(C)サイコパス製作委員会
目次
はじめに
みなさんこんにちは。
今回はですね映画『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.2 First Guardian』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となります。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.2 First Guardian』
あらすじ
前作であった『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.1 罪と罰 』は2117年の物語ということになっていました。
そしてテレビシリーズの続編として製作された劇場版『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』が時系列的には2016年でしたね。
さらに言うと、3作目となる『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.3「恩讐の彼方に」』が2117年の11月を舞台にした映画となっています。
さて、今作『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.2 First Guardian』は、時系列的には2つの時間軸が登場しています。
- 2112年:須郷徹平が国防軍に所属していた頃の時間軸
- 2116年10月:劇場版のSEAUn(東南アジア連合)の事件以後の時間軸
この2つの時間軸が描かれているということをまず頭に入れておきましょう。
2112年の須郷徹平の物語には、存命の征陸智己もメインキャラクターとして登場しますし、テレビシリーズ以前の雰囲気が感じられます。
2112年の沖縄で国防軍第15統合任務部隊として活動する須郷徹平は、先輩の大友逸樹と共にSEAUnで行われる軍事作戦に参加することとなります。
しかし、その作戦は思いもよらない展開をみせ、失敗に終わってしまい大友逸樹は行方不明になってしまいます。
その作戦から3か月が経過したある日、突然国防省を無人の武装ドローンが襲撃する事件が起こり始めます。
監視官の青柳璃彩と執行官の征陸智己が事件を追うこととなりますが、その中で捜査線上に浮上してきたのは、何と行方不明のはずの大友逸樹でした・・・。
キャスト・スタッフ
- 監督:塩谷直義
- 脚本:深見真
監督はもうこのシリーズではお馴染みの塩谷直義さんですね。
また脚本を担当した深見真さんは、テレビシリーズ第1期と劇場版の脚本も担当された方です。
続いてキャスト陣のご紹介です。
- 東地宏樹:須郷徹平
- 有本欽隆:征陸智己
- 浅野真澄:青柳璃彩
- てらそままさき:大友逸樹
- 大原さやか:大友燐
やっぱり『PSYCHO-PASS』シリーズを見てきた人間としては、東地宏樹さんの須郷徹平をまた見れたのは嬉しいですよね。
皆さん覚えてますよね・・・。
青柳璃彩と言えば、テレビシリーズ第1期~第2期序盤に登場したキャラクターです。
一応キャラクター設定も復習しておきましょう!
- 宜野座とは同期入局で仲の良い様子も見せている。
- ノベライズ版では執行官の神月凌吾と恋人関係にあったことが判明している。
- しかし、神月凌吾が逃亡しようとした際に、自らの手で処刑するという悲しい運命を背負っている。
- 2期の序盤でサイコハザードにより犯罪係数が上昇してしまい、部下である須郷に執行されて、絶命する。
須郷と青柳にはかつて接点があったんだ・・・ということが判明しますし、だからこそそんな人を自らのドミネーターで狙撃したという事実が何とも悲痛ですよね。
青柳監視官は最期に「人と法を守るために、私はお前を・・・。」と言い残して死んでいきました。
その監視官としてドミネーターを潜在犯に向け続ける熱意は、きっと征陸智己から受け継いだんでしょうね。
より詳しい作品情報を知りたい方は映画公式サイトへどうぞ!!
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『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.2 First Guardian』感想
プレ『PSYCHO-PASS』の空気感
最近映画館に行くと、「これはアベンジャーズ誕生前の物語」と銘打って『キャプテンマーベル』というヒーロー映画の予告映像が放映されています。
MCU(マーベルシネマティックユニバース)はこれまで長年にわたって、常に新しいヒーローを描き続け、時計の針を前へ前へと進めてきました。
そんな中でシリーズ集大成とも言える『アベンジャーズ:エンドゲーム』の公開前に、これまでのすべてのMCU作品の前日譚に当たる作品を公開するというのですから驚きと共に感情が高ぶります。
おそらくですが、来月公開される『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3「恩讐の彼方に」』は1つのシリーズの集大成となる作品でしょう。
そして2012年より続いてきたこのシリーズもまたこれまでのシリーズ全ての前日譚に当たる物語を世に送り出してきました。
それゆえにこれまでの『PSYCHO-PASS』シリーズにおいて全面に押し出されてきたシビュラシステムの描写は鳴りを潜め、いわゆる王道刑事モノの様な雰囲気があり、不思議なノスタルジーを感じる作風に仕上がっていました。
アクションシーンの作画はかなり気合を入れて作っている印象を受けましたし、ドミネーターという武器がある中で、純粋な肉弾戦を繰り広げるという前時代的な装いが絶妙でした。
それでいて前作同様、これまでのシリーズに登場したキャラクターたちの設定を深堀りし、より魅力的にするように計算されているので、きちんと前日譚としての役割を全うしています。
