(C)2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会
目次
はじめに
みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』についてお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』
あらすじ
ダー子たちは、次なるターゲットを探しており、たまたまテレビでニュースになっていた香港の高利貸しラン・リウに目をつける。
その頃、過去にダー子たちに騙されたことのある赤星が彼女たちを捕らえて、奪われた金とプライドを取り返さんとしていた。
ランに目をつけて、香港へと渡ったダー子たちは早速作戦を始めるが、ランの側近の中に天才詐欺師ジェシーが紛れ込んでいた。
何と彼もまた、ランに目をつけ数百億円の価値があるとも言われるジュエリーを手に入れようと目論んでいたのだった。
しかし、ダー子とジェシーには過去に恋人関係だった、というよりダー子はジェシーに「恋愛詐欺」に引っ掛けられた過去があり、複雑な感情を抱いていた。
彼女たちは無事に「信用詐欺」を成功させることができるのか?
スタッフ・キャスト
- 監督:田中亮
- 脚本:古沢良太
- 撮影:板倉陽子
- 照明:緑川雅範
- 録音:高須賀健吾
- 編集:河村信二
まず、今作の監督を務めるのがドラマ「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」シリーズでも演出を担当していた田中亮さんです。
医療ドラマの演出に長けているとドラマファンの間では知られていて、そのためか『コンフィデンスマンJP』のテレビドラマシリーズにも病院が絡む回がありましたね。
そして脚本を担当したのが、日本のドラマ界をけん引する存在でもある古沢良太さんですよね。
『鈴木先生』や『リーガルハイ』、『デート〜恋とはどんなものかしら〜』といった社会派なテーマを内包しつつも、コメディ演出が傑出した独特のドラマ作品を多く世に送り出してきた脚本家です。
撮影を担当したのは、板倉陽子さんですね。
『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』や『パーフェクトワールド』などのラブストーリーを多く手掛けてきた撮影監督で、今回はロマンス編ということなので適役やもしれません。
また、編集にはこれまでの古沢脚本作品にも参加し、今年公開で大きな話題になった『翔んで埼玉』にも参加した河村信二さんが参加しています。
- 長澤まさみ:ダー子
- 東出昌大:ボクちゃん
- 小手伸也:五十嵐
- 小日向文世:リチャード
- 竹内結子:ラン・リウ
- 三浦春馬:ジェシー
『リーガルハイ』の堺雅人×新垣結衣コンビ、『デート〜恋とはどんなものかしら〜』の杏×長谷川博己コンビもそうですが、古沢作品はとにかくメインキャストのハマりっぷりが素晴らしいです。
そして『コンフィデンスマンJP』シリーズの長澤まさみさん、東出昌大さん、小日向文世さんのトリオも本当にバランスが良いんですよ。
そして映画版の新キャストとして竹内結子さんと三浦春馬さんがキャスティングされています。
個人的に注目しているのが、三浦春馬さんで、彼はこれまで演じてきた役も基本的には好青年が多いんですが、それでいて『SUNNY 強い気持ち強い愛』のレトロなイケメン役であったり、『銀魂2』の鴨太郎もこなしていまして、非常に演技の幅が広い俳優だと思います。
そんな彼が今回は詐欺師役ということで、どんな一面を見せてくれるのか非常に楽しみです。
そして実はテレビシリーズの「お魚さん」たちがなんと映画版で豪華共演ということになっております。
- 江口洋介:赤星栄介 → 第1話「ゴッドファーザー編」
- 吉瀬美智子:桜田しず子 → 第2話「リゾート王編」
- 石黒賢:城ヶ崎善三 → 第3話「美術商編」
- 岡田義徳:キンタ&桜井ユキ:ギンコ → 第7話「家族編」
- 小池徹平:桂公彦 → 第9話「スポーツ編」
- 佐藤隆太:鉢巻秀男 → 第10話「コンフィデンスマン編」
より詳しい作品情報を知りたい方は映画公式サイトへどうぞ!!
