(C)サイコパス製作委員会
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような要素を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』
あらすじ
まず、大前提として劇場版『PSYCHO-PASS サイコパス』が2116年の物語でした。
そして今作『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』は2117年の物語ということになっています。
ちなみに3作目となる『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.3「恩讐の彼方に」』が2117年11月を舞台にした作品となっています。
まず、本作の物語を理解していく上で『PSYCHO-PASS サイコパス』第2期の内容を頭に入れておく必要があるように思います。
そこで描かれていた内容をまとめると以下のようになります。
- 『PSYCHO-PASS サイコパス』第2期はシビュラシステムはシビュラシステム自身を裁くことができるのかどうかを問うた物語。
- 鹿矛囲という多数の臓器で構築された1人の人間の犯罪係数をシビュラシステムは計測できないという問題が浮上する。
- 結果的にシビュラシステムは「集団的サイコパス」を導入することを決断し、自身は犯罪係数の上昇した脳を排除することで基準値を保つこととした。
この辺りの内容を頭に入れておくと、本作の物語にもスムーズに入っていけるんじゃないかと思います。
2117年冬のある日、公安局のビルに暴走車両が突入する事件が起きます。
運転していたのは青森にある潜在犯隔離施設「サンクチュアリ」で心理カウンセラーとして勤務していた夜坂泉という女性でした。
しかし、彼女はまともに話せる状態ではなく、事件についても不可解な点が多数残っていました。
そんな矢先に、夜坂泉が青森にある「サンクチュアリ」に強制送還されることが、どこかからかけられた圧力によって決定してしまいます。
常守朱に任された監視官の霜月美佳は夜坂を送還するため、執行官の宜野座伸元たちと「サンクチュアリ」へと向かいます。
その施設は、執行対象になった人々を集め、集団で生活させる中で少しずつ犯罪係数を減少させていくというある種の「執行対象者の楽園」でした。
霜月たちはそんな施設に何か秘密があるのではないかと捜査に取り掛かります。
すると「楽園」という代名詞の裏に隠された恐ろしい真実が垣間見えてくるのでした・・・。
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スタッフ・キャスト
- 監督:塩谷直義
- 脚本:吉上亮
まずは、『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズには欠かせない塩谷直義監督ですね。
『BLOOD』シリーズにも参加して来た人物で、ダイナミズム溢れるアクション描写や容赦のないグロシーンなんかは1つ特徴と言える部分ではないかと思います。
『PSYCHO-PASS サイコパス SS』3部作に関しても全て塩谷さんが監督を担当されるようです。
そして個人的に注目しているのが、脚本として参加された吉上亮さんですね。
吉上さんはこのシリーズにノベライズを執筆するという形で関わってこられた人物です。
何が素晴らしいって、とにかくキャラクターの魅力をここまで引き出せるんだという点に素直に感激してしまったんですよね。
ノベライズってアニメシリーズとは距離が生じていたりして、「二次創作」の範疇を出ていないものもたくさんあるんですが、『PSYCHO-PASS ASYLUM』に関してはそんなことはありません。
テレビシリーズのキャラクターたちの描かれなかった部分に焦点を当て、本編では描かれなかった魅力を引き出し、そしてそれが本編のノイズにならず、むしろキャラクターへの愛着や思い入れが増幅するように計算されているんですよ。
そういう素晴らしいプロットを書けるのが、吉上さんだと私は理解しているので、『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』の脚本が彼だと聞いた時には嬉しかったですね。
- 野島健児:宜野座伸元
- 佐倉綾音:霜月美佳
- 弓場沙織:夜坂泉
- 花澤香菜:常守朱
- 櫻井孝宏:雛河翔
- 伊藤静:六合塚弥生
基本的には、これまでのキャストが再集結という印象ですね。
本作のキーキャラクターである夜坂泉役には、洋画吹き替えなどで活躍されている弓場沙織さんが起用されています。
そしてやはり当ブログ管理人としては印象的だったのが、野島健児さん演じる宜野座伸元ですよ・・・。
いやはやただでさえイイ男なのに、「パパっ気」まで出してくるのは反則でしょ・・・。
作品のより詳しい情報を知りたい方は映画公式サイトへどうぞ!!
