【ネタバレ】『恋する遊園地』感想・解説:アトラクションと人間の肉体的な性愛を描く

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『恋する遊園地』についてお話していこうと思います。

ナガ
予告編を見て、完全に心を鷲掴みにされてしまったんですよね…。

夜の遊園地のアトラクションの美しい光が織りなす独創的でファンタジーテイストな映像。

それとは対照的に描かれる主人公が落ちる恋のリアリティと肉体性。

そして、人とは違う「性的志向」を持ってしまった少女への周囲からの拒絶と受容。

きっと、これは素晴らしい映画になるだろうと思い、劇場に足を運びました。

ナガ
決して本作が「R15+」指定であり、ちょっとエロい映像とか見れるんじゃないか?という淡い期待を持って見に行ったわけではないということは最初に強調させてください(笑)

主人公のジャンヌは性に奔放な母親の下で育ちながら、自身は男性に性的な魅力を感じず、自分の性に「揺らぎ」のようなものを感じています。

そんなジャンヌが遊園地に新しくやってきたアトラクションに「心が波立つ」ような感触を覚え、次第に深い恋に落ちていくという物語になっているのです。

物語はフランスに実在したエッフェル塔と恋に落ち、結婚した人物をモデルにしているようです。

予告編の印象から、かなりファンタジーテイストなのかなと思っていたのですが、すごくリアル路線で、「恋」というよりも「性愛」を逃げずに描き切ったという印象が強いですね。

他の人と違うこと。そしてそれを誰にも受け入れられないこと。そこからくる孤独を徹底的に描いた作品になっています。

上映規模が少し小さめの作品なので、そもそも作品を認知している方が少ないのかもしれませんが、個人的にはぜひ見て欲しいとおすすめしたい1本です。

今回はそんな『恋する遊園地』について個人的に感じたことや考えたことを綴っていこうと思います。

本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事です。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『恋する遊園地』

あらすじ

ジャンヌは性に奔放な母親の下で育ちながら、自身は男性に性的な魅力を感じず、自分の性に「揺らぎ」のようなものを感じていた。

そんな彼女は、近所の遊園地の深夜の清掃・メンテナンスのアルバイトとして勤めることとなり働き始める。

ある日、遊園地に新しいアトラクション「Move It」がやって来る。

夜中に、ジャンヌが「Move It」の清掃をしていると、電源が入っていないはずのアトラクションが突然点滅し始める。

孤独を感じ、行き場の無さに悩んでいたジャンヌは自分のそんな思いにアトラクションが応えてくれたくれたと感じ、興味を持つようになる。

そして「ジャンボ」と名づけたアトラクションと夜な夜なコミュニケーションを取っていくうちに、ジャンヌは恋愛感情を抱くようになっていく。

彼女は意を決して、「ジャンボ」を母親に紹介するのだが、母はジャンヌを異常者扱いし、病院に連れていくなど、散々な目に遭ってしまう。

自身の性の揺らぎ、そしてそれを誰にも受け入れてもらえない孤独に打ちひしがれながらも、彼女は自分の思いを貫こうとするのだが…。

 

スタッフ・キャスト

スタッフ
  • 監督:ゾーイ・ウィットック
  • 脚本:ゾーイ・ウィットック
  • 撮影:トマ・ビューランス
  • 美術:ウィリアム・アベロ
  • 編集:トマ・フェルナンデーズ
  • 音楽:トマ・ルセル
ナガ
監督を務めたのは、フランス人女性映画監督ゾーイ・ウィットックです。

彼女はショートフィルムをいくつか撮って来て、今作『恋する遊園地』で2020年に長編映画デビューとなったようですね。

主人公のジャンヌの「性愛」や「オーガズム」の描き方にすごく生々しさがありましたし、女性ならではの視点でファンタスティックな設定をリアルに落とし込んだなと感じました。

撮影を担当し、本作の美しい映像の世界観を実現させたトマ・ビューランスも基本はショートフィルムを中心に映像作品に携わってきたクリエイターのようです。

編集を担当したトマ・フェルナンデーズは、イザベル・ユペール主演の『アスファルト』などでも知られます。

キャスト
  • ジャンヌ:ノエミ・メルラン
  • マーガレット:エマニュエル・ベルコ
  • マルク:バスティアン・ブイヨン
  • ハバート:サム・ルーウィック
ナガ
主演の女優さんが「あの映画」に出ていた人だと最初は気がつかなかったや…。

主人公のジャンヌは昨年の暮れに公開された『燃ゆる女の肖像』で主人公を演じていたノエミ・メルランです。

彼女は同作でリュミエール賞主演女優賞を受賞し、セザール賞にもノミネートされるなど高い評を受けました。

そして主人公の母親であるマーガレット役には、女優としてだけでなく監督としても活躍するエマニュエル・ベルコが起用されています。

映画com作品ページ
ナガ
ぜひぜひ劇場でご覧ください!



