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目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『モンスターストライク ソラノカナタ』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような要素を含む感想と解説記事になります。ネタバレに言及する際は改めて言及させていただきます。
良かったら最後までお付き合いください。
映画『モンスターストライク ソラノカナタ』
あらすじ
ある日突然東京の3分の1の土地が地面から切り離され、宙に浮くという災害が起こりました。
その頃宙に浮いた東京では、モンスター同士の激しい戦いが繰り広げられていました。
世界を危機に陥れた「月の穢れ」から世界を救ったモンスターと人間のハーフであるマナを守ろうとする派閥と、宙に浮く東京を地に落とし、人間たちに鉄槌を下そうとする解放戦線が対立を深めていたのです。
「月の穢れ」の力が強まり、世界の均衡を保っていたマナの力が弱まり、東京落下の危機が迫っていました。
そんな中マナを慕うソラは、地上に降り立ち、マナの息子であるカナタを探します。
時を同じくして宙に浮く東京のシールドの狭間から地表に降り立ったモンスターがカナタを襲っていました。
そこに現れるソラ。2人の出会いは壮大な物語のはじまりに過ぎませんでした。
スタッフ・キャスト
本作『モンスターストライク ソラノカナタ』の監督を務めたのは、錦織博さんですね。
錦織監督は個人的に大好きだったテレビアニメ『あずまんが大王』の監督をされていたということもあって大好きなアニメクリエイターの1人です。やはり代表作と言えば、『禁書』シリーズになるのでしょうか。
監督としてだけではなく、演出面でも定評がある監督で、『少女革命ウテナ』での演出がきっかけで脚光を浴びたとも言われています。『少女革命ウテナ』も大好きな当ブログ管理人、この時点で本作への期待値は上がりまくりでした。
そして脚本を担当されたのが、伊神貴世さんですね。
彼もまた幾原監督作品に多く携わっている脚本家ですね。『廻るピンクドラム』や『ユリ熊嵐』といった作品で、シリーズ構成を担当し、その他多くのテレビアニメ作品の脚本を手掛けています。
この2人のタッグなら当然気なるよねという陣容でした。
また注目したいのは劇伴音楽ですね。担当されたのは横山克さんです。
実写映画『ちはやふる』での印象的な劇伴音楽も素晴らしいのですが、テレビアニメでも『四月は君の嘘』や『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』などの話題作で最高の劇伴を披露してくれました。
今回の『モンスターストライク ソラノカナタ』でも、ぜひ音楽に注目してみてくださいね。
そして何より注目したいのが製作を担当したオレンジですね。
この製作会社は2017年に放送された『宝石の国』というアニメ作品で、見る人の度肝を抜くようなCGアニメーションを披露し、注目を集めました。
映画『モンスターストライク ソラノカナタ』もとにかくバトルシーンの映像がすごいです。これだけでも見る価値があるんじゃないかと思いました。ぜひとも大きなスクリーンで、3DCGが魅せる迫力のバトルシーンを体感してみてください。
まずメインキャラクターとなるカナタとソラについてですが、これをそれぞれ窪田正孝さんと広瀬アリスさんが演じています。
この2人を除くと、ほとんどのキャストが本職の声優ということで、俳優起用となった2人の演技が注目されていました。
個人的な感想ですが、窪田さんは演技力で声優もこなせてしまうんだなぁという印象で、広瀬さんはちょっと演技にムラがあるのと、中途半端にアニメ声に寄せようとしている印象がありました。
せっかくの俳優起用なんですから、もう少し俳優ならではのボイスアクトを期待していたのですが、少し残念に感じる部分もありました。
脇を固めるのは、山寺宏一さん、細谷佳正さん、悠木碧さん、加藤(英美里)さんなど豪華声優陣です。
英雄のラインナップを見ているだけでも、劇場に足を運んでしまいたくなるような勢いです。
より詳しい作品情報を知りたいという方は公式サイトへどうぞ!