スポンサードリンク
映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』感想・解説
テレビシリーズを時系列を整理しながらあらすじをおさらい
ドラマ『コンフィデンスマンJP』シリーズは、2018年に放送され、大きな話題になりましたが、当時様々な論争を呼んだのが、各話の時系列です。
これを整理しながらざっくりとドラマシリーズのあらすじを振り返っていけたらと思います。
①第10話『コンフィデンスマン』編
最終回が時系列的に見ると、1番最初に来るという遊び心が何とも古沢さんらしいなと思った次第ではあります。
この回では、佐藤隆太演じる鉢巻秀男という男が父親を騙した「子犬」というコードネームのコンフィデンスマンを探してダー子たちのいるホテルのスイートルームに乗り込んできます。
鉢巻に捕らえられて絶体絶命の3人でしたが、まさかのトリックで起死回生の大逆転という何とも痛快なストーリーでした。
- バトラーが鉢巻の部下として登場し、終盤にダー子の部屋の執事となる。
- ラストで次のターゲットがホストクラブを経営して荒稼ぎする八代と中古車ビジネスで暗躍する石崎であることが明かされる。
- ボクちゃんが「398回目」の足を洗う発言をしている。
②第1話『ゴッドファーザー』編の序盤パート
ここで最終回でターゲットになると明かされていたホストクラブを経営して荒稼ぎする八代と中古車ビジネスで暗躍する石崎が登場し、ダー子たちの餌食になります。
- ボクちゃんが「400回目」の足を洗う発言をしている。
③第1話『ゴッドファーザー』編の中盤パート
ここで、テロップで序盤のパートから5か月が経過したことが明かされます。
リチャードが赤星に暴力的な仕打ちを受け、入院し、それを見たボクちゃんは「リベンジ」に燃え、立ち上がります。
④第1話『ゴッドファーザー』編の後半パート
テロップで3か月後と表記され、ダー子が猛勉強の末にフライトアテンダントに採用されたことが分かります。
そしていわき空港にて、赤星を騙すための決死の作戦が決行されます。
ちなみに今回の『コンフィデンスマンJP ロマンス編』にも第1話に登場した赤星が登場するということで非常に楽しみではありますよね。
- いわき空港にMIKAブランドのポスターが掲示されている。(つまり第8話より前であることが確定)
- ボクちゃんが「401回目」の足を洗う発言をしている。
⑤第2話『リゾート王』編の冒頭回想パート
ボクちゃんが401回目の「足を洗う」発言をして、ダー子の下から去った後に「旅館すずや」で働いた時のことを回想していました。
ここから2か月間勤務した後に、旅館が桜田しず子に買収されるという事件が起こります。
⑥第2話『リゾート王』編のメインパート
ボクちゃんが「旅館すずや」の女将の悲嘆に暮れる様を見て、ダー子とリチャードに助けを求めて帰って来る。
この回はカジノリゾート施設の建設予定地を巡る信用詐欺を描いていたということもあり非常に内容がタイムリーで興味深かったですね。
また、この回は後々見返してみると、細かい小ネタがたくさん散りばめられていた回でもあります。
- 無人島の民宿「八五郎の宿」に第4話で登場する俵屋フーズのうなぎのカレー煮の段ボールが映りこんでいる。
- ダー子が「縄文時代ガイドブック」という表紙の本を読んでいる。(第6話への布石?)
⑦第6話『古代遺跡』編のメインパート
この第6話あたりから水戸黄門的な懲悪物語から、悪役のパーソナリティのよりフォーカスし、「騙すこと」そのものについての問答や悪役のその後の生き方にも明確に「救い」が示されるように変化していきました。
親子の物語としてもコメディメイドながら思わず目頭が熱くなるような温かい物語に仕上がっていたように思います。
『リゾート王』編で、ダー子が「縄文時代ガイドブック」を読んでいたので、時系列的にはここに置くのが自然ではないかと思います。
⑧第7話『家族』編
この『家族』編が個人的には一番お気に入りですね。
近年、『万引き家族』や『わたしはダニエルブレイク』など血縁と家族の在り方について再考させるような映画が多く作られていますが、この回はまさにそんな主題性を孕んでいます。
死を前にした要造が、自分の家族の写真として「偽物の家族」を用意させたシーンが何とも泣けたというか、心を抉ってきました。
『コンフィデンスマンJP』が問い続けた真実と虚構のテーマが絡みつつも、自分が信じ、幸せと思えたものこそが「真実」なのだという1つの答えを見せてくれたような気もしましたね。
