【ネタバレ感想・解説】映画「あなた、そこにいてくれますか」:良くも悪くも韓国映画らしい作品

アイキャッチ画像:(C)2016 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね、映画「あなた、そこにいてくれますか」について語っていきたいと思います。

良かったら最後までお付き合いください。

スポンサードリンク




あらすじ・概要

 フランスの作家ギヨーム・ミュッソのベストセラー小説「時空を超えて」を韓国で実写映画化。医療ボランティアでカンボジアを訪れた医師スヒョンは、子どもの手術をしたお礼として、願いをかなえてくれるという10錠の薬をもらう。スヒョンの願いは、30年前に亡くなった恋人ヨナにもう一度会うこと。半信半疑で薬を飲んだスヒョンだったが、本当に1985年にタイムスリップし、過去の自分と出会う。ヨナの死を知った若きスヒョンはヨナを助けたいと願うが、ヨナとの未来を選べば、彼女の死から10年後に誕生するはずの娘が存在しないことになってしまう。過去と現在、2人のスヒョンは、葛藤の末にある決断を下す。「チェイサー」などの実力派俳優キム・ユンソクと、テレビドラマ「ミセン 未生」の若手俳優ピョン・ヨハンが、過去と現在の主人公スヒョンを2人1役で演じた。監督は「キッチン 3人のレシピ」のホン・ジヨン。(映画com.より引用)

予告編

タイムトラベルについて

映画というメディアにおいて、「タイムトラベル」という題材はもう手垢がつきまくった、使い古されたと言えるでしょう。それくらいに「タイムトラベル」を扱った作品は数多く存在しています。

もっとも有名なのは、やはり「バックトゥザフューチャー」ですよね。過去にタイムトラベルしてしまった主人公マーティが何とかして現在に戻ろうとする物語を描いています。この作品でも、過去を変えることで現在が変化してしまうという問題が大きく取り扱われています。

 



日本でも同時期に、SF小説「時をかける少女」が映画化されました。これも和子と一夫という2人の主人公がそれぞれ自分たちの「現在」から過去に戻って、自分の目的や思いを遂げようとする物語でした。

時をかける少女 角川映画 THE BEST [DVD]
原田知世
KADOKAWA / 角川書店
2016-01-29

 

そしてどちらの作品でも「タイムパラドックス」つまりタイムスリップによる矛盾が生じないように、というのが暗黙の作品ルールになっています。

この頃から、海外でも日本でも「タイムスリップ」という題材はポピュラーなものになり、後続作品が多く登場したと言っても過言ではないでしょう。

今作「あなた、そこにいてくれますか」は2000年代初頭にフランスの作家によって世に送り出された作品「時空を超えて」を原作にした映画です。

肺がんで死が迫る医師スヒョンは、過去に人生の全てと評するほどにまで愛した一人の女性のことがどうしても忘れられません。そんな時にカンボジアで出会った一人の男性から過去に戻ることができる錠剤をもらいます。

2017-10-14-21-04-38
(C)2016 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. 映画「あなた、そこにいてくれますか」予告編より引用

そんな今作のタイムトラベルの作品内ルールは以下のようになっています。

  1. 錠剤を飲んで睡眠に入ればタイムトラベルが発動する。
  2. 一度のタイムトラベルは20分ほどで終了する。
  3. 自分の思った場所、時間にトラベルすることができる。
  4. 錠剤は10錠。

これと言って突飛な設定は無いですよね。時間は限られていますが、場所と時間は自由自在ということですので、「タイムトラベル」ものとしては比較的イージーかと思います。

また「過去へのタイムトラベル」というものはある意味で、すごく映画的なんですよね。

皆さんは、「アバウトタイム」という映画作品をご存知でしょうか?

