みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『聖地X』についてお話していこうと思います。
みなさん。まずはこの予告編を見て欲しいんです。
まず、一際目を引くのが「オール韓国ロケ」「驚愕のエクストリームホラー」という文字列でしょう。
(C)2021「聖地X」製作委員会
「エクストリーム」という言葉には、「過激」「極限」といった意味がありますので、今作がホラーとしてかなりハードで攻めた内容になっていることを伺わせます。
この予告編はそうしたイメージを与えるには十分な作りで、本編から過激なシーンや不可解なシーンを上手に切り出し、バラバラにパッチワークすることで不気味さを演出していました。
しかし、本編を見終わった今、感じているのは、恐怖感で言うならば明らかに予告編がピークであるということです。
じゃあ『聖地X』は面白くないってことじゃんと思った方、もう少し待ってください。
個人的にはむしろその逆で、この映画は予告編が煽っていたような「エクストリームホラー」からは程遠いんですが、とにかく珍妙で笑える、オカルトコメディのような趣があります。
予告編で「怖っ!」と感じていたシーンでさえも本編の中で見ると、大爆笑の対象になってしまうくらいで、逆にあの本編からこれだけホラー風な予告編を作った編集マンがすげえよと思ってしまうくらいでした。
例えば、予告編で不気味さが強調されていた岡田将生さんが鏡に向かって不敵な笑みを浮かべるシーンですが、これ本編で見ると、全然印象が違うシーンです。
(C)2021「聖地X」製作委員会
予告編を見た時点では、鏡の中の像が自分と分離して動き始めたとか、岡田将生さん演じるキャラクターが気が狂い始めたとか、いろいろ想像しちゃうじゃないですか?
でも、本編だとこのシーンは「傷心の妹を元気づけようとするお兄ちゃんが妹の部屋に入る前に笑顔の練習をしている」という文脈で、恐怖とは程遠いシチュエーションなのです。
明らかに『樹海村』のポスターを意識して作られたであろう『聖地X』のポスターですが、ホラー映画というよりは作品のテイストや物語からも「世にも奇妙な物語」とかそっち系だよねと思いました。
ですので、そういったいわゆる「べろべろばあ」方式の正統派ホラーというよりは、オカルト映画を見に行くという感覚で見に行くと、ハマるんじゃないかなと。
ただ、最初にも書きましたが、とにかく描写や設定、物語のあらゆる要素が珍妙で、とにかく最初から最後まで腹筋が壊れるくらいに「笑える」内容なので、いろんな意味で事前の期待は裏切ってくれるはずです。
では、ここからはネタバレになるような内容には言及せず、もう少しだけ掘り下げて作品について語ってみようと思います。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
映画『聖地X』感想・解説
「オール韓国ロケ」の最も贅沢な使い方
みなさんは「オール韓国ロケ」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか。どんな日本映画をイメージするでしょうか。
映画ファンの皆さんは、おそらく『聖地X』が「オール韓国ロケ」と謳っているのを見ると、大規模なアクションシーンや日本では撮影できないVFXやセットに頼らない実際の建物を使ったアクションシーンなんかを想像するのではないでしょうか。
本作にこうしたイメージを持ってしまう背景には、おおよそ2つの伏線があります。
まず1つ目が『アイアムアヒーロー』というマンガ原作のゾンビ映画の存在です。
この映画では、公道を使ったアクションシーンが多く、日本では撮影が難しい、あるいは予算がかかりすぎてしまうという判断になり、韓国の建設中のハイウェイを使ってカーアクションを撮影しました。
日本では、どうしても公道での撮影許可が下りづらく、降りたとしてもかなり区画が限定されたり、演出等に制約もあったりして、自由に撮れない状況になってしまいます。
そのため韓国ロケを敢行することで、より自由でダイナミックなカーアクションを実現できるだろうと考えたわけですね。
こうした前例があるわけですから、何となく心のどこかで「韓国ロケは日本では取りづらい大規模アクションを実現するための手段」なのだろうと想像するのも無理はありません。
そして、2つ目の伏線が本作が入江悠監督作品であるということです。
入江悠監督は2020年公開の『AI崩壊』で大掛かりなセットを組み、車が上から突然落ちてくるといったダイナミックなアクションシーンをVFXに頼らず撮影したことでも話題になりました。
ただ、この時は日本で撮影したので、道路を封鎖というわけにもいかず、代わりに大きな貨物船を貸し切り、そこにセットを組んで撮影したそうです。
こうした過去があるからこそ、入江悠監督作品で「オール韓国ロケ」ということはリミッターなしの極限のアクションシーンが見られるのではないかと期待する方も少なくないのではと思います。
しかし、こうした事前の予想や想定は、本編を見るとものの見事に全てひっくり返ります。
というのも、この『聖地X』は、物語の舞台の大半が別荘と居酒屋なので、そもそも韓国の街に繰り出したり、アクションを繰り広げるようなシーンは皆無なんですよね。
しかもキャストのほとんどは日本人で、物語の舞台となる居酒屋も「和食居酒屋」ということで、もはや「日本で撮れよ!」要素が役満状態なのです(笑)
ただ、ここまで韓国ロケである必要性が薄い映画を、あえて「オール韓国ロケ」で撮るというアプローチがそもそもぶっ飛んでいて面白いと個人的には思います。
韓国のラジオ体操的な謎エクササイズが登場したり、謎の韓国祈祷師が登場したりと、何とも言えないところで「韓国味」を出してくるその珍妙さに私は惚れましたし、そのためだけに韓国を舞台に選んだのか!と思うと、妙に愛着が沸く映画です。
