みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですねアニメ映画『映画大好きポンポさん』についてお話していこうと思います。
正直、鑑賞前は「よくあるクリエイター讃歌かな?」という何となくのイメージだったんですよね。
テレビアニメで言うと、『SHIROBAKO』や『映像研には手を出すな!』といったマスターピースに近い作品もありました。
そうした作品と比較したときに見ごたえのある作品になっているんだろうか?とどうしても思ってしまっていたんですよ。
でも、この『映画大好きポンポさん』想像以上です。というよりプロットとしてはめちゃくちゃ王道なのに、スポットを当てる場所を絶妙にずらすことで、これまでに例のない唯一無二の物語を作り上げました。
というのも、本作は映像作品の「編集」にスポットを当てているんですよね。
映画賞でも主要部門と言われるのは、「監督」や「脚本」、「キャスト」のセクションです。
しかし、そこであえて「編集」にフォーカスしていく。
また、物語が優れているだけでなく、『映画大好きポンポさん』は映像作品としても一級品です。
独特のキャラクター作画、公開前から話題になっていた美麗な背景作画、視覚的快感を追求したモーションの描き込みといったアニメーションとしての見応えは映画感のスクリーンで見てこそのものだと思います。
ただ、そうしたアニメーションの部分だけではなく、本作は映像のトランジション、構成、さらに劇伴音楽との親和性といった演出面も傑出しているのです。
優れた物語、美麗で豊かなアニメーション、そしてそれらを引き立てる最適な演出。
これらがガッチリと噛み合ったことで、『映画大好きポンポさん』は奇跡のようなアニメ映画に仕上がりました。
基本的に、このブログではできるだけ客観的な要素をお伝えしつつ、作品の魅力をみなさんに知って欲しいという思いでやっておりますが、こういう映画を見てしまうと、やっぱり感情的になっちゃいます。
まあ東京や大阪は、緊急事態宣言中は土日の映画観営業が休止しているので難しいとは思いますが、可能な方は今すぐ、今すぐ行ってください。
(きこえますか…あなたの心に直接呼びかけています。今すぐ『映画大好きポンポさん』を見るのです。今すぐに見るのです。『映画大好きポンポさん』を…。)
ということで、この記事では一部ネタバレになる内容も含みますが、できる限り本作の魅力が伝わるような感想・解説記事にしていきたいと思います。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『映画大好きポンポさん』を今すぐ見るべき5つの魅力(ネタバレ感想・解説)
①「編集」にスポットを当てた物語性
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
そもそも「映画作り」に焦点を当てる作品を作るときに、「編集」にスポットを当てるってあんまりないんじゃないかなと思います。
これまでに数多存在する作品でフォーカスされてきたのは、基本的には役者か監督、もしくは撮影しているまさにその瞬間でしょう。
もちろん『映画大好きポンポさん』も、「映画作り」の過程でキャストの物語に言及しますし、主人公のジーン・フィニが監督に抜擢され、彼が現場を指揮していく様も映し出していきます。
その上で、本作が最も力を入れて描いているのが、出来上がった素材を1本の映画に「編集」していくという工程なのです。
先ほども言ったように、映画というカルチャーの中で脚光を浴びるのは、やはり「監督」「脚本」「役者」といった目立つセクションです。
しかし、「編集」って映画において実は最も重要なセクションなのかもしれません。
「ファイナルカット」という言葉もありますが、撮影した素材を加工して、公開され観客が目にするものに落とし込むのは、「編集」の仕事だからです。
アカデミー賞でも、ここ10年間の作品賞受賞作品のラインナップを振り返ったときに、「編集賞」にノミネートされていない作品は1つだけなんですよね。
つまり、良い作品は良い編集に裏打ちされているというのは、ある種の共通認識なんですね。
そう考えると、『映画大好きポンポさん』という作品が、「編集」に主眼を置くというのは、「映画作り」を扱った作品として、邪道なのに最も核心を突いているとも言えるのです。
②「編集」の面白さや醍醐味を凝縮した映像作品に
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
ただ、本作がすごいのは単に物語として「編集」にスポットを当てたからだけではありません。
この『映画大好きポンポさん』という作品が映像編集の面白さや醍醐味を凝縮したような映像作品になっていることが素晴らしいのです。
あるシーンから次のシーンへと移り変わるいわゆる「トランジション」の部分に注目してみると、実に多様なエフェクトが用いられていることに気がつくと思います。
