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はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『スパイダーマン スパイダーバース』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む解説・考察記事となります。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
『スパイダーマン スパイダーバース』
あらすじ
ニューヨーク・ブルックリンの名門私立校に通う中学生のマイルス・モラレス。
彼はストリートアーティストとして活動することを志しているが、警察官であり父親でもあるジェファーソン・デイビスは厳格で、彼にはエリートコースを歩んで欲しいと願っていた。
彼はそんな父親に反発するかのように、叔父のアーロン・デイビスにこっそりと会いに行っては「スローアップ」を繰り返していた。
いつものようにアーロンと「スローアップ」をしていた時、マイルスは突然謎の蜘蛛に刺され、それ以来「スパイダーマン」の能力を発現するようになる。
そんな中で、キングピンらが時空が歪める兵器を開発し、それを用いて何かを企んでいることが分かり、ピーターパーカー(マイルスの世界の)がそれを阻止しようとする。
しかし、ピーター(マイルスの世界の)はその際にキングピンによって殺害されてしまう。
その一部始終を目撃してしまったマイルスはキングピンの配下であるプラウダーに追われ、絶体絶命のピンチを迎える。
そんな時に、颯爽と現れたのがピーターパーカーだった。
なんと、兵器によって歪められた時空より、異なる世界線から、それぞれの世界の「スパイダーマン」がマイルスの時空に集結してくることとなったのだ。
「スパイダーマン」たちは無事にキングピンの野望を阻止し、世界を救うことができるのか?
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キャスト・スタッフ
- ボブ・ペルシケッティ
- ピーター・ラムジー
- ロドニー・ロスマン
まず、ボブ・ペルシケッティ監督なんですが、彼は『リトルプリンス 星の王子さまと私』にて脚本を担当していた人物でもあります。
今作においては脚本ではなく、監督として参加しています。今作が監督デビュー作のようですが、アニー賞の長編アニメ監督賞を受賞するなど、鮮烈なデビューとなりました。
そして注目したいのは、ピーター・ラムジー監督ですよね。
彼はドリームワークスにて『ガーディアンズ 伝説の勇者たち』というアニメ映画の監督を務めています。
興行的には成功を収められませんでしたが、そのアニメーションは傑出していて、映像作品として一級品と言える仕上がりでした。
アクションもダイナミズムに溢れていますし、何よりカメラワークが絶妙なので視覚的な快感が映画を見ている間じゅう持続します。
今回の『スパイダーマン スパイダーバース』はアニメーションの素晴らしさも高く評価されていますが、それに大きく貢献したのは、ピーター・ラムジー監督なのではないでしょうか。
- フィル・ロード
- ロドニー・ロスマン
フィル・ロードと言えば、セットで名前が挙がるのは当然クリストファー・ミラーなんですが、今回後者は製作を担当し、脚本はフィル・ロードとロドニー・ロスマンのクレジットとなっています。
前者は「LEGO(R) ムービー」にてアニメーションの常識を覆すようなとんでもない映像を作り上げ、大きく注目されました。
一方で後者はフィル・ロード&クリストファー・ミラーの『22ジャンプストリート』などでも脚本を担当しており、これまでもタッグを組んできた気心の知れたスタッフですね。
昨年の6月に公開されたスターウォーズシリーズのスピンオフである『ハンソロ』も当初はフィル・ロード&クリストファー・ミラー監督作品となる予定だったそうで、降板が決まった時はショックでした。
- シャメイク・ムーア:マイルス・モラレス/スパイダーマン
- ジェイク・ジョンソン:ピーター・B・パーカー/スパイダーマン
- ヘイリー・スタインフェルド:グウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン
- ニコラス・ケイジ:スパイダーマン・ノワール
- キミコ・グレン:ペニー・パーカー
- ジョン・モラニー:スパイダー・ハム
- リーブ・シュレイバー:キングピン
- マハーシャラ・アリ:アーロン・デイビス
- ブライアン・タイリー・ヘンリー:ジェファーソン・デイビス
- ゾーイ・クラビッツ:メリー・ジェーン
主演のシャメイク・ムーアは、『DOPE』に出演はしていますが、映画俳優としては駆け出しで、だからこそ劇中のマイルスに重なる部分も多いですよね。
そしてグウェンを演じているのが、今を時めく若手女優のヘイリー・スタインフェルドですね。
彼女の出演作を見たいという方は、とりあえず『スウィート17モンスター』とそして3月公開の『バンブルビー』を見ましょうね。
そしてマイルスの叔父にあたるアーロンを演じるのは、映画『グリーンブック』にて第91回アカデミー賞助演男優賞を獲得したマハーシャラ・アリです。
他にも豪華なキャスト陣が揃っており、声を聴いているだけでも幸せな気分になれてしまいます。
より詳しい作品情報を知りたい方は映画公式サイトをご参照ください。
IMAX3Dで鑑賞の価値ありのアニメ映画
みなさん本作がアニメ映画だからってIMAXで見なくても良いか・・・と思ってませんか?