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『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』感想
シリーズの中でも優れたプロット
『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズの自分の中での評価は、やはり1期と劇場版が面白くて、2期が微妙という印象でした。
虚淵玄さんというある種のシリーズの要のような人物が関わっているか否かで露骨に差が出るんだと驚かされたような記憶があります。(1期と劇場版は脚本が虚淵玄さん)
そんな中で虚淵脚本ではない『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズ新作が公開されるということで、正直不安も大きかったんですが、本作はその不安を払拭してくれるような素晴らしい出来だったと思います。
このシリーズは近未来ディストピアSFではあるんですが、我々の社会が今日に抱えているような社会問題等も取り込みながら、大人が見ても楽しむことのできる耐久性を維持しています。
そして今作『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』はシリーズの中でも特に、現代日本が抱える諸問題に切り込んできた印象が強いです。
- 血の繋がらない親子の問題
- 親が子を育てられない状況
- 原子力発電所事故問題
- 同調圧力の恐怖
- ブラック企業問題
世界観自体は近未来なんですが、とにかく我々がいま生きている社会が抱えている脆弱性を映し出す鏡になっていて、鑑賞しながらいろいろと考えさせられる内容でした。
こういったテーマをこれでもかと盛り込んでくる姿勢は素直に評価したいと思いました。
おそらく脚本を担当された吉上さんはこのプロットを膨らませて2時間尺にしてと言えば、もっとディテールを細かく構築して、ソリッドな物語を完成させられると思います。
描きたいものをとにかく詰め込んでしまったがばかりに、全体的に1つ1つの描き方が雑に感じられたような気もします。
プロットそのものの方向性や主題性は非常に面白かったと思うので、吉上脚本で『PSYCHO-PASS サイコパス』の2時間尺映画を1本見てみたいですね。
キャラクターの描き方の巧さ
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スタッフ紹介のコーナーでも書いたんですが、やっぱり吉上さんはキャラクターの展開のさせ方が巧いと思うんです。
今作で一番巧かったのは、やはり宜野座さんの描き方だと思います。
宜野座さんと彼の父親である征陸智己との関係性はテレビシリーズの第1期を見ている人ならご存知ですよね。
以下に簡単に纏めておきます。
- 実父である征陸が「潜在犯」であったことから苦しい時期を過ごした。
- 第1期の終盤で自分をかばって致命傷を負った征陸と和解し、最期を看取った。
- 監視官として働いていたが、犯罪係数が上昇してしまい執行官として働くこととなった。
自分の父親が「潜在犯』だったがために周囲から誤解を受け、苦しんだ過去を持っている宜野座さんが『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』では、見事な「パパっ気」を披露しているんです。
しかもその子供というのが、実の母親が「潜在犯」になった時に、身籠っていた子供ということで、実の母親に育ててもらうことすら叶いません。
そんな自分と似た境遇を抱えた少年に、彼は「君は強い子なんだよ。」と勇気づけるような優しい声をかけ、命に代えても守ろうとします。
親と複雑な関係にあった彼が、疑似的にではありますが「親のような」立場になるというシチュエーションを作品に取り入れてきた吉上さん恐るべしと個人的には感激しております。
また2期のメインキャラクターとして登場した霜月美佳の「正義」の在り方の変化の描き方も、これまでの人物像からの展開として非常に優れていました。
1時間尺という短い映画ではありましたが、きちんとキャラクターの魅力を引き出す脚本になっていた点も良かったのではないかと考えています。
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『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』解説
罪と罰、そして更生
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劇中のセリフでも「老婆殺し」というキーフレーズが登場していましたが、本作のタイトルである『罪と罰』は言うまでもなくドストエフスキーの『罪と罰』の影響を受けているでしょう。
この作品の面白さって社会制度的な「罪と罰」と個人が実際に感じる「罪と罰」を対比的に描いている点だと思うんですよ。
社会制度的な「罪と罰」というものは至極単純で、罪を犯したことを裁判で判決し、そして実刑としての罰を課せばそれで済んでしまいます。
しかし、それとは対照的にこの作品は、個人が実際に「罪と罰」を実感として有するというのは、それとは全く別物なんだということを描いています。
自分の良心が自分に罪悪感を感じさせ、罪の意識を背負わせる。これが真の「罪と罰」なのではないかとといかけをしているわけです。
そんなドストエフスキーの小説と同名のタイトルを冠した『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』という作品は、確かに「罪と罰」の在り方を問う物語の側面を持っています。
『PSYCHO-PASS サイコパス』の世界において、犯罪係数が基準値を大きくオーバーした状態が続き、その基準以上で安定してしまった人物を「潜在犯」として扱います。
「サンクチュアリ」という施設は、そんな「潜在犯」たちの厚生施設として、ある種のユートピア的な機能を果たしています。
しかし、その実態は「潜在犯」たちの命など微塵も意に介さない、「放射性廃棄物回収」という命の危険を伴う労働力の搾取と洗脳という現状でした。
確かに一度「潜在犯」になってしまうと、そこから戻ることは難しいとされています。
しかし、だからと言って「潜在犯」たちに危険な仕事を押し付ける強制労働を強いるのは、果たして「罰」として妥当と言えるのでしょうか?
