©ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですねアニメ『キャロル&チューズデイ』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となります。
良かったら最後までお付き合いください。
『キャロル&チューズデイ』
あらすじ
舞台は火星。人類は火星にフロンティアを作り、地球から移住し、それから50年が経過しようとしていた。
火星では、発達したAI技術によってカルチャーが支配され、人類はそれを享受して生活していた。
キャロルという1人の少女は、首都のアルバシティでアルバイトに励みながら、ミュージシャンとして活躍することを夢見て、キーボードを弾いていた。
チューズデイという少女は、地方のハーシェルシティで裕福な家に生まれ、何不自由ない生活をしながらも、ミュージシャンとして生きることに憧れを抱いていた。
ある夜、チューズデイは家を抜け出し、アコースティックギター1本を携えて、首都アルバシティを目指した。
飲まず食わずで旅を続け、行く当ても無かった彼女は、偶然通りでキーボードを演奏している少女に出会う。
その少女こそがキャロルであった。
彼女の奏でる「私はここにいる!」と叫びたい気持ちを込めたような切ないメロディに惹かれたチューズデイは、思わず聞き入ってしまった。
2人は意気投合し、キャロルの家で向かい合い、セッションをすることになる。
生まれも育ちも違う2人。しかし、その音楽に対する純粋な思いが共鳴し、美しいメロディが生まれるのだった。
スタッフ・キャスト
- 原作:BONES&渡辺信一郎
- 総監督:渡辺信一郎
- 監督:堀元宣
- キャラクター原案:窪之内英策
- キャラクターデザイン:斎藤恒徳
- 美術監督:河野羚
- 色彩設計:垣田由紀子
- 撮影監督:池上真崇
- 3DCGディレクター:三宅拓馬
- 編集:坂本久美子
- 音響効果:倉橋静男&西佐知子
- 音楽:Mocky
まず総監督を務めるのが、渡辺信一郎さんですよね。ボンズと言えば、やはりナベシン抜きにしては語れません。
伝説のアニメともいわれる『カウボーイビバップ』をはじめとして、『スペース☆ダンディ』や『坂道のアポロン』など数々の名作を手掛けてきました。
2017年には、『ブレードランナー ブラックアウト2022』のアニメーション監督を依頼されるなど、国際的にも非常に高く評価されているアニメクリエーターの1人でしょう。
監督を務める堀元宣さんは、これまで数々の作品で作画監督や演出、絵コンテを担当してきた人物で、今回監督に大抜擢された形です。
『PSYCHO-PASS サイコパス』や『翠星のガルガンティア』、神山監督の映画『ひるね姫』などにも起用され、有名なアニメ監督からもその手腕を買われてきた人物なのだと思います。
そしてキャラクター原案を担当したのが、窪之内英策さんです。
マンガ家としても有名ですが、最近だと、日清のカップヌードルのCM「HUNGRY DAYS」シリーズのキャラクター原案を描いたことでも有名です。
キャラクターデザインの斎藤恒徳さんも、彼の独特の絵のタッチを生かしつつデザインを施し、見事にアニメーションに落とし込んでいますね。
そして今作において重要な音楽を担当したのが、カナダ出身の音楽家で、ベースとドラムを主軸に様々な楽器を弾くミュージシャンであるMockyさんですね。
元々はエレクトロな音楽を主体にされていた方ではあるんですが、ある時から方向転換し、楽器の音色を生かしたシンプルでナチュラルな音楽を奏でるようになりました。
後に解説を加えますが、本作『キャロル&チューズデイ』はMockyさんの音楽観を強く反映したプロットでもあります。
また、OPのコンセプトアートを『コララインとボタンの魔女』でアニー賞美術賞を受賞した上杉忠弘さんが手がけています。
©ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会
美しい背景描写もさながら、絵の中に登場人物が息づいているように見えるのが印象的ですね。
- キャロル:島袋美由利 / 歌:Nai Br.XX
- チューズデイ:市ノ瀬加那 / 歌:Celeina Ann
- ガス:大塚明夫
- ロディ:入野自由 / 歌 – Alisa
- アンジェラ:上坂すみれ
- タオ:神谷浩史
- アーティガン:宮野真守
近年アイドルアニメや音楽アニメは増えてきています。
ただそういった作品の大半がキャストを務める声優をアイドル化する方向へと突き進んでいます。
『けいおん』がその1つのひな型となったわけですが、『ラブライブ』『アイドルマスター』『バンドリ』などなど多くの作品が声優に歌唱させることでCDやライブによる動員を見込んでいます。
しかし、今作『キャロル&チューズデイ』はきちんと歌唱シーンには声優ではなく、本職の歌手を起用しています。
また主人公のキャロルには島袋美由利さん、チューズデイには市ノ瀬加那 さんとどちらもまだまだ駆け出しの声優を起用しているのが作品にマッチしていますよね。
前者は昨年『ゆらぎ荘の幽奈さん』のメインヒロインに抜擢され、注目を集めており、後者は『ダーリンインザフランキス』や『色づく世界の明日から』などで一気に評価を高めました。
声優としてもまだまだこれからな若い2人だからこそ、キャロルとチューズデイに共鳴できる部分があるのではないかと製作陣も賭けたのでしょう。
一方脇を固めるのは、有名声優、大御所声優ぞろいというのも対照的で面白いですよね。
より詳しい作品情報を知りたい方はアニメ公式サイトへどうぞ!!
