(C)WACK INC.
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『世界でいちばん悲しいオーディション』についてお話していこうと思います。
いやはや久しぶりのWACKドキュメンタリーですね!!
昨年の秋頃にBish to The Theater2にて鑑賞した『SHAPE OF LOVE』以来かと思われます。
参考:『SHAPE OF LOVE』感想:近く見えるけどえるけど、めちゃくちゃ遠い一瞬の輝き
いろんなアイドルドキュメンタリーをこれまでに見てきましたが、基本的に自分は「きれいごと」だなぁと俯瞰で見てしまうんですよね。
ただWACKのドキュメンタリーは「きれいごと」を描こうという意図は全く感じられなくて、「汚い」部分をむしろ積極的に映そうとしているようにすら感じられます。
今回はそんな2018年のWACKオーディションの内容を撮影した最新作『世界でいちばん悲しいオーディション』について書いていきます。
良かったら最後までお付き合いください。
WACKドキュメンタリーについて
これまでも数々の名作ドキュメンタリーを世に送り出してきたWACK。
その中でも当ブログ管理人が推すのは以下の2本ですね。
『SiS誕生の詩』
何と言っていいんでしょうか、これを超えるアイドルドキュメンタリーが想像できないんですよね。
敗北から始まるアイドルドキュメンタリーが映し出す、凡人たちが足掻き、自分が凡人でしかないことを突きつけられる残酷な物語。
見終わった後にもうぐるぐるといろんなことを考えてしまいますね。
『ALL YOU NEED IS PUNK AND LOVE』
この作品は現在話題沸騰中の「楽器を持たないパンクバンド(新生クソアイドル)」のBiSHにエリザベス宮地さんという映像作家が密着したドキュメンタリーです。
何がそんなに凄いのかと言いますと、この映画の撮影中にカメラマンのエリザベス宮地さんがメンバーの1人に本気で恋をしてしまって、その人を魅力的に撮ることに固執し始めるんですね。
それが故に彼に対するメンバーからの視線が変化したり、扱いが変化したりする様が実にリアルに描かれています。
アイドルドキュメンタリーを撮るはずが、カメラマンを務めた1人の男のドキュメンタリーが展開されていくという何とも不思議すぎる作品なんですよ!!
スポンサードリンク
『世界でいちばん悲しいオーディション』感想
これは「アイドル版ダンケルク」だ!
(C)WACK INC.
「ダンケルク」とは、第2次世界大戦中にドイツ軍がイギリス軍とフランス軍を追い詰めた場所であり、約35万人とも言える兵士が孤立し、本国からの援軍を待ちわびた場所です。
ちなみに2017年にクリストファーノーラン監督によって映画化され、大きな話題になりました。
孤立し、ドイツ軍による空からの攻撃も迫ってくる中で、次々に同胞が命を落としていく絶望的な状況で、ひたすらに故郷へ帰ることだけを待ちわびた兵士たち。
「世界でいちばん悲しいオーディション』という作品で、オーディションの舞台となった長崎県壱岐島はまさにそんな「ダンケルク」の地に重なって見えます。
しかし、そこに取り残された女性たちは誰も「家に帰りたい」となど思っていません。
むしろ如何にしてその「戦場」に残り、そして生き延び続けるか。頭にあるのはそれだけです。
その「戦い」の中で、同胞は確かにデスソースを吐き、連続スクワットで立てなくなり、道端に倒れ込み、1人また1人と島を去っていきます。
さらに戦場には戦場の掟があり、それに従えない者に生き残る権利はありません。
1週間の間、もはや片時も心休まる時などなく、次々に渡辺プロデューサーからの「爆撃」に耐え、そこに留まるために死力を尽くす姿は、見ている我々の心を締め付けます。
98分間最初から最後まで、徹底的に苦しい、苦しい、苦しいのです。
劇場版『SiS消滅の詩』ににてプールイさんがこんなことを言っていたのをふと思い出しました。
「人は不幸を食べて生きている。」
(劇場版『SiS消滅の詩』より引用)
確かにWACKのオーディションは、参加している女性たちがひたすらにしごかれ、苦しめられる様をエンターテインメントとして放映するもので、毎回ニコニコ生放送で中継されています。
そして過激になればなるほど、過酷になればなるほど、閲覧者数が増えていくのです。
しかし、今回『世界でいちばん悲しいオーディション』を見て思ったのは、この不幸はもう食えないということです。
「他人の不幸は蜜の味」なんて言いますが、この映画で描かれる不幸はもはや「デスソース」です。
だからこそ見終わった後、ひたすらに悲しい・・・。
この「戦い」に勝ち残り、アイドルになった者がいる一方で、敗れて去っていた者がいる。
映画『ダンケルク』は名誉の死よりも泥臭く生き残ることに価値を見出しました。
それゆえに必死で生き残り、生還した者たちの姿に一抹のカタルシスを得ることができます。
しかし『世界でいちばん悲しいオーディション』を見ている我々はもはや勝者・敗者のどちらにも感情移入することができません。
ただただその戦場を傍観者の1人として体感し、そして共に「悲しみ」を背負うだけです。
だからこそこの作品は、もはや映画を超えた何かなのかもしれません。
後味の悪い究極のリアルがそこにはあります。
負けた者たちの物語として
(C)WACK INC.