『恋する遊園地』感想・解説(ネタバレあり)

肉体の描写から逃げないことの意義

(C)2019 Insolence Productions – Les Films Fauves – Kwassa Films

記事の冒頭から何度か書いておりますが、本作『恋する遊園地』の魅力は何と言っても、ファンタスティックな設定と映像の中で、肉体的な「性愛」を描くという対照的なものの融合にあると思います。

男性、女性の思いっきり全裸の描写があり、日本では「モロ出し」が規制もあってできないため、モザイクを入れて「R15+」指定で公開という形になりました。

ただ、こうした肉体の描写は単に観客の性的好奇心を刺激するために取り入れられているものではなくて、きちんと意味があります。

映画が始まって、1分くらいでいきなり主演のノエミ・メルランが全裸でスクリーンに映し出され(もちろんモザイクあります)、見ている人は圧倒されます。

ナガ
このシーン意外と重要なんですよ。

違和感を抱かない人もいるのかもしれませんが、主人公のジャンヌは見た目は「女性」なのですが、上半身の下着つまりブラをつけずにそのままTシャツを着て、外出するんですよね。

これって些細なことかもしれませんが、ジャンヌの微妙な「性」のズレを見事に表現していると思います。

その後のシーンを見ていても、ジャンヌって上半身は下着なしで直接Tシャツを着ていました。

この一連の描写によって、彼女がいわゆる人間の男性と対比しての「女性」という性を持っていないのではないかということが何となく浮かび上がるようになっているんですね。

また、いわゆる「性行為」のシーンについても、本作では「ジャンヌ×ジャンボ(アトラクション)」と「ジャンヌ×マルク(人間の男性)」という2つのパターンを描いています。

ナガ
この対比がかなり強烈なんですよね…。

「ジャンヌ×ジャンボ」の行為は、ジャンボから大量のオイルが降り注いで、全裸のジャンヌが逸れに包まれてオーガズムを感じるという形で描かれていました。

一方の「ジャンヌ×マルク」はある雨の日に成り行きでという流れなのですが、この時のジャンヌがとにかく強烈なんですよ。

ナガ
全世界の男性をトラウマにすると思うよ、あれは…。

マルクがいわゆる「バック」の体位で、めちゃくちゃ一生懸命行為に及んでいるのですが、ジャンヌはと言うと、完全に真顔なんですよ。

で、行為が終わり少しまどろんだ雰囲気を出そうとするマルクをベッドに残し、ジャンヌは「あなたとは結婚しないわ。」と捨て台詞を吐き、家から出て行ってしまうのです。

ナガ
こんなんやられたら、男性としてのプライドはズタズタで、たぶんEDになりますね…。

ジャンヌはこの時、自分がいわゆる女性として男性との性行為でオーガズムを感じられるのかどうかを「試した」わけで、その結果何も感じなかったため彼の下から去ってしまったのです。

ただ、男性側からすると「たまったもんじゃねえな、おい。」と言いたくなる気持ちは正直あります(笑)

それでも、この残酷なまでの対比が「ジャンヌ×ジャンボ」の関係性を特別にしていると思いました。

キスやハグといった表層的なことだけではなくて、「性行為」という肉体的な情愛にまで落とし込んで、人間とアトラクションの関係を描こうとする作劇にすごくリアリティを感じて、惹かれましたね。

だからこそ、「結婚」というラストは、あのプロセスから導き出される帰結としては弱いのかな…という思いもありました。

ナガ
急に物語が「ファンタジー」になったような印象を受けましたね…。

「おとぎ話」ではない、もっとリアルな部分まで掘り下げて「ジャンヌ×ジャンボ」の関係を描いてきたわけですから、そのテイストを最後まで貫いてほしかったです。

類似の作品としては、ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプオブウォーター』なんかが筆頭にはなると思います。

