【ネタバレあり】『散り椿』感想・解説:木村大作監督が贈る美しすぎる時代劇!

アイキャッチ画像:(C)2018「散り椿」製作委員会

はじめに

みなさんこんにちは。ナガと申します。

今回はですね映画『散り椿』についてお話していこうと思います。

本記事は一部作品のネタバレになるような要素を含みます。作品を未鑑賞の方はお気をつけください。

良かったら最後までお付き合いください。

『散り椿』

あらすじ

18年前、瓜生新兵衛は所属していた扇野藩の不祥事を追及したことが原因で故郷を追われていました。

そのため、妻の篠と共に地蔵院に身を寄せていたのですが、その妻が病床に伏してしまいます。残り僅かな余命の中で篠は新兵衛にある願いを託します。

  1. 故郷の散り椿を自分の代わりにもう一度見てきて欲しいこと。
  2. 今も藩に残っている旧友榊原采女を助けて欲しいということ。

妻の死後、彼はその願い通りに扇野藩へと戻るのですが、そこでは依然として不正が蔓延っており、榊原采女はそれを正そうと尽力していたのでした。

かつて不正を追及した新兵衛が戻ってきたことがきっかけとなり、藩内では再び抗争が巻き起こっていきます。

妻の篠が託した願いの真意とは一体何だったのか?

スタッフ・キャスト

『散り椿』の原作小説を著したのは葉室麟さんです。実は葉室さんは、昨年(2017年)に66歳で亡くなられました。これまで多くの時代小説を書いてきた方で、以前にも『蜩ノ記』という著作が役所広司さんや岡田准一さんが出演し、映画化されました。

エンドロールを見ていると、「葉室麟に捧ぐ」という言葉がスクリーンに映し出されますが、これはそういった事情があるということを知っておくと良いかと思います。

本作『散り椿』の監督・撮影を務めたのが木村大作さんですね。

彼は1973年に須川栄三監督の『野獣狩り』でキャメラマンとして独立しましたが、それまであの黒澤明監督の作品に携わっていました。黒澤監督が名前を挙げて称賛することもあった程の腕前で、『用心棒』をはじめとしてたくさんの作品に撮影助手として参加しました。

黒澤明監督を尊敬しており、撮影監督ではなく「キャメラマン」と呼ばれることを好む熱血漢は、監督デビュー作の『劒岳 点の記』でいきなり第52回ブルーリボン賞の作品賞を受賞しました。

明治政府が成立してから発足した陸軍参謀本部の機関「陸地測量部」が劔岳を測量する様を描いたこの作品が高く評価されたのは、何と言ってもその美しい映像です。

ナガ
もう素人目に見ても圧巻の映像美だったよね!!

その根底になるのがオールロケーション撮影の敢行でした。積雪期の劔岳にスタッフやキャストが実際に登り、撮影するというハードな製作秘話が明かされています。しかし、そのこだわりがCGや空撮では絶対に演出できない「生の自然」をフィルムに閉じ込め、観客を映画館にいながら、実際に劔岳にいるような臨場感へと誘いました。

そして本作『散り椿』の脚本を担当するのが、先ほどご紹介した『蜩の記』にて監督・脚本を務めた小泉堯史さんですね。やはり一度葉室小説の映画化に携わっている方が作品に参加したという点は大きかったのではないでしょうか。

ここからキャスト陣の紹介に移っていきましょう。

本作の主人公瓜生新兵衛役を務めるのは、V6の岡田准一さんです。驚きなのが、岡田さんって格闘技や武術の師範資格を所有しているそうなんですね。そのため映画『散り椿』にもキャストとしてだけでなく「殺陣」のスタッフとしてエンドロールにクレジットされています。

アクションにも定評のある岡田が、剣豪アクションに挑んだことでも話題。本作の殺陣に関して、岡田は「大作さんが『見たことのないものがいい』とおっしゃっていた。クランクインの3か月ぐらい前から“作っては壊し”ということを繰り返し、大作さんに見ていただいて、“違う”“それがいい”というのをずっとやっていた」と木村監督と時間をかけて作り上げたものだという。

Movie Walker『岡田准一、巨匠・木村大作監督から殺陣を絶賛され「クラクラする」と恐縮』より引用)

製作過程で殺陣については主演の岡田さんが提案することも多かったようですね。

新兵衛の妻である篠役には麻生久美子さん、新兵衛の旧友であり扇野藩の側用人の榊原 采女を西島秀俊さんが演じておられます。

ナガ
そして当ブログ管理人が大好きなあの女優が!!