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『キャロル&チューズデイ』感想・解説(ネタバレあり)
近年のアメリカ音楽シーンを反映した作品
やはりアメリカでは、近年ポップ音楽が市場を席捲している中で、カントリーミュージックが復権してきています。
カントリーミュージックは、「古くさい」「時代遅れ」だとして音楽シーンでも軽んじられる傾向にありましたが、近年は「アメリカーナー」と呼ばれ、クールな音楽として時代の最先端であるとも捉えられているわけです。
アメリカの人気ミュージシャンであるジャスティンティンバーレイクは自身の最新アルバム『Man Of The Wood』の中でグラミー賞受賞経験のあるカントリーミュージシャンのクリス・ステイプルトンとコラボした『Say Something』を披露しています。
またクリス・ステイプルトン自身も2016年に発表したアルバム『Traveller』が上半期だけで875000枚を売り上げる大ヒットを記録しています。
他にもビービー・レクサとフロリダジョージアラインがコラボした楽曲『Meant to Be』はカントリー調の楽曲であり、こちらもYoutubeで再生回数6億回超えを記録しています。
そんな時代の中で、今回本作の音楽を担当したMockyさんの音楽観はその流れに近いものがあります。
2000年代初期に彼はコンピューターを活用したエレクトロミュージックに取り組んでいました。
そういった前衛的な音楽を作り出していた一方で、彼は2000年代後期に入ると、シンプルな音楽へと回帰していきます。
彼は2016年のMasteredのインタビューにて、以下のように述べておられます。
機械が人間の感情を支配し、携帯電話やPCで本来の姿からかけ離れたレベルまで音楽を加工できるようになったことで、僕たちはテクノロジーによって、自分らしさを失ってきているような気がするんだ。だからこそ、音楽の背後にある作り手の意図を失わないように、全ての音を自分の素手で作り出そうと思った。僕は時代の流れに逆らっていたいし、PCにミスを正されるようになるのはごめんだからね。
(Mastered「LAの音楽シーンに新たな風を巻き起こすMockyとは?」より引用)
人間らしさが失われつつある音楽カルチャーに対抗する形でMockyさんは原点回帰を果たそうとしたわけです。
そんなアメリカで現在巻き起こっているエレクトロ音楽に対抗するクラシカルなスタイルの潮流がまさしく、本作のAIが作り出す音楽と主人公のキャロル&チューズデイが作り出す音楽の関係性に見て取れます。
均質化され、画一化されていくカルチャーに「人間らしい」多様性を取り戻そうという方向性ですよね。
この点で、本作にMockyさんを起用したのは、作品との融和性が極めて高いからであると言えるでしょう。
音楽アニメゆえの細かいこだわり
©ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会
本作が音楽アニメを本気で作ろうという姿勢は、随所に見て取れます。
まず何と言ってもキャロルとチューズデイの最初のセッションのシーンは素晴らしいですよね。
音楽を扱う作品において、とりわけ冒頭にボーイミーツガール、ボーイミーツボーイ、ガールミーツガールを据え、そこから物語を展開していく作品において、ファーストセッションは非常に重要です。
例えば、ジョン・カーニー監督の『ONCE』や『はじまりのうた』といった作品でも、ファーストセッションにはかなり印象的な演出が施されています。
とりわけ『はじまりのうた』では、まず女性の側から物語を展開し、都会で孤独を感じる女性の等身大の音楽を奏でた後で、後にそれを落ちぶれた音楽プロデューサーの視点から再構成し、そこに彼の脳内でアレンジを加えるという演出を施していました。