WACKのドキュメンタリーには常に「負けた者の物語」があります。
とりわけ劇場版『SiS誕生の詩』はオーディションで選ばれなかった女性たちがSiSという「BiSのライバルグループ」としてデビューし、そして消滅するまでの物語を描きました。
そして今回の『世界でいちばん悲しいオーディション』もまた、「負けた者」の物語であるという側面が強いです。
カメラが向けられていたのは、オーディションに合格した者ではなく、専ら敗退した者たちでした。
その中でも特に印象に残ったのは、敗退し、渡辺プロデューサーから「作文」の課題を出されながらも、「書かない」と頑なだった女性3人です。
彼らはオーディションからの落選を言い渡され、その直後に変わり身し、「渡辺さんは宗教」だとか「他にやりたいことが見つかった」だとか言い訳を並べて、「落選」から目を背けようとするんです。
その姿を見て、渡辺さんは彼らとはもう会うことはないとツイートしました。
しかし、その夜にキャン・GP・マイカと話すうちに自分の「アイドルになりたい!」という本心とようやく向き合えるようになり、涙が止まらなくなるんですよね。
その後、キャン・マイカに後押しされ、彼の下に作文を書く意思を伝えに行こうとするんですが、どうしてもあと一歩が踏み出せません。
このシーンってまさに自分のやりたいへの意志と自分のプライドのぶつかり合いなんですよね。
アイドルになるって多分そういうちっぽけなプライドをアイドルになるために、アイドルを続けるために、捨てられることだと思うんです。
彼女たちには、その覚悟がなかった、だから負けたということが鮮明になります。
WACKのオーディションドキュメンタリーで描かれる「敗者」というのは、常に「自分に勝てなかった者」の姿でもあります。
2017年に公開された『アイドルキャノンボール2017』では今作の監督を務めた岩淵さんが「自分に勝つために」ラストシーンでうんこを食べました。
『SiS消滅の詩』でも、清水プロデューサーがチャンスを得たにもかかわらず、BiSのマネージメント業にかまけて、おろそかにしてしまい「消滅」させてしまうという様を描いています。
渡辺さんはオーディションの最初に必ず「俺はお前たちのことを芸能人として扱う」と述べます。
つまり、そのオーディションに落ちるということは、彼の目にはその人が「凡人」として映ったということでしょう。
WACKのオーディションに来る女性たちは、誰しもが「変わりたい」「自分を変えたい」と口にします。
しかし、『SiS消滅の詩』が既に描いていたように、『世界でいちばん悲しいオーディション』は凡人はどんなに足掻いても凡人のままで変わることはできないという現実を鋭利に突きつけてきます。
オーディション最終日に落とされた1人の少女。
ステージに残る合格者たちが映るモニターを見上げ、1人涙していました。
そんな負けた者たちの物語はやはりどこまでも悲しい。
ただ、「お前は凡人なんだ」と突きつけられたところから始まる物語だってあるはずだ。
スポンサードリンク
後悔をしないということ
(C)WACK INC.
今回の映画で渡辺さんが繰り返し口にしていたのは「後悔をしないように」という言葉でした。
ただ、このオーディションが「戦い」であり、勝者と敗者を生み出す場である以上、誰も後悔をせずに終えるなんてことは、まずありえないのです。
では、なぜ彼はそんなにも「後悔」という言葉を口にしたのでしょうか。
それは勝者も敗者も、そのどちらであっても「前」を向いて生き続けるしかないということを言おうとしてのことなんだと思いました。
勝者はアイドルとして芸能の世界に足を踏み入れ、後ろを向くことが許されない日々が続きます。
デスソースを食べても、笑顔で踊り続けなければならないように、彼女たちはどんなに苦しくても、どんなに悲しくても笑顔でファンと向かい合い続けるしかありません
一方で敗者は自分が「凡人」であるという事実と向き合い、続けるしかありません。
後ろを向いたところでもうそこには自分の居場所はないんですよ・・・。
島から去りゆく船の中から、あの島を振り返ったところでもう自分の居場所なんて残っていないようにです。
後悔をするな!というのは、つまり後ろを向かないということです。
「変わりたい」「変わりたい」その思いは、まさに今の自分の姿から目を背け、どこにも存在しない自分の理想の影を追いかけることです。
オーディションの場では、参加者たちにはそれぞれに「芸名」が与えられます。
それは自分ではない自分という存在になるチャンスを得ることでもあります。
しかし、その名前を背負って自分ではない存在になれる人と、そうではない人がいる。その名前を背負いきれないものがいる。
本作の中でBiSのペリ・ウブさんがアイドルの自分は、ありのままの自分を変化させたものではなく、自分とは別の存在であると語っていました。
その別の存在の自分を纏える人とそうでない人。超人と凡人の差が明確になる瞬間でもあります。
しかし、アイドルはアイドルとして、凡人は凡人として前を向き続けるしかないのです。
おわりに
いかがだったでしょうか?
今回は『世界でいちばん悲しいオーディション』についてお話してきました。
WACKのドキュメンタリーの中でも非常にシンプルでテーマが明確な作品だったというのが総括しての感想でしょうか。
ただプロデューサーの渡辺さんの思いがストレートに伝わってくる内容でしたし、WACKらしい「敗北者」の物語として非常に胸を打たれる映画でした。
舞台挨拶に登壇したBiSのメンバーがタイトルにもある「悲しい」の意味を、見終わった皆さん1人1人に考えて欲しいと仰っていました。
ぜひぜひ皆さんも自分なりに考えてみてください。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。