(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『ヘレディタリー 継承』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事になります。作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
『ヘレディタリー 継承』
あらすじ
祖母のエレンが亡くなり、グラハム家は喪に服す。
しかし、その日を境にして彼らの周りに不可解な現象が起こり始める。
墓穴から取り出されたエレンの屍。
祖母の遺品のスピリチュアル本に挟まれた「私を憎まないで」というメモ。
娘のチャーリーの異変。
それでも何とか平静を保とうとしていたグラハム一家。
しかしある夜、そんなグラハム一家にさらなる悲劇が襲い掛かります・・・。
これを機に変調をきたした母アニー。
そして物語は誰も想像できない方向へと突き進んでいくのでした・・・。
キャスト・スタッフ
監督は、本作で長編映画初監督となるアリ・アスターです。
もう衝撃ですね。とんでもない才能だと思います。
短編映画を重ねて順当に支持を獲得し、ようやく手掛けた初長編作品『ヘレディタリー 継承』はサンダンス映画祭やサウス・バイ・サウスウェスト映画祭でも大きな注目を集めました。
『セックスと嘘とビデオテープ』のスティーブン・ソダーバーグ監督や『パブリック・アクセス』のブライアン・シンガー監督など、ここで評価され名声を高めていった映画監督は数知れずです。
アリ・アスター監督もここから羽ばたくことはもう約束されたと言っても過言ではないですね。
本作の主人公であるアニーを演じるのはトニ・コレットです。
やはり彼女が出演していたことで知られる映画は『シックスセンス』でしょうね。
この作品で彼女は母親のリン・シアーを演じ、アカデミー賞助演女優賞レースでも有力候補と目されました。
また2006年の『リトルミスサンシャイン』の演技でもってゴールデングローブ賞にもノミネートされました。
また息子のピーター役にはアレックス・ウルフが参加しています。
現在公開中の『ライ麦畑で出会ったら』や2018年に全世界で大ヒットを記録した『ジュマンジ2』にも主人公役として出演しています。
その他キャストもご紹介しておきますね。
チャーリー・グラハム(ミリー・シャピロ)
アニーとスティーブの娘。冒頭で電柱に頭をぶつけて命を落とす。
スティーブ・グラハム(ガブリエル・バーン)
アニーの夫。温和な性格で、徐々に気が狂っていく彼女を支えようとするが・・・。
ジョーン(アン・ダウド)
娘の死で精神的に追い詰められていたアニーを支える女性。彼女も息子と孫を亡くしたというが・・・?
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映画『ヘレディタリー 継承』徹底解説・徹底考察!
ここからは映画『ヘレディタリー 継承』を徹底的に解剖していこうと思います。
記事の都合上ここからはネタバレを含む内容になりますので、お気をつけください。
冒頭にも登場したミニチュアハウスの意味
冒頭のミニチュアハウス演出 (C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
映画『へレディタリー 継承』はカメラが部屋の中に置かれているミニチュアハウスへとクローズアップしていくショットで幕を開けます。
このショットを見た時に思い出したのはスタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』でした。
映画『シャイニング』の中でも冒頭にカメラが鏡の中に映る人物にフォーカスしていくショットがありまして、それが映画そのものが「鏡の向こうのもう1つの世界のレイヤー」の存在を示唆していたわけです。
一方で『へレディタリー 継承』のミニチュアハウスは何を意味していたのかというと、グラハム一家は悪魔パイモンの「ドール」に過ぎないということですよね。
作中では徐々に悪魔に侵されていく母アニーがミニチュアハウスを作っていましたが、彼女は悪魔によって操られていました。
つまり、ミニチュアハウスを作っていたのは悪魔の意志であり、人間を超越した大きな何かによってグラハム一家が弄ばれていたという様をアイコニックかつアイロニックにメタファー化したものであるわけです。
この冒頭のファーストカットでアリ・アスター監督の凄まじい才能の片鱗を味わったような気がします。
アニーとエレンのペンダント
劇中で印象的だったのは、やはりアニーとエレンがつけていたペンダントに始まるあの紋章でしょう。
