(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』
新年度を迎えた北氏高校吹奏楽部には、新入生が入部してくることとなる。
あすかたちの世代が抜け、かなり人数も減り、層も薄くなってしまった吹奏楽部は新入部員の獲得に力を入れる。
そして、全国大会出場の実績や滝先生の効果などもあり、何とか各楽器1人以上の新入部員を獲得することに成功した。
しかし、そんな新入部員たちは一癖も二癖もあり、そんな中で久美子は新1年生の指導係を任されることとなった。
低音パートに入ってきたのは、4人。
- 久石奏:久美子の直属の後輩で、ユーフォニアム経験者。素直な後輩に見えて、どこかで一歩引いて傍観するような素振りを見せ、自分の本音を出そうとしない。
- 鈴木さつき:葉月と同じ東中学出身で、チューバの経験者。しかし、チューバの技術はそれほど高いわけではない。それでも愛嬌があり、練習熱心なためみんなに愛されるキャラクター。
- 鈴木美鈴:中学は別々だったもののさつきの幼馴染。チューバ経験者で、かなりの腕前。人と関係を築くことに難を感じているようで、さつきや葉月との距離感を掴めず、悩んでいる。
- 月永求:龍聖学園出身でコントラバス経験者。コントラバスなんて誰が引いても同じだと思っていたが、緑輝の演奏を聴き、考えが変わり、練習に精を出すようになる。
久美子は自分の練習と共に、彼らの対応にも追われることとなり、忙しい日々を送ることとなる。
またそんな時、幼馴染の秀一から好意があることを告げられて・・・。
自分は何がしたいのか?これからどうなっていくのか?
久美子という1人の少女の視点から、激動の北宇治高校吹奏楽部の半年間を描いた劇場版となります。
スタッフ・キャスト
- 監督:石原立也
- 原作:武田綾乃
- 脚本:花田十輝
- 美術監督:篠原睦雄
- 色彩設計:竹田明代
- 撮影監督:高尾一也
- 音響監督:鶴岡陽太
- 音楽:松田彬人
まず、今回の『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』の原作は武田綾乃さんの『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』です。
後程、詳しくお話していきますが、映画を見た後に絶対に読んでほしい内容となっています。ぜひぜひお手に取ってみてください。
監督を務めるのは、テレビシリーズ・劇場版ともにこの作品を支えてきた石原立也さんですね。
このアニメシリーズがここまで長く続くコンテンツになったのも、彼の貢献あってのものなので、やはり欠かせません。
脚本を担当したのは、京都アニメーション作品を含め、数多くのアニメ脚本を手掛けてきた花田十輝さんですね。
何はともあれ、花田さんもこのシリーズには欠かせない脚本家ですね。
その他にも『響け!ユーフォニアム』シリーズを支えてきたスタッフが集結し、まさに本気の劇場版となっています。
- 黒沢ともよ:黄前久美子
- 朝井彩加:加藤葉月
- 豊田萌絵:川島緑輝
- 安済知佳:高坂麗奈
- 雨宮天:久石奏
- 七瀬彩夏:鈴木美玲
- 久野美咲:鈴木さつき
- 土屋神葉:月永求
お馴染みのキャスト陣はそのままに今回は新入部員ということで低音パートにも新しいキャラクターが登場します。
まずユーフォニアムの1年生である久石奏を演じるのが、雨宮天さんですね。
ポーカーフェイスで本音をあまり見せず、常に上手く立ち回ろうとしていますが、時に感情を爆発させるという、クールだけれども内に熱いものを秘めた少女という演技を巧くできていたように思います。
またテレビアニメ『サクラクエスト』で主演に抜擢されるなどした七瀬彩夏さんが鈴木美玲を演じています。
不器用で、うまく立ち回れない自分自身を嫌悪してしまうナイーブなキャラクターをその声色で微細に表現できていて、すごく惹きつけられました。
鈴木さつきを演じたのは、久野美咲さんで、彼女自身の愛嬌の良さがそのままキャラクターに反映されていたような印象を受けます。
昨年『ボールルームへようこそ』にて主演に抜擢され、注目を集めた土屋神葉さんも月永求役として参加しています。
新入生のキャラクターたちは全員に見せ場があり、非常に個性的に描かれているので、必見となっております。
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『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』感想・解説(ネタバレあり)
これはあくまでも久美子視点の物語
『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』は前編後編と分かれており、文庫本で合計800ページ弱にもなる大作です。
そして京都アニメーションは、この原作を2つの劇場版として分割して公開することを発表しました。
- 『リズと青い鳥』→希美とみぞれに焦点化した物語
- 『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』→久美子に焦点化した物語