本作で登場した夜坂という人物は、確かに一度高い犯罪係数が計測され、公安局に拘束される身となってしまいました。
しかし、彼女はそれでも子供を何とかして育てるんだという一心で、施設から出て、迎えに行くことを約束していました。
『PSYCHO-PASS サイコパス SS』3部作が打ち出したのは、「Sinners of the System」つまり「罪人のシステム」なんです。
そう考えると、この3部作は『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズがこれまで描いてこなかった、「潜在犯」や「犯罪係数が高い人間」の罰の在り方や更生の可能性といった部分になってくるのではないかとも推測しております。
何はともあれ、疑似親子の主題を絡めつつシビュラシステム社会における希望を紡いだ本作は素晴らしい言えるでしょう。
同調圧力・集団主義という恐怖
もう1つこの映画が描いた恐怖は「同調圧力・集団主義」という主題ですね。
人間というものは恐ろしいもので、集団の「空気」というものを一たび作り上げてしまえば、大勢が一気に揺れ動くという特性を持っています。
ヒトラーがドイツで台頭した経緯なんてまさにそうです。ドイツ国内の一部がナチス政権支持を声高に叫ぶようになり、それがあたかも社会の「空気」のように確立されていき、最終的に民衆をナチズム熱狂の渦へと誘いました。
人間は誰しもが「支配される」ことに安心感を覚える側面を持っています。
だからこそ個人ではなく、集団で行動することを志向し、その空気を「読む」ことに努めるわけですよ。
しかし、それはある種の思考停止であり、どんなに危険な方向に突き進もうとしていたとしても、その方向に盲目的に流されてしまうということを意味しています。
まさに「みんなでやれば怖くない」的な発想ですよね。
「サンクチュアリ」という厚生施設はそんな人間の「同調圧力・集団主義」に関する特性を悪用し、「潜在犯」たちを管理していました。
ただ興味深いのは、「空気」が変われば、銃弾は一気に方向を変えて、逆方向へと突き進んでいきます。
これまで従順だった「潜在犯」たちは、霜月監視官の告発を聞くと、施設に対する不満の「空気」に一斉に流され、暴徒化していきました。
『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズは確かに第2期の中で「集団的サイコパス」というものをシビュラシステムに認めさせるのかという問いを描いています。
それに対して『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』は、集団が「空気」によって同質化され、全員が同じ「犯罪係数」を共有するという「集団的サイコパス」の穴を突いたギミックを盛り込んできたわけです。
その点でも世界観の拡張のさせ方として本作は非常にスマートだと思いますよ。
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おわりに
いかがだったでしょうか?
今回は映画『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1「罪と罰」 』についてお話してきました。
2月、3月とこの3部作の残りの2作品が連続で公開されるようなので、そちらについても記事を書こうと思っています。
何はともあれ、シリーズの中でも屈指の名エピソードになったと言えるのではないでしょうか。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
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参考:【ネタバレあり】『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.2 First Guardian』感想・解説