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目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『グリンチ』についてお話していこうと思います。
本記事は一部作品のネタバレになるような要素を含む感想・解説記事となっております。
良かったら最後までお付き合いください。
『グリンチ』
あらすじ
今日はクリスマス!!
街は恋人や家族と幸せそうに歩く人たちでいっぱい!!
かく言う私も今日は大切な人とデートの約束。
あの人と過ごすクリスマスはもう3度目!!
大好きな人と過ごすクリスマスはいつだってトクベツ・・・♡
あの人が喜んでくれそうなプレゼントも既に準備済み!
オシャレなレストランも既に押さえてあるよ!
あ~なんて幸せな日なんだろう・・・。まるで夢みたいだ・・・。
ん・・?夢・・・?
嫌だなぁ~夢なわけないじゃん!!
これは紛れもないゲ・ン・ジ・ツ♡
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今年のクリスマスは一人ぼっちなのが紛れもないゲ・ン・ジ・ツ♡・・・ってこと??
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そうだ、こんなことなら「クリスマス」なんて無くしちゃえばよいんだよな!!
映画『グリンチ』はこんなお話です(嘘です)
サントラについて
映画『グリンチ』は音楽も非常に魅力的でしたよね。
特に印象的なのは、やはり次の2曲ではないでしょうか。
- You’re a Mean One, Mr. Grinch
- I Am the Grinch
まず、You’re a Mean One, Mr. Grinchという楽曲は元々は『グリンチ』という作品の原作者であるドクタースースによって作詞されたものです。
1966年にアメリカでテレビアニメとして『グリンチ』が放送されることになった際に作られた本作を代表する1曲というわけです。
そして今回のイルミネーションスタジオによる映画『グリンチ』では、タイラー・ザ・クリエイターというアメリカの人気ヒップホップアーティストによって、メロディをヒップホップ調にアレンジしたものが使われています。
もう1曲印象的だったI Am the Grinchは新曲で、タイラー・ザ・クリエイターの書き下ろしとなっています。
meanって学校で習う英語では「~を意味する」という使われた方をしているのがほとんどですが、ここでは「意地の悪い」ですとか「みすぼらしい」に近い意味合いで用いられていると思います。
I Am the Grinchの方は完全にヒップホップになっていまして、ライムを意識しつつグリンチの境遇を面白く歌い上げる内容になっています。
ぜひサントラで主題歌の方も堪能してみてください。
関連記事
当ブログでは、別記事にて映画『グリンチ』のキャストやイルミネーションスタジオについて書いております。
字幕版、吹き替え版のどちらを見るか悩んでいる方も良かったら参考にしてみてください。
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『グリンチ』解説
他作品へのオマージュ
ドクターストレンジ
皆さんは本作のグリンチの声の演技を担当された声優が誰かご存知ですか?
そうです。あのベネディクト・カンバーバッチです。
では、皆さんマーベル映画で最近彼が演じたキャラクターも思い浮かべてみてください!
そうなんです。ではそれを踏まえてこのシーンを見てみてください。
グリンチのドクターストレンジ風シーン (C)UNIVERSAL PICTURES
気になった方は映画『ドクターストレンジ』の方もチェックしてみてくださいね。
2000年版『グリンチ』
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皆さんは『グリンチ』という作品が既に一度映画化(映像化ということであれば何度も)された作品であるということをご存じでしょうか。
実は2000年にロン・ハワード監督×ジム・キャリー主演で実写映画化されています。
ちなみにイルミネーションスタジオ製作の『グリンチ』にはそんな2000年版の同名作品へのオマージュと取れるようなカットがしばしば登場しています。
大筋は同じですが、細かい部分では違いもありますので、併せて鑑賞してみると面白いと思いますよ。
怪盗グルーシリーズ
みなさん作品中盤でのグリンチのこの出で立ちに既視感はありませんか?