編集のテンポ感も自由自在で、じっくりと1つの構図で見せるシーンがあったかと思えば、次のシーンではいきなり高速でカットが切り替わっていくような編集に転じたりします。
つまり、本作は「編集」によって映画のリズムや緩急、スピード感を作り出しているんですよね。
また、面白いのは、冒頭のジーンが監督を務める映画「Meister」の制作がポンポさんの部屋で決定するシーンです。
ここまでジーン視点で物語を動かしてくるのですが、突然ポンポさん視点でこの脚本が完成するまでの経緯を描いていきます。
さらに主演女優を務めることとなるナタリーが部屋に入ってくると、今度は彼女の視点でここに至るまでの物語を描き直しました。
それは「編集」というものの醍醐味です。
ジーンにだけスポットを当てる物語であれば、彼に纏わる描写だけを彼の視点で描いていけば良いわけですから、それほど難しいわけではありません。
しかし、あの場面でジーンの物語の顛末を説明するために、ポンポさんとナタリーという2人の登場人物が介入し、彼らがあの部屋に集うまでの顛末を観客に知ってもらう必要が出てきました。
そのため、この映画は「編集」によって、過去軸においてジーンの物語を描く上ではカットされていた映像を繋いでいき、あの場所に3人が集った経緯を観客に説明するわけです。
どの映像をどんな見せ方でどれくらい見せれば、観客にその意味が伝わるのか。
そうした「編集」が映像作品を構築していくプロセスを『映画大好きポンポさん』は本編の中で、オンタイムで見せてくれているような趣があります。
このように、物語として「編集」に焦点を当てるだけでなく、作品としても「編集」の面白さや醍醐味を感じられるようなものにし、その融和性を高めた点が、本作の優れたポイントだと思いました。
ただ、『映画大好きポンポさん』がすごいのは、「編集」をテーマ性の部分にまで絡ませている点なんです。
③努力の結晶を「切る」エゴイストとしてのクリエイター
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
この手の王道のクリエイター讃歌って「足し算」「かけ算」によって何かを作り上げていくプロセスを見せるのが一般的だと思います。
記事の冒頭で取り上げた『SHIROBAKO』や『映像研には手を出すな!』といった作品も、基本的には、どんどんと仲間や協力者が増えていって「足し算」ないし「かけ算」式に創作物が完成していくという物語になっていました。
しかし、『映画大好きポンポさん』は「編集」にスポットを当てた作品であるために、最終的な作品の完成において「引き算」の要素を見せているのが特徴的です。
つまり、各セクションの努力と苦悩の結晶とも言える映像素材を公開用の映画に落とし込むために残酷にも「切って」いく必要があるんですね。
本作の主人公であるジーン・フィニはそうした「編集」のプロセスにおいて、多くの素材がどれも大切なものに思え、試行錯誤を繰り返します。
その中で、彼は映画を「編集する」ということは「自分の物語」を紡いでいくことと同義なのだと気がつかされるのです。
私は、本作の一連の顛末を見ていて、『GIANT KILLING』というサッカーマンガの中で語られていたストライカーの条件に関する言葉を思い出しました。
「そいつをチームのボールとわかったうえで自分のボールだと思い込める度胸がある…。 味方の想いを背負いきって自分のためにプレーできるか。それがエゴイスティックなFWとしての決心だよ。」
(『GIANT KILLING』第8巻より引用)
『映画大好きポンポさん』が描いた映画を作るないし「編集」することの覚悟ってまさしくこの言葉に通じるところがあるように思います。
つまり、「編集する」とは,「自分の映画を作る」とは、「エゴイストになる」ことなんですよね。
そもそも「Meister」という作品は、ポンポさんが1人の少女を見たことに着想を得てあて書きされた脚本です。
そのため、ポンポさんの物語でもありますし、主演を務めるナタリーの物語でもあるというのは、当然のことですよね。
しかし、ジーンは自分の映画を作る過程で、こうしたことを意識してしまい、「誰かの物語」を意識してしまい、客観的な視点で「編集」しようとするんです。
そんな彼が「編集」を仕上げることができたのは、「Meister」が携わったスタッフ全員の物語であると自負した上で、それを「自分の物語」だと思い込むことができたからなんですよね。
そして、その表れとして描かれたのが、ジーンが「追加撮影」を要求する場面です。
彼が「追加撮影」したかったのは、「Meister」を自分の物語として完成させるうえで足りなかったシーンでした。
そこで映画制作のコストの問題も発生してくるのですが、それすらも飲み込んで「エゴイスト」に徹するジーン。それこそが本作の描いたクリエイターとしての覚悟なんですよ。
「編集」という各セクションのスタッフたちの努力と苦悩の結晶を「切る」という「引き算」のプロセスを持ち込むことで、王道でありながら異色なクリエイター讃歌に仕上がっていました。
