みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』についてお話していこうと思います。
本記事は前編の記事です。
後編の記事は以下のリンクからどうぞ!
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』
あらすじ
あの子のユーフォニアム
- 部長:黄前久美子
- 副部長:塚本秀一
- ドラムメジャー:高坂麗奈
上記の3人が幹部となり、北宇治高校吹奏楽部の新体制がスタートした。
そんな矢先に福岡の吹奏楽部の強豪校である清良女子高校から黒江真由が転校してくる。
彼女と久美子、緑輝、葉月は同じクラスになり、3人は吹奏楽の経験者だという真由を部に勧誘する。
そして新入生勧誘が始まり、吹奏楽部にも新しい1年生が31人入部することとなる。
低音パートには以下の3人が加入することとなった。
- 針谷佳穂:ユーフォニアム(初心者)
- 上石弥生:チューバ(初心者)
- 釜屋すずめ:チューバ(初心者)ちなみに3年生のつばめの妹でもある。
その一方で、クラリネットパートには義井沙里という技術の高い新入生が加入し、一気に層が厚くなる。
そして新入生も加入しての最初の練習の日、真由がマイユーフォニアムを持って、吹奏楽部に現れたのだった・・・。
秘密とフェスティバル
滝先生から幹部の3人にコンクールの自由曲と課題曲の候補が提示される。
その中の楽曲を聴き比べ、最終的には幹部3人の投票で決定することとなった。
その結果、自由曲・課題曲はそれぞれ以下のようになった。
- 課題曲:キャット・スキップ
- 自由曲:一年の詩~吹奏楽のための
特に、自由曲に選出された『一年の詩~吹奏楽のための』はかなり難易度が高く、今年はサンフェスの練習中から並行して課題曲の練習をスタートさせることとなった。
サンフェスの練習にもドラムメジャーである麗奈から、経験者、初心者関係なく厳しい指摘が飛び、泣き出す子も出てきた。
そんなある日、久美子は1年生のすずめから、1年生の間に「集団退部」と「ボイコット」が起こる可能性があると告げられる。
その原因は麗奈の厳しい叱責によるものだと言われ、悩む久美子。
しかし、確かにサンフェスの本番の日が迫りつつあった・・・。
戸惑いオーディション
サンフェスが終わり、いよいよコンクールに向けたオーディションが迫りつつあった。
久美子たち幹部は今年のオーディションについて話し合い、緊張感を切らさないために、そして常にベストなメンバーがコンクールに出られるように大会ごとにオーディションを行う方針を固める。
コンクールに向けて、各自練習に励む日々が始まった。
低音パートではチューバ担当の1年生釜屋すずめが、テニス部時代に培った肺活量を武器にメキメキと実力を伸ばしていた。
一方で、久美子は自分の将来について、部内で起こる様々な問題について、そして真由という強力すぎるライバルの出現によって思い悩む日々が続いていた。
しかし、コンクールの自由曲に選ばれた『一年の詩~吹奏楽のための』には、第3楽章にてトランペットとユーフォニアムの「ソリ」(ソロの掛け合い)があるということで練習にも気合が入る。
そしていよいよやって来るオーディションの日。
その時はまだ、オーディションの結果が部内に不穏な空気をもたらすことを知る由もなかった・・・。
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『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』感想・解説
滝先生という「神」を脱構築する
これはいずれ『響け!ユーフォニアム』シリーズが通る道になるとは思っていたんですが、やはりこのタイミングで描きますよね。
先日公開された『響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』のレビューを読んでいると、「滝先生の影が薄すぎる」「これじゃ普通の顧問の先生じゃん」という意見がちらほらと見られました。
確かに私も『響け!ユーフォニアム:北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』を読んだときに、同じ感想を抱いたのを忘れもしません。
ただ今回こういう展開にしようと考えていたからこそ、武田綾乃先生は敢えて滝先生の「特別感」を排除してきたのだとわかります。
今作の終盤にオーディションを終えた美玲が久美子にこんな言葉を告げています。
先輩たち・・・いまの三年生にとって、滝先生って神域なんだと思います。弱小校を強豪校に導いたカリスマだし、先輩たちは部が強豪校に変貌していくところを目の当たりにしている。でも一年生、二年生にとって、北宇治は入部した時点で強豪校なんです。私たちは北宇治が弱小だったころを知らない、滝先生は素晴らしい顧問だと思っていますが、でもきっと、三年生ほど滝先生を絶対視することはできない。」
(『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』331ページより引用)
優子たちが3年生だった時って、まだ2年生と3年生が滝先生が自分たちを強豪へと変えていってくれたことを目の当たりにしていて、そういう人たちが部のマジョリティだったために「空気」の主導権を握っていたんです。