何が素晴らしいのかというと、普通映画って16:9に近い比率のスクリーンに映し出されるため、「横の動き」が映像のムーブメントの中心になることが多いんですよ。
ただ、今作『スパイダーマン スパイダーバース』に関して言えば、非常に縦の動きを志向したムーブメントが多用されていて、だからこそ大画面で見れば見るほどに視覚的な快感が増幅されます。
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とにかくアニメーション映画でありながら上下左右に大きくアクションが展開しますし、縦横無尽に街を飛び回る高揚感はIMAXで見ることで増幅されること間違いなしです。
チャンスがある方はぜひぜひIMAXにてご鑑賞ください。
また、『ガールズ&パンツァー』などの音響監督でも知られる岩浪さんが、吹き替え版の音響調整を担当したことでも知られるDolby Atomos版の上映も素晴らしいと専らの評判です。
より素晴らしい音響で作品を体感したいという方はぜひそちらもチェックしてみてください。
Dolby Atomos版上映劇場
- TOHOシネマズ 日比谷
- TOHOシネマズ 六本木ヒルズ
- TOHOシネマズ 新宿
- イオンシネマ 京都桂川
- TOHOシネマズ 梅田
- ミッドランド スクエア シネマ
- イオンシネマ 名古屋茶屋
- TOHOシネマズ ららぽーと富士見
- イオンシネマ 幕張新都心
- TOHOシネマズ ららぽーと船橋
- TOHOシネマズ 柏
- TOHOシネマズ くずはモール
- アースシネマズ 姫路
- イオンシネマ 和歌山
- イオンシネマ 岡山
- TOHOシネマズ 赤池
- TOHOシネマズ アミュプラザおおいた
- T・ジョイ 博多(ドルビーシネマ)
ちなみ「ドルビーアトモス」というのは立体音響システムのことで、観客を包み込むような音響に仕上がっているのが特徴です。
音響がはっきりと分かるほどに素晴らしいというよりも、自然なサウンド空間に没入する感覚を味わえるというのが魅力だと当ブログ管理人は考えております。
ぜひぜひ一度体感してみてくださいませ。
スパイダーマン入門編として完璧
みなさんこう思ったことはありませんか?
まあアメコミヒーロー映画が好きな人にとっては常識だとは思いますが、映画を年間数方程度見るよ!位の方には、イマイチ映画『スパイダーマン』シリーズの展開の仕方ってピンと来ないと思うんですよ。
以下簡単に整理しておきましょう。
まず、2000年代のヒーロー映画を代表するとも言われるサム・ライミ監督の『スパイダーマン』が3作作られています。
そしてその後、2010年代に入ってリブートということでマーク・ウェブ監督によって『アメイジングスパイダーマン』シリーズが製作されました。
ただ、興行的な不振が原因で当初は3部作構想、4部作構想とも言われていたにも関わらず、結果的に2作目でシリーズが事切れてしまいました。
そしてMCU(マーベルシネマティックユニバース)に組み込まれる形で、2017年に公開され、続編が予定されているのが『スパイダーマン ホームカミング』に端を発した新シリーズです。
と、まあこんな感じで、映画シリーズが何度もリブートして来たので、どれとどれが繋がってるのか・・・という疑問をうんでしまっているのです。
迷えるそこのあなた!!