ですので、『リズと青い鳥』が希美とみぞれ以外の人物の描写の大半を描くことなく、ひたすらに2人の物語にスポットを当てたように、今作でも久美子の視点の及ばない場所に物語が言及されることはありません。
実は、今回の映画版がそういう趣旨で作られたものであることは、ファーストシーンで明示されています。
『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』の最初のシーンは、久美子が秀一に告白され、彼女の瞳から光が漏れ出し、そこにカメラがクローズアップしていくというものになっています。
これは本作の視点(カメラ)が、久美子の眼(視点)を主軸にした物語を収めていくというある種の意思表示なんですね。
久美子というキャラクターは当初から吹奏楽部の様々な事件に関与しては、どちらかというと一歩引いた立場で関与してきた人物でした。
そういう気質が、中学最後の吹奏楽のコンクールで負けた時に泣くことができなかったという経験にもつながっていたように思います。
しかし、トランペットのオーディションの時の麗奈に拍手を送った時であったり、親の反対で部活に出られなくなったあすかに本音をぶつけるシーンであったりと、徐々にその人間性が変化しているような印象を受けました。
そんな中で彼女は、かつての自分のような立ち回りをしている奏という新入部員に直面することとなります。
映画版では、かなり尺がカットされてしまって少し描写が減ってはいるんですが、1年生の中で起きた様々な問題に顔を覗かせては消極的に関与するという姿勢を一貫している人物でもあります。
そんなかつての自分を投影したような立ち回りをする彼女に如何にしてぶつかり、そして彼女の本当の想いを引き出すことができるのか?という点が『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』の1つのメインパートとなっています。
そういう視点で見た時に、本作は、久美子というキャラクターがいかに吹奏楽部内の問題に多く対処しているのかということがダイレクトに伝わってきます。
それに加えて、秀一から寄せられる好意であったり、自分の将来のことであったりと、考えなければならないことが山積みで、それを久美子が1人で背負っているという事実にも驚かされます。
吹奏楽部は1つのチームであり、『響け!ユーフォニアム』シリーズはとりわけチームとしての成長に重きを置いてきた作品でした。
その中で、今回の劇場版のような吹奏楽部の物語を久美子1人の視点で見える範囲の事象だけで構成していくという試みそのものは非常に面白いと思いました。
ただこの構成が許されるのは総集編だ
ただ当ブログ管理人としては、今回の『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』の構成がどうしても受け入れられないんですよ。
基本的に私は『リズと青い鳥』を見た時も同じことを思っていたんですが、『響け!ユーフォニアム』シリーズに「焦点化」というアプローチがあんまり適していないと思うんです。
まだ、『リズと青い鳥』に関しては、希美とみぞれにかなりフォーカスしていたので、吹奏楽部の物語であるという側面が弱まっていて、作中でコンクールを描くこともありませんでした。
しかし、『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』に関しては、あくまでも吹奏楽部の半年の物語を描いているのであって、最後にはその集大成としての関西大会での演奏シーンがあります。
そしてラストの演奏シーンでは当然、北宇治高校吹奏楽部全員にスポットが当たっていました。
つまり何が言いたいのかというと、吹奏楽部という大きな物語を描かない映画が、ラストシーンに全員にスポットを当てるコンクールのシーンを持ってくるのはダメじゃないか?ということです。
今作が久美子の視点に基づく映画であるというのであれば、それで構いませんし、コンクールのシーンもそういう演出を施して構成すれば良かったと思います。
ただ、『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』は、これまでのテレビシリーズ同様のアプローチでラストの演奏シーンを演出していましたよね。
このアプローチを取るのは、あくまでも『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』で描かれた彼らの物語の全容をきちんと描いてからだと思います。
登場人物の掘り下げをほとんどしないままあのラストの演奏を見せられたところで、あまりにも唐突すぎて正直に申し上げてカタルシスに乏しいと言わざるを得ません。
原作には、今回の京都アニメーションによる新作劇場版2作品で拾い切れていないエピソードがたくさんあります。
- 緑輝と求の関係性
- チームもなかと加部先輩
- 吉川優子の物語
- 久美子と姉の物語
- トランペットの1年生夢の物語
- 加部先輩と優子の物語
- 関西大会のその後
久美子視点で作りましたという映画に、こういう意見を言うのも野暮かもしれませんが、部長の優子にほとんど言及されない吹奏楽部の物語ってどうなんでしょうか?