本作には、ガスという少し古臭い音楽マネージャーのキャラクターが登場しますが、彼が第1話にてバーで酔いつぶれていたのは、もしかすると『はじまりのうた』へのオマージュかもしれません。
そして『キャロル&チューズデイ』の第1話におけるファーストセッションでは、すごく作画や演出に気を使っていました。
まず、何と言っても素晴らしいのがチューズデイがアコースティックギターを持ち、奏で始めるシーンですよね。
彼女が少し演奏することに不安と戸惑いを感じているような表情をしており、さらにその感情を不安定で重量感を感じさせるアコースティックギターが強めているんです。
しかし、演奏が始まると表情からは迷いや不安が消えていき、自分の内に秘めた感情の表現者として「ゾーン」に入ったかのような表情を見せます。
ここがやっぱり相当気合を入れて作画し、演出したのだろうということが伺えるシーンでしたよね。
それに加えて、本作には音楽小ネタがちらほらと散りばめられています。
まず分かりやすかったのが、シンディローパーですよね。
確かに彼女は17歳の時に、高校を退学して、愛犬スパークルと共に家を飛び出したようです。
また、第1話は同じく彼女の代表曲である『True Colors』がタイトルとして採用されています。
この曲の歌詞においては「Colors」という言葉がこの世界に住む多くの人々の「個性」のメタファーとして綴られています。
個々人の「色」の輝きを、個性の尊さを尊重する美しい「世界」であってほしいという、メッセージが込められているわけです。
そう考えると、この広い世界の中で、キャロルとチューズデイは、お互いに自分が求めている「色」を見つけたような、そして互いが互いの「色」を尊敬し合うような関係なんだと思います。
また、本作におけるAIがカルチャーを画一化していくという世界観を鑑みると、そんな世界に多様な色を取り戻していこうという作品全体の主題性も垣間見えます。
ちなみに第2話のタイトルにもなっている『Born to Run』はブルース・スプリングスティーンが1975年に世に送り出した楽曲へのオマージュではないかと考えられます。
彼はこの曲についてこう語ったと言われています。
『明日なき暴走』の舞台は、ある夏の終わることのない長い一夜に別々の場所で起きている様々な物語だ。その主人公たちは「人生の本当の意味を探して」「ここでない場所を探して」「もがいている」そして「どこかへ逃げようとしている」・・・。このアルバムは「10代の若者が持つ愛や自由の定義から前に進もうとした作品」であり、それまでの作品と新たな問いかけを始めたそれ以降の作品との「境界線」だ・・・。
彼女たちのミュージシャンという夢に向かって、前に進もうとする力強い意志が投影されたサブタイトルになっていると言えるでしょう。
またこれは推測の域ではありますが、「チューズデイ」という名前は、New Orderの『Blue Monday』に影響を受けてつけられたキャラクター名なのではないでしょうか?
New Orderは1980年代にイギリスの音楽シーンに現れると、そのエレクトロなサウンドでテクノロックを代表するアーティストとなりました。
その中でもシンセサイザーを多用し、12インチシングルとして最も売れた楽曲ともいわれる『Blue Monday』を世に送り出し、世界に衝撃を与えることとなりました。
だからこそテクノ音楽に革命を起こしたのが、「Monday」ということでそれにちなんでクラシカルでナチュラルな音楽で、世界に革命を起こそうとする主人公の1人に「Tuesday」と曜日を1つ進めた名前をつけたのかもしれません。
当ブログ管理人はそれほど音楽に精通しているわけではありません。
おそらく音楽に詳しい方は、もっと楽しめる作品になっているのではないでしょうか?