- 花火大会のポスターが季節が春~夏であることを仄めかしている上に協賛企業に作中に登場する企業名が含まれています。(「公益財団あかぼし」=第1話、「モスモス」=第9話、「桜田リゾート」=第2話、「斑井コンサルティング」=第6話)
桜田さんが辞任しても企業名は「桜田リゾート」から変更されていないことは第2話の1年後の描写で明らかですが、斑井さんが一線を退いた後に、「斑井コンサルティング」の名前が残るのかどうかが個人的には疑問です。
そう考えると、第6話と第7話はほとんど同じないし近い時系列で行われていると考えるのが自然かもしれません。
⑨第3話『美術商』編
金と欲望に目が眩んだ美術商が騙されて名声を失って、自分が純粋に絵を愛していたころの気持ちを思い出すというプロットはシンプルながら非常に良かったですよね。
この回で登場したダー子が描いたフェルメールの絵が大きな話題となり、フェルメール展でもコラボグッズが展開されたと聞きました。
- 須藤ユキからボクちゃんが受け取った個展の案内状の日付は11月、つまり季節は秋。
- 贋作画家の判ちゃんが俵屋フーズのうなぎのカレー煮を食べている。
- ダー子の描いたフェルメールが誰かにオークションで落札された。
『家族』編がラストに花火を見ていることからも季節的にはおそらく夏~秋頃なので、そこから繋がると考えると自然ですよね。
⑩第4話『映画マニア』編
少なくともうなぎのカレー煮を食べているシーンが登場する回よりは後で、『美のカリスマ』編よりは前になることが確実なので、入るとしたらこのあたりになるのではないかというエピソードです。
こういう映画ブログをやっている人間としては、やはりすごく楽しみながら見れましたよね。
あの「本当に好きなことに対しては、ピュアになってしまう。」っていう感触が凄く共感できました。何というか聖域のように思えてしまって軽々しく口にできない感じがリアルでした。
⑪第8話『美のカリスマ』編
ミカはまあ確かにパワハラまがいのことをして問題になってしまったわけですが、彼女の仕事に対する本気の姿勢は見習いたいものだと思いました。
また、そんな本気で美のために努力する彼女を、自堕落で痩せるための努力すらも怠った女性が小銭を手に入れて陥れたという結末も何とも皮肉が効いていて痺れました。
- この回に登場する週刊誌の見出しに「俵屋フーズのうなぎ産地偽装」について書かれています。
よって第8話が第4話よりは後の時系列になることは確定的ですね。
⑫第5話『スーパードクター』編の冒頭
第5話の冒頭でリチャードが盲腸の手術を受けるシーンがありますが、この冒頭のパートにも様々な秘密が隠されています。
- 野々宮ナンシーが第8話に登場したオカルト本を読んでいる。
- 理事長の部屋に第3話でダー子が描いたフェルメールが展示されています。
⑬第4話『映画マニア』編の終盤
第4話の終盤のシーンって、野々宮親子の一件からしばらく経過してから(2か月後)の描写になるんですが、ここに実は興味深いモチーフが散りばめられています。
- ホテルのテレビに『ドクターデンジャラス』(第5話で登場)
- 俵屋フーズのうなぎ産地の偽造問題
この描写から第5話の『スーパードクター』編がこれ以後の物語であることがうっすらと伺えますね。
⑭第5話『スーパードクター』編のメインパート
この第5話は自分の息子に医者の才能があると信じていた母親が、コンフィデンスマンと出会って、ようやくそれが自分の作り出した「虚構」でしかなかったことを悟るというシンプルなプロットです。
医療ドラマを見ながら手術に臨んだりする様子が、映画『キャッチミーイフユーキャン』を彷彿させ、非常に面白いです。
⑮第9話『スポーツ』編のメインパート
このスポーツ編は、本当に小池徹平がハマり役で、絶妙なベンチャー起業家感を醸し出しているのですが、スポーツが不得意でコンプレックスを持っているという葛藤にフォーカスしていました。
騙されてチームを買わされるんですが、それがきっかけでスポーツ愛に目覚めるという『コンフィデンスマンJP』の後半の方向性を象徴する回だったとも言えるでしょう。
⑯第8話『美のカリスマ』編の終盤
第8話のメインパートから半年後が描かれ、ミカが主婦を務めながらもその美への情熱を絶やしていない様子が伺えます。
- ミカが再び美容業界に舞い戻る可能性が示唆されている。
⑰第2話『リゾート王』編の終盤
第2話の本編から1年が経過していて、ダー子たちが桜田リゾートの傘下に入った「鈴の音」という旅館を訪れます。