これは一体何を表しているのかと言いますと、地獄の大王パイモンのシジルなんですね。
パイモンのシジル (http://myth.maji.asia/amp/item_paimon.html)
冒頭のシーンでアニーが既にこの紋章のペンダントを身につけていたことからも彼女もまた徐々に悪魔に蝕まれていたことが伺えます。
また、注目したいのは娘のチャーリーの事故についてです。
自己のシーンでは明かされませんが、後にチャーリーが激突した電柱にはパイモンのシジルが刻印されていたことが明らかになります。
これによりチャーリーの自己が偶然ではなく、必然であったことが分かります。
またそれを半ば強引にかつ無意識的に手引きしたのが、母のアニーであるという点も印象的です。
チャーリーの舌鳴らし
映画『へレディタリー 継承』を鑑賞しながら、思わず舌を鳴らしたくなった人は私だけではないでしょう。
本作で最も印象的な音の1つがやはりチャーリーが舌を鳴らす音です。
これは映画演出的な意味合いで非常に効果的に機能していることが指摘できます。
まず、アニーが劇中でチャーリーのことを評して「あなたは生まれた時も泣かなかった。」と発言しています。
ここから推測するにチャーリーには生まれつきペイモンの魂が宿っていたのではないでしょうか。
とすると、チャーリーのあの特徴的な舌を鳴らす音というのは悪魔王パイモンを想起させるものであると読み解くのが自然です。
さらにチャーリーと舌鳴らし、そしてパイモンという3つのモチーフをあの「音」でもってイメージを統合したことで後のシーンでこの演出が機能してきます。
ピーターが部屋で寝ているシーンや、教室で授業を受けているシーンでふと「舌鳴らしの音」が聞こえてきただけで、我々はパイモンの存在を想起することとなるからです。
だからこそ我々はあの「音」を聞いただけで心を掻きむしられ、平静を保てなくなるほどの居心地の悪さを覚えるわけです。
夢遊病の母アニー
本作『ヘレディタリー 継承』において母親のアニーは夢遊病であるという設定が明かされています。
これも作中の人物の行動を読み解いていく上で重要なポイントになるのではないかと考えています。
というのも「夢」というものはフロイトやユングの時代から人間の無意識下より届くメッセージのようなものなのです。
さて、それを踏まえた上で、劇中で明かされた夢遊病で夜中に徘徊していたアニーが息子のピーターを殺害しようとしたという事象を考えてみると、少し違った角度から見ることができます。
なぜなら、それはアニーのピーターに対する無意識下にある愛の表れだからです。
彼女は母としてピーターに愛僧入り交じった複雑な感情を抱いています。アナタを産みたくなかったとも、アナタを愛しているとも発言しました。
ただこの「あなたを生みたくなかった。母親になりたくなかった。」という発言すらも彼女の「愛」なのではないかと私は思うんです。
自分の母親がカルト宗教に携わっており、産んでしまえば自分の息子が何らかの形でそこに巻き込まれてしまうという懸念を彼女は常に持っていたんでしょう。
だからこそ彼女はピーターには祖母と距離を置かせたわけですし(代わりにチャーリーを差し出した)、夢遊病時の無意識の行動で彼を殺そうとしたんだと考えています。
アニーはピーターを殺すことで、パイモンの生贄になるという運命から自分の息子を救いたかったわけです。
アニーの兄チャールズの真相
みなさんは本作の中でサラッとアニーの兄であるチャールズが16歳の時に自殺していたという事実に触れられていたのを覚えていますでしょうか。
映画を見終わってから考えると、これが非常に重要な意味合いを持っていたことが分かります。
チャールズは自身の遺書の中に「母が自分の中に何かを入れようとした」と書いたわけですが、それはまさしくペイモンのことですよね。
この事件があったことでアニーは自分の母エレンが男の子に対して何かを企んでいることを悟ったのでしょうし、後に自分の息子であるピーターへの接触を禁ずる理由にもなったんだと思います。
かなり冒頭の時点で結末に至るまでのヒントが提示されていたというのが何とも面白いです。
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謎の光の演出
光を使った印象的な演出 (C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
これが先ほど話題にあげた「舌鳴らし音」ともう1つ素晴らしい演出だと思いました。
映画『へレディタリー 継承』を見ていると、途中から謎の光が見えるシーンがたくさんありますよね。
光の演出は特にアニーがジェーンに唆されて、パイモンを降霊してしまった瞬間から頻発するようになりました。