そうです。本作には篠の妹の里美役として黒木華さんが出演しておられます。当ブログ管理人は日本の女優の中で黒木さんが一番好きなんですよ。これまで彼女が出演している作品の記事を書く機会がなかったのですが、ようやく!!と言った感じです。

ナガ
ただ魅力を書き始めるとそれだけで1万字くらい書いちゃいそうだよね(笑)

ですね(笑)今回はご紹介程度に留めさせていただこうと思います。とにかく和服×黒木華は最高の組み合わせなので絶対に見て欲しいです。こんなに和服が似合う美人もそういないんじゃないかと思っておりますので。

参考:【かわいい】黒木華が魅力的すぎるおすすめ映画ランキングTOP10

他にも池松壮亮さん、新井浩文さん、柳楽優弥さん、芳根京子さんなど豪華キャストが集結しております。

より詳しい情報は映画公式サイトへどうぞ!!

参考:映画『散り椿』公式サイト

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解説:美しすぎる映像と殺陣に圧倒される!!

美しすぎる映像とその秘密とは?

ナガ
こんなに美しい時代劇は生まれて初めて見たかもしれない!!

やはり『散り椿』は木村大作監督が撮影をした映画と言うこともあって、映像がとんでもないことになっています。おそらく今年公開された日本映画の中でも映像のレベルだけで言うならば、頭3つ分くらい抜きに出ています。

その映像美を裏打ちしているものは一体何なんだろうかと考えていくと、やはり時代劇としては異例のオールロケーション撮影が敢行されたことが大きな要因なのではないかと考えられます。

京都の太秦映画村は非常に有名ですが、時代劇と言えば基本的にセットを組んで、そこで撮影をするというのが今の主流なんですね。しかし、木村大作監督はやはり黒澤明監督の下で撮影助手として活躍してきたという背景がありますからそうはいかないでしょう。

なぜなら、黒澤明監督はすごく「本物」にこだわる映画監督なんですよ。

ナガ
黒澤明監督伝説はケタ違いだよね(笑)

例えば映画のために古丹波の器させ、撮影で実際に叩き割ってしまったとか、『蜘蛛巣城』で本物の矢を撮影に使ったりですとか、『乱』で4億円をかけて作り上げた本物の城を燃やしてしまうという今の映画現場では考えられないようなことをやってのけました。

そんな黒澤監督を間近で見てきた木村大作監督だからこそ、本物へのこだわりを受け継いでいるのだと思います。

富山県の国泰寺、滋賀県の彦根城など実際の城や寺を撮影の舞台として選び、いろいろと制約も厳しい中でこの『散り椿』の美しい映像を作り上げたそうです。

ナガ
もう映像を見るだけで他の時代劇とは一線を画するものだと分かるよね!

そうなんです。映像が持っているパワーが他の映画とはケタ違いなんですよ。

時代劇としては異例のロケーション撮影を敢行し、撮影したその美しい映像が、『散り椿』の美しく生きようとする人たちの物語に見事に調和し、美しくも儚い愛の叙情詩のような映画に仕上がっております。

ぜひとも本作の映像は映画館で体感していただきたいです!!

岡田准一の殺陣と三船敏郎

黒澤明監督作品における殺陣と言えば、やはり三船敏郎さんの名前が挙がるでしょう。言わずも知れた殺陣の名手です。

映画『用心棒』より引用

三船敏郎さんは実は身長174cmと小柄なんです。

ただ映画を見てみると、すごく大きく見えるんですよ。それだけ存在感があるということですね。

先ほど黒澤明監督が本物にこだわる映画監督であるということを書きましたが、三船さんの殺陣もそうなんです。

立ちまわりでは、刀でバシッと、生身の体に当ててきます。体に当てて、その反動で次の相手を斬るのです。

それまでの時代劇のように、形だけではやっていません。だからこそ、迫力がです。僕らは撮影のあとで全身を眺めて、今日は背中に何本、脇に何本ミミズばれが入ってるとか、数えていました。

三船敏郎さんは形だけの殺陣を捨て、とにかく真剣な斬り合いにこだわったと言います。敵として立ち回った役者からしたら堪らないのかもしれませんが、撮影の後にきちんと彼はフォローを入れていたようで、そういう人間的な部分も素晴らしかったんでしょう。