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グローバルスタンダードで作られたアニメ
日本のアニメって基本的に、国内向けの趣向が強いので、あまり世界志向で作品を作ることはありません。
ただ今作の総監督を務める渡辺信一郎さんは、『カウボーイビバップ』で海外でも高い評価を獲得し、一気に知名度を高めました。
また、その後再びボンズとタッグを組んだ『スペース☆ダンディ』も日本では人気に火が付きませんでしたが、海外では人気だったとも言われています。
そして今回の『キャロル&チューズデイ』もグローバルスタンダードで作られた作品のように思えます。
先ほどまで何度か述べてきたようにスタッフ・キャスト陣も、国内に向けた修行主義というよりも、もっと広い市場を見据えている印象を与えます。
それでいて本作のメインキャラクターの2人の設定は白人と黒人を意識しているように見受けられます。
キャロル
- 出身地:地球(難民として火星にやって来た)
- 好きな音楽ジャンル:R&B、フォーク、ジャズなど
- 影響を受けたミュージシャン:ビヨンセ、アデル、アレサ・フランクリン
R&Bやジャズは黒人カルチャー発祥の音楽ですし、彼女が影響を受けたミュージシャンとして挙げているシンガーは黒人アーティストが多く含まれています。
また、難民として火星にやって来たという設定も近年の世界情勢の流れを感じさせるものです。
チューズデイ
- 出身地:火星・ハーシェルシティ
- 好きな音楽ジャンル:フォーク、ポップ、クラシックなど
- 影響を受けたミュージシャン:シンディ・ローパー、スティーヴィー・ニックス、エド・シーラン
チューズデイに関しては、白人カルチャーに裏打ちされた設定となっていますよね。
近年のアメリカ映画では、こういった人種問題・移民難民問題が主題として扱われることが多いのですが、日本ではまだまだこの問題はどこか他所事で、フィクションに反映されている例もほとんどありません。
その点で『キャロル&チューズデイ』が日本の作品でありながら、グローバルスタンダードで製作されていることがこういったキャラクターの設定からも伺えます。
キャロルとチューズデイがタッグを組み、音楽を奏でるというプロットは人種的な観点からみても、非常に意義深いものなのです。
他にも第4話では、レズビアンの女性が描かれていました。
我々の生きる現代では、彼女たちのような存在は、マイノリティとして扱われる傾向が強いですが、『キャロル&チューズデイ』の世界では、彼女たちの存在が当たり前のように受け入れられているようでした。
AIと人間
©ボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会
今作においてAIという存在が中心的な役割を果たしていくことは自明でしょう。
そして第4話にはまさしく『スペースダンディ』のQTに似たAIのキャラクターが登場しましたよね。
この作品は、冒頭からAIがポップカルチャーを支配している世界を意識的に描いてきたわけですが、その一方で第4話でAIの不完全さにフィーチャーしています。
私たちの世界では、AI技術が発展してきていますが、その一方でAIを全能のものであると過信するような論調があります。
しかし、適切な知見を持っていれば、それが明らかに不安をあおる扇動的な意見であることは分かります。
だからこそ第4話に出てくるAI詐欺師というのは、間違った情報を鵜呑みにしている人間、つまりAIが万能であるという扇動的な意見に耳を傾けている人たちは、今回描かれたような形で「詐欺」に遭うということを暗に仄めかしているんですよ。
AIについて間違った認識を持っているからこそ、自分がなんでもできるAIだと言い張るロボットに耳を貸してしまい、信用してしまうのです。
これからの社会において重要なのは、AIにとって代わられない仕事を模索することと併せて、AIを使える側の人間になることです。
そのためには、何よりもAIに何ができて、何ができないのかという知見を持っておく必要性があります。
AIが発達した未来の火星という設定で展開される『キャロル&チューズデイ』の世界観の中で、「AI詐欺師」という存在にフォーカスしたのは、非常に興味深いものだったように思います。
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おわりに
いかがだったでしょうか。
今回はアニメ『キャロル&チューズデイ』についてお話してきました。
このタイプの本格音楽アニメってなかなか出てこなくて、これを20周年企画として打ち出したボンズの気概にはしびれますね。
声優をアイドル化して、ライブやCD展開するところまでをビジネスとして見込んで作り出されるアイドルアニメ、音楽アニメとは明らかに一線を画した本気の姿勢にただただ感激しています。
今後とも目が離せない1作になりそうです。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。