部長の吉川優子の物語って実はこの『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』における1つのメインパートなんですよ。
偉大な3年生が卒業した後、彼らが残した全国大会出場という重責を一身に背負って、そこに近づこう、超えようとひたむきに部長として努力する姿が描かれ、関西大会後に彼女に提示される「救い」にも言及されています。
そういうとんでもなく大きな葛藤を背負って戦っていた吹奏楽部の旗手の物語に触れることなく、彼女の世代の吹奏楽部としての物語を完結させてしまうという構成にいささかの横暴を感じてしまいました。
当ブログ管理人としては、やっぱりどうしてもテレビシリーズとして放送してほしかったですし、それありきで総集編としてこの映画を製作したのであれば、高く評価できたと思います。
1つの映画としては、この上なく難が多い作品だと思いますし、私は『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』の映像化作品がこれと『リズと青い鳥』だけで終わるのであれば、納得がいきません。
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結果が出たからこそ評価される「過程」
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今回の『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』における1つの大きな主題が「結果が出たからこそ『過程』が評価される」という非常に難しい問いかけでした。
1年生の麗奈が、3年生の香織からトランペットのソロ奏者の座を奪ったときに、少なくとも部内には不協和音があったわけですが、それが表面化しなかったのは、確かに北宇治が全国に行けたからという側面はあるでしょう。
それに対して、今作に登場する奏は中学時代に自分が上級生を差し置いてメンバーに選ばれながらも、コンクールで結果を残せず、その「過程」まで否定されてしまうという悲しい経験を背負っています。
そんなコントラストがこの物語の1つのキーになっていて、久美子が奏の中にかつての自分を見ながら、その問いに答えを出していくというのがこの映画の大きな流れです。
だからこそコンクールのオーディションで奏が手を抜いたことで夏紀が激怒した後の、久美子の対応のシーンは原作とは全く異なるものになっています。
- 雨の中を久美子が走って追いかける演出
- 久美子が自分の過去に言及しながら「頑張っても報われないことなんていっぱいある」と告げる場面
1つ目の方に関しては、まあ映画として見栄えがするというのと、久美子の物語であるという側面を際立たせるためのものだと思いますが、2つ目は非常に興味深いです。
つまり今回の映画版は、原作以上に奏という存在に久美子の過去を投影しているように見受けられるんですね。
そして「頑張ること」を知らなかった、「頑張ること」に意味を見出せなかった過去の自分に奏を重ねて、今の久美子は「頑張っても報われないことはあるけど、それは絶対無駄じゃない。」と告げたんです。
加えて、これは原作にもありますが、奏に「奏ちゃんは、頑張ってるよ。」と告げました。
この原作からの改編もあったからこそ、本作のラストシーンはコンクールを終えた奏が悔し泣きをするというシーンになったんでしょうね。
確かにコンクールという評価制度は残酷で、みぞれも言っていたように結果が出ないとすべてを否定されたように感じられるものです。
しかし、それに向けて「頑張って」きた人間にしか得られないもの、感じられないことがあり、そして「結果」が出なくとも、そこで流した悔し涙もまた「過程」を経た人間にしか流せないものなのです。
だからこそ本作が打ち出したアンサーは奏が流す本心からの涙だったんです。
なぜ、その悔し涙に我々は希望を見ることができるのか、それが無駄じゃないと信じることができるのか?
