アイキャッチ画像:(C)2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
目次
- 1 はじめに
- 2 『ミッションインポッシブル6フォールアウト』
- 3 『ミッションインポッシブル6フォールアウト』感想:死なないでトムクルーズ!!
- 4 『ミッションインポッシブル6フォールアウト』解説・考察(ネタバレあり)
- 5 『ミッションインポッシブル』シリーズの集大成
- 6 おわりに
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『ミッションインポッシブル6フォールアウト』を徹底的に解説していこうと思います。
かなり作品について細かく分析していく記事になりますので、ネタバレになるよう内容を含む記事となります。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
『ミッションインポッシブル6フォールアウト』
あらすじ・概要
トム・クルーズ主演の人気スパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズ第6作。
盗まれた3つのプルトニウムを回収するミッションについていたイーサン・ハントと仲間たちだったが、回収目前で何者かによりプルトニウムを奪われてしまう。
事件の裏には、秘密組織「シンジケート」の残党が結成した「アポストル」が関与しており、手がかりはジョン・ラークという名の男だった。
ラークが接触するという謎めいた女、ホワイト・ウィドウに近づく作戦を立てるイーサンとIMFだったが、イーサンの動きに不信感を抱くCIAが、監視役として敏腕エージェントのウォーカーを送り込んでくる。
イーサンは疑惑の目を向けるウォーカーを同行しながら、ミッションを遂行するのだが……。
シリーズを通してさまざまなスタントに挑んできたクルーズが、今作でも、ヘリコプターを自ら操縦してアクロバット飛行にも挑戦するなど、数々の危険なスタントをこなした。
前作に続いてクリストファー・マッカリーがメガホンをとり、シリーズで初めて2作連続の監督を務めた。
共演はシリーズおなじみのサイモン・ペッグ、ビング・レイムス、前作から続けて登場するレベッカ・ファーガソンのほか、ウォーカー役で「マン・オブ・スティール」のヘンリー・カビルが初参戦した。
(映画comより引用)
実は1つ1つのシーンへのこだわりが凄い
本作をご覧になった方で、気に入ったという方にはぜひともセル版に収録されているクリストファー・マッカリー監督のコメンタリー付きで見て欲しんですよ・
この映画はアクション先行で、脚本を撮影しながら徐々に完成させていったという事情があります。
その情報だけを頭に入れておくと、『ミッションインポッシブル6:フォールアウト』という作品は、いわゆる「おバカ映画」の類なのではないか?と思ってしまうことでしょう。
しかし、その実態は真逆でクリストファー・マッカリー監督って、1つ1つのシーンにただならぬこだわりを見せる監督なんです。
そんな彼が、オーディオコメンタリーは1つ1つのシーンの意図について徹底的に語ってくれています。
すごく勉強になりますし、映画の見方が変わりますので、ぜひぜひご覧になってみてください。
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『ミッションインポッシブル6フォールアウト』感想:死なないでトムクルーズ!!