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映画『モンスターストライク ソラノカナタ』感想
覚えていれば失わない、共に生きていれば・・・。
今回の映画の主題を端的に表しているのが、この「覚えていれば失わない、共に生きていれば・・・。」というセリフです。
これって個人的には2つの意味で捉えることができると思います。
まず1つ目は後ほど詳しく言及しますが、震災に対する発言であるという趣旨ですよね。
映画『モンスターストライク ソラノカナタ』では、「月の穢れ」によってモンスターがどんどんと石化していき、そんな「月の穢れ」を遠ざけるために人間はモンスターごと異世界へと転送し、消し去ってしまおうと画策します。
この設定は、間違いなく震災や原発事故からの引用と言えるでしょう。
そして本作の冒頭に印象的なセリフが登場します。
それは「あそこにあったものをもう誰も覚えてはいない。だから宙に浮く東京はいっそのこと消えてしまえば良い。」という趣旨でした。
これが今もなお人の立ち入りが制限されている福島第一原発付近のことを想起させるのは当然と言えます。そしてそこからは人や暮らしや文化が奪われてしまいました。もちろん多くの人の命も奪われていきました。
では、我々がそんな惨劇に対してできることというのは、何なのか?現実に効力を持ちえないフィクションができることとは何なのか?と考えた時に、それは「記憶を風化させないこと」だと思うんです。
人は自然に生きていれば、どんなに凄惨な出来事であっても少しずつ記憶が色褪せていってしまいます。2011年に起こった東日本大震災の記憶は既に人々の中で、私の中でも色褪せつつあります。
だからこそ映画『モンスターストライク ソラノカナタ』が震災のテーマに言及するのは、「今更」ではありません。「今だから」こそ、いやこれからも言及し続けていかなくてはならない主題なのです。
子供向けアニメの中でこの主題を描こうと決断した本作のクリエイターの方々にまずは賛辞を贈りたい思いです。
そしてもう1つは、モンストというスマートフォンゲームに対する言及でもあります。
スマートフォンゲームの特性と言えば、運営がサービスを終了してしまえば、一所に全てが終わってしまうという特性です。
これまでにそのゲームにどれだけ課金していようとも、サービスが終了した瞬間にゲーム内にある自分の「資産」は無に帰してしまうわけです。
じゃあユーザーは無力なんだろうか?と言うと、実はそうではありません。ユーザーが課金し、サービスを続けていくれている限りはそのコンテンツは廃れません。
劇中にこんなセリフがありましたよね。
「思い出じゃ嫌だ!!」
そうなんです。スマートフォンゲームはサービスが終了した瞬間にただの「思い出」になってしまい、そこには何も残りません。
だからこそ、アプリに課金をし、ゲームと「共に生きてくれる人」が必要なんです。
個人的にはそんな風にも見えましたね(笑)
みんなが覚えてくれている限りモンストは不滅だ!!さあこれからも共に生きて(課金して)くれよな!!
スマートフォンのゲームアプリ発のアニメらしい設定と主題が見え隠れしていましたね。
とにかくすごい戦闘シーン
本作『モンスターストライク ソラノカナタ』の最大の見どころは戦闘シーンの迫力のアニメーションと言えるでしょうか。
個人的にやはりまだまだ3DCGという技術に抵抗がある部分があります。最近だとアニメ映画版『GODZILLA』シリーズを手掛けているポリゴン・ピクチュアズは有名ですよね。
ポリゴン・ピクチュアズはキャラクター造形こそ未熟ながら、『シドニアの騎士』などで迫力のロボットバトルを展開し、360度自由自在のアングル演出を存分に発揮して驚きを与えてくれました。
それから『蒼き鋼のアルペジオ』なんかで知られるサンジゲンですね。こちらもキャラクター造形に難ありという印象ですが、艦隊戦の迫力はすさまじくて、映画館で見るとただただ圧倒されました。
このように3DCGという技術はロボットや艦隊戦といった無機物の戦闘シーンでは抜群の演出力と迫力を有しているのですが、どうしても人物描写や人物同士の戦闘シーンとなると迫力に欠ける部分があります。
ただオレンジ製作の『モンスターストライク ソラノカナタ』はそんな人物表現の未熟さをほとんど感じさせないんですよね。
それでいてバトルシーンでは、これまでに見たことがないような圧倒的な演出を誇っています。
その秘密がどうやらモーションキャプチャーなんだそうです。モーションキャプチャーというのは実際の人間が動きを撮り、それをコンピュータに取り込んだのちに、その動きに3DCGのキャラクターを重ねていくという手法ですね。
ここまでリアルな人間の動きにこだわったからこそ、人と人が戦うシーンでのリアル感が演出できたんでしょうね。ちなみにポリゴンピクチャズもアニメ『亜人』でこの技術を取り入れていたようですが、アクションシーンの質は圧倒的に本作の方が上です。
さらに本作は人物だけでなく、背景の描写にも注目です。宙に浮く東京のシーンでは、とにかく我々の生きる世界線上にある東京の空気感がそのまま再現されています。
これに関してもオレンジでは徹底したロケーションハンティングを行い、緻密な調査の後にビジュアルを作り込んで行ったと言います。
とにかくこの素晴らしいアニメーションを大画面で見れるというだけでも、映画館に足を運ぶ価値があると私は思いました。
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映画『モンスターストライク ソラノカナタ』解説
Webアニメとのつながりに関して
まず本作の主人公関連で気になるのは、父親が登場しないことですよね。
これに関してはWebアニメを見ておくと何となく推測ができます。というよりも確信を得られます。
マナというキャラクターは実はWebアニメシリーズにも出演しています。それでいてマナに思いを寄せていたのは主人公の焔レンでした。
「消えゆく宇宙編」の第12話でマナは人間とモンスターを救うために消失します。
そして最終回「残されたもの」のラストにて、転校生としてレンの学校に戻って来るんですね。
つまりカナタの父親はレンであるという可能性が高いのではないでしょうか?
