが仄めかされているのです。
第3話のラストに流れるのは、ザ・モンキーズの名曲「デイドリーム・ビリーバー」です。
The six o’clock alarm would never ring.
But it rings and I rise,
(「デイドリーム・ビリーバー」より)
徐々に明らかになってきた世界の構造ですが、ワンダの世界には3つの勢力が介入している可能性が考えられます。
- ヒドラ勢力:A.I.M.(ビーキーパー)?
- S.W.O.R.D.側:ジェラルディン(モニカ・ランボー)
- アグネス:アガサ・ハークネス?魔女?
この3者が今後どのようにワンダの世界に絡みあっていくのかにも注目ですね。
第4話
いやはや、ポストエンドゲームの世界観をヒーローではなく、市民目線で描いてくれる演出が何とも憎かったですよね。
ここで、第3話までの謎の一応のネタバラシが為されましたね。
まず、ヒドラ勢力のA.I.M.(ビーキーパー)だと思われていた、下水道から現れた防護服の人間はS.W.O.R.D.側だということが判明しました。
ジェラルディンは、調査のために「ウェストビュー」に足を踏み入れて、そのままワンダに洗脳されて、役を演じていたようです。
そして、今作においては、ワンダが「ウェストビュー」の町そのものを自分の次元に落とし込み、そこで新しい現実を「作り変えている」ということが判明しました。
第1話に登場したヘリコプター、第2話のラジオなんかは外部の世界からのS.W.O.R.D.の介入ということも明かされ、一応は本作の世界観が示された形になります。
第5話
『愉快なシーバー家2』OPより
またOPは懐かしいシットコムからの引用でしたね。
1985年から1992年の間にアメリカのABCで放送されたシットコムとして知られる『愉快なシーバー家』のOP映像と音楽へのオマージュからスタートしました。
OPに関して言うならば、それ以外にも同じく80年代を彩った『ファミリータイズ』からの引用も見られました。
『ファミリータイズ』より引用
第8話では、ワンダがあの街を構築し、住民たちを操っているという構造が明らかになっていきます。
それに対して、S.W.O.R.D.は80年代・90年代頃のマシンを使って、ウェストビューへの介入を試みますが、ワンダに妨害されるのでした。
一方で、ヴィジョンも徐々にワンダの支配から目覚め、あの世界に疑問を持つようになり、ついには対立し始めます。
そんな第5話のラストに特大の衝撃がもたらされます。
まあいろいろと物議をかもしたわけですが、これによってディズニーに新たなマーベルコンテンツが組み込まれることになったのも事実です。
それは、もちろん『X-MEN』シリーズです。
そして、これまでディズニーと20世紀FOXが別々に映画を製作したために、こんな事態が起きていました。
マーベルコミックスに「クイックシルバー」という高速で移動できる有名なキャラクターがいます。一応ワンダの双子の設定です。
彼がMCUに初めて登場したのが、『アベンジャーズ エイジオブウルトロン』でした。
映画『アベンジャーズ エイジオブウルトロン』より引用
ただ、彼は『ワンダヴィジョン』のここまでの話でも触れられている通りで、既に死んでいます。
そして、20世紀FOXの『X-MEN』シリーズに登場していた「クイックシルバー」がこちらです。
『X-MEN アポカリプス』より引用
つまり、同じく「クイックシルバー」というキャラクターが、MCUと『X-MEN』の世界で別々のキャストによって演じられていたというわけですね。
そして、今回の第5話で、何と『X-MEN』版のクイックシルバーがMCUに現れるというサプライズがあり、ファンはもう絶叫ですよ。
ただ、これについてですが、『X-MEN』の映画シリーズでこの「クイックシルバー」が登場しているのは、70年代を描いた『フューチャー&パスト』80年代を描いた『アポカリプス』そして90年代を描いた『ダークフェニックス』の3作品です。
ワンダの作り出すあの世界に入ると、その当時の時代に「最適化」されるという設定が明らかになっていましたが、この「クイックシルバー」もそう考えると、時代に「最適化」されているのではないかと思われます。
今回のシットコムのオマージュ元が80年代~90年代付近でしたので、これがぴったりと『X-MEN』シリーズの時系列にリンクするのが何とも面白いですよね。
スタッフ
- 監督:マット・シャクマン
- 原案:ジャック・スカエファー
- 脚本:ジャック・スカエファー
- 撮影:ジェス・ホール
- 作曲:クリストフ・ベック
さて、本作『ワンダヴィジョン』の監督に抜擢されたのは、『ゲームオブスローンズ』や『マッドメン』などの人気テレビシリーズの一部話数の監督を務めた経験もあるマット・シャクマンです。
