(C)2019 映画「雪の華」製作委員会
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『雪の華』についてお話していこうと思います。
本記事は一部作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
良かったら最後までお付き合いください。
『雪の華』
あらすじ
幼少期から病弱だった少女平井美雪はある日、突然医師から余命1年であることを告げられる。
その帰り道に、彼女はひったくりの被害に遭いますが、自暴自棄になり、道端に座り込んでしまいます。
そんな時に、綿引悠輔という青年がたまたま通りかかり、ひったくり犯からカバンを取り返してくれます。
後日、街を歩いていた美雪は悠輔の姿を見かけ、後をつけます。すると彼は近所のカフェで働いていることが判明します。
しかし、そのカフェは経営難のために閉店が決まってしまいます。
閉店を逃れるためには、何とかして100万円の運転資金が必要・・・。
その話を聞いた美雪はとっさに自分が100万円を支払うことを申し出ます。
突然の出来事に驚く悠輔。その代わりに・・・。
美雪は悠輔に1か月だけでいいから自分の恋人になって欲しいと申し出ます。
そんなきっかけで2人の「恋人」関係がスタートし、徐々に距離を縮めていきます。
しかし、確かに迫りくる命のリミット。
2人を待ち受ける運命とは・・・?
スタッフ・キャスト
- 監督:橋本光二郎
- 脚本:岡田恵和
『雪の華』という作品はもう映画ファン界隈でも予告編が公開された時点で「地雷臭がする」と話題になっていたんですが、個人的にはむしろ期待しかありませんでした。
まず監督の橋本光二郎さんは、2018年に『羊と鋼の森』の実写版を手掛け、これが非常に高い評価を獲得しています。
邦画大作でありながら、徹底的に映像にすべてを託し、抑えた演出と優れた人物の感情コントロールで重厚なヒューマンドラマを演出してみせました。
そして脚本の岡田恵和さんは『8年越しの花嫁 奇跡の実話』という作品で実に巧みな映画脚本を披露してくださいました。
この作品も公開前は「感動の押し売り映画」みたいなレッテルを貼られていましたが、公開されるや否や下馬評を覆し、高い評価を獲得しました。
といった具合に直近に手掛けた映画がどちらも「期待値を大きく上回る映画だった監督・脚本」コンビだったということもあり、公開前から非常に楽しみにしておりました。
- 登坂広臣:綿引悠輔
- 中条あやみ:平井美雪
悠輔を演じる登坂さんは三代目J Soul Brothersのボーカリストで、映画だと『HiGH&LOW THE MOVIE』シリーズを中心に活躍されています。
『HiGH&LOW THE MOVIE』シリーズ以外の映画への出演経験はないということもあり、演技的にはちょっと未熟な部分も見られましたが、その不器用な印象が悠輔というキャラクターにもリンクしているように感じられました。
あ、ありましたね・・・。すっかり記憶から消えてしまってました(笑)
そして本作の主人公をである美雪を演じるのが中条あやみさんですね。
実は当ブログ管理人、特にファンというわけでもないのですが、中条さんの出演されている映画はことごとく見ています。
ただイマイチ彼女が演じているキャラクターが中条さんにハマっておらず、いつも「もうちょっと役を選べよ・・・。」なんてことを思ったりしております。
より詳しい作品情報を知りたい方は映画公式サイトへどうぞ!!
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映画『雪の華』感想
橋本監督らしさ全開の映像
2018年に公開された映画でも感じたことなんですが、やっぱり橋本監督は当ブログ管理人好みな映画を撮る方なんですよね・・・。
邦画大作の大半の作品でよく見られるのが、状況や感情を何でもかんでもセリフで説明してしまい、映画としてほとんど厚みがないという状況に陥っているものです。
映画とは、映像の連続の中で物語を映し出すメディアです。
だからこそそこに過剰にセリフをつけて、見えているものまでわざわざ説明してしまうのであれば、それはもう映画である必要はありませんし、ビジュアルノベルのようなものです。
邦画大作にはその手の「映画とも言えない」作品がゴロゴロと転がっている中で、橋本監督の作品はすごく映像にこだわって作っているところが目につきます。
個人的に『雪の華』という作品で、特に感動したのは悠輔と美雪がフィンランドで迎えた最後の夜のホテルのシーンです。
お互いがお互いの部屋に戻った後で、後ろ髪を引かれるような気持ちになり、何だかもう少し一緒にいたい・・・でも「契約」だからそれは言い出せない・・・みたいな感情を映像だけで表現しています。
この感情って登場人物のモノローグなんかを混ぜてしまうと、たちまち「言語化」されてチープなものになってしまいます。
ただ、橋本監督はそのあたりをきちんと把握していて、映像だけで2人の抱えている複雑な感情や関係性を我々に「見せよう」としているのです。
この辺りはただただ感心するばかりですし、近年の邦画大作の中でも異彩を放っている部分かと思われます。
そして橋本監督の作品の特徴としてもう1つ私が挙げたいのは、感情の抑制だと思っています。
基本的に邦画大作でありがちなのが、登場人物の過剰演技でして、とにかく大げさに叫んだり、泣いたり、怒ったりという動的な演技が非常に目につきます。
そうなんですよ。そのためあんまりオーバーな演技を俳優陣に求めることもなく、淡々と自然体な演技で物語を進行させていきます。
登坂さんは『雪の華』において求められる演技がぶっきらぼうで、不器用な青年だったということもあり、特に淡々とした演技に努めておられたように思います。
ただ、その「淡白さ」があるからこそ、ここぞと言う時に爆発させるエモーショナルな演出が光りますし、コントラストが際立ちます。
橋本監督はそのコントロールが抜群に巧いですし、本作でもその手腕を如何なく発揮しておられました。
流石にラストのフィンランドのオーロラのくだりは演出がしつこすぎて、胸焼けしそうでした。
とまあ良くなかった点もありつつですが、『雪の華』という作品は非常に橋本監督らしい映画になったと言えるのではないでしょうか。
中条あやみに膨らむ妄想?