ちなみにしず子も海辺のゲストハウスを経営しながら、リゾート業界に舞い戻る野心を見せているので、彼女が映画版にどういう形で絡んでくるのかにも注目が集まります。
- 「鈴の音」の温泉に置かれていた化粧品が「MINOBE」ブランドの弁天水
この化粧水のヒントから、第2話の終盤の描写が、ミカが復活した後の時系列になるであろうことが伺えますね。
⑱映画『ロマンス編』の本編
映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』の時系列はドラマシリーズ全てより後になります。
これは本編中にドラマシリーズのモチーフが勢ぞろいしていることからも明らかでしょう。
細かい小ネタについては後程一覧化しておりますので、そちらをご参照ください。
⑲番外編『運勢編』の本編
映画版からの新キャラクターであるモナコが登場しているので、必然的に時系列的には、ロマンス編の後になります。
映画版を見てからだと分かる小ネタもちらほらと散りばめられているのが面白いですよね。
(C)2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会
ダー子たちが香港で着用していたブルース・リーの衣装が物干しに干されています(笑)
ですので、映画版をご覧になった後に見返してみるのも違った楽しみ方ができると思いますよ。
⑳映画版『ロマンス編』エピローグ
そして生瀬勝久さんが登場する映画版のエピローグですが、これが実は運勢編よりは時系列的には後になるようですね。
運勢編のラストで、この人物を「釣る」計画を立てていたので、そこから繋がってくるというわけですね。
映画版のエピローグは地味に前田敦子がアイドルをやっていたり、長澤まさみがBBAと言われていたりして、笑いました。
スポンサードリンク
キャスティングのバランスの良さ
(C)2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会
記事の冒頭にも書きましたが、古沢脚本作品ってとにかくキャスティングが巧いんですよ。
『コンフィデンスマンJP』シリーズのメインキャラクターは以下のようになっています。
- 長澤まさみ:ダー子
- 東出昌大:ボクちゃん
- 小日向文世:リチャード
まず、ダー子を演じている長澤まさみさんは、非常に演技の幅が広い役者です。
『世界の中心で愛を叫ぶ』や『嘘を愛する女』のような正統派なラブストーリーに数多く出演している一方で、『曲がれ!スプーン』や『モテキ』、『銀魂』のようなぶっ飛んだ映画にも出演しています。
シリアスな演技、観客の涙を誘うような演技はもちろん巧いんですが、それだけには留まらず、コメディエンヌとしても一流です。
古沢脚本作品というと、新垣結衣さんが覚醒した『リーガルハイ』が有名です。
この作品は、確かに堺雅人さんの独壇場という見方もできるんですが、それに応えた彼女ありきの作品です。
そして今回はどちらかというと長澤まさみさんの独壇場で、それを受ける東出昌大さんという構図が印象的でした。
『コンフィデンスマンJP』は、長澤さんの独特のリズムで展開されるトークが肝になっています。
作品の物語そのものにすら縛られないかのように、良い意味で空気の読めていない独特の存在感はまさに唯一無二です。
その一方で、彼女の演技を受ける立場にある東出昌大さんがこの作品のもう1人のキーパーソンです。
彼は、基本的にすごく素朴な演技を魅せる俳優です。
ただ、これがダー子に翻弄され、時に騙される側に回ることすらあるボクちゃんのキャラクターには、そういう純朴過ぎる演技ができる東出昌大さんは最適なんですよ。
この2人の掛け合いが絶妙なのですが、そこに実力派俳優でかつコメディを得意としている小日向文世さんが加わることで、3人で完璧なバランスを生み出しています。
そしてこの3人の魅力を演出するために古沢さんは以下のことを意識されていたようです。
詐欺師というのは、普通は嫌われる役ですよね。だからこそ、どこか抜けてる部分があるのが大事だと思いましたし、そこを意識して脚本を書きました。逆に、詐欺のターゲットとして毎回登場する相手は、しっかりと悪く書かなくちゃいけない。僕は悪い人を書こうとしても、愛嬌があって憎めない感じにしがちなんですよね。
メインキャラクター、とりわけダー子とリチャードは超一流のコンフィデンスマンなのですが、完璧なキャラクターではないんです。