MCUは監督選びが本当に巧いという印象が強いのですが、今回はアメリカのテレビメディアをかつて席捲したシットコム(シチュエーションコメディ)を題材にするということで、テレビシリーズに精通した人物を監督に選びました。
そして脚本を手掛けたのが、女性のクリエイターで『ブラックウィドウ』の原案も担当しているジャック・スカエファーですね。
ワンダ、そしてナターシャというこれまでのMCUを支えてきた女性キャラクターの単独作2つに彼女が関わっているということで、一体どんな「女性ヒーローの物語」を演出してくれるのか非常に楽しみです。
撮影には『ゴーストインザシェル』や『トランセンデンス』などでも知られるジェス・ホールが起用され、『アントマン』シリーズの劇伴音楽を担当しているクリストフ・ベックが今作にも音楽を提供しています。
『ワンダヴィジョン』解説・考察(ネタバレあり)
原案となったコミックス『VISION』との関係について
本作『ワンダヴィジョン』の原案の1つと言われているのが、この『VISION』というコミックスです。
邦訳版も発売されていて、2巻構成全12話で描かれているヴィジョンと彼の作り出した家族の物語なのですが、これがもう「衝撃的」な内容なんですよね。
このコミックスは、ヴィジョンがスカーレットウィッチとの短い結婚生活を破綻させてしまい、その記憶を頼りに、自らの力で「家族」を作り出すところから物語が始まります。
ヴィジョンは、妻や子供に自由意思を与えていますが、基本的には自分が家庭の支配権を握っていて、「普通の暮らし」の継続を願っているんです。
そのため、2人の子どもたちを学校に通わせ、妻には専業主婦として過程を任せ、自身はトニーたちと共にアベンジャーズとしての活動に取り組んでいます。
しかし、彼らは「普通」を願っているのですが、周囲が彼らを「普通」ではいさせてくれません。
学校で2人の子どもたちは好奇の目にさらされ、友人もできず、妻も近所付き合いが上手くいかず苦しみますが、彼らはそれでも「普通」にこだわり続けるのです。
そうした「普通」への異常とも言える執着がヴィジョンの家族を徐々に崩壊へと導いていくのですが、そのプロセスや伏線が本当に見事で、特に終盤の展開には圧倒されましたね。
『ワンダヴィジョン』の第1話と第2話では、ワンダとヴィジョンが何度も自分たちは「普通」であると確かめるような場面がありましたよね。
(『ワンダヴィジョン』予告編より引用)
そして第2話では、ワンダとヴィジョンが町内でのショーなどに際して徐々に周囲の人たちからその「異常性」を認識されていくようなプロセスが描かれていました。
「普通」を願っているにもかかわらず、2人は周囲の人から見ると、どうしたって「普通」には見えない。そのギャップが描かれている点は、コミックスの『VISION』との大きな共通点だと思います。
そして、面白いのは、第2話の終盤でワンダがあの世界を「改変する」能力を持っていることが明かされる点でしょう。
コミックスの『VISION』においてこうした改変の役割を担っているのは、ヴィジョンなのですが、彼の妻が「普通」の暮らしを維持するために夫の記憶を改変して、1つの「嘘」をつくんですよ。
つまり、ヴィジョンとの暮らしを維持するためにその妻であるワンダが、あの家の周囲で起きる不都合な出来事を隠ぺいする役割を担っているというのは、これまた非常に似ているわけです。
このように『VISION』では家族を作る主体がヴィジョンであり、今作『ワンダヴィジョン』ではワンダであるという点で、前提条件こそ大きく異なってはいるのですが、実は多くの共通点を内包していることが伺えます。
この『VISION』はアイズナー賞と呼ばれるアメリカでもっとも権威のあるマンガ賞の1つを受賞し、アメコミの潮流を変えたとも言われる傑作です。
もし、コミックスの方が気になるという方がいらっしゃいましたら、読んでおくことをおすすめします。
コミックス『VISION』との関連から推察する物語の展開
(『ワンダヴィジョン』予告編より引用)
まず、今作『ワンダヴィジョン』に関してですが、冒頭にも紹介したように『ドクター・ストレンジ・イン・ザ・マルチバース・オブ・マッドネス』へのリンクがあることが反映しています。
また、本作の主人公であるワンダがこの『ドクターストレンジ』続編にも出演するというリーク情報も出てきていますね。
ただ、ワンダがアベンジャーズの側として参戦するのか、それともヴィランとしてアベンジャーズの前に立ちはだかるのかという部分は未だ定かではありません。
巷では、ワンダがフェーズ4のメインヴィランの1人になるという噂も流れているわけですが、これは『X-MEN』シリーズのジーンにワンダを重ねてのことなのだと思います。