(C)2019 映画「雪の華」製作委員会
ちょっと軽めの下ネタ書いちゃったりしてますので閲覧注意で!!
本作で中条あやみさんは余命僅かな少女、美雪を演じています。
劇中では当初は美雪に対してあまり好意を抱いていなかった悠輔が、次第に惹かれていくという様子が描かれていますが、悠輔の心情の変化を追体験するかのように映画を見ている我々も彼女の魅力に惹かれていきます。
というかそもそも前世でどれくらいの徳を積めば、中条あやみさんに100万円渡されて、しかも恋人になって欲しいなんて言われる人生が巡ってくるんですか!!
そして当ブログ管理人、何を隠そうこの映画のとあるセリフを聞いて、スタッフ陣に感謝が止まらない思いであります。
それは「早すぎます行くのが!」というセリフです。
これを脳内変換すると・・・「早すぎます逝くのが!」という風に聞こえます・・・。
これはもう健全な男性諸君は映画館に行くしかないわけであります。
そして悠輔が美雪にバイト先に来るかどうかを尋ねたシーンに、こんなセリフがありました。
「行く・・・」
「行く。」
「行くっ!!」
これを脳内変換するとこんな風に聞こえます。
「逝く・・・。」
「逝く。」
「逝くっ!!」
余命ものの映画作品のレビューで「逝く」という言葉を卑猥な意味で扱ってしまったことを謝罪させていただきます・・・。
何はともあれ、これはもう健全な男性諸君は映画館に行くしかないわけですよ!!(笑)
また、この映画はアングルも非常に工夫されていて、いわゆる「デートアングル」も多用されています。
そのため『雪の華』を見ているだけで、中条さんとデートしているような気分になれます。女性の方は逆に登坂さんとデートしているような気持ちになれると思います。
ぜひぜひ映画館で「妄想」を膨らませて、楽しんでみてください。
手ぶらでフィンランドの衝撃
この映画を見ていて、誰もが衝撃を受けるのは悠輔が手ぶらで、「ちょっとコンビニいってくるわ。」感覚でフィンランドに行くシーンでしょう(笑)
本作の橋本監督はインタビューでこんなことを述べておられます。
美雪や悠輔の背景に広がっている冬のフィンランドは、美しいけれど、ただ甘やかなだけでない厳しさみたいなものをもっている。人生ってやっぱりそういうものじゃないですか。決して甘いものだけではない、厳しさの中に存在する美しさもあるし、厳しさを知ったからこそ感じられる人の思いもある。そういう意味での二つの局面を映すことができたのはすごく面白かったですね。
(Cineme Plus「登坂広臣のイメージが「崩れてほしいなと思った」『雪の華』橋本光二郎監督インタビュー」より引用)
でも、なぜか映画の中では手ぶらでフィンランドに行っちゃうんですよね(笑)
人生イージーモード感ハンパないんですが・・・。
実際、手ぶらでかつあの薄着でフィンランドは可能なのかという点ですが、映画の舞台挨拶の際に登坂さんと中条さんが「真似しないでくださいね!」と仰っていたので、あれはさすがに無謀なんだと思います。
まああまりガチガチに着込んでというのも映画映えしませんし、きちんとトランクケースに荷物を詰めて・・・なんてやってると雪の中を走る画が撮れませんからね。
いろいろな兼ね合いでリアリティは犠牲にするしかなかったんだとは思いますが、それにしても笑わせていただきました。
まあ諸処の事情で、フィンランドロケを敢行する必要があったんだとは思いますが、幾分ストーリーの説得力を奪ってしまった印象はあります。
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映画『雪の華』解説
メタ少女漫画としての面白さ
まあ予想通りと言いますか、公開日から本作に対する酷評意見はかなり多く見かけます。
ただ当ブログ管理人、実はそれほど嫌いではないですし、むしろ好きな部分も大いにあります。
それがメタ少女漫画として見た時の『雪の華』という作品の面白さだと思っています。
そもそもこの映画は、中島美嘉さんの楽曲『雪の華』をイメージして作られた楽曲であり、少女漫画原作の映画というわけではありません。
では、なぜこの作品は「メタ少女漫画」と言えるでしょうか?