しかし、久美子が3年生になった今、それを知るのは3年生だけとなり、大多数の1年生と2年生が滝先生を特別な存在とは捉えていないために、当然の如く、その「評価」に隔たりが生まれてくることとなります。
滝先生を神域のように捉える部員がマイノリティの立場に立たされ、強豪校としての北宇治に入部した部員が増えたことで部内のバランスが明らかに崩れようとしています。
というのも『響け!ユーフォニアム』シリーズって常に「結果」と「過程」の関係について問うてきた作品ですし、実力至上主義的な側面を持ちながらも、コンクールというものの在り方についても考えさせる内容になっていました。
しかし、そんな作品が唯一、侵してこなかった聖域があって、それが滝先生が部員にオーディションという形で下す「評価」だったのです。
彼の評価は絶対であるという考えが当たり前のように受け入れられてきたこれまでがありつつ、今回は彼の評価に疑念を投げかけ、神話を脱構築していくというところに1つの大きな物語があります。
オーディションを各コンクール毎に行う方針にしたこともありますし、おそらく関西大会のオーディションで久美子はソリストを真由に奪われてしまうのではないかと考えております。
また、2年生のさつきからAパートの座を奪った釜屋すずめの評価も割れていて、今後彼のつける評価に対する疑念が大きな波乱を生むことは間違いないでしょう。
集団と個人
そして今回の『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』の大きな視点として、集団と個人というものがあります。
個人の力はとても小さいものですが、一たび集団が空気や流れを作り始めると、その向きを変えることは容易ではありません。
もちろん様々な問題が起こったが、優子先輩の代では、確かに部内で個人が切磋琢磨し、自分の意志で考えて行動しようという気風があった。
上手くなるために自分が何をできるのか、部の雰囲気をよくするために何をできるのかを1人1人が考えて行動していた。
確かに久美子が部活動の新体制のスタートに当たって、今年の目標を聞いた時には全員が真っ直ぐに「全国大会金賞」を目標することに同意の挙手をした。
しかし、今作の終盤で新体制の北宇治高校吹奏楽部に立ち込めていた空気の正体が明らかになります。
「今年は最初から去年とは空気が違っていて、ずっと競争を煽られている感じがします。自分の意思で動いているというより・・・何というか駆けっこをしているときにライオンに追われている、みたいな。危機感に脅されている気持ちになることが多いような気がして。」
(『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』331-332ページより引用)
麗奈は競争がないと成長につながらないと主張し、初心者にも厳しく指導を入れますし、下級生はそれを見ると、何とかしてついていくしかなくなります。
吹奏楽部が究極思い描かなくてはいけないのは、その演奏を聴いてくれる人の顔です。それとやはり曲のイメージに没入し、自らの音楽でそれを形にしていくことでしょう。
それを集団で実現するのが、吹奏楽部であり、それを可能にするのは、全員がイメージを共有した上で、そのために1人1人がきちんと自分のできることを考えることです。
しかし、新体制になった北宇治高校吹奏楽部は確かに全員が同じ方向を向くことができていますが、それを実現しているのは個人の主体性ではありません。
部内の競争意識や恐怖といった感情が、部内に「空気」を作り出し、その「空気」に今は部員の大多数が賛同している状態なのです。
確かにその状態が最後まで続くのであれば、それでも構わないのかもしれません。
しかし、部員の大多数が主体的に考えず、部内の雰囲気に受動的に流されている今の状況は、言い換えれば流れが変われば一瞬にして部活が崩壊してしまうということでもあります。
そう考えた時に、思い出されるのがあすかたちが1年生、2年生だった頃に経験した北宇治高校吹奏楽部の「空気」でしょう。
その時は大多数が真面目に部活に取り組むのはバカみたいだという「空気」に流されており、その流れに逆らおうとするものが排除されるという状態に陥っていました。
ただそういう空気を換えていこうという気風が現れ始めると、あっという間に北宇治高校吹奏楽部は強豪校への道をひた進むことになりました。
つまり集団が「空気」というものの力というのは非常に強大で、それが集団を動かしていくことにもなるわけです。
全員が主体的に考え、行動し、そうすることを求める「空気」が出来ているのであれば、喜ばしいことですが、現状北宇治高校吹奏楽部に蔓延しているのは、久美子や麗奈といった幹部たちや一部の部員が作り出している競争的な「空気」です。
それ故に、どうしても脆いんです。
先ほど挙げた滝先生への評価への疑問もそうですが、これが個人レベルから集団レベルの「空気」へと昇華した場合には部の方向は一気にネガティブに傾くはずですし、これまで受動的に享受していた競争意識も間違いなく弱まります。
そういった非常に危険な状態にある北宇治高校吹奏楽部のリアルを今作は淡々と描写しています。
部長の久美子ですらもオーディションの際に、自分がソロの座を射止めることで部内に平穏をもたらすなんて焦燥感にばかり駆られていて、演奏に集中できていない様子が見られました。
「空気」を作り出す側にいた久美子でさえも、その「空気」に飲まれている様が如実に表現されていますよね。
その一方で、集団のために犠牲になる個人という主題も今作では描かれています。