『X-MEN』シリーズでは、自らの強大な力をコントロールできず、周囲のミュータントたちを傷つけてしまったジーンが、居場所を見失いヴィランに利用されて、闇堕ちするという展開が描かれました。
これに準えて、ワンダがこの『ワンダヴィジョン』でヴィジョンを喪失した深い絶望と悲しみから、自らの幸せな「幻想」の邪魔をする者たちを排除しようとし、闇堕ちするのではないかと言われているわけです。
また、この「ワンダ闇堕ち」のもう1つの根拠になっているのが、実は先ほども話題に挙げたコミックス『VISION』でもあります。
『VISION』では、ヴィジョンが自分の家族の「普通」の暮らしを奪われ、さらには弟にあたるヴィクター・マンチャをアベンジャーズ側がスパイとして利用し、彼の家族について調べようとしていたことが発覚したことで、変調をきたしていきます。
さらには、アベンジャーズの差し金であるヴィクターがヴィジョンの息子を殺害してしまうという一件が引き金となり、ヴィジョンは復讐の鬼と化すのです。
アベンジャーズはヴィクターを守ろうとしますが、ヴィジョンは彼らを倒してでも復讐を遂げようとします。
『ワンダヴィジョン』の予告編の中にワンダとヴィジョンのこんなやり取りがあります。
ワンダ「ここが家よ。」
ヴィジョン「なら、戦おう。」
このやり取りは、2人が「幻想」の幸せを守るために、それを壊そうとする者たちを退けるために戦う展開を想起させますよね。
という具合に、コミックス『VISION』から考えていくと、確かにワンダが「闇堕ち」して、アベンジャーズの前に立ちはだかるという展開もあり得なくはないのです。
ただ、今のMCUがそういった最愛の男性を失って、1人で生きることに絶望して、ヴィラン化する女性ヒーローを描くというのは、近年のフェミニズムの流れからしても到底考え難いですね。
ですので、ワンダにはコミックス『VISION』におけるヴィジョンの妻、ヴァージニアの方の役割が課されるのかな?なんて何となく思っています。
『VISION』の冒頭でグリムリーパーというヴィランが、ヴィジョンたちが「家族」を作って暮らしているところにやって来て、その幸せを壊そうと試みるのですが、それを防いだのが実はヴィジョンではなく、彼の妻ヴァージニアなのです。
もちろん、ヴィジョンは家族3人のログを確認できるので、本来なら妻がリーパーを殺害し、庭に埋めたことを知ることができるのですが、妻が寝ている間に夫の記憶を改ざんし、その秘密を抹消してしまいました。
なぜ、彼女がそんな行動を取るのか。
それは偏に夫や子ども達との「普通」の暮らしを守りたいからですよ。
このヴァージニアの行動は、『ワンダヴィジョン』第2話の終盤のワンダの世界改変にも通じるところがあります。
そして、『VISION』のクライマックスではヴィジョンがアベンジャーズと対立した挙句に、息子の命を奪ったヴィクターを殺そうとします。
しかし、ここで手を下そうとしたヴィジョンを制止して、ヴィクターの心臓を抜き取るのが他でもない妻のヴァージニアなんですよ。
彼女はヴィジョンが復讐を果たしてしまえば、もう元には戻れなくなるだろうと確信し、そうなる前に自らが「手を汚す」決断をするわけですね。
かくして、ヴィジョンの暴走は防がれ、世界は平穏を取り戻すのですが、このヴァージニアと今回の『ワンダヴィジョン』のワンダが重なる可能性があるのではないかと個人的には考えています。
ワンダ「ここが家よ。」
ヴィジョン「なら、戦おう。」
このやり取りで「戦おう」と明確に発言しているのは、ヴィジョンの方なんですよ。
つまり、原作の『VISION』と同様にヴィジョンは徐々にあの世界の異変に気がつき始め、そしてワンダとの幸せな暮らしを守るために、障害となるものを退けようとするのではないかと思うわけです。
ここで、ワンダには明確に決断が迫られます。
(『ワンダヴィジョン』予告編より引用)
1つは、ヴィジョンと共闘して「幻想」の幸せを守り抜くこと。つまりヴィジョンの喪失からの逃避を選ぶということですね。
もう1つがヴィジョンとの「幻想」の幸せを放棄し、アベンジャーズとして、そしてヒーローとして、1人の女性として強く生きる決断をすることです。
近年のMCUやフェミニズムのコンテクストから考えると、おそらくここでワンダが後者を選択し、「幻想」世界からの脱却が為されるというのが、『ワンダヴィジョン』の展開なのではないかと言うのが、当ブログ管理人の個人的な見立てとなります。
ただ、『VISION』の構造を活かしつつも、「良き妻」的なポジションではあったヴァージニアというキャラクターを、ワンダを軸に描き直すとすれば、それはすごく意義のあることだと思っています。
