みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね吉田恵輔監督最新作の映画「犬猿」についてお話していこうと思います。
(C)2018「犬猿」製作委員会 映画「犬猿」予告編より引用
あっ、これは映画「恋する君のとなりには」の画像でした!!映画冒頭のあれ、笑いました。
本作は冒頭からいきなり目が離せません!!(笑)
吉田恵輔監督の作品ということで、非常に楽しみにしておりましたが、兄弟姉妹の独特の空気感をここまで見事に映像に落とし込んだのは、すごいことだと思います。
そんな本作の魅力について今回はお話していきますよ。
本編の展開に関わるネタバレを核心に触れない程度に含む記事となります。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
映画『犬猿』
あらすじ・概要
「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔が4年ぶりにオリジナル脚本でメガホンをとり、見た目も性格も正反対な兄弟と姉妹を主人公に描いた人間ドラマ。
印刷会社の営業マンとして働く真面目な青年・金山和成は、乱暴でトラブルばかり起こす兄・卓司の存在を恐れていた。そんな和成に思いを寄せる幾野由利亜は、容姿は悪いが仕事ができ、家業の印刷工場をテキパキと切り盛りしている。
一方、由利亜の妹・真子は美人だけど要領が悪く、印刷工場を手伝いながら芸能活動に励んでいる。
そんな相性の悪い2組の兄弟姉妹が、それまで互いに対して抱えてきた複雑な感情をついに爆発させ……。
和成役を「東京喰種 トーキョーグール」の窪田正孝、卓司役を「百円の恋」の新井浩文、由利亜役をお笑いコンビ「ニッチェ」の江上敬子、真子役を「闇金ウシジマくん Part3」の筧美和子がそれぞれ演じる。
(映画com.より引用)
予告編
映画『犬猿』感想・解説(ネタバレあり)
嫌よ嫌よも好きの内・・・じゃねえんだよ!!
(C)2018「犬猿」製作委員会 映画「犬猿」予告編より引用
兄、弟、姉、妹がいる方に聞いてみたいのですが、皆さんは自分の兄弟姉妹が好きですか?それとも嫌いですか?
この質問って聞いていることはすごくシンプルですが、答えるのがすごく難しいと思うんです。
かくいう私も妹が1人いるのですが、彼女をどう思っているか?という質問を好きか嫌いかの二元論で簡単に割り切ることなんてできやしません。
妹のこと好きなんでしょ?→いや好きではないかな。
じゃあ妹のこと嫌いなんだ?→いや嫌いじゃないよ。
すごく言語化するのが難しくて、簡単に結論を出せない、そういうものだと思っております。
兄弟の関係って本でも映画でもしばしば取り上げられる題材なんですが、この複雑さを実は言語化したり、可視化したりすることが難しいんです。
仲が悪い兄弟姉妹。でも嫌よ嫌よも好きの内。本当は心の中では大切に思ってるの。
そうじゃないんですよ。
別に嫌いじゃないんです。
そして好きでもないんです。
心の中では正直、そこまで大切に思ってないです(笑)
ただ、一緒にいると、気が許せて何でも話せてしまう、
そんな時もあれば、心の底からイライラして思わず強く物言いしてしまう。
口もききたくない、あんな奴いなければ良かったのになんて考える。
でも、多分あいつが困った時に、助けるためならどんなことでもしてやるとは思う。
(C)2018「犬猿」製作委員会 映画「犬猿」予告編より引用