まあ壁に激突して、骨折して撮影がストップするなんていうトラブルがありながらも、なんとか映画を撮り終わっているわけですから死んでいないことは明確ではあります。
それでもこの作品を見ていると本当に死ぬんじゃないか?って何度も不安を感じてしまいます。
そもそも今回の『ミッションインポッシブル6フォールアウト』は、ほとんど脚本を書くことなく撮影がスタートしたそうで、撮影が終了しても脚本は完成しきっていなかったなんて話があるほどです。
そのため行き当たりばったりで撮影している映像も多くて、例えば予告編に登場するヘリコプターでトラックに向かっていくアクションシークエンスなんかは完全にカットされています。
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また、アクションシーンを撮影しながらストーリーを肉付けしていった、ないしストーリーに撮影したアクションシーンを当てはめていった都合上、少し不可解なアクションシーンはあるんですよ。
そうなんですよ。ここは多分その最たる例です。
だってイーサンたちはパスを所持しているわけですから、わざわざHALOジャンプで降下する必要性は皆無なんですよ(笑)
それでもこのシーンがあるのは、トムクルーズのアクションへの熱い思いがあるからこそなんでしょうね。
しかもあのジャンプであっても1回で撮影が終わるはずがありません。何度も何度もジャンプして撮影しているはずです。そう考えると、もうトムクルーズどんだけ凄いんだよ・・・と。
シリーズを重ねるごとにパワーアップしていくアクションシーンに我々は興奮させてもらっているわけですが、もう今作くらいになると、トムクルーズに対する心配みたいなものが芽生えてくるのも事実です。
仮に『ミッションインポッシブル7』が製作されるとするならば、トムクルーズは60歳ですよ。
いやはやこのシリーズが今後どうなっていくのか目が離せません。
『ミッションインポッシブル6フォールアウト』解説・考察(ネタバレあり)
本作のタイトルの『フォールアウト』に込められた意味
さてまずは本作のタイトルの意味について考えてみようと思うわけですが、単純に「Fallout」という単語を辞書で引くと、放射性降下物、死の灰といった物騒な単語が並んでいます。
確かに本作には、スパイものの定番である核爆弾が登場しますよね。
つまりこれに関連して付けられたタイトルであることは明らかなわけですよ。
ただ本編を見てもイマイチ意味が分からないと感じる方も多いと思われます。そこでこのタイトルに関する私の個人的な見解をお話しておきましょう。
そもそも皆さんはこの映画の冒頭のシーンについてどう思いましたか?イーサンはプルトニウムを回収するか、それともルーサーの命を助けるのかを迫られましたよね。ここで彼は後者を選択したんですよ。
しかし、その決断が今回の物語で描かれた世界の危機を招いたわけです。
そうなんですよ。今作の事件のきっかけを生んだのは、イーサンがルーサーの命を犠牲にしてプルトニウムを回収するというミッションをコンプリート出来なかったからなんです。これによりシンジケートやアポストルが台頭し、世界を揺るがす危機へと発展したのです。
しかし、イーサンがその決断をしていなかったら、ルーサーはこの世にはいないわけですよ。もしかするとベンジーだって命を落としていたかもしれません。また劇中で、イーサンはイルサが自分のミッションの妨害をしてきても殺したりはしませんよね。
冒頭でアランがイーサンに言っていましたが、そういう仲間を見捨てられないところがイーサンの弱さでもあるんですよね。だからこそその弱さが世界の危機を招いてしまうわけです。
それでも『ミッションインポッシブル』シリーズ第1作で仲間を皆殺しにされたイーサンだからこそ、仲間を守ろうと必死になるのであり、例え核爆弾を爆発させることになるとしてもまず目の前の仲間を助けることを選んでしまうのです。
そういう意味でルーサーやベンジー、イルサそしてジュリアたちはイーサンが生んだ『フォールアウト』なんですよね。
確かに彼がスパイであると考えると、彼の決断は正しいとは言えません。だからこそ彼らの生存はスパイ的視点から見るとネガティブなものかもしれません。
しかし、それは紛れもなくイーサンという1人の人間の決断であり、彼の心からの人を思う気持ちから生まれる決断です。