ダー子は金銭感覚もバグっていますし、人間的に抜けているところが散見されますし、リチャードもシリーズ中盤で合コンにはまったり、病院の回でも盲腸の手術にビビっていたりと「抜け」がきちんと意識されています。
キャスト3人のバランス感覚と、そして古沢さんの「コンフィデンスマン」を見る人に親しまれるものにしようという意識が、メインキャラクターたちの魅力を構築しているというわけです。
古沢良太作品に受け継がれるテーマ
これまで古沢脚本作品を見てきましたが、今回の『コンフィデンスマンJP』に至るまでの彼の作品には、一貫した主題性が見え隠れしているように思えます。
まず、古沢良太脚本作品には、「ネガティブなものこそ愛するべきものである」という主題が1つ存在していると思います。
例えば、「ALWAYS三丁目の夕日」シリーズを思い出してみると「貧しさや乏しさを愛せ」というメッセージが見え隠れしています。
確かにこの作品で描かれているのは、戦争で焼け野原になり、そこから高度経済成長期に入り必死に復興を目指す中で、「何もない」なかで必死に毎日を暮らしている庶民の姿です。
しかし、彼らの生活の機微には、物質的には「何もない」時代なのに、我々が生きている現代には欠けている何かが息づいており、そこに懐かしさと共に憧れすら覚えます。
そしてドラマ「リーガルハイ」では、作中での古美門のセリフにもありましたが「醜さを愛せ」というメッセージが強く感じられました。
古美門研介が第2シーズン最終回で相手弁護士の羽生に言い放ったあのセリフは、画面の向こう側にいる我々に向けられているようなものとも感じられました。
「自分が醜い人間の1人だと自覚することだ。醜さを愛せ。」
人間って自分はどこか他人より優れているだとか自分は他人とは違うという、ある種の選民思想的な考えを持ってしまいがちなんですよ。
他の人は醜い、自分はそんな人たちとは違う、そう信じてやまないのです。
だからこそ、我々はまさに自分もそんな「醜い他者」の1人であると自覚し、自身の醜さを愛するところから始めなければならないのでしょう。
第1シリーズの第4話では正義などというものを人間が語ることはできないというセリフがありましたが、これもその主題に通ずるものです。
「正義を信じること」よりも「正義を信じないこと」の方が信用できるのだというメッセージは「ネガティブなものこそ愛するべきものである」という主題に帰結します。
次にドラマ「デート~恋とはどんなものかしら~」にスポットを当ててみます。
この作品では、「非合理さを愛せ」と言う点が強調的に描かれているように思えました。
他人と恋愛をするということは、合理的に考えて、単純な損得勘定に持ち込むと、実は損なのかもしれませんし、人を愛することは合理的なことなのではないのかもしれません。
だからこそこの作品は、不合理さをも愛すことこそが人を愛することだと訴えているのです。
2017年に公開された映画「ミックス。」では、「不器用さを愛せ」というメッセージが強調されていました。
人間は誰しも器用に生きれるわけではありません。
器用に生きられる人間、ほんの一握りの人間なんですよ。
それにも関わらず、人は自分が器用な人間だと錯覚して、自分が不器用であるにも関わらず、他人の不器用さに不寛容な側面を持ち合わせています。
映画「ミックス。」に登場する人物たちはどうしようもなく不器用な人間たちばかりです。
それでも彼らは自分が不器用な人間だとちゃんと自覚しています。そして不器用なりに必死に自分の生き方を選ぼうとしています。
そして今作『コンフィデンスマンJP』シリーズで描かれているのは、「虚構を愛せ」ということなんだと思いました。
人は誰しも「真実」という響きに「正義」を見出します。
だからこそ世の中の多くの物語は「虚構」を「暴き」、「真実」をあぶりだすプロセスを「勧善懲悪」であるとして描きます。
しかし、『コンフィデンスマンJP』が描いているのは、「虚構」が「虚構」を打倒するという構図です。
日本という「虚構」にコンフィデンスマンという「虚構」が立ち向かうという構図から、破れた「ヴィラン」は物語の末に「幸せ」を見出します。
何を信じるべきなのか、何が信じられないのかの境界が曖昧になり、「目に見えるものが真実ではない」という境地に至ったとき、最後に辿り着くのは「自分が信じられるものこそが真実だ」という境地です。
真実か虚構かなどということは関係なく、それを自分が信じられたなら、幸せだと思えたならば、それこそが自分にとって最良の選択です。
だからこそ例え「虚構」なのだとしても、それを愛してみれば幸せにたどり着けるかもしれないというメッセージをこの作品に込めています。
古沢脚本作品には、このように一見ネガティブなものを愛することに意義を見出す作品が多く見られます。
古沢流の正義の描き方
この世界に絶対的な正義はあるのか?というのは常に物語の問いであるわけですが、古沢脚本作品における「正義」の描き方は極めて特徴的です。
一見すると、『リーガルハイ』や『コンフィデンスマンJP』のような作品は「勧善懲悪」に分類される作品のように思えますが、そう単純な話ではありません。
手塚治虫先生の作品の中で医者のブラック・ジャックがこんなセリフを言っていましたよね。
(手塚治虫『ブラック・ジャック』より引用)
実は、古沢脚本作品はこのブラック・ジャックの精神を色濃く受け継いでいるとも言えます。
絶対的な正義とは存在し得ないものであり、正義というのはあくまでも一側面的なものでしかありません。
だからこそブラック・ジャック同様、『リーガルハイ』の古美門や『コンフィデンスマンJP』のダー子は「お金」でしか動くことがありません。
彼らは、何が正義で何が悪かなんてことはどうでも良くて、単純に「お金」にしか興味がないという設定になっているわけですが、そのドライさがかえって「正義」の欺瞞を炙り出しているように思えます。
『リーガルハイ』では、自分が「悪人」を弁護することに葛藤を感じたり、「善人」を裁判で負かすことに抵抗を感じていた真知子でしたが、そんな彼女に古美門は「依頼人を勝たせることだけを考えろ」と告げます。
善悪の分別をつけないアウトローを主人公に据えることで、あなたが妄信的に信じている正義の概念を覆し、考えさせるのが『リーガルハイ』という作品の肝でもありました。
一方の『コンフィデンスマンJP』のダー子もまた「悪人」から金をだまし取るという行為をやってのけているわけですが、それが正義かどうかと問われればそうとは言えないでしょう。
彼らもまた「人を騙している」という点では同じ穴の狢であり、だからこそ「コンフィデンスマン」たちは正義ではなく、「お金」にしか興味がないという設定を据えられています。
彼らがしているのは決して悪を私的に裁く「ビジランテ」的な行動ではなく、私腹を肥やすための、生計を立てるための「仕事」なわけです。
このように古沢脚本作品は、「正義」を作品の中に不在にさせることで、それを見る側に委ね、考えさせようとしています。
スポンサードリンク
メタラブロマンス的構造の巧さ
映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』を早速鑑賞してきましたが、まあ作品の構成が巧いですよね。
この作品は、基本的に「ロマンス的」な要素を作品の中に散りばめて、作品全体を見ると、まるで1本のロマンス映画に見えるように模造されています。
冒頭の寝ぼけ眼のベッドシーン、突然の再会、過去の恋愛のフラッシュバック、最低な元恋人への断ち切れぬ思い、幼少の頃からの想い人、偶然出会った運命の人、柵を断ち切ってのランデブー、2人の女性によるイケメン争奪戦、恋人からの手紙・・・などなど。
こういったラブロマンスのお約束的な要素をふんだんに作品の中に取り入れ、表層的にはラブロマンスとして仕立てているわけです。
しかし、最後の最後でこれらの一連の行動には全て裏があると分かり、『コンフィデンスマンJP ロマンス編』が「似非ラブロマンス」であったことが明かされるのです。
同じく古沢脚本のドラマ「デート~恋とはどんなものかしら~」では、恋愛とは不合理なものであると語られていましたが、まさしくその通りです。
それでも人は「愛」だけは「真実」なのだと思いこもうとします。というよりも信じたいのかもしれません。
今作の冒頭の言葉にもあった通りで、愛というのは、「自分を欺くことから始まり、他人を欺くことで終わる」ものなのかもしれません。
愛というのは実体がなく、それでいて非合理的なものです。
だからこそそんなものを信じてしまった時点で、自分を騙しているとも言えますし、それを相手に信じ込ませたという点で、他人を欺いているのかもしれません。
つまり恋愛において真実などというものは、やはり存在し得ないのであり、あるのは個々人は信じたい「真実」だけです。
『コンフィデンスマンJP ロマンス編』では、コンゲームの中に相手に自分の「愛」を信じさせるという展開を持ち込み、恋愛のプロセスと同質化することに成功しました。
