(C)あなしん/講談社 (C)2018 映画「春待つ僕ら」製作委員会
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『春待つ僕ら』についてお話していこうと思います。
本記事は一部作品のネタバレになるような要素を含む感想・解説記事となっております。
その点をご了承いただいた上で読み進めていただくようお願いいたします。作品を未鑑賞の方はご注意ください。
良かったら最後までお付き合いください。
『春待つ僕ら』
あらすじ
高校に入学した春野美月。
中学の同級生の多くが進学した高校を選ばず、心機一転全く新しい人間関係の中で高校生活をスタートさせた。
しかし、彼女は過去にあるトラウマを抱えており、それが原因で友人の輪に1歩踏み込めないでいる。
そんな時に出会ったのは「バスケ部イケメン四天王」と呼ばれる4人。
美月のバイト先にやって来た、恭介、竜二、瑠衣の4人に気に入られ、共に時間を過ごすようになる。
バスケに直向に打ち込む永久の姿に惹かれていく美月。
そんな彼女の前にアメリカ帰りの有名高校バスケ選手で彼女の幼なじみである亜哉が現れる。
亜哉は小学生の頃に、1人ぼっちだった美月を救ってくれた人だった。
永久、亜哉、2人の思いの間で揺れる美月。
美月にはどんな春が訪れるのだろうか?
スタッフ
映画『春待つ僕ら』の監督を務めるのは、平川雄一朗さんです。
まず、2016年公開の実写版『僕だけがいない街』は平川監督の作品です。
当ブログ管理人がマンガ実写映画のランキングを作るなら、これはワースト5に絶対に入れますね。
巷には「藤原竜也が携わったマンガ実写化成功ジンクス」みたいなものがあるそうですが、実写『僕だけがいない街』を見てしまうと、そのジンクスはもう信奉できません。
そして邦画ファンの間では有名な映画『ツナグ』・・・。これは平川監督が自身で脚本も担当しています。
邦画ファンの間ではこのタイトルを挙げると、突然原因不明の頭痛に襲われる人が少なからずいるようです。
この映画松坂桃李さんと樹木希林さんの演技は本当に素晴らしいものなので、それ目当てでということであれば見ても良いかもしれません。
閑話休題。
とにかく平川監督の作品にあまり良い思い出がないというのが、当ブログ管理人の本音です。
少女マンガ実写映画に飢えてたんですよ!!
私は日本の少女マンガ実写映画が大好きで、これまでも多くの作品を鑑賞してきました。
気になる方はこちらも!
そしてここのところあまり少女マンガ実写映画から遠ざかっていたので、久々に摂取しておきたかったんです。
閑話休題。
脚本を担当したのは、おかざきさとこさんでした。
彼女のフィルモグラフィを検索しておりますと、出てきてしまいました・・・。
映画『リベンジgirl』・・・。
古傷を抉られるような気分だよ・・・(笑)
まあこの通りで本作の監督・脚本コンビにはあまり良い思い出がないんです。
それでもこの時期公開の少女マンガ実写映画はこれしかない!ということで見てきました。
その他のスタッフ陣もご紹介しておきます。
撮影:小松高志
少女マンガ実写映画作品でこれまで何度も撮影を担当してきた名手。
2018年は映画『旅猫リポート』で撮影を担当しており、キャストの心情を抉り出すようなショットに心を打たれました。
照明:蒔苗友一郎
録音:高須賀健吾
美術:佐久嶋依里
編集:伊藤潤一
音楽:高見優
主題歌:TAOTAK
土屋太鳳と北村匠海がコラボした音楽ユニット。
映画『春待つ僕ら』の主題歌になったウガスカジーの名曲『Anniversary』を歌っています。
キャスト
映画『春待つ僕ら』で主人公の美月を演じたのが土屋太鳳さんですね。
とにかく9月に公開された映画『累』の土屋太鳳さんがとんでもなかったんです。
もう上映自体は終わってしまいましたが、レンタルが開始されたらぜひぜひご覧になって見てください。