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これ実は怪盗グルーが身につけてるスカーフと同じ模様なんですよ。
こういうちょっとしたオマージュも面白いですよね。
ちなみに映画『グリンチ』でナレーションを務めているのは、『怪盗グルー』シリーズで主題歌を担当した経歴があるファレル・ウィリアムスです。
『怪盗グルーのミニオン大脱走』
実はイルミネーションスタジオが昨年公開した映画『怪盗グルーのミニオン大脱走』の中で既にグリンチが登場していたんですよ。
マーゴという女の子が着ていたTシャツに何とグリンチがプリントされています。
マーゴのグリンチTシャツ (C)UNIVERSAL PICTURES
ぜひぜひこの機会に他にイルミネーションスタジオ作品を見返してみると良いと思いますよ。
ディズニーとは違うイルミネーションらしさ
ディズニーアニメーションが現在世界で最も覇権に近い存在であると言えると思いますが、イルミネーションスタジオはディズニーとは全く違う路線でアニメーションを製作しています。
ストーリー重視ではない
ディズニーアニメーションはもちろんアニメーション映像も素晴らしいのですが、それ以上に力を入れているのは「物語」の部分だと思います。
近年ディズニーアニメはどんどんと今日の世界情勢を取り入れた趣向を凝らした物語を作り出しています。
『ズートピア』や『リメンバーミー』といった作品は、アニメーション以上に物語の素晴らしさが高く評価され、批評家層からの支持にも繋がっていた印象です。
一方でイルミネーションスタジオが送り出してきた作品は物語重視というよりは、アニメーションそのものを重視する傾向が強いと感じています。
『怪盗グルー』シリーズもそうですが、『SING』や『ペット』といった作品も物語自体は非常にシンプルで、捻りがあるわけではありません。
そして今作『グリンチ』に関しても2000年に公開された同名の作品をさらにシンプルにし、視覚快楽志向の作品に仕上げてきたという印象が強いです。
冒頭にグリンチが入浴した後にボサボサになった毛並みを全身用のくしで整えるシーンがありましたが、これはまさしくアニメーションの技術を魅せるためのものですよね。
とにかくグリンチという見た目はシンプルなキャラクターを細かいところまで丁寧に描いていて、だからこそそのアニメーションに魅了されますよね。
『グリンチ』に対して「ストーリーが薄い」という感想をしばしば見かけますが、個人的にはイルミネーションスタジオは意図的にストーリーを薄くしているように思います。
個人的にですが、ディズニーアニメ映画を見ている時って物語がかなり凝っているので、そちらに注意力のベクトルが集中してしまって、あまりアニメーションそのものに感動を覚えることってないんです。
一方でイルミネーションスタジオ作品は、ストーリーが極端なほどにシンプルなので、その分アニメーション映像に集中して楽しむことができます。
そういう点で、ディズニーとの差別化に成功していると思いますし、独自路線を確立できているのが今日のヒットに繋がっているのではないかと推察します。
主役は悪役?
イルミネーションスタジオの作品では、主役は基本的に悪役であることが多いです。
怪盗グルーシリーズは言わずもがなですが、『SING』の主人公もバーナムをモデルにしている節があり、ダーティーな側面を持ち合わせたキャラクターでした。
そして映画『グリンチ』もまた主人公のグリンチがある種の「悪役」として登場します。
ただ、単純に悪役にしてしまうわけではなくて、嫌いになれない絶妙なラインでキャラクターを構築しているのが非常に素晴らしいんですよね。
個人的に印象に残っているのは、グリンチがマックスたちと一緒のベッドで眠るシーンです。
グリンチは一緒に眠ることをひどく嫌がっていたんですが、結局一緒に眠ることになります。
普段は口角が落ちているグリンチなんですが、一緒に眠るシーンで一瞬だけ寝顔の口角が上がって笑顔になっているんですよ。
こういう細かいアニメーションの趣向の凝らし方が本当に素晴らしくて、それも相まってイルミネーションスタジオの作品には魅力的な「悪役」キャラクターが生まれているんだと思いました。
ポリコレ意識は低め?