『スパイダーマン スパイダーバース』が公開されたからには、もう安心です。
最初に見るならこれが最適の最適解が登場したんですよ!!
確かにそれは間違いありません。
しかし『スパイダーマン スパイダーバース』の物語そのものは超王道で、予習なんてなくとも最大限楽しめる作りになっています。
それでいて、ヒーロー映画として必要な要素が一通り詰まっていますし、「スパイダーマン」とは何なのかを深く知るためのヒントもたくさん込められています。
ですので、これまで「スパイダーマン」を見たことがないという方!!安心して劇場で『スパイダーマン スパイダーバース』をご鑑賞ください!!
入門編としてこれ以上はないという仕上がりですので!!
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『スパイダーマン スパイダーバース』解説
アニメーションが凄すぎる
この映画を見て、このアニメーションを見て、もう「映像革命」が起きた・・・と思いました。
それくらいに本作のアニメーションはとんでもない、というよりも規格外の出来栄えです。
異なるタッチのアニメーションの融合
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本作の世界観は、異なる時空から「スパイダーマン」たちが1つの世界線に集まってくるというものになっているんですが、それすらアニメーション技術を披露するための展開に思えてきます。
マイルスやグウェンは最近の典型的なアメリカのアニメーションという印象を与えるんですが、スパイダー・ハムはレトロなアメリカンアニメーションの味わいで描かれています。
またスパイダーマン・ノワールは文字通りノワール調の2Dに近いアニメーションで表現されていますし、ペニー・パーカーは、日本のものに近い2Dアニメーションチックな表現のされ方をしています。
このように3Dアニメーションを主軸としながら、その世界観の中に多様なアニメーションを同居させるというとんでもない芸当をこの『スパイダーマン スパイダーバース』はやってのけています。
トーンの味わいが残るコミックらしさ
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今作のアニメーションが実にコミックライクに作られていることは映画を見れば、すぐにお分かりいただけるかと思います。
では、そのコミックが動いているかのような印象を与える秘密は何なのかと言いますと、トーンで粗く塗られたような画面の色彩です。
トーンというのは、皆さんが普段何気なく読んでいるマンガの中で着色するために用いられているドットのことです。
基本的に近年のアニメーションはそのドットが緊密になっていて、映像を見ていてドット感を感じることはまずないんですが、『スパイダーマン スパイダーバース』はあえて、ドット感を強調しています。
ただそのひと工夫により、まさに動くアメコミを体現したアニメーションになっている点は筆舌に尽くしがたいですね。
モーションブラーを排除した独特の映像
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被写体のブレとも言える「モーションブラー」は、アニメーションをより自然な動きにするために必要な演出であり、処理です。
しかし、『スパイダーマン スパイダーバース』は近年のアニメーションにおいて必要不可欠とも言える「モーションブラー」を使用しないという決断を下しているんです。
これによりどうなったのかというと、ストップモーションアニメーションのようないわゆる「カクカク感」が映像に付与されます。それに伴い映像のスピード感が増します。
そして「モーションブラー」を使わないことにより、これまたコミックライクな映像になるのですが、そこに少しCGでブラー感を後から足し込むことで、両方の良いところが表現されています。
このようなクラシカルなアニメーションの要素を取り入れつつも、そこに処理をかけ3Dにて疑似的にブラーの処理をかけるという異色の映像を実現しました。
コミック的演出の数々