『ワンダヴィジョン』は全9話ということで、最終回の配信は3月になると発表されています。
一体どんな展開になるのか、そして『ドクターストレンジ』の続編とどのようにリンクしていくのか。
MCUの志向する「メタフィクション」
(『ワンダヴィジョン』予告編より引用)
さて、この『ワンダヴィジョン』を紐解いていく上で、もう1つ重要なのが、『スパイダーマン ファーフロムホーム』でも明確に打ち出されたMCUのメタフィクション的な方向性です。
『スパイダーマン ファーフロムホーム』では、ヴィランのミステリオがある種の「MCUの否定者」的な役割で登場します。
彼の衣装はあくまでも光学迷彩的なものであり、それ故に彼が戦う様は、ヒーロー映画のVFX撮影の現場のようでもあります。
さらに言うと、本作のラストバトルに当たるロンドン決戦は、『アベンジャーズ』のニューヨーク決戦を強く想起させるものになっていました。
つまり、ミステリオというヴィランはMCUがこれまでに描いてきたヒーローという存在たちが、VFXが作り出した欺瞞でしかないのだという「現実」を突きつけてきます。
『スパイダーマン ファーフロムホーム』は、スパイダーマンがそんなミステリオを打ち破ることで、私たちが信じてきたMCUの11年は「リアル」だったのだと改めて宣言する形で幕を閉じます。
その流れで始まったフェーズ4の最初の作品となった『ワンダヴィジョン』も実は、そうしたメタフィクションの構造を内包していますよね。
第1話のラストで、ワンダとヴィジョンが暮らしているのが、テレビの中の世界であるという構造が示されていましたが、これって彼らのフィクション性を強調する描写なんですよ。
2人の存在がメディアの上での産物でしかなく、現実には存在しない。そういうMCUのフィクション性を強調しうる設定がこの『ワンダヴィジョン』には持ち込まれています。
また、今作におけるヴィジョンが生存しているという設定は、先のサノスとのヒーローたちとの決死の戦いをも無かったことにするIFなんですよね。
だからこそ、この『ワンダヴィジョン』のメタフィクション性は、「インフィニティサーガ」の実存にも強く結びついていると考えられます。
ワンダがヴィジョンのいる世界を選ぶということはすなわち、サノスとの戦いがなく、彼が死ななかった世界を選ぶということでもあるからです。
こうしたフィクションと現実という軸が作品内に示されることで、MCUは自分たちが作り出してきた作品やヒーローたちの実存を問うています。
ワンダはフィクションの産物になることを望むのか?それとも、そこからの脱却と現実での存在を望むのか?
第3話のラストで、S.W.O.R.D.のエージェントと思われるモニカ・ランボーが「ジェラルディン」としてワンダの世界に潜り込んでいましたが、そこから弾き出されてしまいます。
すると、それまでテレビのフルスクリーン寄りだった画角が、映画特有のワイドスクリーンへと変化していくのです。
これは「MCUの世界=リアル」そして「ワンダの世界=虚構ないし幻想」というメタ構造を明確にする上で効果的な演出だったと言えるでしょう。
「インフィニティサーガ」直後の最初の作品で、MCUそのものの実存を問い直す作品をぶち込んでくるというアプローチが、あまりにもぶっ飛んでおり、これには驚かされましたね。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回はディズニー+にて配信がスタートした『ワンダヴィジョン』についてお話してきました。
とにかく60~70年代のシットコムへの愛に満ち溢れた第1話と第2話でしたが、要所要所で不穏な臭いを漂わせているのがスパイスになっていて、非常に楽しめました。
まだまだ展開については読めない部分も多いですし、そもそも今作のヴィランは誰なのか?はたまたヴィランが明確に存在する作品なのか?という点も含めて謎だらけとなっています。
ただ、原案とされているコミックス『VISION』とリンクする部分も多いドラマになっているようなので、こちらを併せてチェックしておくとより深く味わうことができるのではないでしょうか。
ディズニー+が配信初日からサーバーダウンするという相変わらずの「ディズニーマイナス」っぷりを披露してくれていますが、ぜひこの機会に登録を検討してみてください。
また、当ブログのYoutubeチャンネルが2021年から始動しました。
こちらで、ヒーロー映画の流れを変えたとも評される『ブラックパンサー』の解説動画なんかもあげておりますので、良かったらご覧になってみてください!
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。