つまりアニーがパイモンをグラハム家に恒例させてしまったことになりますし、あの光の正体はパイモンということになるわけです。
終盤に屋根裏部屋の窓から庭に飛び降りたパイモンから黒い影が飛び出していき、代わりに彼の心臓のところにあの光が照射され、消えるという演出はまさにパイモンがピーターに宿ったことを示唆しています。
そうなんです。普通に考えれば、「悪魔」は闇を想起させますから、影で表現するのが妥当でしょう。
しかし、この『へレディタリー 継承』という作品は冒頭のミニチュアを俯瞰で眺めるシーンからも分かる通りで、悪の視点でかつ超越的な視点が「カメラ」と化しているわけです。
本作の映像は夜のシーンと昼間のシーンが電気のスイッチを切り替えるかのようにパチッと一瞬で変化していく編集になっていますが、やはり印象的なのは夜のシーンです。
そんな夜の暗闇の中で煌々と輝く存在、それが悪魔パイモンなのです。
悪魔という一見闇と密接にリンクしているように思えるモチーフを「光」で表現し、夜の陰の中で存在感を際立たせた点は巧いと言わざるを得ませんね。
イラストでピーターの目が消されていた理由
これに関してはいまいち理由が語られていませんよね。
劇中でチャーリー(パイモンの意志)が手帳に描いたピーターは常に目を黒く塗りつぶされていました。
また、あの手帳に書かれたことが実際にピーターの身に降りかかることもしばしばだったんですが、あの目が潰されてしまう描写だけは現実になっていません。
もちろん「目を奪う」という行為を、意識や魂を奪うという行為の比喩としてイラストに表出させた可能性もありますし、そうであればパイモンが彼の身体を乗っ取るというラストを示唆していたことになります。
一方で『ヘレディタリー 継承』には劇場公開版の前に作られていた上映時間が3時間近くあるバージョンがあるようです。
そのバージョンには、どうやらピーターが自分の目を引っ掻き出すシーンがあるようでして、あのイラストはそのシーンを示唆して作られたもののようです。
首を切断されたグラハム家の女性たち
映画『ヘレディタリー 継承』を最後まで見ていくと、グラハム家の女性たちはものの見事に全員が首を切られていることに気がつきます。
まず、祖母のエレンは墓荒らしに遭い、屍から頭部だけが切断され、胴体はグラハム一家の住む家の屋根裏に放置されていました。
次に、車に乗っていた際に事故に遭ってしまったチャーリーも頭部を電柱に直撃させ、首がちぎれて死んでしまいます。
最後に母アニーも終盤のシーンで自ら首を切って死んでいましたよね。
つまり親子3世代にわたってグラハム家の女性は全員が首を失う形で命を落としているわけです。
これは彼女たちが人間の歴史にも数多く存在した儀式における「生贄」の役割を果たしたという風に解釈できます。
皆さんは三国志演義における「饅頭」のエピソードをご存じですか?
瀘水の岸に饅頭をならべ、亡魂を祀る孔明
これは諸葛孔明が南蛮遠征から成都に引き上げる際に、瀘水を通りがかった際に起こったと言われている逸話です。
その川には言い伝えがあって、荒れた川を収めるには49の人間の生首を生贄に捧げなければならないというものでした。
その時に孔明が人間を生贄に捧げるのではなく、人の頭部を模した「饅頭」を作成して生贄に捧げ、無事に荒れた河を収めたというのがこのエピソードの筋です。
これは私が一番印象に残っている「生首」を生贄に捧げるエピソードの1つなのですが、これだけでなく世界中の歴史や神話、民俗の中で「生贄」という概念はしばしば登場します。
また、『ヘレディタリー 継承』のように女性が生贄に捧げられるというのは非常に多いケースだったようです。
ちなみにパイモンの実在の姿は「王冠を被り女性の顔をした男性の姿」だと言われています。
そう考えると女性が首を切られ、男性は身体を乗っ取られたという一連の描写にも納得がいきます。
蟻のイメージはダリの絵画からの引用?
これは個人的な見地からの推測混じりではあるんですが、切断されたチャーリーの生首に蟻が湧いているシーンは嫌悪感MAXでしたよね。
『記憶の固執』サルヴァトール・ダリ
これはダリの最も有名な絵画の1つでもある『記憶の固執』ですよね。
その左下に注目してみると、懐中時計のようなものに蟻がうじゃうじゃと湧いている様が確認できます。
しばしばダリの絵画における「蟻」は「死」のモチーフであると考えられています。
これは彼が幼少期に動物の死骸に群がる蟻を見たことがきっかけだそうです。
そう考えると『ヘレディタリー 継承』における蟻もダリの絵画的な意味合いを有しているのではないかと推察できます。
本物の幽霊?その正体とは?