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何と言っても『スパイダーマン スパイダーバース』には数々のコミック的な演出が登場します。
基本的に3Dアニメーション主体で作られた作品ではありますが、例えば爆発や発光のエフェクトは2Dベースの手描き処理となっていて、これも「動くコミックス」的演出の1つです。
その他にも登場人物の顔に3Dアニメーションではほとんど見ることがない、コミックライクな「線」が描かれていた李、キャラクター同士の接触のエフェクトがこれまた「線」で表現されたりしています。
また効果音が「文字」で表現されたり、クラシカルなコミックス特有の「TO BE CONTINUED」のテロップが表示されたりとディテールまでこだわりが炸裂しています。
映像で語る雄弁なアニメーション
登場人物の動きを、リアルな人間の動きベースで表現したアニメーションも目を引くことながら、彼らの状況や心情を描くためにアニメーションの色彩、明度、構図に至るまで徹底的に計算されていたのも驚きでした。
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画面の大半が走り去っていく電車に割り当てられ、その脇で小さく佇むマイルスの姿が印象的なシーンです。
このシーンは「スパイダーマン」としての運命と彼がどう向き合うのかという葛藤を描いています。
電車というモチーフは、その終着点が決まっており、一たび乗ってしまえばもう戻ることも出来ず、待ち受ける結末を避けることはできないというある種の「運命」表象とも言えます。
目の前に大きく流れていく「スパイダーマン」としての運命に飛び乗るのか、それとも躊躇ってしまうのか。その2つの道で迷い、葛藤するマイルスの心情がこのアニメーションの構図や色彩によって際立っています。
その他のシーンでも、かなりストーリーテーリングのためのアニメーションにこだわっているシーンが散見され、非常に感動しました。
映画『スパイダーマン』シリーズの小ネタ
当ブログ管理人はアメコミは基本的に読まないので、本作の小ネタを語っていくとは言いましても、コミックスのネタは分かりません。
ただ一応『スパイダーマン』映画シリーズを追いかけてきた人間として楽しめた小ネタをいくつかご紹介してみようと思います。
サムライミ版『スパイダーマン』
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今作『スパイダーマン スパイダーバース』にて登場するピーターパーカーがあのサムライミ監督版の「ピーターパーカー」を想起させることは映画を見てきた方には言うまでもないでしょうか。
まず、第1作からの引用と考えられるのは、当然メリージェーンとの「逆さまキスシーン」ですね。
『スパイダーマン』と言えば!!というくらいにシリーズの中でも最も有名なシーンの1つなのでご覧になった方も多いことでしょう。
そしてシリーズ第2作となる『スパイダーマン2』からも引用が成されています。
それが当然あの電車を止めるシーンですよね。
そして最後に『スパイダーマン3』からも引用されているシーンがあります。
シリーズ第3作からの引用は、ピーターの独特のダンスのシーンですね(笑)
これは覚えていた人は映画を見ながら、思わずニヤッとしてしまったことでしょう。
『アメイジングスパイダーマン』
映画『アメイジングスパイダーマン』シリーズにおいて、グウェン・ステイシーを演じたのは、エマ・ストーンでした。
そしてそのシリーズ第2作において彼女の最期のシーンはインパクト大でした。
映画『アメイジングスパイダーマン2』より引用
このシーンで、必死に彼女を救おうとするスパイダーマン(ピーターパーカー)の糸が「手」のような形になるのも何ともエモーショナルでしたよね。
このシーンを踏まえて考えると、今作の終盤でマイルスが時空の狭間に落ちていきそうになるグウェンの手を必死で掴み取り、彼女を助けたシーンは『アメイジングスパイダーマン2』へのオマージュとも考えられますね。
『スパイダーマン ホームカミング』
実はですね『スパイダーマン ホームカミング』にて既にマイルズの叔父であるアーロン・デイヴィスが登場しているんですよ。