そして三船敏郎さんの殺陣の魅力と言えば、やはり「睨み」と「スピード」ですよね。

小柄な彼が映画の中ですごく大きく見える最大の要因は、その圧倒的なまでの威厳と威圧感を有した「睨み」であり「表情」でした。あまりにも鋭い眼光は映画を見る人を惹きつけて止みません。

そして何と言ってもその殺陣のスピードですよね。三船さんを特集したテレビ番組を見た際に知ったのですが、黒澤明監督は彼の「太刀筋」は「見えない」ほどに速いと評しています。

同番組の中で黒澤作品のスクリプターを務めていた方がこう述べています。

「フィルムは1秒、24コマだから、1コマっていうのは24分の1秒ですよ。(三船の殺陣は)24分の1秒の中でも止まっていないくらい流れるスピードがある。」

彼が殺陣のシーンを撮影する際に呼吸を止めるというのも有名な話ですが、彼の大胆ながらも、スピード感溢れる殺陣は未だに並ぶ者はいないと言っても過言ではないほどの迫力がありました。

そんな三船さんの殺陣を実際に見てきた木村大作監督が『散り椿』での岡田さんの殺陣を次のように評しているんです。

「三船敏郎、高倉健、仲代達矢、勝新太郎を上回るスピードだね。殺陣というのは、ひとえにスピードが大事」

これがリップサービスなのか、心から出た真の言葉なのか。その真意は分かりません。しかし、映画に対して並々ならないこだわりと厳格さを持つ彼が、自分の尊敬する俳優の名前を出してまでリップサービスをするとは考えにくいです。

ナガ
で、実際に岡田准一さんの殺陣はどうだったの?

本当に素晴らしかったです。

三船さんの殺陣はすごく大胆で、迫力があるイメージが強いですが、岡田さんの殺陣はしなやかで、スマートです。

木村大作監督が撮りたかった『散り椿』のイメージに合致するのは、間違いなく彼の殺陣だったんだと思います。木村監督が撮影した日本の四季折々のポエトリーな美しさを孕んだ映像の中で、岡田さんの殺陣は全くノイズになることなく映像に馴染んでいるんですよ。

もちろん迫力や存在感という面で評するならば、それほどではないのですが、「映像に溶け込む殺陣」という視点で見ると、彼のスマートな殺陣はその役割を完璧に果たしていました。

木村監督が所望した「誰も見たことがない殺陣」というのは、これまでにない「美しさ」を有した殺陣だったんだと思いますし、それがこの映画の中でこの上ない形で表現されていることに感動を覚えます。

ぜひとも、その美しい殺陣を映画館でご覧になって欲しいと思います。

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木村大作監督とカメラワーク

もう1つ触れておきたいのが木村大作監督の撮影の方法についてです。

彼の映画の撮影の特徴の1つに1シーン1カットで撮るというこだわりがあるんですね。

しかしですよ、映画本編を見た方はお分かりいただけると思うんですが、普通にカメラのアングルが切り替わっているので、カットを挟んで撮影しているように見えます。

実は木村監督は撮影をするときに複数台のカメラを現場に設置して、その上で撮影を行うんです。

これにより多様なアングルからのショットを本編に採用できますし、何より彼の1カットへのこだわりも捨てずに済みます。

加えて彼の作品の会話シーンのアングルは特徴的です。

会話を撮影するシーンのセオリーとしては、まずはイマジナリ―ラインを設定して、それを超えない位置からのアングルで会話をしている人物を交互に映していくということが挙げられます。

ナガ
これは一般的な撮影方法だよね。

一方で木村監督はこんなアングルで会話シーンを撮影したりします。

アイキャッチ画像:(C)2018「散り椿」製作委員会

これは予告のワンシーンなんですが、同様のアングルは本編中に散見されます。

話し手と受け手がいて、受け手の背後から話し手を捉えるというアングルなんですよね。これは極めて特徴的と言えます。

会話というものが話し手と受け手の両者が存在して初めて成立するものであるということ。そして監督の主眼は常に話し手の方にあるということ。この2つを同時に収める映像を模索して、このアングルに辿り着いたのではないでしょうか。