イルミネーションスタジオ作品の物語は基本的に単純明快であると指摘しましたが、それと関連してあまりポリコレ意識が良い意味で強く働いていない印象を受けます。
ディズニーアニメ作品はすごくポリコレ的な側面を意識した物語やキャラクター構築をしていて、もはや気を使いすぎでしょ・・・なレベルで注意を払っています。
ただ、そのおかげもあってか批評家からの支持は常に厚いです。
北米大手批評家レビューサイトRotten Tomatoesの支持率を見てみますと以下のようになっています。
- 『アナと雪の女王』:90%
- 『ズートピア』:97%
- 『モアナと伝説の海』:95%
- 『リメンバーミー』:97%
一方のイルミネーションスタジオ作品はかなり支持率が揺れています。
- 『ミニオンズ』:56%
- 『SING』:73%
- 『ペット』:73%
- 『怪盗グルーのミニオン大脱走』:59%
- 『グリンチ』:57%
というのも『グリンチ』という作品も基本的にキリスト教的な価値観が強い作品でして、おそらくディズニーが手掛けていたならば、その辺りに配慮した作品に仕上げてきたんだと思いますが、イルミネーションはそこにはあまり注力していません。
宗教的な行事としてではなく1つのお祭りとして非キリスト教圏にも広がりを見せている「クリスマス文化」なので、宗教色を抑えようと思えば、抑えられるはずなんですが、むしろ自ら宗教的な香りを漂わせにいっているのが何とも面白いところです。
ただあまりに気を使いすぎても映画として堅苦しくなってしまいますし、ある程度肩を力を抜いて作品を作っているところがイルミネーションらしさでもあるのかな?と思いました。
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『グリンチ』感想
視覚的な楽しさに溢れた最高の娯楽映画
映画『グリンチ』の面白さは何と言っても街の美術設定や細かいガジェットの魅力にあると思います。
まず、あのルーの村の美術が素晴らしいです。
とにかく細かいところまで趣向が凝らされていますし、色づかいもビビッドです。
また、昼間と夜でその姿が変わるのも印象的です。昼間は人が溢れていて、賑わっていますが、夜になると人が少なくなり、街には荘厳な雰囲気が漂います。
加えてグリンチが街を訪れた際に描写される街の詳細な描写もさることながら、山の上の洞窟で過ごしているグリンチ視点で見た時に映えるように、遠景からのビジュアルでも映えるように意識している点も素晴らしいなと思いました。
とにかく今作の舞台美術は超ハイレベルです。
そして何と言ってもグリンチがクリスマスを盗み出すために用いるガジェットが最高なんですよね。
『グリンチ』の絵本に登場したガジェットからの引用もあるようですね。
とにかくグリンチがクリスマスを村から盗み出していく一連のシークエンスが魅力的で、見ているだけでわくわくしますよね。
ツリーをくるくると雁字搦めにしてみたり、盗んだプレゼントを圧縮したり、伸縮性の伸びる義足の様なものであったりと、とにかく見ていて飽きることがありませんでした。
物語で楽しませることは確かに大切です。
しかし、イルミネーションスタジオが志向する「普遍的に楽しめるアニメ映画」というのは、言葉を超えたところにある映像的なものに主眼が置かれていることがこの映画からも伺えます。
怪盗グルーシリーズのミニオンたちが謎の言語を話していることからも分かる通り、彼らが作ろうとしているのは「言葉を超えた普遍性」なんですね。
孤独とテロリズムの関係が透けて見える
『グリンチ』の結末がグリンチも一緒にクリスマスを楽しむというところにあったことからも、製作側が積極的に意図しているとは考えにくいですが、この物語が現代の孤独とテロリズムの関係を伺わせている点は指摘しておく必要があるでしょう。
皆さんはピーテル・プリューゲルの『雪中の狩人』という絵画をご存じでしょうか?
ピーテル・プリューゲル『雪中の狩人』
狩りに疲れ、村に戻ってきた狩人が見つめるのは、楽しそうにスケートを楽しんでいる村人たちの姿です。
狩人たちの背中に言いも知れぬ切なさと寂しさを感じさせる1枚なのですが、『グリンチ』という作品のポスターは、この絵画を意識したビジュアルになっているんです。
映画『グリンチ』ポスター (C)UNIVERSAL PICTURES
そして今作では街がクリスマス一色ということで、グリンチがキリスト教的な価値観から疎外された人物に見えるという点で、今日のキリスト教社会におけるムスリムを想起させます。
社会に馴染めないことが同時に破壊的な思想へと発展していくという流れがホームグロウン・テロリズムを想起させることもまた事実です。
ただ、そういう現実社会とのリンクを感じさせながらもオチのつけ方が全くそれにそぐわないという点も批評家から映画『グリンチ』があまり評価されていない理由の1つなんだと思います。
当ブログ管理人は何でも考察してみるのが好きなので、映画『グリンチ』にもそういう側面の端緒がある点を指摘してみましたが、製作側はおそらく意図していないんでしょうね。
宗教的な題材をこれまどまでに良い意味で肩の力を入れずに扱えるのも何だかイルミネーションスタジオの良さに思えてきます。
おわりに
いかがだったでしょうか?
映画『グリンチ』はとにかく娯楽性が高く、家族や友人、恋人どんな人とでも見に行くことができるエンターテインメント大作に仕上がっています。
ただ当ブログ管理人のような寂しいクリスマスを贈る予定のそこのあなた!!
そんな人にこそ映画『グリンチ』を見て欲しいです。
最初は「クリスマスなんてぶっ壊してしまえ!!」と声高に叫んでいるグリンチに共感を覚え、不思議な連帯感を感じるんですが、ラストでクリスマスに馴染んでしまうグリンチを見て、一層孤独感を強めて帰宅することとなります。
私もシンディー・ルーのような天使に救われたいものです・・・。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。