バルチャーたちと武器の取引を行っていたりしますが、スパイダーマンに命を救われて改心をした男性がいたと思いますが、彼が『スパイダーマン スパイダーバース』におけるプロウラーに当たるキャラクターです。
そう考えると、これはMCUにマイルス・デイヴィスが登場するという布石の可能性もありますし、非常に楽しみですよね。
エンドロール後のシーンについて
エンドロール後のシーンに登場したスパイダーマンは一体何だったんだ?と思われた方もいることでしょう。
当ブログ管理人もアメコミを読まないもので、あまりピンときてなかったんですが、鑑賞後に一応調べてみました。
まず『スパイダーマン』の最初のアニメが公開されたのが、1967年です。そしてエンドロール後のシーンに登場したのは、未来からやって来たスパイダーマンであり、彼は2099年の時間軸に存在しています。
つまり最古のスパイダーマンと最新のスパイダーマンが邂逅して、67年のアニメのワンシーンの再現をやっているという何ともシュールな映像になっていたというわけなんですね。
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『スパイダーマン スパイダーバース』考察
「スパイダーマン」という身の丈に合わないスーツ
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本作の物語を分析していくと、その中心にあるのは「スパイダーマンを受け入れる物語」ということになるでしょう。
実はこれまでに指摘して来たコミックライクな演出や映像も全てこの物語に寄与しています。
まず、冒頭にマイルスは蜘蛛に刺されて、「スパイダーマン」の能力を獲得します。
映像を見ていると気がつくと思いますが、彼が蜘蛛に刺された翌日のシーンから途端に心情をテキスト化する演出やその他のコミックライクな演出が登場し始めるのです。
これはつまり彼が「スパイダーマン」という能力を獲得し、コミックの中の世界に引き込まれていったことを表しています。
しかし、彼は手に入れた「スパイダーマン」の能力を使いこなすことができません。
それにもかかわらず、ヒーローに、「物語」に憧れるマイルスはピーターパーカーの死に瀕して「身の丈に合わない約束」を引き受けてしまいました。
面白いのが、マイルスは「スパイダーマンの物語」に憧れて、アメコミに掲載されている描写を自ら再現しようと試みるんですよね。それがあのビルからの飛び降りでもあるわけです。
そうして彼は敵の研究所への潜入や、敵からの逃亡劇などまさにコミックの登場するようなシチュエーションの数々を体感し、「スパイダーマン」になれたような気でいます。
ただマルチバースからやって来た「スパイダーピープル」たちは、マイルスに強く迫り、彼にはキングピンを止められるだけの力はないだろうと判断してしまいます。
アジトに訪れた際にマイルスが飾られている「スパイダーマンのスーツ」を見上げていたシーンは何とも印象的で、彼は手に入れたその「大いなる力」を全く自分のものにできていませんでした。
そんな彼に訪れることとなった転機は、間違いなくアーロンの死でしょう。
これがマイルスの物語において意味したのは、「スパイダーマン」としての物語とマイルス自身の物語の交錯です。
スパイダーマンというヒーローはいつだって「大切な人の死」という悲しみを背負っています。
その「物語」の中の設定が、マイルズ自身の「物語」と初めてリンクしたのです。
そして彼は「救えない命」の存在を知り、だからこそ「大いなる力」を持つ者として、人を救う責任があるとスパイダーマンの「掟」を自分のものとして実感することができました。
自室でピーターパーカーに縛り付けられた彼が、去っていく「スパイダーマン」たちを眺めているシーンは、その窓がコミックライクなフレームとして機能することで、彼をコミックの外の世界に置き去りにしていくようでもありました。
しかし、マイルスは自分の意志と決断で、そのフレームの向こうへと飛び込んでいきます。
この瞬間に冒頭でスタン・リーがマイルスに述べていた「いずれな!」の意味も明確になりました。