また『モンスターストライク ソラノカナタ』の中で何度か登場していた「赤い月」に関しても,これはWebアニメシリーズの方で起きていた事件となっています。
キャラクターに関してお話するのであれば、影月明も引き続き出演していますよね。
きちんと話の筋を理解したいという方はWebアニメシリーズもチェックしておいた方が良いということになりますね。
Webアニメで「人間とモンスターの両方を救いたい。」と心からの言葉で語っていたマナが自分の息子のためだけにモンスターを犠牲にするなんて手段を取るとはどうしても思えないんですけどね・・・。
やはり子供ができると女性は変わるんでしょうか・・・?
これでもかという程に詰め込まれたテーマ
前作である『モンスターストライク 始まりの場所へ』はすごくテーマを絞って作られた映画でした。
参考:【ネタバレ】『モンスターストライク はじまりの場所へ』が思い出させてくれる大切なこと
ジュブナイル映画的側面が強く、人が成長するにつれて忘れていってしまう大切なものに焦点を当てた本作はアニメファンの間でも、映画ファンの間でも話題を呼びました。
ただ、今回の『モンスターストライク ソラノカナタ』はとにかく現代日本、現代社会に蔓延るありとあらゆる問題をこれでもかという程に詰め込んでいます。
それにも関わらず映画の尺がたったの97分ですよ。子供向けのアニメ映画ですから1時間30分くらいが限界だろうとはいえ、この尺であれだけのテーマと展開を詰め込んでやろうなんて考えた人がぶっ飛んでますよ。
結果的に尺足らずで詰め込みまくったテーマが全て消化できているとは言い切れませんでしたし、何より詰め込みすぎたためにあらゆる展開を登場人物のセリフによる説明でサクサクと進めていかざるを得なくなり、映画としての完成度が落ちてしまっていました。
これは間違いなくこの映画の弱点だと思います。
普段はセリフでベラベラと語る映画が大嫌いな当ブログ管理人ですが、この映画『モンスターストライク ソラノカナタ』に関して言うのであればそこまでして、これだけの主題をぶち込んだ心意気を称賛したいんです。
モンスターストライクってユーザーはかなり低年齢層にも多いアプリゲームですし、実際劇場に足を運んでいた客層は若かったです。そんな世代の子供たちに現代の世界や日本を取り巻く、数々の論点をこれでもかという程に突きつけていくその姿勢がすごく面白いと思ったんですよ。
この作品を見て、家に帰って、この映画について考えてみて欲しいと思いました。
本作に隠されていたたくさんの論点
先ほどから申し上げているように本作にはもうこれでもかという程にいろいろな主題が詰め込まれています。
正直1つでも映画が作れるレベルのテーマが、5,6個は入っていたんじゃないでしょうか?私が気がついた範囲でお話していきますね。
東日本大震災と原発事故
これは記事の冒頭でも言及しましたよね。
劇中で東京の3分の1が失われたという描写は東日本大震災とそれに伴う原発事故で住むことができなくなった福島の一部の区域を彷彿させます。
また『モンスターストライク ソラノカナタ』における大きなキーとなる「月の穢れ」はまさしく放射線物質を想起させるモチーフでもあります。
現実世界において、我々が福島の一部区域を捨て、そこに放射性物質を閉じ込めたように、映画の中における人間たちは「月の穢れ」とモンスターたちを宙に浮く東京の中に隔離したわけです。
マスコミと情報操作
これまた面白いのが、本作がマスコミや情報操作の問題にも言及していることです。
我々が生きる世界で、テレビやインターネットに蔓延る情報が確実に信用できるかと聞かれると、決してそんなことはありません。
特にテレビメディアはその傾向が顕著で、国民に知られたくない情報は流さないという情報操作が日常的に行われています。だからこそ我々にとってはそういう事実があることを飲み込んで、情報を吟味していくリテラシーが大切です。
どんな利害関係があって、その情報を流すことで、また流さないことで誰が得をするのか、損をするのかといった関係をしっかりと把握し、何でも鵜呑みにしないこと。