そしてまた彼女は少女マンガ実写映画に逆戻り・・・。
土屋太鳳さんって若手女優の中でもすごくしっかりとした演技ができる方だと思います。
ただ、それを発揮できる作品にあまり出演できていない印象が強いです。
だからこそ映画『累』は彼女にとって1つの転機になったのではないかと思います。
話は少し変わるんですが、映画『春待つ僕ら』での土屋太鳳さんの起用のされ方について、個人的にはどうしても言っておきたいことが1つあります。
オールスター感謝祭で激走する姿を覚えている方がどれくらいいらっしゃるかは分かりませんが、土屋さんはすごくスポーティな女性なんです。
だからこそ土屋さんはバスケットボールプレイヤーとして映画に出演して欲しかったです(笑)
そして、本作のもう1人の主人公である浅倉永久を演じるのが北村匠海さんです。
2017年に『君の膵臓をたべたい』、『勝手にふるえてろ』に出演し、俳優として高い評価を獲得した北村さん。2018年は一層俳優として活躍する姿が見られました。
派手な演技をするというよりも抑えた演技が映える俳優なんですが、『春待つ僕ら』もそんな彼の特性をきちんと理解された上での起用になっていましたね。
抑えた表情や挙動の中に静かに宿る熱い感情を上手く表現できていて、この辺りはさすがだなぁと感心しておりました。
ちなみに今作の主題歌をTAOTAKとして主演のお2人が歌っておりますので、そちらも聴いてみてくださいね。
TAOTAK『Anniversary』
今はもう1人ぼっちじゃない。
では、その他のキャスト陣もご紹介していきます。
小関裕太:神山亜哉
『覆面系ノイズ』や『曇天に笑う』などの映画に出演していた今注目の若手俳優。
磯村勇斗:若宮恭介
杉野遥亮:多田竜二
稲葉友:宮本瑠衣
泉里香:柏木ナナセ
より詳しい作品情報は劇場公式サイトへどうぞ!!
ぜひぜひ劇場でご覧になって見てください!!
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『春待つ僕ら』感想
活きた「領域」演出の妙
映画『春待つ僕ら』なんですが、個人的に前半30分くらいまでは近年の少女マンガ実写映画の中でも屈指の出来栄えだったと思っております。
どこに注目したのかと言いますと、「領域」の演出なんです。
美月の殻をこじ開けた永久たち
まず土屋さん演じる美月は後の作文でも書いていたように「自分の殻に閉じこもった」女性でした。
自分の世界を作り、そこを「特別な場所」だとして人を寄せ付けす、かと言って他人の「領域」に足を踏み入れていく勇気もありません。
だからこそ彼女にとって、あのバスケットコートとそしてその目の前にあるバイト先のカフェは「特別な場所」であり、自分の思い出の場所であるということが視覚的にも示されていました。
しかし、そんな場所に土足で踏み込んでくるのが永久であり、バスケットボール部のメンバーたちです。
「殻に閉じこもる」美月の扉を強引に開けて、中に入って来てくれた彼らと美月は関係性を築いていきます。
つまりあのバイト先のカフェに4人がやって来るという動線はすごく大切なんですね。
美月が踏み出す1歩
そしてもう1つ冒頭で印象的だったのが、永久たちがコートで1人ぼっちだった少女を誘って、一緒にバスケットボールをしていたシーンです。
このシーンではやたらとコートをかこっている金網が印象的に映し出されていましたが、これはある種の「領域」の境界線として提示されています。
要は子供の頃のトラウマのために美月が他人と自分の間に無意識に引いてしまう境界線のようなものです。
そんな境界線越しに彼らを見つめる美月、そして永久たちは彼女を「領域」の内側へと招き入れます。
この一連の映像シークエンスが視覚的に「美月が踏み出した最初の1歩」として機能しているのが何とも印象的です。
神山亜哉はカフェに入れない?