マイルスは自分の身の丈に合わないスーツだった「スパイダーマンとしての物語」をようやく、彼自身の物語として認識できるようになったのです。
こうしてようやく他の「スパイダーマン」たちと同様に、彼のコミックスがスクリーンに映し出される描写を迎えました。
『スパイダーマン スパイダーバース』という作品は、まさに「スパイダーマン」とは何かという根源的なテーマを普通の少年の視点で掘り下げた映画であり、加えて「スパイダーマン」という運命を背負うことを描いた作品でもあるわけです。
終盤に彼がスパイダーマンのコスチュームの状態で、父であるジェファーソンに抱きつくシーンがあります。
このシーンがまさに「スパイダーマン」の物語がマイルス自身の物語になったことを明確にしている点は指摘するまでもないでしょうか。
「身の丈に合わないスーツ」も、それに見合う人間になろうとすれば、いつか「自分に見合ったもの」になるんだというヒーロー映画らしいメッセージを最高の形で打ち出してくれました。
グラフィティと壁について考察
『スパイダーマン スパイダーバース』が家族を主題に据えた映画であることは言うまでもありません。
とりわけその描き方には、今日のアメリカ社会の様相が反映されているように感じられました。
そもそも米国におけるグラフィティとはいつ頃から発展してきたのかと言いますと、1960年代なんですね。
ベトナム戦争中に黒人青年が政治的なメッセージやスローガンを打ち出すためにグラフィティという形のオリジナルを作り上げました。
それ以降の広がりは以下のようであると言われています。
またほぼ同時期にニューヨークで特権階級の周辺地域を迂回するような高速道路の建設が行われた。この地域にはマイノリティの居住地域が栄えていたのだがこの高速道路の建設によりその地域は灰色の壁だらけになってしまったのだ。そこでマイノリティの少年少女たちが、町の景観を少しでも良くする為、そして一方的に行われた開発計画に対する抵抗のメッセージとして高速道路の壁にライティングが行われるようになった。この活動が影響力を持ち、その後バス、地下鉄へとニューヨーク全体へ広がっていったのである。
(『グラフィティをめぐる問題』より引用)
グラフィティとは黒人発祥の文化であり、それでいて反抗や抵抗の象徴でもあるんですね。
この点を押さえておくことで、劇中でマイルスがグラフィティに執心しているのは、自分を認めてくれない父への「抵抗」の表れとも解釈できるのです。
そして、もう1つ忘れてはならないのが「壁」ですよね。
現代のアメリカにおいて「壁」と言えば、トランプ大統領が強行で建設を進めようとしているアメリカとメキシコの国境に建設予定の「壁」です。
人類はいつだって自分たちに差し迫った恐怖があれば、そこから逃れるために「壁」を作ることで、外部と自分との間に境界線を作り安心感を得てきました。
アメリカ人がドナルド・トランプに多くの票を投じ、「壁」の建設を掲げる彼が大統領に選出されたのも、移民・難民問題への恐怖や不安の感情が要因の1つと言えるでしょう。
しかし、一度壁を築いてしまえば、両国の関係性に影響を与えることは明白ですし、アメリカの排外の姿勢を全世界にアピールすることとなってしまいます。
そんなアメリカにおけるグラフィティと壁のコンテクストを『スパイダーマン スパイダーバース』はプロットに落とし込んでいます。
グラフィティで父親に反抗し、そして2人の間には大きな「壁」があります。
それでもマイルスとジェファーソン・デイビスは互いに互いを理解しようとし、愛でもってその壁を超えようとしていました。そして2人は何とか和解に辿り着くことができたのです。
自分とは違う価値観で生きている人間を、自分とは違う生き方を選択する人間を、私たちは壁の向こう側へと追いやるのではなく、歩み寄り、理解しようとしなければなりません。
壁を挟んで、息子のマイルスに語りかけた父ジェファーソン・デイビス。
あの時、彼が声をかけようとしなければ2人の関係はもはや修復できないものになってしまっていたかもしれません。
現代アメリカ的な社会問題やモチーフを、『スパイダーマン スパイダーバース』はそのプロットの中で家族映画のコンテクストで発信してみせました。
この点は非常にすばらしかったですね。