④魅力的な劇伴音楽と挿入歌
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
そして、本作の魅力的な物語を下支えするのが、軽快でかつアップテンポなロックを基調とした本作の劇伴音楽や挿入歌たちです。
まず、劇伴音楽を手掛けたのは、音楽制作プロダクションのSCRAMBLESです。
SCRAMBLESは松隈ケンタさんを代表に据えた音楽クリエイター集団ですが、主に渡辺淳之介さんが代表を務めるWACKのアイドルグループに楽曲を提供しています。
松隈ケンタさんは元々Buzz72+のギタリストとして名を馳せた人物ですが、現在は作曲家としてもその実力を遺憾なく発揮しています。
WACKのアイドルグループに提供している楽曲を見ても、王道のロックチューンから、オルタナティブロック、パンクロック、メロコア、EDMなど多岐にわたるジャンルを網羅的に制作しているんですよね。
そうした音楽性の幅の広さを提供できるのは、SCRAMBLESがチームで音楽を作っているからという体制的な側面にも起因します。
映画の劇伴音楽は、物語の移り変わりに対応できる引き出しの多さと柔軟性が求められます。
今回SCRAMBLESないし松隈ケンタさんは、十八番とも言えるロック調の楽曲を全面に活かしつつも、そこに様々なバリエーションを与えています。
彼が自身のYouTubeチャンネルで、シーンに合わせるために楽曲を細かく調整したことや、物語の動き出しに楽曲の転調や盛り上がりをピタッと一致させるための工夫をしたと語っていました。
そうした物語やアニメーションを引き立てるための細かな工夫が今作の劇伴音楽には散見されます。
加えて、劇伴音楽を手掛けたのは、これまた同じくYouTubeを中心に活動を展開する音楽クリエイター集団のKAMITSUBAKI STUDIOです。
花譜の『例えば』は物語の世界が一気に広がっていくような始まりの躍動感に満ちた楽曲でした。
一方で、EMAの『反逆者の僕ら』はまた違った色の楽曲で、少ししっとりと歌詞の持つメッセージ性を届けてくれるような楽曲になっています。
そして、エンドロールで使われたCielの『窓を開けて』は、エンドロールで使われていましたが、まさしく映画のフィナーレにふさわしい1曲でした。
キャラクターたち、映画に携わった人たち、そしてこの映画を見た人たち全員の背中を押してくれるような歌詞とメロディに心を打たれましたね。
こうした映像を支える音楽面での強いバックアップが『映画大好きポンポさん』という作品が、多くの人の心を動かす作品になるために欠かせないものだったんだと思います。
⑤メタ映画としての面白さ
(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/ 映画大好きポンポさん製作委員会
最後に触れておきたいのは、本作がメタ的な面白さを持っている点です。
そもそもこの『映画大好きポンポさん』は、杉谷庄吾【人間プラモ】がpixivにアップしたマンガから始まったコンテンツです。
そんなマンガが一気に話題になり、映画化にまで至ったというある種のシンデレラストーリーですよね。
『映画大好きポンポさん』の主人公であるジーンは、原作者の杉谷庄吾【人間プラモ】の分身のように描かれています。
そういう意味でも、劇中でジーンが「Meister」という作品を作り上げていき、多くの喝采を浴びるという流れは、作者がこの作品を作り上げ、それが映画になるという流れに通じているんです。
だからこそ、本作の「映画の中に自分自身を見出せ」というメッセージ性は、すごく多層的に解釈できるものになっているんですよね。
原作者にとっても、映画の制作に関わったスタッフにとっても、そして映画のキャラクターたち、ひいては映画を見ている観客にとっても『映画大好きポンポさん』が「自分の映画」になっていく。
それこそが、本作が多くの人を惹きつける最大の魅力なのでしょう。
劇中映画の「Mesiter」についてジーンが気に入っているところは「90分で終わるところ」と言いますが、『映画大好きポンポさん』そのものもちょうど90分で終わります。
こうしたメタ的な巧さは映画の随所に散見されますので、ぜひ注目してください。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は『映画大好きポンポさん』についてお話してきました。
王道の熱さもありつつ、ユニークな面白さもある最高の映画です!
改めて書きますが、今すぐこの映画を見に行って欲しいです。
映画を愛する、物語を愛する、そして何かを作ることを愛する全ての人に届いて欲しい素晴らしい映画だと思います。
加えて、映像面でもすごく見応えがあるので、スクリーン映えする映画です。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。