神山亜哉の切ない表情 (C)あなしん/講談社 (C)2018 映画「春待つ僕ら」製作委員会
そして美月の幼馴染である神山亜哉が登場するとあのバスケットボールコートやカフェという「領域」はより一層効果的に機能し始めます。
最も注目したいのは、神山亜哉が夜のコートでバスケをしている時に、カフェの中で楽しそうに話している美月や永久たちの姿を眺めるシーンです。
ここで考えたいのは2つの「領域」が持っている意味なんです。
どちらも美月にとって大切な場所であることに変わりはないんですが、端的に言うとこういう意味を孕んでいるのではないでしょうか。
- バスケットボールコート:過去
- コート前のカフェ:現在
皆さんは、神山亜哉がコート前のカフェの中に入るシーンが一度も無かったことにお気づきでしょうか?
そうなんです。なぜ入れないのかというと、彼が存在することができているのはあくまでも美月の過去の「領域」(バスケットボールコート)であって、現在ではないんです。
特別な場所でのバスケットボール対決
さて、そして神山亜哉と永久の関係性を描く上で、重要な「領域」になったのが、またまたあのバスケットボールコートですよね。
作品の後半に美月の存在を巡って2人がバスケットボールで対決をするわけですが、その場所は絶対にあの「領域」である必要がありました。
それは、永久が「神山亜哉を超えること」を強く意識しているからなんですよね。
永久は彼を超えることでしか美月に手が届かないと思い込んでいる節がありましたし、強く意識していました。
だからこそ美月の「特別な場所」に居座る神山亜哉という存在に、あの場所でバスケで勝つ必要があると感じたわけです。
しかし、結果的に永久はその勝負に敗れてしまいます。
ただこの「敗北」も重要な意味を持っています。
これは後の「解説」の部分でお話しようと思います。
連載漫画の実写化特有のストーリー構成の難
個人的にこの映画は脚本と構成の面で非常にレベルが低いと感じました。
というよりも少女マンガ実写映画を見ているとこういう状態になっている作品をしばしば見かけます。
それは連載漫画だからこその構成を、そのまま映画脚本に落とし込んでしまったところです。
最近だと映画『青空エール』が似たような構成を取っていたかな?
基本的に映画の構成は、1つの大きな物語があって、序盤中盤はサブプロットを交えながらも、1つの核となる物語に寄与する要素を前半から貯金していき、終盤にそれを昇華させていくというものになります。
ただ、連載漫画って毎週ないし毎月1話ずつしか話が進みません。そのため1話ないし数話で小さな物語を完結させていくことの連続になります。
そうなんです。そして映画『春待つ僕ら』はそのギャップを理解しないままに、安直に原作の構成を映画脚本に落とし込んでしまった印象があります。
「良い映画」であれば、大きな物語があって、その推進力が中盤をどんどんと加速させていくんです。
しかし、『春待つ僕ら』の中盤はとにかくサブプロットの展開と完結に終始していて、1つ問題が起こって、それを解決しての単調な繰り返しになっています。
そのためこの映画が1つの作品として志向する目的地がどこなのか?がいまいち見えてこなくて、そのために見ている我々は物語に入っていけないという状況を生み出してしまっています。
これも連載漫画と映画の特性の違いに纏わる部分ですよね。
連載漫画であれば、尺はある程度長くなりますから、たくさんのキャラクターを登場させて、それぞれの物語を展開して完結させてという構造を構築することが可能なんですが、2時間尺の映画でそれは不可能に近いです。
だからこそ『春待つ僕ら』はもっとスポットを狭く当てるべきだったと思うんです。
ただでさえ美月個人の物語、永久と神山の物語、永久の物語、神山の物語、美月と永久の恋愛物語、バスケットボールのスポ根物語、その他もろもろのキャラクターのそれぞれの物語・・・。
詰め込みすぎている上に、1つ1つを裁き切れていないので圧倒的に薄いんですよね。