トータルテンボスの大村が藤田に向けて言う「愛くるしいなぁ~お前は。」的な感じですね。
こういう私たちの期待していたところから斜め上の方向で、韓国ロケだからこその要素を見せてくる『聖地X』の面白さをぜひ体験して欲しいと思っております。
観客を笑わせに来ているとしか思えない珍妙さ
記事の冒頭で、本作の予告編は、本編では笑えるシーンを妙にホラーチックに切り貼りしている実に秀逸な映像作品であるというお話をしましたが、これは本当にその通りです。
まず、予告編の中にインサートされていたこのシーンに注目してみてください。
(C)2021「聖地X」製作委員会
彼女は何者かに操られて踊らされているのか、それとも気が狂ってしまったのか…いったいどういうことなんだ!?と想像が膨らみますよね。
でも、このシーンは本編を見ていただけるとわかりますが、本当に朝の体操をしているだけのシーンなんですよ。
いや、だから川口春奈さんが朝の体操をしているところを微笑ましく見守るだけのシーンなんです。
本当にそれだけですし、しかも踊っているメロディがEDMのような「プンプンプーン」なノリで、思わず笑ってしまいそうになりますし、なぜかこのエクササイズ、映画の中で何回か出てくるんですよ(笑)
この一件だけでも、本作がいかに「珍妙な」作品であるかをお分かりいただけたと思うのですが、そういう瞬間が『聖地X』を見ていると、山ほどあります。
他にも予告編でオカルトホラー臭を強調していた韓国祈祷師のシーンですが、これも不気味で怖いというよりは完全にコメディに振り切っていて、私自身も笑いすぎて腹筋がおかしくなりそうでした。
(C)2021「聖地X」製作委員会
だって、祈祷師のおじさんが真面目な顔で踊り狂いながら、豚の頭にナイフを突き立てまくるんですよ?
主人公たちは、呪いを払おうとしているわけで、いたって真剣なのに、やってきた祈禱師のお祓いの仕方があまりにも前衛的過ぎて、そのギャップが面白すぎるのです。
しかも、ものすごい速さで「ダメだ!祓えない!」とか言って帰宅していきますからね。こんなん笑うでしょ。
ここで取り上げた2つのシーンは、本当に「氷山の一角」に過ぎず、本編を見ると、もっと笑えるぶっ飛んだシーンの連続です。
「エクストリームホラー」を見に行ったはずが、世にも奇妙な物語的な「オカルトビデオ」を見ていることに気がつき、でも、あまりにも笑えすぎるので最終的には吉本新喜劇でも見ているかのような感覚に陥るという予告編映像からは想像もつかない映像体験gなあなたを待っています。
とは言え「記憶」を巡るテーマ性は素晴らしい!
(C)2021「聖地X」製作委員会
ここまで本作『聖地X』の「珍妙な」ところにばかりスポットを当ててしまったので、最後に少しだけ真面目なことも書きます。
本記事を読んでくださった方は、「結局これは何の映画やねん!」とツッコミを入れたくなったことでしょう。
この『聖地X』の根幹にあるもの、つまりテーマはズバリ「記憶」です。
容姿なのか、名前なのか、国籍なのか、性別なのか、あるいはそれらを複合的に掛け合わせて判断するのか。
結構難しいところだと思うんですが、「記憶」って実はその人をその人たらしめる重要な要素だと思いませんか?
自分と全く同じ容姿、声、性格の人間が出てきて、どっちが本物?みたいな問いが生じたときに、自分とその人しか知らない「記憶」を問うて、判別するというような描写は映画やアニメでよくありますよね。
こういう描写が成立するのは、私たちが「記憶」というものを重要視していて、それがその人を構築するとても重要な要素だと認識しているからに他なりません。
入江悠監督は、そうした「記憶」と人間の結びつき方に本作『聖地X』を通じて問いを投げかけます。
「記憶」を失ってしまえば、その人はその人でなくなってしまうのか。あるいは「記憶」を失えば、人間は別人に生まれ変わることができるのだろうか。
『聖地X』は、こうした「私が私である所以」「あなたがあなたである所以」を探るような主題性を、オカルトテイストな設定の中に見事に落とし込んであるのです。
こうした問いを巡って、川口春奈さん演じる主人公の要が出す結論も素晴らしいと思いましたし、かなり本質を突いた内容になっていると思います。
ビジュアル的、演出的なファニーさとは裏腹にその主題性は芯食ったものになっているというギャップこそが、入江監督らしさと言えるのかもしれません。
言い換えれば、主題性の土台がしっかりしているからこそ、表層的な部分でぶっ飛んだことをやっていても、作品の強度が落ちないわけですよ。
ぜひ、こうした人間とは?という主題に対する深い言及も含めて、みなさんにご覧になっていただきたい1本かなと思います。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『聖地X』についてお話してきました。
いわゆる「オカルトホラー」を期待して見に行くと、肩透かしを食らう可能性は高いですが、「世にも奇妙な物語」的な身近で本当に起きそうで、ちょっと不気味でだけどクスッと笑える話みたいなのが好きな方にはたまらない作品だと思います。
撮影や演出も含めて、ソリッドに作りこむことよりは、肩の力を抜いた作りになっていて、そこも妙に映像や描かれている出来事に親近感や愛着が湧いてきて好きでしたね。
私自身も予告編から期待していたものとは、180度違う作品ではあったんですが、これはこれで面白いじゃん!と思いましたし、最初から最後まで笑わせてもらったので、大満足です。
とりあえず、本編には何の関係もない川口春奈さんのEDM風謎エクササイズはぜひ見ておいていただきたいです(笑)
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。