取り戻せないものとキングピンがヴィランたる理由
本作のヴィランとして「スパイダーマン」たちの前に君臨したのは、キングピンという男でした。
彼は打倒スパイダーマンに執心するあまり、家族に見放されてしまい、さらには彼らを事故で失うこととなってしまいました。
キングピンは時空を歪め、他の世界から自分の家族を呼び戻そうとしているのです。
『スパイダーマン』シリーズの永遠のテーマの1つとして「失ったものの不可逆性」というものがあると思います。
つまり失われてしまった命はどうしたって取り戻すことはできないし、その禁忌を犯すことはヒーローにも許されていません。
『スパイダーマン スパイダーバース』の中で登場した「スパイダーマン」たちは全員、自分の大切な人を失っているという設定になっていました。
つまり彼らは、自分の大切な人の死とそれが自分にもたらす底知れず深い悲しみを理解しているのであって、だからこそ手を伸ばし、助けようとするのでしょう。
またそれは劇中のマイルスとジェファーソン・デイビス、アーロン・デイビスの3人の関係にも言えることだと思います。
ジェファーソン・デイビスはアーロンと実の兄弟でありながら、大人になってからは疎遠となってしました。そしてアーロンが命を落としてしまって、初めて彼ともっと話しておくべきだったと、はた気がつかされるのです。
しかし、どんなに願ったところで、失われた生命が戻ることはありません。その不可逆性を覆そうとするのは禁忌とも言えるでしょうか。
だからこそジェファーソン・デイビスは彼の死を見届けた後、息子マイルスとの切れかかった繋がりを何とか繋ぎ止めようとしたのでしょう。
しかし、キングピンというヴィランは、その人の生命の「不可逆性」を覆そうとしていますし、もはや取り戻すことのできないであろう家族との繋がりを必死で取り戻そうとしています。
故に「スパイダーマン」と対峙せざるを得ないキャラクターなんですよ。
終盤にピーターパーカーがマイルスの世界のMJに惹かれるシーンがありましたが、彼は結局のところグウェンのアドバイスもありながら、彼は踏みとどまりました。
そうです。彼にとってのMJは、彼自身の世界でまだ取り戻せる可能性のある繋がりなのです。
「不可逆性」というキーワードが、ヴィランであるキングピンと「スパイダーマン」たちを分けた描写だったと言えるでしょう。
また、彼は自分の世界を救うために他人の世界に干渉し、多元宇宙をめちゃくちゃにしてしまう寸前でした。
自分には自分の世界があって、他人には他人の世界があります。だからこそお互いの世界を虐げ合うことはあってはなりません。
確かにあなたはあなたの、私のは私の世界の主人公を演じているし、その点では自らの世界において唯一無二の存在です。
しかし、あなたの世界で起きた「哀しみ」はきっと1人で背負う必要はありません。きっとあなたを支えてくれる人はいるだろうし、一緒にその「哀しみ」を背負ってくれる人がいるはずです。
他者を虐げ、自分のために搾取し、排除するのではなく、共に生き、共に背負う「仲間」の存在を大切にしていきたいと思わされました。
また、『スパイダーマン』シリーズに通底するキーワードとして『大いなる力には、大いなる責任が伴う』というものがあります。
これはコミックス来、変わっていない重要なテーマでもあります。
そんな中で、時空を歪めるという「大いなる力」を手にしながら、その力を自分の私欲のために行使し、世界に対する責任を放棄したキングピンは、やはりスパイダーマンたちとは相いれない存在です。
そう考えても本作のヴィランがキングピンのようなキャラクターだったのは必然と言えるでしょうか。
おわりに
いかがだったでしょうか?
今回は映画『スパイダーマン スパイダーバース』についてお話してきました。
その映像に関しては、もはやアニメーション革命と言って差し支えないほどの圧巻のものだったと思います。
とにかく見ていて、視覚的な快感が凄まじかったですし、おれでいてストーリーもしっかりとしていて、マイルスと父のエピソードでは思わず涙が出ました。
ぜひぜひこの革命的な作品を劇場でご覧ください!!
そして出来ればIMAX上映でご覧になって見てください!!
今回も読んでくださった方ありがとうございました。