この作品に限らずですが、今後連載漫画をしていく上でこういう脚本にしてしまわないようにして欲しいものです。
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映画『春待つ僕ら』解説
永久と神山の違い
永久 (C)あなしん/講談社 (C)2018 映画「春待つ僕ら」製作委員会
先ほど永久が神山に敗れたことがすごく意味があるというお話をしました。
というのもこれが2人の違いを印象づけるからなんです。
神山は幼少期からずっと美月を守ろう、守ろうとしてきました。そのために弱い自分を必死で押し殺して、強い自分であろうとしたわけです。
それとは対照的に永久はまだまだ成長途中で、美月を守るなんて発言はできませんし、神山と比べても「強い人間」とは言えません。
そんな2人の人間的な違いが、美月の「特別な場所」で行われたバスケットボール対決にて表出します。
その後永久は美月に「待ってて、絶対強くなるから。」と告げます。
必死にバスケに打ち込み、ウィンターカップで神山の所属する高校と対戦することになった永久たち。
結果的に永久はまだまだ神山には及びませんでした。
しかし、これこそが『春待つ僕ら』という作品の核でもあります。
夢見るシンデレラが見つける大事なもの
「いつか訪れる春を夢見るシンデレラ」だった美月。
しかし、物語を経て彼女が選ぶのは自分を迎えに来て、守ってくれる王子様ではありませんでした。
神山はとても強く、美月のことを守ってくれる典型的な少女マンガにおける「王子様」キャラクターです。
ただ美月が最後に選ぶのは彼ではなく、永久でした。
自分のことを守ってくれる誰かにずっとそばにいて欲しい、彼女は幼少の頃からそう願い続けていたわけですし、それが神山という存在でした。
そして春が来るたびに何かが変わることを期待し、待ち続けていました。
そんな彼女が最後に選んだのは「強い」神山ではなく、「弱い」永久だったわけです。
この決断はラブストーリーとしての選択というよりも、美月のこれからの生き方の選択・決断だったと私は受け止めています。
シンデレラシンドローム的な「春待ち」思考に囚われていた彼女が、自分と同じ高さで弱さを抱える永久を選ぶという決断は、弱さを抱えながらも必死に背伸びをしながら生きていくんだという力強い決意でもあります。
だからこそ同じ目線で、一緒に成長していける永久を彼女は選ぶんです。
「王子様」「勝利」といったステレオタイプ的な少女マンガ要素を脱構築的に使い、『春待つ僕ら』という作品は新しい時代の少女マンガとして確立されていたように思いました。
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おわりに:般若面のような土屋太鳳
いかがだったでしょうか?
今回は映画『春待つ僕ら』についてお話していきました。
演出面や物語面で光る部分は多くありましたが、脚本と構成はとにかく酷いという惨状で、全体的な評価としてはあまり高くはない印象です。
ただ、クリスマスにカップルで見に行く映画としては最高のメッセージ性を有した作品だと思います。
昨年はクリスマスイブに1人で『未成年だけどコドモじゃない』を鑑賞し、むなしさのあまり涙した当ブログ管理人。
閑話休題
映画『春待つ僕ら』の中で、バスケ部のイケメンに騒ぐリア充たちが美月を突き飛ばしてしまうシーンが冒頭にあるんですが、突き飛ばした女子たちに美月演じる土屋太鳳さんが向ける視線が凄いんですよね。
鋭い眼光でリア充を睨む土屋太鳳 (C)あなしん/講談社 (C)2018 映画「春待つ僕ら」製作委員会
当ブログ管理人も今年のクリスマスはあんな表情で道行く人たちを睨みつけながら、過ごしたいと思います。
当ブログ管理人はただ、春を待つばかりです・・・。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。