『スターウォーズ』シリーズのスピンオフである『ハンソロ』を見ていて感じたことでもあるんですが、この前日譚で描かれたエピソードが、これまでの『PSYCHO-PASS』におけるキャラクターの人物造形に繋がっているのも印象的です。
特に征陸智己の本作での描かれ方は、涙なしには見れないですよね。
だって「残りの自分の命は全部、息子の伸元のために使いたい」とか言っちゃうんですよ・・・。
それでテレビシリーズ第1期終盤で、息子をかばって絶命するわけですから、この前日譚の時点で既に征陸がこんな悲痛な覚悟をしていたんだという事実にただただ感動しました。
他にもテレビシリーズでそれほど出番が多かったわけではない青柳監視官の過去や、須郷という男にどんな過去があって、どんな思いで執行官を務めてきたんだろうかといった内面的な部分の描写も加筆されて、シリーズ全体に厚みが出たような印象です。
鑑賞する我々も、シビュラシステムを使って、一体どんな物語を描いてくれるんだろうという期待値を徐々に高めてきたわけですが、今回は敢えてその期待を裏切ってきました。
ただそれが明らかに功を奏していて、シリーズの1つの集大成になるであろう次作に向けて、非常に気持ちが盛り上がる内容になっていました。
純粋な男が執行官になるまでの物語
これまで『PSYCHO-PASS』シリーズには数多くの監視官や執行官が登場してきました。
シリーズの主人公に据えられてきたのは、常守朱という少女で、もちろんテレビシリーズ第1期では、まだまだ未熟な人間ではあったわけですが、そこから大きく成長し、一人前の監視官になりました。
つまり純粋な少女が監視官になり、そして自分なりの正義の在り方を模索していくという部分が『PSYCHO-PASS』シリーズの1つの主軸だったわけです。
それに対して執行官の執行官になるまでの物語って意外と描かれていないことが多い印象を受けます。
宜野座伸元なんかは、元々監視官として働いていて、父親の死を受け、犯罪係数が悪化すると、自らも執行官として活動するようになりました。
ただ、正統な「執行官ビギンズ」ってまだこのシリーズではしっかりと描かれておりません。
その点で考えてみても、今回の『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.2 First Guardian』は、紛れもなく執行官須郷の誕生譚として位置づけられています。
これまでの『PSYCHO-PASS』シリーズで描かれてきた須郷の険しい表情。
その裏にどんな経験があり、どんな決意があったのか。
沖縄で仲間と暮らす笑顔が素敵な純粋な少年が如何にして、冷静で険しい顔つきの執行官になったのかという「ビギンズ」の部分がしっかりと描かれています。
このシリーズにおいて執行官という立場は言わば「潜在犯」であるがゆえに就かざるを得なかった職業の様な立ち位置にあるので、そこから逃れることができるとすれば、当然逃れたいと思うことでしょう。
本作の冒頭で、須郷は外務省の人間からスカウトされ、国防軍のエースパイロットとして活躍することで、潜在犯としての足枷を解いてもらうことができるという制約を課されていました。
ただ須郷は、その提案を受けません。そして「自分の今の仕事に誇りと責任を持っている」と明言します。
ここで描かれた彼の選択は、間違いなくこれまでの『PSYCHO-PASS』シリーズで描かれてきた執行官という立場の印象をガラッと変えるものでした。
執行官は確かに犯罪係数が高い潜在犯であり、その運命を受け入れることしかできません。
しかし、彼らもまたそれぞれに自分の信念と正義感を持って活動しているんだということがひしひしと伝わって来ます。
選択肢がないからなったのではなく、征陸智己に憧れ、自らの意志と選択で執行官になる道を選んだ須郷。
先輩大友の一件で感じた国防軍で活動することに正義はあるのかという疑問、本当の正義とは何だろうか?と考えに悩まされながら、彼は執行官として自分の正義を見つける決意をしたわけです。
その道を選んだというのは、言うまでもなく征陸智己の意志を継承するためでしょう。
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『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.2 First Guardian』解説
征陸智己という男
征陸智己(C)サイコパス製作委員会
まずは征陸智己を演じておられた有本欽隆さんが今年の2月1日に亡くなられたということでご冥福をお祈りいたします。
征陸智己というキャラクターの魅力って、やはりこのシリーズに登場した様々な癖の強いキャラクターを全て受け止めるような包容力にあると思っています。
人として天性の魅力を持ち合わせていて、誰からも一緒に仕事をしたいと思わせるような「刑事」としての側面は今作でも存分に描かれていました。
また、どれだけ息子の伸元から恨まれ、目の上の瘤のように扱われようと、息子のために残りの命を使いたいと彼を見守り続ける「父」の側面も見せてくれました。
今回の映画公開にあたっての舞台挨拶レポートを読んでいると、こんな一節がありました。
塩谷監督も「トレンチコートですっと何も持たずに現れて、さっと丸まった台本を出されて、かっこよく(台本を)読まれ、AパートとBパートの間にたばこをすっと吸われ、全部終わったらすっと帰られる。さっと来て、さっと帰られる。こんなに雰囲気のある方ってすごい」と噛み締める。
キャスト陣が口をそろえて、有本欽隆さんはリアル征陸智己だというのも頷けるエピソードです。
そんなダンディで、クールな様子でありながら、すごく『PSYCHO-PASS』シリーズにも思い入れが強かったようで、台本を読んで、興奮気味に塩谷監督に話しかけてくる一幕もあったと言います。
では、そんな征陸智己というキャラクターがこのシリーズに最後に残してくれたものは何だったのでしょうか?