それはこの映画の中に中条あやみ演じる美雪の「少女漫画」が内包されているからです。
思い返すと、『雪の華』という映画には冒頭から何とも突飛な設定が登場しますよね。
もっと自然な展開はいろいろとあったと思うんですが、この映画はなぜかこんな突拍子もない妙な設定を採用しているんですよ。
これはなぜだったんだろうかと考えた時に、「漫画的」である必要があったのではないかという考えに辿り着きました。
そしてそれが確信に変わったのは、美雪が母親から「少女マンガが好きだったもんね。」などと告げられているシーンがあったからです。
つまり美雪というキャラクターは口にはしてはいないものの「少女マンガ」に対する憧れめいた感情をいだいているのだと考えられます。
だからこそ彼女は、「少女漫画のヒロイン」のような行動を取っていますし、何だか妄想に憑りつかれたような「サイコ女」な雰囲気すら醸し出しているわけですよ。
そして当初は「憧れのヒロイン像」を「演じている」からこそぎこちなさや違和感が残っています。
- 部屋で急に笑いながら独り言
- 少女漫画的なデートシチュエーションへの憧れ
- 相手に少女漫画の王子様的な振る舞いを求める
つまるところ、彼女は少女漫画に憧れていて、だからこそ自分もその「ヒロイン」のような存在になることを夢見ていたんです。
より本作のメタ的な構造を明確にしているのは、彼女自身が「日記」のようなものをつけていることですよね。
そこで彼女は自分が主役の少女漫画チックな物語を「妄想」し、それを金銭を支払ったパートナーに依頼することで叶えようとしました。
しかし、1か月間の契約は終わってしまい、彼女の「少女マンガのヒロイン」の様になるという「夢」は果たされないままになってしまいます。
真にヒロイン目覚めるラストシーン
(C)2019 映画「雪の華」製作委員会
美雪は人生の最後の最後に「赤いオーロラ」を見るために1人でフィンランドへと旅立ちます。
そして1人凍えるような寒さの中でオーロラの到来を待つ彼女の下に、悠輔が現れます。
この時、美雪という少女はついに「少女マンガ的なヒロイン」として誕生しました。
つまり金銭絡みで仮初めの夢を叶えてもらうのではなく、真の意味で人から愛され、ようやく「ヒロイン」になれたわけです。
正直フィンランドに手ぶらで行って、雪の中をあの格好で疾走するのは現実離れしています。
ただ、『雪の華』という作品が作品内少女マンガを内包していることを鑑みると、あれくらいぶっ飛んだ演出になっている方が適当と言えるでしょう。
そういう演出になっているからこそ、ラストにて中条あやみ演じる美雪が憧れていた「少女漫画的なヒロイン」になれたことが際立つわけです。
この映画がそういうメタ的な構造を取ってきたのは、憧れや夢を実現することの大切さを強調したゆえなのかなと思いました。
きっと物語冒頭の美雪にとっては、残り僅かな余命のことばかりが頭に残り、自分には「夢」を叶えることはできないだろうと諦めていたんだと思います。
しかし、ほんの少し勇気を出して前に進むだけで、ほんの少し「声を出す」だけで世界は変わり、自分の「夢」が現実になるんだということを知り、少しずつ成長していきます。
そうして迎えたポストクレジットシーンでは「死ぬこと」ではなく、「生きること」を志向し、懸命に生きようとする美雪の姿が映し出されます。
我々は誰しも「夢」を持っていますが、それを叶えることに一抹の「諦め」を感じている人が多いのではないでしょうか?
だからこそ美雪の不器用ながらも必死に、自分の憧れを現実にしようとする姿に惹かれました。
その1つの具象化のアプローチとして『雪の華』という作品は、少女が自分の憧れていた「少女漫画的なヒロイン」になるというメタ的な構造を採用したのでしょう。
誰にだって「ヒロイン」になれるんですよ!!
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おわりに
いかがだったでしょうか?
今回は映画『雪の華』についてお話してきました。
まあツッコミどころは随所に散見されはするんですが、橋本監督らしい良さが閉じ込められた映画とも言えます。
加えて、メタ構造を採用し、少女漫画的なわざとらしい演出や演技を映画に取り入れることで、美雪という少女のヒロイン誕生譚としても確立されていたのが良かったです。
冬にぴったりの映画ですし、良かったら劇場でご覧ください。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
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