アバウト・タイム~愛おしい時間について~ [Blu-ray]
ドーナル・グリーソン
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2015-11-06

 

この作品って映画の魅力そのものを「タイムトラベル」という題材を媒介として伝えてくれる映画だと思うんですね。

映画というものは大元を辿れば、映像の記録なんです。リュミエール兄弟が世に送り出したのは、人々の日常の切り取りであり、一瞬の保存だったわけです。工場の出口から出てくる人々映像を淡々と撮影した映画なんかは有名です。これもまさしく失われゆく時間の保存なんですね。

 つまり、映画を見るという行為は、そもそも保存された過去の一瞬の追体験とその繰り返しという意義を孕んでいたわけです。これは疑似的に現在から「過去」へと「タイムトラベル」することをも意味しているわけです。

今自分がいる場所から隔離されて、映画の中に映し出される「過去」の一瞬に何度でも身を置くことができるのです。

映画「アバウトタイム」では、主人公が「タイムトラベル」を使って、自分が過ごした何気ない1日を繰り返して、一度目には気がつけなかった日々の魅力を見出していくというところに物語が帰結します。これはまさに映画本来の意義に通ずるものなんですよね。

「過去」を何度も体験することで、その魅力に気がついていく。映画というメディアは「過去」を何度も疑似的に追体験することで、そこに隠された魅力を見つけ出していくものですからね。

 ある意味で、映画というものは本来疑似的な「タイムトラベル」を可能にするデバイスだったわけです。

そう考えると、映画というメディアと「タイムトラベル」という題材はすごく相性が良いのかもしれません。

本作「あなた、そこにいてくれますか」も「過去」や「現在」を行き来しながら、人生というものの魅力、命の尊さ、友人の大切さ、愛の美しさ・・・一度では気がつくことができなかった自分の人生に秘められた魅力を見出していく作品です。

王道ではありますし、タイムパラドックスの観点から見ると矛盾も孕んでいますが、「タイムトラベル」というツールの特性を深く理解して作られたことがうかがえる良作だと思いました。

「そこにいるあなた」の尊さ

私は、本作の主題というのは「そこにいるあなた」の尊さを「現在」のスヒョンと「過去」のスヒョンから描き分けることで表現することだったのではないかと思うのです。

 「過去」の、30年前のスヒョンにとっては、ヨナという恋人は人生の全てと評するほどに大きな存在だったんですね。彼女を失っては生きられない、そう考えていたわけです。

2017-10-14-20-55-55
(C)2016 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. 映画「あなた、そこにいてくれますか」予告編より引用

 一方で「現在」のスヒョンは、そんなヨナがいない世界を長い間生きてきたのです。そして自分の娘であるスアが彼の人生の中心になっていました。

2017-10-14-20-56-04
(C)2016 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. 映画「あなた、そこにいてくれますか」予告編より引用

つまり「過去」と「現在」のスヒョンの間で、「そこにいるあなた」という存在は大きく異なっているわけです。

だからこそ、「過去」のスヒョンはヨナの死を回避させたうえで一緒に添い遂げ続けることを望みますし、「現在」のスヒョンはヨナの死の回避よりも、スアの存在を大切に思うのです。

2017-10-14-20-55-42
(C)2016 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. 映画「あなた、そこにいてくれますか」予告編より引用

そしてどちらも助けようという方向性に物語は進行していきます。2人のスヒョンは、ヨナを助けたうえで、彼女と距離を置き、スアの存在も消さないという選択をします。

紆余曲折ありながらも、この目標は達成されるわけです。

 スアはスヒョンと共に暮らす娘であり続けます。またヨナは、スヒョンの思い出の中で恋人であり続けるわけです。スアもヨナもスヒョンにとっての「そこにいるあなた」になったんですね。1人は現実世界で、1人は思い出の中で彼の世界で生き続けるのです。

人生においてはたくさんの出会いと別れがあります。それは必然です。そんな繰り返しの中で、人はまず自分の身近にいてくれる「そこにいるあなた」を大切にしなければなりません。それはもちろんですよね。

