【ネタバレ】『ブックスマート』感想・解説:映画が「綺麗ごと」を描くことの大切さ

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『ブックスマート』についてお話していこうと思います。

ナガ
公開当時めちゃくちゃ話題になっていたのに、見逃してしまっていた作品です…。

この手の「一夜モノの青春映画」って大好物なので、間違いなくハマるだろうと思い、Netflixで配信された機会に鑑賞したのですが、想像以上に良かったです。

タイトルにもなっている「ブックスマート」は英語圏で「本を読みまくっていて、有名大学に通うようなスマートな人(賢い人)」を指すのですが、言外の意味として「本の虫」的な少し世間知らずっぷりを揶揄するようなニュアンスもあると言われています。

劇中で、主人公のモリーが勉強せずに遊びほうけていたであろう同級生たちに学歴マウントを取ったところで、盛大なしっぺ返しを食らうシーンがありましたよね。

こういうシーンを見ていると、主人公がまさしく「ブックスマート」であることが伺えますよね。

そんな冴えない主人公が親友のエイミーと共に、高校生活最後の1日にデカい花火をぶち上げようと奮闘する、痛々しくも、微笑ましい青春映画になっていました。

今回はそんな映画『ブックスマート』について個人的に感じたことや考えたことをお話していこうと思います。

本記事は一部作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事です。

作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。




『ブックスマート』

あらすじ

卒業を目前にしたエイミーと親友モリーは高校生活の全てを勉強に捧げ、有名大学への進学を果たしていた。

成績優秀な優等生であることを誇りに思い、遊んでばかりいた同級生を小馬鹿にしていたが、ある日そんな同級生たちもハイレベルな進路を歩むことを知り、すっかり自信を喪失してしまう。

勉強のために犠牲にした青春を何とかして取り戻そうと、2人は高校生活最後の日の夜に卒業パーティーへ繰り出すことを決意する。

しかし、パーティーに参加するような面々に友達はおらず、2人はパーティーが開催される場所の住所すらわからない。

それでも何とかして会場に辿り着こうとする2人。しかし、会場が近づくにつれて、そんな2人の思いも揺れ動いていき…。

 

スタッフ・キャスト

スタッフ
  • 監督:オリビア・ワイルド
  • 脚本:エミリー・ハルパーン/サラ・ハスキンズ/スザンナ・フォーゲル/ケイティ・シルバーマン
  • 撮影:ジェイソン・マコーミック
  • 美術:ケイティ・バイロン
  • 衣装:エイプリル・ネイピア
  • 編集:ブレント・ホワイト/ジェイミー・グロス
  • 音楽:ダン・ジ・オートメーター
ナガ
監督はなんとあのオリビア・ワイルドですか!

『トロン・レガシー』や最近だと『リチャードジュエル』などに出演したことでも知られる女優のオリビア・ワイルドが本作の監督を務めました。

初監督作品で、この出来栄えは相当ですし、今後も女優だけでなく監督として多くの映画に携わって欲しいなと思います。

そして、脚本を見てみると4名クレジットされていて、Netflix映画『ロマンティックじゃない?』の脚本を担当したケイティ・シルバーマンを含め、気鋭の女性脚本家が手がけた1作となっていますね。

このように、監督と脚本が女性で構成された作品と言うのも、本作が青春映画として全く新しい内容を実現することができた理由なのかなと思いました。

撮影には『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』ジェイソン・マコーミック、編集にはコメディ映画畑のブレント・ホワイトジェイミー・グロスが加わりました。

キャスト
  • エイミー:ケイトリン・デバー
  • モリー:ビーニー・フェルドスタイン
  • ミス・ファイン:ジェシカ・ウィリアムズ
  • シャーメイン:リサ・クドロー
  • ダグ:ウィル・フォーテ
  • ブラウン校長:ジェイソン・サダイキス
ナガ
主演の2人は、この映画を見ると、好きにならずにはいられないよね…。

W主人公を演じたのは、それぞれ『レディ・バード』で知られるビーニー・フェルドスタインと、『ショート・ターム』にも出演したケイトリン・デバーです。

個人的に今作のケイトリン・デバーは最高でしたね。

お気に入りは、車中で拒みながらもポルノビデオを見てしまうエイミーなのですが、その仕草の愛くるしさや…。

空回りしているんですが、この2人の主人公が懸命に前進し続けようとする姿に、思わず応援せずにはいられなくなります。

そんな不思議な魅力のある2人が奇跡的な化学反応を起こしたことで実現した青春映画の新しい金字塔と呼ぶにふさわしい1本だったのではないでしょうか。

映画com作品ページ
ナガ
ぜひぜひご覧ください!



『ブックスマート感想・解説(ネタバレあり)

「綺麗ごと」を描くことの大切さ

(C)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

まず、何と言っても本作『ブックスマート』が素晴らしいのは、その世界観なのだと思います。

かつてアメリカを席捲したハイスクールものないし青春映画の中心にいたのは、やはり「白人ストレート」であり、そこでは決まって白人たちの異性愛が題材になりました。

しかし、この映画はそもそも「白人ストレート」がほとんど登場しない映画になっていて、人種の多様性や性の多様性が劇中で極めてナチュラルに担保された作品となっています。

それ故に、レビューを見ていると、とりあえずポリコレを意識して現代的な要素を記号的に並べたように見えるなんて批判も見受けられました。

そう感じる方がいることも分かりますが、個人的にはそれでも全力で「理想」や「綺麗ごと」を描き切った本作は称賛に値すると思うのです。

ナガ
映画やフィクションが「綺麗ごと」や「理想」を描かなかったら、どこでそれらを描くことができるんでしょうか?

アメリカで初めての黒人ヒーロー単独作である『ブラックパンサー』が公開された折に、TIME誌のジャーナリストが作品の意義についてこう語っていました。

白人でない私たちは、マスメディアやその他の公的生活の場で自分自身の表現を見つけるだけでなく、私たちの人間性が多様であることを示す表現を見つけることにも多大な困難を抱えています。画面上のキャラクターとの関連性を見出せることは、私たちが見られ理解されていると感じるためだけでなく、私たちを見て理解する必要がある他の人にとっても必要なことなのです。

この言葉、個人的にグッときまして、要約すると映画という見える形でマイノリティの人たちの存在を描くことが、相互理解を獲得していくために重要なことなのだという主張になっています。

例え「綺麗ごと」だと言われようと、まずは多くの人に「見られる」場所に、マイノリティとされてきた人たちを出していくことで、マジョリティとの間にある溝が埋まっていく。これは確かですよね。

近年のハリウッド映画には、性的マイノリティや人種差別を題材にした作品が多く存在していますが、彼らをこれほどナチュラルにかつ「当たり前の存在」として映画の中に溶け込ませた作品はないのかもしれません。

映画だからこそ、「理想」や「綺麗ごと」を描きたいという作り手の強い思いが込められた映画だと思いましたし、作られたことに大きな意義がある作品だとも感じました。

 

全てのキャラクターに「物語」があり、血が通っている

(C)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

さて、ここまで本作が多様な人種や性を抱えるキャラクターが当たり前のように存在している世界観を構築している点について言及してきました。

しかし、これだけの要素を盛り込みまくると、どうしても懸念されるのが、キャラクターが記号的になって、作品のテーマ性やコンセプトに強く依存してしまう可能性です。

実は、こうした問題を抱えている映画は少なくなくて、特に近年はそうした「多様性」を作品にもたらすためだけに作品に放り込まれたのではないかといういささか「浮いた」キャラクターも散見されます。

ただ、この『ブックスマート』はこれだけ多様なキャラクターを多数登場させておきながら、その全員にちゃんと「物語」や「葛藤」が描かれていて、血が通っているんですよ。

もちろん本作は主人公のモリーとエイミーにスポットを当てる作品ですから、周囲のキャラクターたちが描かれるのは、主人公の2人に関連するところだけです。

つまり、主人公の2人以外のキャラクターたちは、あくまでも「点」でしかスポットを当てられないのですが、その「点」から前後に伸びている「線」が想像できるように作り込んであるのです。

だからこそ、この映画はたまたまモリーとエイミーにスポットを当てているだけで、視点を変えれば、あの一夜には、人の数だけ物語があると思わせてくれるんですよ。

そういった余白をきちんと観客に意識させて、想像させてくれる楽しみがあると言うのが、この『ブックスマート』という作品の1つの魅力なのではないかなと感じました。



「相互理解」の物語に込められた「ブックスマート」のもう1つの意味

(C)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.

そして、本作が物語を通じて何を描いていたのかなと考えてみますと、それはやはり「相互理解」ということになるのでしょう。

主人公のモリーは勉強一筋の高校生活を送ってきたため、勉強もせずに遊びほうけていた同級生たちのことを内心では下に見ています。

しかし、そうした意識の背後にあるのは、実は「無知」なんですよね。

同級生たちはモリーやエイミーがどんな思いを抱えて学校生活を送って来たのかを知りませんから、とりわけモリーのことを批判しています。

一方で、モリーもまた、「ブックスマート」な高校生活を送って来たが故に、勉強と遊びを両立させてきた同級生たちのことを何も知りません。

このように相反する他者同士の対立の根底にあるものを「無知」だと位置づけたのが、すごく巧いなと思ったと同時にリアルだと感じました。

そして、この「無知」が断絶の原因になっているというコンセプトは、劇中でモリーとエイミーがパーティーの「住所を知らない」という形で物語にも組み込まれています。

でも、2人はこれまで自分が手の届かなかった世界を何とか「知ろう」とするんですよね。

エイミーが車の中でポルノビデオを見ながら、女性同士の性行為について学んでいた場面もそうです。

彼らは「知る」ことで、どうにかして歩み寄ろうとしているわけですよ。

そして、パーティーに到着してからのシーンでは、逆に同級生たちがモリーとエイミーの違った一面に触れ、少しずつ溝が埋まっていくような展開になっていました。

個人的にグッときたのは、パーティーの帰り道にアナベルの車にモリーが乗る場面ですね。

冒頭で、モリーはアナベルのことを「アバズレ」だと貶すわけですが、ここでアナベルは女子からそんな風に言われるのは悲しいというナイーブな一面を見せます。

その言葉で、モリーは相手のことを理解し、彼女に対する認識を改めました。

本をたくさん読むことで、スマートになり、有名大学に進学する。

これは紛れもない「ブックスマート」なのでしょう。

しかし、たくさんの人と出会い、相手のことについて「知る」ことを繰り返し、たがいに理解していくことでも人は「スマート」になっていくのです。

「ブック」という言葉は「知る」という行為の象徴にも思えますし、そう考えるとモリーやエイミーが高校生活最後の一夜に経験したのも紛れもない「ブックスマート」なのかもしれません。

記事の冒頭に一般的には「ブックスマート」という言葉の意味を紹介しましたが、実は本作が真に伝えようとしていたのは、「知る」という行為が人を「スマート」にし「相互理解」を深めていくという意味なのかもしれませんね。

こうした「相互理解」の重要性を描いた作品性も、本作が高く評価されている一因なのだと思います。



おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『ブックスマート』についてお話してきました。

『セックスエデュケーション』『ハーフオブイット』そして今作『ブックスマート』と、アメリカ発でこれまでの青春映画を「過去」にするかのような新しい風が吹いているのを実感させてくれる作品が多く作られています。

ナガ
その根底にあるのは、実はどの作品も「多様性」と「相互理解」なのです。

そして、『ブックスマート』がこう言った作品と比較して秀でているのは、2時間弱の映画の中でこれほど多くのキャラクターに「生」を吹き込んだことなのだと思います。

人の数だけ物語があって、人の数だけ葛藤があって、人の数だけ救いがある。

スポットが当たらない場所に「余白」を多く作ることによって、一見「閉じた世界観」なのに、すごく奥行きがある作品になっていました。

もしまだご覧になっていないという方がいらっしゃいましたら、おすすめですので、ぜひチェックしていただきたいです。

今回も読んでくださった方、ありがとうございました。

 

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