こういう感情って「好き」とか「嫌い」とか「愛」とか「憎しみ」といった一般的な感情を表現する言葉には当てはめれやしないんです。だからこそその不確定要素に満ち満ちた感情を言葉にしたり、映像にしたりするのはとても難しいのです。
ですので、フィクションの中で登場する「嫌よ嫌よも好きの内」方式で描かれた美談的な兄弟の関係性って、ほとんどが反吐が出るほどに嫌いで、共感できないんです。
そんなんじゃねえんだって叫びたくなってしまうんですよ。
そういう他人に伝えることが難しい兄弟姉妹の間に存在するアンビギャスな「感じ」を本作「犬猿」はこの上なく上手く表現しています。
この映画でいきなり私の心を鷲掴みにしたのが、スマートフォンの着信画面です。
和成のスマートフォンには自分の兄の電話番号が名前である「卓司」ではなくて、「兄」で登録されているんですね。
このワンカットのリアリティって凄いですよ。劇中で和成は卓司のことを「兄ちゃん」と呼んでいました。
でもスマートフォンには「兄ちゃん」とは登録されていませんし、ましてや名前でも登録されていません。ただ「兄」なんです。
自分も妹のことを「妹!」なんて呼びませんが(下の子のことを弟・妹で呼称することはまれだが)、スマートフォンを見てみると連絡先が「妹」で登録されています。
自分の友人の男性で姉がいる人がいるのですが、彼がスマートフォンの連絡先に「姉」と登録しているのを着信が入った際に偶然見てしまったんです。でも電話の話しぶりを聞いてみると、名前で呼んでいたんです。
何と言いますか、「これで分かるからいいや!」くらいの気持ちで、最低ラインでの呼称で登録してしまっているんですよね。
積極的に連絡することもないし、向こうから頻繁に連絡があるわけでもありません。そのためあくまでも「自分との関係性」で登録してしまうんです。
どうでも良くて、でも他の人とは区別しておきたいという矛盾した感情が些細なことまで反映されるんですよ。
そんな微妙で、微細な感情の表出たるスマートフォンの着信画面が冒頭にいきなり登場した時点で、本作が描く兄弟姉妹描写は一味違うんだぞと思わせてくれました。
もう一つ心を鷲掴みにされたシーンがあります。
それは、予告編でも登場する和成と真子が遊園地に行ってお互いの兄弟について話すシーンです。
このシーンを見ながら、もう自分の中で共感の嵐が巻き起こっておりました。
和成は自分の兄についてさんざん悪口を言うんです。一方の真子も自分の姉についてさんざん悪態をつきます。
しかし、その後に和成が真子の姉の悪口を、真子が和成の兄の悪口を言い始めると状況が一変します。それぞれが自分の兄を、姉を庇い始めて、相手が罵ったことに対して強く反論するんです。
もうこれ兄弟姉妹がいる人で経験していない人はいないんじゃないか?というくらいに、誰もが経験したことのある感情なんです。自分の兄弟姉妹を自分で罵るのは、全然構わないんです。ただ、人から言われるとなると話は別で、全然許容できないんです。本当に不思議ですよね。
好きじゃない、好きじゃないと言っておいて、他人からそうだよな~と共感的なことを言われ始めると、でも嫌いじゃない、嫌いじゃないと反論してしまうんです。こんな相反する感情が他にありますか?
こういう何気ないシーンでの兄弟姉妹の関係性の描き方が非常にハイレベルで、その積み重ねが1つの映画になって兄弟姉妹を持つ全ての人が共感できる作品になったのではないかと思いました。
嫌よ嫌よも好きの内だぁ?兄弟姉妹の関係をそんな簡単な言葉で割り切るんじゃあねえぜ!!