情報操作の存在を生々しく描いた子供向けアニメとは驚きです。
アイデンティティの獲得
もうこれを主題にした映画って。国内外で毎年大量に製作されていますよね。
現代の映画シーンにおいてアイデンティティは最大のテーマの中の1つとも言えます。
本作の主人公であるカナタは自分の存在意義や自分の力にまだ気がついていません。しかし、「隠された母と出会う」という『オデュッセイア』的な成長譚を通して、自分という存在のアイデンティティを確立していきます。
これはもう1人の主人公であるソラに関してもそうです。幼少の頃に誰にも存在を認知されず、唯一自分を見てくれたマナが自分にくれた「ソラ」という名前を彼女は大切にしています。
そんな彼女がマナに保証された自我ではなく、自分にしかないアイデンティティを模索して闘うのも本作の主軸の1つです。
正義VS正義
今作『モンスターストライク ソラノカナタ』にテーマ性が似ている映画があるとすれば、今年の4月に公開された『アベンジャーズ インフィニティウォー』かと思われます。
どう近似しているのかというと、ヴィランの存在なんですよ。
『アベンジャーズ インフィニティウォー』はアベンジャーズという世界を守ろうとするヒーローと同じく世界を守ろうとするサノスの戦いを描きました、
ここで大きな焦点となったのが「犠牲」という2文字です。
全生命体の半分という「犠牲」を払って、世界を救おうとするサノスに対して。アベンジャーズは「犠牲」を許すまいと対抗します。
この構図は間違いなく『モンスターストライク ソラノカナタ』におけるソラたちとセンジュの対立構造と同じものです。
センジュはもう自分の大切な人を失いたくないという思いから、「犠牲」を払ってでもモンスターたちの自由と解放のために戦っています。一方のソラたちもまた世界と人間、モンスターを救うために闘います。
本当の正義なんてどこにあるのかは分かりませんし、絶対的な正義など存在しません。
劇中の言葉を借りるのであれば、「みんな間違ってるし、みんな正しい」んですよ。
そんな正義と正義の対立という構造を子供向けアニメでやってしまうという姿勢にこれまた驚かされました。
「正しいことだけが、正しいとは限らない。」
このセリフは子供たちにどんな意味を持って届くのでしょうか?
おわりに:共に生きるということ
近年ヨーロッパやアメリカでは「移民の問題」が大きな話題を呼んでいます。
まだまだ日本では他人事のようなトピックかも知れませんが、日本でも大きな問題になる日がやって来るやもしれません。
グローバル化と呼ばれる時代に、何よりも求められるのは「共に生きようとする」意志です。
誰かを差別し、貶し、虐げ、自分たちだけに都合の良い世界を作ろうとするのではなく、共に生きていく道を模索することが大切な時代になるはずです。
人間とモンスター。共に生きること。お互いの幸せを模索すること。
『モンスターストライク ソラノカナタ』という作品は、非常に難しいテーマ性を孕んだ作品ですが、だからこそ子供たちに見て欲しい映画になっていました。
きっとこれからの世界を生きていく上で大切なことを学ぶきっかけを与えてくれる映画になっていると思います。
あまりにもストーリーと設定、テーマを詰め込みすぎたがために、説明セリフに多くを依存する羽目になった本作ですが、そうしてまでも「伝えたいこと」を全て詰め込むんだという製作陣の気概に私は感動しました。
ぜひとも多くの人にご覧になっていただきたい作品だと感じました。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
P.S.ちなみにですが終盤の東京タワーをソラが登るシーンって『クレヨンしんちゃん オトナ帝国』のオマージュって気がつきました?
映画 『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』より引用
まさかこんなオマージュがあるとは・・・。
以上余談でした。