映画『へレディタリー 継承』に「本物の幽霊」が映りこんでいると一部界隈では、話題になっています。
もちろんそのシーンに関しては当ブログ管理人も気がついていました。
映画秘宝が公開前に「都市伝説」的に広めた噂なので、まあ「信じるか信じないかはあなた次第」レベルの宣伝文句なんだとは思います。
該当のシーンはちょうどラスト15分̪差し掛かったあたりのシーンで、鼻が折れたピーターが夜自分の部屋で目覚めたあたりですね。
ピーターの部屋を俯瞰で映すショットがあるんですが、実はこの時点で部屋の天井の角に母アニーが待機しているんですよね(笑)
そしてそのアニーがピーターの背後を飛び去っていく演出がありまして、おそらくはその部分を指して「本物の幽霊」と言われているのではないかと推察します。
少なくとも雑誌に掲載のシーンに関して言うならば、「幽霊」の正体はアニーじゃない?と推察してます。
監督が影響を受けたと語る映画
映画『ヘレディタリー 継承』の監督アリ・アスターが本作を製作するに当たって影響を受けたと語った作品をいくつか紹介していきます。
『ローズマリーの赤ちゃん』(ロマン・ポランスキー)
悪魔崇拝をモチーフにしたプロットや子供を巡る物語の側面など共通点も非常に多いですね。
『狩人の夜』(チャールズ・ロートン)
本作にも印象的に登場するツリーハウスは『狩人の夜』のオマージュではないかと推測されます。ロバート・ミッチャムの狂気とサイコっぷりに圧倒されます。
『赤い影』(ニコラス・ローグ)
映画史に残る「濡れ場」が登場することでもお馴染みのオカルトホラー。個人的にはお気に入りの作品です。
そのようですね。今回は監督が作品名を挙げたものの中で当ブログ管理人が鑑賞したことがある3作品のみを挙げてみました。
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おわりに
いかがだったでしょうか?
今回は映画『ヘレディタリー 継承』についてお話してきました。
個人的にこの映画を見ていて、一番印象的だったのはやはり燃え盛る自分の夫を見て絶叫した直後に冷静な表情に戻る母アニーのあの表情芸です。
アニーの印象的なショット (C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
そのようです。監督のコメントによるとあまりにも印象的なこのシーンはたったの1テイクで撮影が終了したとのことです。
映画『ヘレディタリー 継承』は純粋なホラー映画というわけではないんですが、人間を芯から震え上がらせるような不思議な「恐怖感」が備わった映画です。
音響的な演出も非常に見事ですので、ぜひぜひ劇場でご覧になってください。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
『へレディタリー継承』一応、レンタル待ちですが観る予定なので飛ばして読みましたが、アニーのショットが印象的でした(笑)
人間を芯から震え上がらせるような不思議な「恐怖感」が備わった映画とは楽しみです。
いごっそうさんいつもありがとうございます!!
アニーの顔芸大会には要注目ですよ笑
すごくソリッドでクラシカルなホラーの作りではあるんですが、構成が素晴らしいので恐怖感がちゃんと積み重なっていくのが素晴らしいです!
レンタルと言わずに映画館で見ても良いんですよ?笑
とても興味深い考察でした。この映画 にはまだまだ秘密がありそうですね。
ただ顔芸がすごかった主演の女優さんの名前はトニ・コレットでは?
通りすがりさんコメントありがとうございます。
彼女のプロフィールを英語のサイトで読んでいて、その際に「birth name」に表示されていた名前を参照してしまったように思います。紛らわしいので、後ほど修正させていただきますね!
ご指摘ありがとうございます!
面白く読ませていただきました。私的に気になるのはアニーがジョーンの家で薬を飲んだ時に黒いカスのようなものを口から出しますよね。あれはジョーンが出したお茶に何か入っていたのか、特に意味はないのか…気になりました。
みみさんコメントありがとうございます!
確かにありましたね!そのシーン!
自分も気になりましたが、あまり詳細については掴めてないです。
ジョーンの不穏な雰囲気を感じさせる演出の1つではあったと思いますが…
チャーリーが冒頭で死亡することは、この映画の最重要項目だと思っています。
ネタバレを読まずに映画のトレーラー情報だけで鑑賞した自分にとって、あのシーンは本当に衝撃的でした。
そこからの展開が全く読めず、ずっとスクリーンに齧り付きでした。
それだけ幸福な、映画体験でした。
当記事におけるチャーリーが死亡する旨の記載を、せめて赤字のネタバレ注意以降にするべきではありませんか?
この映画の面白さ、衝撃を少しでも多くの方に体験していただきたいのです。
解説を楽しく読ませていただいております。
御一考のほど、よろしくお願いいたします。
カルピスさんコメント、ご指摘ありがとうございます!
すぐに対応できずすみません。あらすじの部分ですが、多少表現を変える形で対応させていただきました。
よろしくお願いいたします。