ベビースターラーメンとチャーハン
(C)2018「犬猿」製作委員会 映画「犬猿」予告編より引用
劇中で和成の部屋で、由利亜が作ったチャーハンを卓司が食べるシーンがあるんです。
その時に偶然ベビースターラーメンがチャーハンに入るんですよ。そしたらこれが意外に合って美味しいという流れになりました。
このシーンって実はすごく重要なんですよね。
とりわけこのシーンで重要なのは、ベビースターラーメン入りチャーハンを食べているのが本作における長男・長女組だという点です。
長男と長女っていわばこの不思議な料理におけるチャーハンの方なんですよね。先に生まれたがために、弟妹がいないことが普通だった時間が少なからず存在するんです。
ただその後に弟妹が生まれてくると、最初は不思議な違和感がありつつも、自然に当たり前の存在に変わっていくんです。まるでチャーハンにベビースターラーメンが馴染むがごとくです。
不必要だ!と言ってしまえば、それまでなんですが、一度経験してしまうとそうはいかなくて、何だかんだ居てくれた方が落ち着く。でもやっぱり居ない方が良いなんて考えたりもして・・・。
やっぱりここにも割り切れない思いがあるんですよね。
マッサージチェアと座椅子
兄弟姉妹ってお互いがお互いに相手を超えてやろう、相手より優れた存在になってやろうと変な対抗心を持っているんです。
まず兄、姉は常に自分の弟、妹よりも優れたお手本的な存在でいたいと願う傾向があると思います。
私自身もそうです。何とかして下の子からは尊敬される存在でいたい、お手本とされる存在でいたいと考えてしまいます。
一方で弟、妹は常に兄、姉を超える存在になりたいと願うものです。
不出来な兄姉であれば、何とか自分がしっかりした人間になろうとしますし、出来る兄姉を持てば、嫉妬して何とかして彼らを超えようと試みます。
本作「犬猿」を見てみると、実にその様子が上手く反映されています。
両親に高級マッサージチェアを贈るも、弟の座椅子に嫉妬する兄。堅実に生きようとするも、高級車に憧れを覚える弟。仕事も勉強もできるが容姿が優れない姉。仕事も勉強もできないが容姿が優れた妹。
お互いにお互いが負けられない。兄弟とは一種のライバルなんです。
あいつとは違うから・・・。
(C)2018「犬猿」製作委員会 映画「犬猿」予告編より引用
あいつと自分は全然違う人間だから。
兄弟姉妹を持つ人が誰しも一度は言ったことがあるセリフではないでしょうか?かくいう自分も何度も言ってきました。でもこのセリフって面白いことに全然的外れなんですよね。
というのも兄弟姉妹って結局どこか似通ってるんです。全然違う人間性だなんて言っても、同じ血が通っているわけですから、結局似てしまうんです。
パジャマで家でゴロゴロして家事手伝いもしないだらしない妹。
そんな妹を見ながら、自分は仕事も家事もバリバリこなせる出来た人間だという自負を持っている姉。
しかし、夜仕事をしながらおかきを貪ってしまいます。
部屋でダラダラと過ごし、煙草を吹かす兄。禁煙することで自分は兄とは違うんだということを証明しようとした弟。しかし、気がつくと煙草を吸ってしまう自分がいました。
本作では、何気ないところに共通の仕草が表現され、兄弟姉妹の口では否定しているけど、似てるところありますよ感がしっかりと出ているんですよ。
あいつとは全然違うから・・・。なんてよく言いますけど、結構似てますから(笑)
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『犬猿』についてお話してきました。
とりあえず兄弟姉妹がいる方にはぜひぜひ見ていただきたい作品ですね。とにかく106分間の本編が共感共感の連続です。
そして兄弟姉妹の関係性の中に内包された言語化するのが難しい、相反する複雑な感情を見事に映像に落とし込んでいることに感激すること間違いなしです。
嫌よ嫌よも好きの内じゃねえんだ!!
嫌いなんだ!
でも好きなんだ!
いや嫌いじゃないけどね!
いや好きでもないけどね!
好き嫌いの二元論では語れないこの複雑な思いをぜひぜひこの映画からぜひとも感じ取っていただきたいと思います!
(C)2018「犬猿」製作委員会 映画「犬猿」予告編より引用
演技がめちゃくちゃ巧いというわけではないのですが、それだけに彼女自身の女優としてのキャリアが今作の役に重なる部分もあり、はまり役だったと思います。
今後とも、演技を磨いて、もっと活躍できる女優になれるんじゃないかな~と楽しみにしておりますよ。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
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