このアングルであれば、話し手の表情が横顔になることもありませんし、なおかつその言葉を受け止めている受け手の存在をも映像の中で際立たせることができます。

こういった細かいカメラワークにもぜひとも注目して見て欲しいと思います。

感想:潔い「死」が尊ばれる時代で描かれる「生きること」の尊さ

日本では長らく武士の時代が続き、そして明治、大正、昭和という戦争の時代へと突入していきました。

そんな歴史の中で長らく尊ばれてきたのが、「死の美学」ですよね。侍の時代には「切腹」と呼ばれる、潔く自らの命を自ら断つ行為が尊ばれました。戦争の時代に入ると、「お国のために命を捧げる」ことが尊ばれ、敵国の捕虜になって生き延びることはある種の「恥」であるかのように見なされました。

日本人の心の中にそんな精神が今も根強く残っていることは明らかですよね。例えば、2018年の6月ごろに開催されたサッカーのワールドカップにて、日本はグループリーグ第3戦でノックアウトステージ進出のために、勝利を捨て引き分けを目指すためのパスワークを展開しました。

この一件に関して、日本では「こんな勝ち上がり方をするくらいなら、勝ちを狙いにいって潔く負けた方がまだ良かったのに。」という声が多く聞こえてきました。そんな意見を見ていると、日本人にはまだまだ「死の美学」が通底しているんだなと感じさせられます。

本作『散り椿』の舞台となった江戸時代はまさに侍の世の中で、「切腹」による潔い死に様が美しいとされていた時代でした。

主人公の瓜生新兵衛は愛する妻が死に、自らも後を追わんとして、美しい「散り際」を探し求めています。彼は自分の死に場所を求めるかのように扇野藩へと帰郷するのです。

そんな彼が見たのは、友の死を無駄にはすまいと懸命に藩の不正を暴こうと尽力する榊原 采女の姿でした。かつて篠が好意を寄せていた男性でもあった采女から篠へと届けられた書簡を彼は偶然にも読んでしまいました。篠を苦しめたとして采女を斬ることを決意する新兵衛。

しかし、妻の篠の思いは全く別のものでした。篠は新兵衛と結婚した際に采女からの縁談を正式に断り、自分の思いは新兵衛にあると告げていたのです。

篠が死に際に託した2つの願いの真意は、彼が自分の後を追って死ぬことがないようにという思いだったわけです。

つまり美しい「死」が美徳とされる時代において、美しくなくとも「生きていて」欲しいというのが篠の本心でした。

この映画を見ていて『宇宙兄弟』という漫画に登場したとあるセリフを思い出しました。

たいていの飛行士は”YES”と答えるけどな
口では何とでも言える 薄っぺらい”YES”だ

死ぬ覚悟なんていらねえぞ 必要なのは”生きる覚悟”だ
“NO”と言える奴がいたら そいつは信じていい

『宇宙兄弟』第6巻より引用

散り椿という花は実際に存在しています。五色八重散椿と言われ、通常の花がボトッと丸ごと落ちる椿とは違い、花弁が一枚ずつ散っていく様から「散り椿」として親しまれています。

そういう「散り際の美」というまさに武士の死の美学を象徴するような花をタイトルに関した作品が、最後に我々に訴えかけてくるのは、他の花びらが散っていった後もなおしぶとく残り続ける花びらの尊さなのです。

死ぬ覚悟ではなく、生きる覚悟をせよと問いかけてくる美しい愛の物語に、見終わった後に少しだけ勇気をもらえたような気がしました。

おわりに

いかがだったでしょうか。

今回は映画『散り椿』についてお話してきました。木村監督がとにかく「美しい時代劇」を撮りたかったと作品のコンセプトについてお話されていますが、まさにその言葉を具現化したような映画で、見ていて惚れ惚れとする映像美でした。

ただ、かなり淡々としていて「静」な演出が目立つ作品なので、疲れている時に見に行くと睡魔の誘惑に負けてしまう可能性がありますのでお気をつけください。

また、淡々と物語が進行していく割りには人物の関係性なんかが複雑で、きちんと理解をしながら見ていかないとおいていかれる可能性も高いです。ポエトリーな映像を見ていると、ついつい感傷に耽ってしまいがちですが、人間ドラマにも注意を払うようにしましょう。

間違いなく映画館で見る価値のある作品です。ぜひ劇場でご覧になってください。

今回も読んでくださった方ありがとうございました。

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