釜屋すずめが初心者ながら、いきなりAチームに選ばれたわけですが、その際に入れ替わりで落選することとなったのは、2年生のさつきでした。
これについて滝先生は技量的にはさつきのほうが上だが、北宇治高校吹奏楽部の今の現状と選曲の兼ね合いで、集団のバランスを意識して釜屋すずめをメンバーに選んだというのです。
つまり個人の実力主義ですと言っていたはずのテストで、個人の実力以外の部分で評価されるという事実がそこにはあったわけです。
集団に流される個人。集団の犠牲になる個人。
吹奏楽部という集団で1つの目標を目指す競技だからこそ避けられない重要な主題に『響け!ユーフォニアム』シリーズが切り込もうとしています。
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久美子が背負う重荷
武田綾乃先生は一体、久美子にどれだけの重荷を背負わせるんだ・・・というくらいに今作の久美子描写はかなりきついものがあります。
『響け!ユーフォニアム』シリーズの主人公はやっぱりこの子だなと改めて感じさせられる内容でもありましたね。
真由の登場で、自分がユーフォニアムのソロを担当できるかどうかに暗雲が立ち込めるも、部長として負けられないという思いもあり、かなり苦しんでいる印象がありました。
これは当ブログ管理人自身も高校時代に部活動のキャプテンを務めていて、全く同じ経験をしたので、すごく気持ちが分かってしまい、読んでいて憂鬱な気持ちになりました。
さて、『響け!ユーフォニアム』シリーズにおいてコンクールの自由曲は非常に重要な意味を持っています。
「リズと青い鳥」はまさしく希美とみぞれの関係性を表現した楽曲になっていました。
その一方で、今年の『一年の詩~吹奏楽のための』には、ユーフォニアムとトランペットによるソリパートがあります。
つまり、本作を象徴するキャラクターでもあり続けてきた久美子と麗奈によるソロの掛け合いということですね。
では、ここから推測される後編の物語はというと・・・・。
久美子が関西大会で真由にソロの座を奪われる。
そして部長の久美子がソロの座を奪われることで部内のバランスが崩壊していくことも間違いないでしょう。
その後の全国大会でソロの座を取り戻して全国の舞台で麗奈とソリパートを披露するというフィナーレが待ち受けていることも想定されますが、何はともあれ、真由の存在は大きな試練になることでしょう。
また、もう1つ不穏なのが、今作のエピローグに掲載されていた麗奈と秀一の関係性です。
現在久美子は、部活動を引退するまで「恋人関係」になるのは待って欲しいと保留してある状態ですよね?
しかし、秀一の気が他の女子に移らないと信じ切ってしまうのは、実は危ういのかもしれません。
麗奈が秀一に好意を寄せるようになるということは少なくとも考えにくいですが、もしかすると秀一の好意のベクトルが麗奈に向くという可能性があるのかもしれませんよ・・・。
そうなった時に、麗奈と久美子の関係がどうなるのか?というのもかなり恐ろしいものがあります。
さすがにこの展開は秀一の株が下がりすぎてしまうので、「ないかな?」とも思うんですが、『響け!ユーフォニアム:北宇治高校吹奏楽部、波乱の第二楽章』でもエピローグの内容は後編にかなり重要な意味を持っていたんですよ。
ですので、わざわざエピローグで、麗奈と秀一が夜、偶然出会い、一緒に帰るシーンを描くというのには重大な理由があるはずです。
重要なのは、麗奈と秀一が2つの分かれ道を別々の方向に歩いていくという幕切れだと思いました。
個人的に思ったのは、後編で麗奈はどちらかと言うと久美子の肩を持ち、一方で秀一が真由に優しくして、苦しむ久美子から反感を買うという流れです。
また、彼女は自分の将来が決まらずに、悩み続けている状態でもあります。
一体どれだけのものを久美子は背負い込んでいるのでしょうか・・・。
久美子って1年生の時からそうですが、吹奏楽部に起こる様々な問題に顔を出しては、それを快方へと導くという稀有な役割を果たしていました。
彼女は高校での部活動を通じて、常に部員の懐に入っていって問題を解決していくという姿勢を身に着けました。
しかし、そんな彼女の何事も諦めない、すべてを自分で処理してしまおうとする姿勢が、かえって自分の首を絞めているのが今の状態です。
だからこそこれは数多ある問題の全てを一手に引き受けようとする久美子に「諦め」を求める物語なのかもしれません。
彼女に進路が見えてこないのも、彼女が吹奏楽部内で何でも引き受けてしまい、実際のところ自分が本当にやるべきこと、為すべきことが見えなくなってきていることに起因しているような気がします。
後編で、とんでもない試練を彼女は課されることになると思いますが、どう乗り越えていくのか・・・。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は『響け!ユーフォニアム 決意の最終楽章』についてお話してきました。
とにかく、読む方はきちんと心の準備をしてから読み進めてくださいね。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。
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プロローグ部分は滝先生と見せかけて将来の久美子でしょうね。
あ さんコメントありがとうございます!
うわ!今読み直してみましたが、言われてみると、そうとも読めますね!
鋭いご指摘だと思います。