それは『PSYCHO-PASS』シリーズがより複雑なテーマへと挑戦する中で少しずつぼやけていった「正義とは何か?」という最初の根本的なテーマへの回帰だったんだと思います。
シビュラシステムというものが蔓延る世界の中で、次々にそのシステムの抜け穴を突く犯罪者が現れて・・・という続編ばかりがオリジナル版以降製作され続けてきたわけですが、今作は明確に原点回帰を果たしています。
そして征陸智己がこのシリーズに残した思いは、まさしく「自分なりの正義の在り方を見つけろ」というところにあったはずです。
その原点とも言える思いが確かに『PSYCHO-PASS』シリーズの1番の核になる部分であったことを思い出させてくれました。
テレビシリーズ第1期にて、槙島の逮捕よりも息子の命を選んだ征陸智己。
彼は最期の最期に、シュビラシステムが描く正義でも、社会的な正義でも、刑事としての正義でもなく、1人の人間としての「正義」を遺して死んでいきました。
どんなに社会が変わっても、どんなに社会的な正義の在り方が変わったとしても常に自分の思う正義と向き合い続けていかなくてはなりません。
また、それをシビュラシステムのような外部機関に委託することはあってはならないはずだ!と彼は管理社会における人間の意志を見せてくれたのです。
有本欽隆さんが、征陸智己が最期の最期に『PSYCHO-PASS』というシリーズを原点へと立ち返らせてくれたように思いましたし、このシリーズが伝えようとしていたテーマを純粋にかつダイレクトに伝えてくれたような気がしています。
そんな原点回帰を経て、シリーズは1つの集大成になるであろう次回作へと突き進んでいきます。
有本欽隆さんが、征陸智己を演じる中で本作のキャラクターたちに、そしてそれを見ている私たちに残してくれた思いを胸に、これからもこのシリーズを応援していきたいと強く思いました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。
管理社会と戦争
今回の『PSYCHO-PASS サイコパス SS Case.2 First Guardian』はプレ『サイコパス』としての装いもあったということからか、イラク戦争チックな描写が非常に多かったですね。
近年の戦争において、メディアによる情報管理と世論の誘導は言わば絶対的に必要なものになっていて、それによって如何にして世論を戦争へ傾倒させるかが重要だったりします。
それが成功したのが湾岸戦争であり、イラク戦争だったということになるのでしょう。
また情報戦という側面はドンドンと増し、高度化していく中で、如何にして不必要な情報を漏らさないようにするかという危機管理も重要になっています。
そんな管理社会における戦争の様相を今作は反映しているように見受けられます。
例えばドローンを用いた戦術ですが、この映画を見ると、その様子がよく分かります。
ドローンによって遠隔地から攻撃できるようになったことで、戦争をある種のゲーム感覚で行えるようになり、日常生活と戦争が表裏一体になっているというリアルをこの映画は描き出しています。
つまりドローンによって「人を殺した」という事実に無自覚なままにゲームの敵を倒す感覚で、モニターの向こうの人間を殺せてしまうという恐ろしい時代に突入しているわけです。
これはまさしく須郷が陥っていた状況でもありますよね。彼はドローンの向こうから無自覚にガス兵器を投下していました。
安全圏からスイッチを押しただけで、自分が大量殺戮を犯したことを知らないまま生きていくというシビュラシステム的には「正義」であるにもかかわらず、人道的には絶対に許されないことがまかり通ってしまうんですよ。
管理社会における戦争がシビュラシステムの認めた「罪人」を生み出してしまうという自己矛盾こそが今回の映画の1つの問題提起になっているのでしょう。
そんな物語の結末において、再び戦争へと引き込まれそうになった須郷が、それを断り、自分の信じる正義の物語を生きようとするところは着地点として絶妙でした。
モニターの向こうに移る人間の情報をデリートすることではなく、生身の人と向き合いその中で自分の正義を見つけていくというある種の「古い生き方」を彼は選ぶのです。
その「古い生き方」を教えてくれたのもまた征陸智己という男だったんですよね・・・。
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おわりに
いかがだったでしょうか?
今回これまでの『PSYCHO-PASS』シリーズから一転して、クラシカルな刑事ものに舵を切ってきたのは面白い試みだったと思います。
また今日の管理社会・情報社会が生み出してしまった、人間という情報をデリートするという無自覚な「罪」がシビュラにおいては裁かれず、「正義」だと判定されてしまう恐ろしさも描かれたように思います。
その中で前時代的な生き方へと回帰する形で物語が着地し、同時に『PSYCHO-PASS』シリーズそのものが一度原点回帰するような印象も受けました。
いつの時代にあっても、システムが妥当性を保証する「正義」や「罪」ではなく、もっと本質的なところを見ていかなければならないという今シリーズ本来のテーマが有本欽隆さんが演じる征陸智己によって再び還元されたのです。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
そして、とっつぁん、ありがとよ。