アイキャッチ画像:©2016 K Films manchester LLC from “Manchester by the Sea” trailer
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『マンチェスターバイザシー』についてお話していこうと思います。
良かったら最後までお付き合いください。
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最後の引き金を引くその前に
すべてを失った男は、警察官の腰元のホルスターから拳銃を抜き取り、自らの生涯に終止符を打たんとする。しかし周囲の人に制止され、彼は死んだように生きることとなる。誰にも裁かれることなく、自ら罰を課し続ける。心に自分の手で突き付けた「拳銃」の引き金を引く勇気もないままに。
「死」を巡る1人の男のドラマは実に悲哀に満ちたものである。想像を絶する悲劇を経験し、誰にも赦されない罪を抱え込んだその男は、全てを失い、誰にも頼ることができず、自らに罰を課すかのように廃れた生活を送っている。便利屋の肩書は、罪滅ぼしのために、「赦し」を得るためならば何でもするという男の苦しみの象徴なのかもしれない。
そんな彼の死を引き留めていたのは、彼に「拳銃」を引かせなかったのは、言うまでもなく兄のジョーだった。そのジョーが死んだ。リーはジョーの死を契機に、自分に突き付けた「拳銃」の引き金を引こうとしていたのであろうか?それを見越したジョーは、リーをパトリックの後見人に抜擢する。
©2016 K Films manchester LLC from “Manchester by the Sea” trailer
パトリックとの生活の中でなんとか前を向こうとする日々。しかし、彼の心に巣食う罪はあまりにも大きすぎる。「乗り越えられないんだ。」という悲痛な叫び。それでも小さな光を救い取り、少しずつ前に進もうとする無骨なリーの姿にこの映画の「優しさ」を感じるばかりである。
現代を生きる我々がこの映画から学ぶべきは「弱さの肯定」なのではないだろうか。現代社会において、特に日本社会において国民的課題の一つとなっているのが「自殺」である。日本の自殺率は世界的に見ても高水準で、なんとワースト6位。年間2万人以上が自らその命を絶つという事態なのである。
「自殺」を選択してしまうことを弱いと考える人が多いように思うが、私はそうは思わない。むしろ「自殺」を選択してしまう人は「弱さ」を肯定できないゆえに、自分の心に抱え込んだ重荷に耐えかねて潰れてしまうのではないかと考えている。
本作「マンチェスターバイザシー」においてリーとパトリックは対照的に描かれている。リーは一連の悲劇を契機として、人との繋がりを喪失してしまう。
一方で、パトリックは父親の死に際して、支えてくれる友人や周囲の人々の存在があった。それ故に、リーは「弱さ」を見せる相手もおらず、ただ一人、虚勢を張りその苦しみを抱え続けるのだ。
一方で、パトリックは自身の「弱さ」を受け入れてくれる人々の存在があったことで、父親の死を乗り越えていく。
自身の内面に抱え込んだ苦しみや悩みそれを表に出さずに、耐えて耐えて頑張るというところに日本人の美学があるのかもしれない。確かにそれが「強さ」であることは間違いない。しかしながら、あいにく人間の心というものはそんなに頑丈には作られていない。取り繕ったメッキの内側で、心はボロボロと崩れてしまうのである。そして自分で何とかしなければならない、変わらなければならないと思い詰めて、自分自身の「弱さ」を肯定できずに、最後の引き金を引いてしまうのである。
映画「マンチェスターバイザシー」はそんな「弱さ」を肯定してくれる優しい映画なのである。無理に変わる必要はないし、一人で抱え込む必要はない。自らの心に巣食った問題は、自分だけで解決するものではなく、人との関わりの中で少しずづ紐解いていくものだということを示してくれている。
最後まで虚勢を張り、「強く」あろうとし続けて最後の引き金を引いてしまうことがあってはならない。人間は「強く」あろうとする必要なんてないのだ。すぐに変わろうとする必要はないし、顔を上げれば、あなたの「弱さ」を受け入れてくれる人たちが必ずいるはずである。
春になり雪が解けたマンチェスターバイザシーの風景は苦しみ、悩み、罪、自分自身が抱え込んだ何もかもを受け入れてくれるような印象を与える。
©2016 K Films manchester LLC from “Manchester by the Sea” trailer
そんな美しい風景が散りばめられたエンドロールを見ながら、言葉にできない安心感と自己肯定感を感じ、劇場を後にする足取りは軽い。
おわりに
個人的にこういう静かに訴えかけてくるような人間ドラマが大好物ですね。演出や演技は極限までドライで、淡々としているんですがだからこそ生まれる感動があると思うんです。
映画『マンチェスターバイザシー』はその点で本当にハイレベルな映画でした。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
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