結局は、「恋愛」とは実体のない「愛」を相手に信じ込ませるための、そして相手の「愛」の存在を自分に騙し聞かせるだけのコンゲームなのかもしれません。
『リーガルハイ』の時もそうでしたし、『コンフィデンスマンJP』のテレビシリーズでもそうでしたが、古沢さんはどこかで本当の正義や真実が現れるのを待っているような節があります。
それは『リーガルハイ』の古美門という「お金」にしか興味がない弁護士が、いつか真知子に打ち負かされる日の到来を待ちわびているように見えるという点にも共通しています。
一方で、今作『コンフィデンスマンJP ロマンス編』では、モナコという女性キャラクターにその役割を託しています。
(C)2019「コンフィデンスマンJP」製作委員会
彼女は赤星側の人間、つまりジェシーの取り巻きだったわけですが、最後の最後には心の底からダー子に「惚れ」、裏切っていたにもかかわらず、彼女についていきます。
あらゆるものが欺瞞や虚構でしかなかった「愛」の物語の中に、1つだけ「真実」だと信じたくなるような「愛」の形を残してあるのが何とも古沢さんらしいと言えます。
スペシャルドラマで良いという声もあるかもしれませんが、100分程度の尺の作品として、ラブロマンス的な要素の踏襲と、それをメタ的に包み込むコンフィデンスマンの物語という構造は流石の一言でした。
小ネタだらけの映画版!小栗旬はどこに出演していた?
今回の映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』は、テレビシリーズで最も時系列的に進んでいたとも言われる第2話のリゾート編のエピローグ以後の物語であることは明白です。
それを仄めかすテレビシリーズの小ネタが大量に映像の中に散りばめられているので、ぜひぜひ探してみてください。
- 冒頭のダー子の部屋にふじみ屋の三色だんごとカエルのぬいぐるみ
- 第7話「家族」編の子猫鈴木さんが再度登場
- 鈴木さんの部屋に第8話「美のカリスマ」編と第2話「リゾート王」編エピローグで登場した弁天水の化粧品が置かれている
- 第7話「家族」編のギンタとギンコが再度登場
- 桜田リゾートがちゃっかり沖縄に大規模なリゾートを所有(カジノ施設の予定地は沖縄と発表されていたのでもしかして?)
- 香港でダー子たちが宿泊したゲストハウス「ゲストハウスみちくさ」が桜田しず子系列(第2話「リゾート王」編のエピローグ参照)
- 赤星がねぎらっているスポーツチームが第9話「スポーツ」編の熱海チーターズ
- ラン・リウへのデモ映像に第10話「コンフィデンスマン編」で母親とレンタカー屋を経営することが真実の自分だと諭された鉢巻が登場
- 終盤に登場するダイヤモンドの鑑定士が第3話「美術商」編に登場した城ヶ崎善三
- 贋作宝石のプロの「耳かき」発言は第3話「美術商」編に登場した「判ちゃん」との共通点
こういうファンサービスに溢れているという点でも、今回の映画版はこれまでのテレビシリーズを追いかけてきた人に向けてのご褒美という側面も強いのだと思います。
また、エンドロールで「小栗旬」さんの名前がクレジットされていたので、驚いた方も多かったのではないかと思います。
当ブログ管理人としては、とあるキャラクターに「この人どこかで見たことがある顔だ・・・。」という印象を抱いていたので、エンドロールで逆に「そうだった!」と納得がいったものです。
結論から言うと、彼が演じていたのは贋のダイヤモンドを製作する職人でした。
冒頭でこの人物が登場する時は、巧妙に顔が見えないアングルで映し出されているんですが、ラストに登場する時にチラッと顔が映るんですよ。
もし気がつかなかった人は、もう一度鑑賞して確かめてみるのもアリかもしれませんね?
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』についてお話してきました。
映画的に優れているかどうかなんて話をし始めると、まあスペシャルドラマチックとしか形容のしようがないのですが、それでも古沢さんらしい脚本の巧妙なエンタメ作品になっていたと思います。
また、このシリーズはあくまでも「一話完結」の側面が強いので、シリーズを知らない人も気軽に映画館に足を運べるという強みがあります。
5月のGW明けのこの時期は映画館閑散期とも言われますが、何か見ようかな・・・?と思った人は選択肢の1つに入れてみてください。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。