第1作目の冒頭で、仲間を救えず後悔の念に駆られた彼が、仲間を守ることにこだわりそしてスパイとしてはあるまじき『フォールアウト』を遺してきたわけですが、それでもそれが無意味ではなかったのだと教えてくれる映画なんですよね。
核兵器が爆発することで地上に降下するのが放射性降下物です。では、核兵器が爆発しなかったことで、イーサンの周りにいてくれる存在は誰なのか?というとそれはベンジーであり、ルーサーであり、イルサです。
イーサンが遺してきた『フォールアウト』は決してネガティブなものではなかったのです。
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さてここから今回の本題となる『ミッションインポッシブル6フォールアウト』の物語の徹底的な分析をしていきたいと思います。
作品のネタバレになるような内容を含みますので、作品を鑑賞した上で読んでいただけると幸いです。
スパイとサークル
みなさんはサークル、つまり円という図形がどのようにすると1つだけに定まるのかという定義をご存じでしょうか。
数学を勉強した際に誰もが一度は聞いたことがあると思います。
では解答を発表しておきますが、平面上で一直線に並んでいない3点があるときに、その3点を通過する円はただ1つに決まるんですね。
そうなんです。この「3」という数字とサークルについては今回の考察で重要な要素になるので覚えておいてくださいね。
では、スパイの話題に戻していきましょう。
みなさんは『裏切りのサーカス』という作品を見たことはありますでしょうか。ジョン・ル・カレという実際にMI6に所属していた過去を持つ作者が著した小説であり、同名の映画のことを指します。
この映画において「サーカス」というのは英国諜報部のことを表した隠語として使われています。
このサーカスという単語の語源を見ていくとラテン語の「circus」という単語に行きつきます。これは「円周」を表す言葉です。つまり「サーカス」という言葉には円の形が関連しているということです。
では先ほど説明した円が平面上にただ1つだけ存在するように決まるためには「3」つの点が必要という定義を頭に入れた上で、スパイについて考えてみましょう。
スパイとは国の諜報機関で活動するエージェントのことを指しているわけです。つまり2つの国があってそれぞれが敵対する勢力の情報を得るために、スパイという存在を生み出し、情報戦を繰り広げるわけです。
そして『ミッションインポッシブル』シリーズでお約束のように登場するあのセリフを思い出してみてください。
このセリフが表していることってつまりは、「スパイは国を持たない存在」であるということですよね。
『ミッションインポッシブル5ローグネイション』の中でもイルサが、MI6の長官に「君は帰属する国を持たない」と告げられていましたよね。
つまりスパイは2つの国が存在している時に、そのどちらにも属さない第3勢力ということになるわけです。そして彼らは3つ目の点となる存在であり、円を形成するキーになる存在であることもここで分かってきますよね。
もう1つ重要なウロボロスの円について
みなさんはウロボロスの円って知っていますか。
これは自らの尻尾を自分自身で飲み込む1匹の蛇の姿が描かれた図のことを指しています。(2匹で描かれる場合や蛇ではなく竜が描かれることもある。)
このウロボロスの円が何を指しているのかと言いますと、それはある種の無限に繰り返すサイクルのことを指しているんですよね。それは生と死のことであり、破壊と再生のことでもあります。
これを考えた時に『ミッションインポッシブル』シリーズにおいて蛇(ないし竜)とはイーサンのことであり、本作がシリーズ6作にわたってイーサンが追って追われての堂々巡りを繰り返してきたことの円環がウロボロスの円的ではないかという指摘が出来ます。
それに加えて本作に登場したいくつかのセリフは極めて示唆的です。
そうなんです。このセリフって人間の世界では常に苦しみと平和が繰り返す、円環構造が形成されているのだということをを示唆しているんですよね。
他にもアランがイーサンに告げたセリフも興味深いですよね。彼はイーサンに、「君がラークであり、君はラークを追うふりをして自分を追っていたんだ。」と告げました。
これもまた『ミッションインポッシブル6フォールアウト』においてイーサンがウロボロス的な円環構造の中に迷い込んだことが示唆されているセリフです。
イーサンという一匹の蛇が、スパイの世界の中で「逃れることのできない」未来永劫回帰する円を形成しながら回り続けているというイメージが確かに本シリーズには投影されているわけです。
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円から線へと展開する物語
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映画『ミッションインポッシブル6フォールアウト』をご覧になった方は、本作にはきわめて多くの「3」と円を彷彿させる演出があったのに気がつきましたでしょうか。
まずは冒頭のシーンです。
イーサンとベンジーはプルトニウムの取引をして、テロリストの手に渡ることを阻止しようとしていました。しかし、現金を運ぶ役割を担っていたルーサーがアポストルの手によって囚われてしまいます。
ここで仄めかされるのが「3」という数字の存在ですよね。
イーサンとベンジーそしてルーサーが3人で1つの円を形成するように配置されているんです。
『ミッションインポッシブル6フォールアウト』は冒頭でいきなり視覚的な円のイメージを描いているのです。
このシーンはイーサンが円の形成者であるということを提示する重要なシーンでもあります。
彼はスパイとして自国、敵国の利害に加えて、スパイとしてはある種タブーでもある自分の仲間のための利害という「3」つ目の考え方を持ち合わせています。
他にも『ミッションインポッシブル6フォールアウト』には極めて多くの「円」のイメージが登場します。
イーサンウォーカーとの降下作戦の際に、雷で気絶した彼を助けようとグルグルと回転し、円を描きながら降下しています。また、イーサンがウォーカーと訪れたパーティー会場。イーサンたちがラークを探しながら歩いていたダンスフロアは円形です。
イーサンが警察たちと激しいバイクチェイスを繰り広げたパリ。
凱旋門の周りをぐるっと一周する円形の道路が非常に印象的でした。加えてイーサンが逃亡したウォーカーを追って飛び込んだ聖堂。ここでイーサンが螺旋状の階段を上るカットは、天井方向から俯瞰で撮影されており、これまたイーサンが円形に運動する様が切り取られています。
また「3」という数字に着目すると、本作に登場したプルトニウムが「3」つであるという重要なポイントがありますよね。
イーサンたちが博士を陥れようとした際に用いた偽のニュース映像ではメッカ、イェルサレム、バチカンという「3」つの宗教的聖地が破壊されていました。
このように『ミッションインポッシブル6フォールアウト』には数え切れないほどに「3」とサークルのモチーフが散りばめられているんです。
しかし、物語の後半になってくるにつれて、その構造がじわじわと変化していくんです。
まず印象的なのは、「3」つのプルトニウムでしょう。
今作の至上命題は「3」つのプルトニウムをアポストルから取り戻すことにあったわけですが、作品の中盤でそのうちの1つがミッションの「手付金」としてイーサンたちの下に戻ってくるんですよ。
つまりこのシーンで、取り戻すべきプルトニウムの数が「3」→「2」へと変化しているんです。
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次に注目したいポイントがルーサーの口からイルサに明かされたイーサンの愛した女性についての内容です。
ここで彼は「イーサンが愛した女は『2』人である。」と告げました。
1人は元妻のジュリアのことで、もう1人はシリーズ2作目のナイアなのか?前作から出演しているイルサなのか?(「愛した」と過去形になっているのでナイアかなぁ?まあ置いておきましょう。)
ただ現在進行形でイーサンが「気にかけている女性」は間違いなくジュリアとイルサの「2」人であることには間違いありません。(ナイア今回出てきませんしね。)
最後に物語の後半に向かうにつれて、『ミッションインポッシブル6フォールアウト』という作品は概念を超越して、スパイ映画らしい「3」つの利害の衝突を離れ、世界を救うか、世界が滅びるかという「2」元論的な構図へと移行していくんですよ。
さてここまで「3」と「2」という数字を繰り返し、出してきたわけですが、この2つの何が違うのかというとそれは「円」と「線」の違いなんですよ。
記事の冒頭で「3」つの点が存在することで、平面上の円は1つに決まるという話をしてきましたよね。
では「2」つの点があればどうなるのかというと、それはその2点を通るただ1つの直線が決まるということです。よって「3」→「2」への移行というのは、物語が円から線へと移行しているということなんです。
クライマックスのイーサンとウォーカーの対決では「線」が極めて印象的に使われています。イーサンがヘリコプターにロープ伝いでよじ登る時、2人が崖の上にある爆破スイッチを求めて、ロープにしがみつく時。どちらもロープという物体が形成する一直線が際立っています。
そこにあるのはスパイ映画特有の多視点的な構図ではなくて、イーサンが勝つか、ウォーカーが勝つか、世界を救うか、世界を滅ぼすかという極めて単純な「2」元論的構図なんですね。
『ミッションインポッシブル』シリーズってもはやトムクルーズによるトムクルーズのための映画なんですが、だからこそイーサンとヴィランの争いは常に作品の主役争いのようであり、今回のウォーカーもそんな作品の主導権を奪おうとする存在であります。
彼が新ジェームズボンドの候補に挙げられていたことや『コードネームUNCLE』という作品主役としてスパイを演じていることを鑑みると、ヘンリーカヴィルの起用はメタ的に見ても面白さがありますね。
閑話休題。かくしてイーサンは今回もウォーカーを打倒し、『ミッションインポッシブル』というシリーズでの主導権を守り切るわけです。
「円」とは円環するモチーフでありますが、「線」は逆に1つのゴールへと導くモチーフでもあります。「円」に閉じ込められたイーサンの物語は「線」に導かれる形で1つの幕切れを迎えるのです。
しかし、注目したいのはそのラストシーンなんです。救助されベッドで横たわっていたイーサンの下にラストシーンの時点でとどまっていたのは誰だったでしょうか?というとイルサ、ベンジー、そしてルーサーです。
そうなんですよ。実はラストシーンでイーサンの下に現れる仲間は「3」人なんです。私はこのラストのためにアランは退場する羽目になり、ジェレミーレナーは出演しなかったのでは?と勘ぐってしまいました。
つまり『ミッションインポッシブル6フォールアウト』の終盤においては、イーサンが「円」を脱し「線」を辿ることで、1つの結末を迎えるわけです。しかし、終盤に再び「3」という「円」を色濃く印象づける数字を登場させることで、『ミッションインポッシブル』シリーズは再び、彼らが「円」の世界へ、戻っていくことを示唆しているのです。
だからこそ『ミッションインポッシブル6フォールアウト』という作品はもう完璧すぎるのであり、これまでのシリーズの集大成でありながら、新しいスタートにもなっているのです。
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『ミッションインポッシブル5ローグネイション』と併せて見る円環構造
実は『ミッションインポッシブル』シリーズにおいて監督が続投したのって今回が初めてなんですよ。クリストファーマッカリー監督が前作に引き続き、今作のメガホンをとりました。
これによってシリーズに大きな変化が起こったわけなんですが、それが何かと言いますと本作『ミッションインポッシブル6フォールアウト』は前作の正統な続編になっているんですね。
これまで繋がっているようで繋がっていなかったのが本シリーズなのですが、今回は監督が続投したことで紛れもない「続編」になっています。
実は『ミッションインポッシブル6フォールアウト』は前作の続編だったからこそ面白い構成になっていることに皆さんは気がつきましたでしょうか。
ここからいくつかシーンを取り上げてお話していきましょう。
冒頭の博士を陥れるシーン
イーサンたちが博士から情報を聞き出すためにプルトニウムが爆発したという偽の情報を流し、その後病室のセットを解体することでネタバラシした冒頭のシーンですが、これは似たようなシーンが『ミッションインポッシブル5ローグネイション』にも登場しますよね。
そうです。ラストシーンですよ。イーサンがレーンを透明な防弾ガラスの檻に閉じ込めたあのラストシーンの種明かしを彷彿させる映像になっているわけです。
レーンを巡る物語
さて、前作の終盤というのはイーサンがレーンを捕らえるために奔走する物語だったわけですが、逆に『ミッションインポッシブル6フォールアウト』はイーサンがレーンを解放するために奔走する序盤になっています。
このレーンに対するイーサンの立ち位置が対になっているというのが非常に面白い人物関係の構図の変化でもありますね。
バイク(カー)チェイスのシーン
バイク(カー)チェイスのシーンは前作と今作で共通しているものです。しかし、注目しなければならないのは、その構図の変化です。
前作ではイーサンがデータを持って逃走したイルサを追うという構図になっているんですが、今作においてはレーンを連れて逃走しようとするイーサンをイルサが追跡するという構図に変化しています。
また視覚的に印象的なのは前作ではイルサをバイクで轢かないために自分が転倒してまで避けたイーサンが、今作においては思いっきり車でバイクに突っ込んだという違いですよね。
ロンドンランのシーン
前作に引き続きロンドンをイーサンが失踪するシーンが登場しますが、ここにもいくつか変化が見られますよね。
まず前作のロンドンランにおいてイーサンはレーンに追われる側であり、そして時間は夜でしたね。一方で、今作のロンドンランはイーサンがレーンを追う側になっており、加えて時間は昼に変わっています。
作品全体の構造
そして作品御構造全体を見ても、実は『ミッションインポッシブル6フォールアウト』は前作と対になる構造になっていることが分かります。
前作の冒頭では昼の時間帯でイーサンがジェット機に掴まり空へと上昇していくシーンが使われました。そしてラストシーンでは夜のロンドンでのチーム戦でしたね。
一方の今作では、冒頭でベルリンでの夜のチーム戦が行われ、終盤で昼間の時間帯でイーサンがヘリコプターに掴まって、空へと上昇していくシーンが使われました。
このようにこの2作品は単体の作品で見ると昼に始まり夜に終わった前作と、夜に始まり昼で終わった今作という違いがありますが2作品で1つの物語としてみると、昼の上昇シーン(ジェット機)に始まり、昼の上昇シーン(ヘリコプター)で終わるという何とも面白い円環構造を構築しているんです。
あらすじもかなりざっくり取り上げた形になっていますが、前作と今作が非常に似ているという対になる作品構造になっていて、かつ昼と夜が1つの円環を成していることがより伝わったのではないかと思います。
つまり何が言いたかったのかというと、『ミッションインポッシブル5ローグネイション』と『ミッションインポッシブル6フォールアウト』は2作品で、1つの円のような形になる物語構造でして、その繰り返す物語の円構造を終盤に「線」を意識した映像で展開し、結末をもたらしているということです。
円を成しグルグルと回帰し続けるイーサンとシンジケートの物語はこの2作品でようやく完結を迎えたということですね。
そして先ほども述べた通りで、この作品のラストシーンでは「3」人の仲間がイーサンの下に現れることで再び「円」が想起され、イーサンたちは次なる「サークル」の中に身を投じていくことが予期されるわけです。
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もっと大きな視点から見る「円」の構造
さて本作『ミッションインポッシブル6フォールアウト』では、もっと大きな視点から見る「円」の構造が成立しているのが分かります。
みなさん『ミッションインポッシブル』第1作の冒頭の内容って覚えていますでしょうか。これがまたドラマ版の『スパイ大作戦』シリーズファン泣かせな内容でして、いきなりドラマ版のキャラクターたちが一掃されてしまうんですよね(笑)
だからこそシリーズ第1作はテレビシリーズのファンからは未だに受け入れられていないようで、物議を醸した作品でもあります。
さて、ここで思い出してほしいのですが、イーサンの一番最初の仲間の中でこの冒頭のドラマ版キャラクター一掃シーンで」、死んだキャラクターってジャック、ハンナ、サラの「3」人なんですよね。(死んだかのように思われていたジムとクレアは裏切り者でしたからね。)
イーサンハントの仲間を国家の利害以上に大切にするという人間性が形作られるきっかけとなった非常に重要なシーンなのですが、実はここにもすでに「3」という数字が忍ばされているんです。そして『ミッションインポッシブル6フォールアウト』のラストでイーサンの下にやって来る仲間も「3」人なんです。
そう考えると第1作目に「3」人の仲間の死で始まった物語が、第6作目のラストにて「3」人の仲間の登場で締めくくられているという点で1~6作目までで1つの円環構造になっていることが指摘できます。
ヘンリーカヴィルを起用した意義
本作においてヘンリーカヴィルの起用は正直大当たりだったと言わざるを得ないでしょう。なぜ彼のキャスティングが素晴らしかったのか少しだけお話してみようと思います。
そうなんですよ。やはりヘンリーカヴィルというとスーパーマンもそうですし、『コードネームUNCLE』のナポレオンソロなど、もう圧倒的に主人公補正がかかっているんです。
だからこそ彼が演じているウォーカーというキャラクターに対して、ヘンリーカヴィルが演じているからこそ、彼が本作の悪役だとは信じたくないという心理がどうしても働いてしまいます。それにより観客はまんまと裏切られてしまうわけです。
また35歳とトムクルーズより20歳近く若いという年齢差も絶妙でしたし、少し前まで新ジェームズボンド候補だなんて言われていた背景が本作のヴィランとしてぴったりでした。
彼が演じたウォーカーはあくまでも悪役とは言い切れなくて、彼自身も自分の信念に基づいて行動しているキャラクターなんですよね。だからこそ彼自身は自分のことを悪役だなんて自覚していないでしょう。その絶妙な具合を演出できたのは、これまでヒーローや主人公を演じてきたヘンリーカヴィルのイメージがあったからでしょう。
終盤にウォーカーはヘリコプターの燃料で顔の半分にやけどを負いますが、これは『ダークナイト』のハービーデントオマージュだったんですかね?
トムクルーズとイーサン
『ミッションインポッシブル』シリーズというのは、トムクルーズ自身がプロデュースしているわけで、プロットや撮影に関しても彼の意見が多く採用されていることはメイキングを見れば分かります。
また危険なスタントをトムクルーズ自身が実際に挑戦して見せることで、イーサンと彼自身をリンクさせ、トムクルーズに課されたインポッシブルなミッションというメタ的な見方をできるも本作の魅力であります。
『ミッションインポッシブル6フォールアウト』という作品がシリーズの中で1つ、大きな円環を閉じる作品になっていることはここまで述べてきた通りですが、そのラストシーンで登場したセリフがまたユニークです。
進化し続ける映画。進化し続けるアクション。どんどんと上がっていく求められるスタントのハードル。そのインフレに答え続けてきたトムクルーズ。しかし、本作の撮影中に彼は危険なスタントの撮影中に骨折してしまいました。
そんな危険な目に遭いながらも、既にアクション映画を撮るには厳しい年齢に差し掛かりながらも、彼はこれからも変わらずに「イーサンハント」であり続けるのだという彼の決意表明のような言葉ですよね。
もう今作で、『ミッションインポッシブル』シリーズは終わりです!!と言われても納得の内容だったんですが、こんなセリフを聞かされては、またスクリーンでイーサンの雄姿が見たくなってしまいますね。
『ミッションインポッシブル』シリーズの集大成
本作はもう『ミッションインポッシブル』の集大成のような作品になっていて、過去作を見返しておくことでより一層楽しめるようになっていますね。
例えば、先ほども少し触れた冒頭のモニタリングのシーンは完全にシリーズ第1作からの引用ですよね。加えて言うなれば「スパイ大作戦」からの引用ということもできるでしょうか。
終盤のイーサンとウォーカーの爆弾のスイッチをめぐる攻防で見られたイーサンのロッククライミングはジョンウーが監督を務めたシリーズ第2作のシーンからの引用です。
シリーズ第2作は『ミッションインポッシブル』シリーズがトムクルーズの映画になるという方向性を明確に打ち出した作品でもありましたね。
J・J・エイブラムスが監督を務めたシリーズ第3作からもジュリアというイーサンの元妻が登場し、それが物語の1つの重要なキーとなっています。今作でイーサンが苛まれていた悪夢の内容も、このシリーズ第3作を見ておくと分かりやすいですね。
また今作のヴィランであるアポストルたちが核兵器を使用する目的なんかはシリーズ第4作の『ミッションインポッシブル ゴーストプロトコル』と近似しています。
シリーズ第5作の『ミッションインポッシブル ローグネイション』とは言うまでもなく、密接に関係しています。直接の続編ですからね。前作で完結していた物語を拡張して、ここまでの内容に仕上げてきたのも驚くべきポイントですよね。
ぜひシリーズの集大成として本作を楽しむためにも過去作をご覧になってから、『ミッションインポッシブル6フォールアウト』をご覧になってくださいね!
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『ミッションインポッシブル6:フォールアウト』についてお話してきました。
まだ作品を一度しか見れていないので、分析も粗削りな部分はあるのですが、なんとか思い出しながら考察してみました。
正直粗を探そうにも見当たらない上に、1つの作品としても、前作の続編としても、シリーズの中の1作としても素晴らしすぎる内容で、紛うことなきシリーズ最高傑作だと思いました。
新作を公開するたびに「最高傑作」というハードルを更新し続けるこのシリーズにはいつも驚かされますね。
とりあえず今作を見る際には、シリーズ5作目とそして3作目は見ておいてほしいと思いました。欲を言うなら1作目も・・・いや全部見てください(笑)
同じくスパイ映画である『キングスマン ゴールデンサークル』の記事はこちらからどうぞ!
参考:『キングスマン2ゴールデンサークル』は続編が心配になるレベルの衝撃作!
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
とても素晴らしいお話の考察で、映画を見てきて再度シーンを思い浮かべながら拝見させていただきました。
そんな中で、ご質問してもよろしいでしょうか?わからないことなのかもしれませんが、最後のシーンで、ジュリアと交代してイルサがイーサンの横へ行くのですが、その前にイルサがジュリアに耳打ちしてるシーンがありました。あの時何を言っていたのかがすごく気になり、もしご存知でしたら教えていただけないでしょうか?勝手なご質問で申し訳ありません。
コメントありがとうございます!
ご質問の件、ちょっとすぐにはお答えできなさそうです。近日中に2回目を見に行く予定ですので、その際に確認してみますね!
m:iシリーズをm:iシリーズたらしめる、超絶アクションや、知略頭脳プレーが炸裂し、これまで累計してきた、各人物の心情描写にホロリと感じる場面もあり、「本当にもう参りました、ありがとう!」と、この映画を鑑賞できた喜びは計り知れません。
しかしながら、私の読解力が弱いために腑に落ちなかったシーンがあります。もしも、時間がありましたら、以下の点について、ナガさんのご意見をコメントいただけたら、ありがたいなと思います。
・ヘイロージャンプ
何かと足を引っ張ったウォーカーは、イーサンの奮闘を横目に、余裕ある着地でさらには憎まれ口を叩く。
この演出は、ウォーカーの小物感を出すべく狙ったものでしょうか?
・正体
とあるトリックにより、ウォーカーの正体を暴いたイーサン達ですが、そもそもウォーカーが怪しいと目をつけた伏線などは、劇中にありましたでしょうか?
・見られすぎ?
バイクチェイス、聖堂、オフィスなど。特にオフィスでは市民の眼前で椅子を投げつけ窓ガラスを破壊。目撃者には一生忘れられないインパクトを与えたかと思います。緊急事態とはいえ、スパイとしては大丈夫なのか?と気になりました。(他シリーズも、何らかの目撃者はいましたが・・・、今作はかなり多い印象です。)
ナガさんブログの、「3」と「円」がキーワードと見事な考察も、目から鱗。私にはとても思いつかない、興味深い記事でした!ありがとうございます!