それは我々が、これまでの久美子の物語を知っているからに他ならないでしょう。
このテーマ性の下で、うまく物語を再構成していましたし、葉月と2人の鈴木の関係もこのテーマに寄与する形で描けていました。
私が原作の『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』の中で、一番感動したというか、涙が止まらなくなったシーンが後編の終盤にあります。
個人的には、原作の「結果が出たからこそ評価される『過程』」に対する答えは、その場面にこそ宿っていたような印象を受けていたので、映画版でそこに触れられなかったことが少し悲しいです。
ということで、映画版を見た方はぜひぜひ原作の方も読んでみてください!!
人間関係を視線のマジックで描く
これは私が原作を読んでいて、登場人物の人間関係と心理状態を粗方把握したうえで映画版を見たので、1度目の鑑賞でかなりその多くに気づけたという側面はあります。
本作はとにかく登場人物が多く、その関係性をいちいち時間を割いて描くことができない都合上、「視線」にすごく含みを持たせた演出を施しています。
- 美玲が吹奏楽部の目標決めの際に手を挙げる時のためらいと周囲へ投げかけた視線
- 奏が『リズと青い鳥』の難易度が高いことを気にする夏紀へ投げかけた視線
- 奏が自分に教えを乞うてくる夏紀に向ける視線
よくよく見てみると、すごく示唆的に演出されていて、すごく物語の展開にも重要な意味を孕んでいることが分かります。
もし1回目に見た時に見逃してしまったという方は、ぜひぜひ2回目を鑑賞する際に登場人物の視線とそしてどんな眼でその人物を見ているかというところに注目してみてください。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』についてお話してきました。
正直かなり原作に思い入れが強かったということもあり、テレビシリーズで見たかったというのが正直な感想です。
それは間違いありません。映画としてのアプローチを否定しようとは思いません。
ただ、これを作るのであれば、あくまでも『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を一度テレビシリーズできちんと描いてからじゃないかな?と思ってしまいました。
今後このアニメシリーズがどのように展開していくのかはわかりません。
ただ原作は、続編が発売されたので、これも映像化されていくという可能性はあるように思います。
今後の『響け!ユーフォニアム』シリーズからもまだまだ目が離せないですね。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。
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今映画を見て、ブログを読ませていただきました。
いつも(と言っても自分はアニメ映画しか見ないのですが)分かりやすくなるほどと思いながら読んでいます。
視線の点の着目など見てる時には気づきましたが、改めてブログで読んで思い出せてより話を理解できました。
くみことあすか先輩が口論した場所で奏と口論になったシーンも、同じ場所だな〜とニヤニヤしながらみれました。
ぜひ本を買って続きを読みます!
長々と感想をすみません、またブログ楽しみにしています
白さんコメントありがとうございます!
> くみことあすか先輩が口論した場所で奏と口論になったシーンも、同じ場所だな〜とニヤニヤしながらみれました。< そうなんですよ!ここも明日香とのイメージが被るように作られてますよね。 ぜひぜひ原作も^ ^
こんにちわ
原作小説はあまり知らないのですがほとんど同じ感覚で見ていました
エピソード1つ1つの熱量は高いのだけれどそれがラストにつながっているのかとか、サンフェスのカットは立華である必要があったのかとか
次年への希望や決意のようなものも提示されないまま久美子部長姿を見せられた感があります
一言でいうと「誓いのフィナーレ」って何だったのだろう?副題が本当にこの作品なのか?という疑念すら(笑)
あと個人的には不思議なほどに楽曲が頭に残らないんです
リズは死ぬほど聴いた曲なので別ですが、サンフェスとか鼻歌で出てこない程度に。
コンクールは単体できくと素晴らしかったですね!
心なしか合わせる映像に苦心していたようにもみえます
長文駄文失礼しました
Blueさんコメントありがとうございます!
確かにコンクール単体では素晴らしかったですよね〜。
仰るとおりでかなり原作のパッチワークをしてしまってあるために、ラストに至るまでの積み上げが弱いんですよ…。
テレビシリーズで見たかったなぁ〜とは思ってしまう内容でした。