ナガ
ただ、作品のクオリティとしては遠く及ばないですかね…。

『シェイプオブウォーター』はリアリティとファンタジーの融合とバランスが本当に完璧で、傑出した出来栄えだったので、そこと比べると流石に厳しい部分はあります。

それでも、アトラクションという「非生物」と人間の関わりをリアルベースで描くという試みは面白かったですし、見ておいて損はない作品ではないでしょうか。



主人公の孤独と芯の通った強さ

(C)2019 Insolence Productions – Les Films Fauves – Kwassa Films

もう1点、この『恋する遊園地』という作品についてお話しておきたいのが、今作はすごく主人公の中心性が強い作品であるということですね。

ナガ
ここが特徴的なので、好みを分ける可能性はありそうです…。

主人公のジャンヌは確かに自分の性に対して揺らぎを感じていて、自分の「ジャンボ」への好意が周囲の人から受け入れられないことに孤独感を抱いています。

「人とは違う」ことから来る「身の置き所の無さ」を見事に表現した脚本と主演のノエミ・メルランの演技は圧巻でした。

ただ、この主人公って本当に行動に「ブレ」がなくて、どちらかと言うと今作は彼女を取り巻く人たちの物語になっていたような気がするんですよ。

ナガ
これが、結構すごいことなんです!

先ほどご紹介した『シェイプオブウォーター』も周囲の人たちはあまり変わらなくて、主人公が異類との関係をひたすらに深めていくという作劇になっていました。

『恋する遊園地』は、主人公は「ジャンボ」に対する好意についてあまり疑問を持っている様子はなくて、周囲から拒絶されても一直線に行動を続けます。

劇中で、マルクという男性と性的な関係を持つ描写がありましたが、あの場面も「揺らぎ」があったというよりは、「ジャンボ」への好意や感じるオーガズムの正統性を確かめるための実験に過ぎませんでした。

ナガ
そんな扱いをされてしまうマルクを、当ブログ管理人は不憫に思ってしまいましたが…。

また、母親との関係にしても、彼女のスタンスは「私を受け入れて欲しい」というもので最初から最後まで一貫しています。

この作品においては基本的に主人公の思いは変わらないのです。そして、その周囲にいる人たちが振り回され、変化を求められる構造になっています。

これは「Move It」というアトラクションの構造が、中心を軸にして外側の座席をグルグルと回転させる構造であることから視覚的に明示されているとも言えますね。

とりわけそうした「変化」を求められるのは、彼女の母親です。

マーガレットは、性に奔放で、多くの男性と関係を持ってきた女性ですが、かつて結婚していた夫と別れた失恋の経験を今も心のどこかで引きずっています。

彼女は、娘がアトラクションに好意を持っているという状況を「異常」だと決めつけ、頑なに受け入れようとしません。

それでも、懸命に「ジャンボ」への好意を貫き、そして自分の策略によって今にも「失恋」しそうになっているジャンヌを見て、マーガレットはその姿に自分を重ねるんですよね。

自分が今も尚引きずっている「失恋」の苦しみ。それを母親である自分が主体となって、娘にも感じさせ様としているという構造に気がつくのです。

だからこそ、彼女はジャンヌが持つ「ジャンボ」への好意を認めます。

物語のクライマックスには、人間とアトラクションという境界はなく、ただ純粋に何かを愛シュル主体としての親子の姿がありました。

ジャンヌを一貫した存在として描き、周囲の人間の変容を描こうとするところに『恋する遊園地』という作品のメッセージが宿っていのだと私は感じました。

そう。それはこの映画を見ている「マジョリティ」への問いかけなのです。

どう受け入れ。どう認めるのか。

「異常」や「差異」を「らしさ」や「個性」として認めていくことの大切さを痛感させられる作品になっていたと思いました。



おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『恋する遊園地』についてお話してきました。

遊園地のアトラクションと人間の恋愛を描くという一見するとファンタジックな設定をリアルベースで描くというアプローチが非常に面白い作品です。

また『ワンダー 君は太陽』を想起させるような、周囲の人間の「受容」の物語になっていて、ここも好きでしたね。

ナガ
ただ、クライマックスの展開はかなり「ぶっ飛んで」いて、そんな着地あるんかい!と思わずツッコミを入れそうになりました(笑)

上映規模は小さいですが、非常に面白い作品なので、気になる方はチェックしてみてください。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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