では、別れてしまった人たちはどうすれば良いのか?ここにいない人にはもう会うことは叶わないのでしょうか?そんなことは決してないのです。思い出の中で永遠に「そこにいるあなた」としてその人は生き続けているのです。だから思い出の中にいる「そこにいるあなた」をも大切にしなければならないのです。

あなたが出会った人、友人、愛した人。一方で、分かれた人、亡くなった人、もう会えない人。

人生は出会いと別れの連続です。でもそばにはいなくても、別れてしまった人でも、遠くへと旅立ってしまった人でも、その鮮明で美しい思い出の中で何度でも会う事ができるのです。

それが分かれば、もう「タイムトラベル」なんてツールはいらないのです。

2017-10-14-21-06-29
(C)2016 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. 映画「あなた、そこにいてくれますか」予告編より引用

 人生の終わりを目前にして、スヒョンは人生の真の味わい深さに気づいたのだと思います。

ラストシーンはこうすれば良くなる?

先ほど嫌というほどにテーマ性を考えてきましたが、実はあのラストシーンですと、どうしても私の考察した主題が薄まってしまうんですよね。

最後の2人が現実で再開するラストシーンは、自分が思っていたテーマで仮にこの作品が進行していたのだとすると明らかに冗長です。またこのシーンの韓国恋愛映画・ドラマにありがちのスローモーションや大袈裟な劇伴音楽を使ったエモい演出があまりにもチープすぎて興ざめします。

本作はそもそもフランスの作家による原作に基づく映画ですから、プロット面でこの映画にケチをつけるのはお門違いかもしれません。しかし、それにしても明らかに蛇足でした。

その前のシーンで、思い出で何度も会えば良いんだ・・・なんてカッコいいセリフを残しておきながら、ラストでは結局会えちゃった・・・ですか・・・。

いやはやさすがに納得いきませんね。自分が脚本を書けるならこのラストシーンは全部カットしますね。

 それでもあのラストシーンをやるというならば、このような演出にすればよかったと思うんですよ。

スヒョンはバスで見かけた男に昔愛した男の面影を見て追いかけていきます。公園を探し回っていると、かつてスヒョンがヨナに愛を告げた時のように、大量の風船をもってヨナの前にたたずむ男。

2017-10-14-21-03-44
(C)2016 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. 映画「あなた、そこにいてくれますか」予告編より引用

感動の再会か・・・?

少しずつ風船の隙間から露わになる男の顔・・・。

それは、ヨナがかつて愛したスヒョンの顔

 ・・・ではなく、不気味に微笑むピエロの姿だった!!

2017-10-14-21-03-01
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ヨナは悲鳴を上げたのもつかの間、彼女の姿は消えていた。

 ヨナは永遠に「そこにいるあなた」になったのでした・・・。

(不気味に浮かび上がるタイトルロール)

image
(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED

「IT~あなた、そこにいてくれますか」

このラストだったら、全米が衝撃を受けていたことでしょう・・・(笑)。

まあ何が言いたいのかというと、あのラストシーンは明らかに冗長で、蛇足だったということです。もっと前に映画を終わらせるポイントがいくつもあったというのに、ずるずると引っ張った挙句にあれでは、言葉もありません。

おわりに

最近見た「亜人」といい「恋と嘘」といい、この「あなた、そこにいてくれますか」といいどうも最近はラストシーンで映画全てを台無しにしてしまう作品が多いですね。

 「終わり良ければ総て良し」という言葉もあるくらいですからね。もっと映画ないし物語をどう帰結させるのか?という部分は重視されるべきだと思うんです。

いくら序盤、中盤が良くても、終盤が悪ければ、その映画の評価は著しく低下してしまいます。

「あなた、そこにいてくれますか」という映画は、個人的にも好きな作品になりましたし、ボロボロと泣きました。だからこそ、もっと物語を上手く収束させてほしかった。それだけが惜しいのです。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。




コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください