ディミアン・チャゼル監督『ファーストマン』が星条旗を立てるシーンを描かなかった理由

アイキャッチ画像:© Universal Pictures

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

普段あまりこういったトレンド系の記事って書かないんですが、個人的に非常に楽しみにしている『Firstman』(邦題『ファーストマン』)という作品のトピックなので、思い切って書いてみようと思いました。

最初にお断りを入れておりますが、本作を一切の前情報なしで鑑賞したいという方は、この記事を読まないようお願いいたします。

良かったら最後までお付き合いください。

映画『ファーストマン』の紹介

まずは簡単にではありますが、ご存じないという方のために映画『ファーストマン』をご紹介しておこうと思います。

ナガ
まずはスタッフとキャストについてだね!!

監督を務めるのは『セッション』『ララランド』と監督デビューから2作品続けて世界中を驚かせた若き鬼才ディミアン・チャゼルです。

第89回アカデミー賞では作品賞こそ逃しましたが、6部門を受賞し、彼自身も32歳という若さで監督賞を受賞しました。この32歳での受賞は史上最年少ということです。

そんなディミアン・チャゼル監督とコンビを組むのが、映画『スポットライト』でアカデミー賞脚本賞を受賞したジョシュ・シンガーです。2017年に『ペンタゴンペーパーズ』の脚本をも務めた伝記映画脚本のスペシャリストが今回『ファーストマン』に参加しています。

劇伴音楽には『ララランド』でもディミアン・チャゼル監督とタッグを組み、世界中を虜にする映画音楽を届けたジャスティン・ハーウィッツが参加しています。

キャストには同じく『ララランド』にも出演していたライアンゴズリング。彼は本作で主演を務め、ニール・アームストロング役を演じます。

そしてアームストロングの最初の妻であるジャネット・シェアロン役にはドラマ出演で評価を高めてきたクレア・フォイが抜擢。

他にもカイル・チャンドラーやジェイソン・クラークなどの名優が揃い、脇を固めています。

ナガ
次に『ファーストマン』がどんな映画なの?ってこと

本作がどんな映画なのかと言いますと、まず主人公はアメリカの宇宙飛行士であるニール・アームストロングです。彼の人生の内で1961年から1969年までを切り取った映画になっているわけですね。

1969年と言いますと、これは人類初の月面着陸が行われた年でもありますよね。

つまり本作はそんなニール・アームストロングという人物に迫った伝記映画であり、月を「最初に歩いた男」の実像を映し出すヒューマンドラマでもあります。

残念ながら日本公開はアカデミー賞レースに合わせての2月公開なのですが、当ブログ管理人はこの作品の公開を心待ちにしている次第です。

映画『ファーストマン』予告編

 

 

現在アメリカで起こっている映画『ファーストマン』騒動について

さて、現在アメリカで起こっている映画『ファーストマン』騒動というのは一体どういう内容なのかについて簡単にお話させていただければと思います。

事の発端は、本作における月面遊泳のシーンにおけるとある描写についてなんです。

皆さんはこの写真をご覧になったことはありますか?おそらくニール・アームストングという人物の名前を聞いた時に多くの方がこの写真のイメージを想起すると思います。

月面にたなびくアメリカの星条旗。

今やあの月面着陸は嘘ではないかという一説まで飛び交う時代ではありますが、やはり1969年の人類初の月面着陸は今も多くの人の心を掴んでいる大きな出来事ですし、アメリカの人たちは自分たちの星条旗が月に立てられたという事実をすごく誇りに思っていると思うんです。アメリカ人は世界の国々の中でも特に愛国心が強い国民ですから。

ナガ
ただディミアン・チャゼル監督はこの印象的なワンシーンを描かなかったんだね・・・。

そうなんですよ。ディミアン・チャゼル監督はこのあまりにも印象的なワンシーンをどういう意図かは分かりませんが、描いていないんです。

それに対してアメリカ国内でも意見が二分化し、特に保守派層がこの『ファーストマン』について強い嫌悪感を示し、現在この作品をボイコットしようという動きがあるわけです。

このアメリカの星条旗を月面に刺すカットが存在していない理由についてニール・アームストロングを演じたライアン・ゴズリングがこう話しているんです。

“I think this was widely regarded in the end as a human achievement [and] that’s how we chose to view it,” Gosling reportedly said. “I also think Neil was extremely humble, as were many of these astronauts, and time and time again he deferred the focus from himself to the 400,000 people who made the mission possible.”

from CNN:Ryan Gosling defends ‘First Man’ amid American flag controversy

ディミアン・チャゼル監督はニール・アームストロングが月面着陸をした「最初の男」になったことをアメリカだけの偉業とは見ておらず、人類を代表しての「第1歩」であると考えているんだということが推測できます。

ライアン・ゴズリングはアームストロング自身が常々、月面着陸の成功はこのミッションに参加した400000人の人たちの力があってのものであると語っていたことを引き合いに出しています。

確かにアームストロングの伝記映画として見た時に、星条旗を立てるという最も印象的なシーンがカットされるということは史実に不誠実であると取られてもおかしくないですし、愛国心の強いアメリカ人から「反アメリカ的」であると解釈されるのは無理もないのかもしれません。

しかし、この騒動に対してニール・アームストロングのご子息も言及されているんです。

It is a story about an ordinary man who makes profound sacrifices and suffers through intense loss in order to achieve the impossible.

from GULF NEWS:Neil Armstrong’s family defends ‘First Man’

英語が分かる方はリンクからぜひ全文を読んでみてください。

彼らが言いたいのは、単純にこの映画は伝記映画と言うよりもむしろアームストロングという男の「知られざる」物語にフォーカスした映画であり、1人の「普通の人間」が月面着陸という偉業を成し遂げるまでに、一体どんな物語があったのかという点にフォーカスしたものであるということですね。

確かにアポロ11号による月面着陸はアメリカの偉業であるという側面を否定することはできませんし、これは当然称賛されるべきものです。そして、アームストロングという人物はアメリカ人にとってヒーローです。

しかし、彼自身は自分をそういう風に捉えておらず、彼が遺した言葉にもあるように「人類にとっての偉大な1歩」であると考えていたわけです。

ナガ
人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩だ

そういう事実を踏まえて、本作がニール・アームストロングという人物に極限までフォーカスしたパーソナルな映画であると考えてみると、星条旗がたなびかない月面の風景というのもまた彼の「心象風景」の解釈としては「アリ」なんじゃないかと思えてきます。

おわりに

伝記映画とみるか、パーソナルな映画だったと見るか。

今回の『ファーストマン』騒動ってすごくアメリカらしい論争だなと思いました。やっぱりアメリカの人たちってすごく自分の国や星条旗というものに思い入れがあるんだなと痛感させられます。

しかし、そういう思想のために『ファーストマン』という映画を見ることもせずに、印象だけでボイコットしてしまう動きに対しては、個人的にはそれが正しいとはどうしても思えません。

自分の目で確かめて、自分の頭でこの映画はなぜ「月面の星条旗」を描かなかったのかを考えてみること。

日本では2月公開で、まだまだ先の話題なのかもしれませんが、個人的に楽しみにしている作品がアメリカで大論争を巻き起こしているということで、その話題の紹介と自分の意見を書いてみた次第です。

皆さんはこの『ファーストマン』騒動についてどう思われますか?

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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