みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回は映画『ホットサマーナイツ』についてお話していこうと思います。
2017年に製作された作品で、アメリカでは2018年の夏に公開され、ようやく日本公開の運びになった今作ですが、A24は本当にしたたかですよね。
『君の名前で僕を呼んで』や『レディバード』がヒットし、ティモシーシャラメ人気に火がつくや否やすぐさま今作の配給権獲得に動き、翌年の夏公開に踏み切りました。
こういう戦略的な配給を行っているからこそ、A24は設立からまだそれほど経っていないにもかかわらず、アメリカ映画界でその地位を確立できているんだと思います。
そして今作を見て、改めて思いましたが、ティモシーシャラメは本当に唯一無二のオーラを放っている俳優ですよね。
正統派のイケメンというタイプのルックスではないですし、ボディの見栄えが良いというわけでもなく、痩せ型で少し不健康そうなルックスをしているんですが、今や多くの女性ファンを抱えています。
王道の王子様キャラクターよりは、少し闇のあるキャラクターが映える俳優で、だからこそ『レディバード』のクズ男役や、『ビューティフルボーイ』の麻薬に繰り返し手を出してしまう少年の役を演じ切れてしまうんでしょうね。
そんなティモシーシャラメ主演作品ということもあり、公開前から楽しみにしていた本作を早速鑑賞してきました!
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『ホットサマーナイツ』
あらすじ
1991年は湾岸戦争が始まり、フレディ・マーキュリーがエイズで亡くなったという激動の年でした。
最愛の父を亡くした喪失感を埋められないダニエル・ミドルトンは、父を忘れようとして、彼から受け継いだレコードを焼き払いボヤ騒ぎを起こした。
この一件が原因で、美しい海辺の小さな町ケープコッドにある叔母の家でその年の夏を過ごすことになる。
ケープコッドという街には2種類の人間がいた。
- サマーバード:都会からバカンスを過ごすためにやって来た富裕層
- 地元民:比較的貧乏だが、その土地に長らく住んでいる人々
ダニエルは、その土地でどちらにも属しておらず、コミュニティに上手く溶け込むことができなかった。
孤独を抱えながら、大学受験に向けて何とか勉強に打ち込もうとしていた。
そんなある日、彼は町一番のワルで、大麻を売ることで金銭を稼いでいるハンター・ストロベリーという青年と知り合う。
頭の回転が速く戦略家のダニエルは、ハンターに気に入られ、2人は麻薬売買のパートナーになり、親交を深めていく。
ある日、ダニエルはその街で最も人気があるといわれている美女マッケイラに恋をする。
彼女には、二枚目で金持ちのボーイフレンドがいたが、偶然出会ったダニエルのミステリアスな雰囲気に惹かれ、2人は恋に落ちる。
しかし、ハンターは彼に自分の妹であるマッケイラには近づかないようにと警告する。
麻薬売買と禁断の恋が織りなすヒリヒリとした緊迫感のある青春はあっという間に過ぎていく。
そんな時、ケープコッドには未曽有の巨大ハリケーンが接近しており、同時に彼らの人生は転機を迎えていたのだった・・・。
スタッフ・キャスト
- 監督:イライジャ・バイナム
- 脚本:イライジャ・バイナム
- 撮影:ハビエル・フリア
- 編集:ジェフリー・J・カステルッチオ&ダン・ジマーマン&トム・コスタンティーノ
- 音楽:ウィル・ベイツ
監督を務めたイライジャ・バイナムは、今作が長編映画デビューの新人です。
この作品の語り手は、本作のラストで明かされましたが、1人の子供でしたよね。
ただ、この『ホットサマーナイツ』という作品は、イライジャ・バイナム自身が大学時代に出会った2人の青年をモチーフにして脚本を書いたことから始まっています。
何と彼は今作の脚本を23歳の時に書いたそうで、それでいて若さと勢いに任せただけの青春映画になっておらず、落ち着いた雰囲気と趣を感じさせる円熟した仕上がりでした。
また、その他のスタッフにも新人が多数起用されており、新進気鋭の彼らだからこそ作れた作品になっていたと思います。
- ダニエル・ミドルトン:ティモシー・シャラメ
- マッケイラ:マイカ・モンロー
- ハンター・ストロベリー:アレックス・ロー
- エイミー・カルフーン:マイア・ミッチェル
- エンデックス:エモリー・コー
- シェップ:ウィリアム・フィクトナー
今作の主人公のダニエルについて、監督はまだブレイクする前のティモシーシャラメに一目惚れしていたと語っています。
若者特有の傲慢さと、誠実さ、真摯さを持ち合わせていた。パッと見はがり勉オタクのようだけれど、光の当たり方によってはハンサムに見えるといった感じ。
(『ホットサマーナイツ』パンフレット37-38ページより引用)
監督は、彼の印象を上記のように語っていました。
まだ彼がブレイクする前だったということもあり、この映画への出資者たちを納得させることが難しかったそうですが、何とか公開までこぎつけることができたということです。
他にも『イットフォローズ』で主人公を演じたマイカ・モンローを本作のヒロインに抜擢しました。
いわゆる「尻軽女」な仮面を被っているんですが、人一倍誠実さと純粋さを持っている少女で、悪を許さない心を持っているマッケイラを熱演しました。
また、ハンター役にはアレックス・ローが起用され、若さと未熟さを秘めながらも風格を漂わせる独特の青年を見事の演じ切りました。
より詳しい情報を知りたいという方は、映画公式サイトへどうぞ!!
『ホットサマーナイツ』感想・解説(ネタバレあり)
アメリカ版台風クラブが描いた青春と通過儀礼
(C)2017 IMPERATIVE DISTRIBUTION, LLC. All rights reserved.
今作『ホットサマーナイツ』はいわゆる王道のアオハル映画ではないと感じました。
とりわけ当ブログ管理人が似ていると感じたのは、相米慎二監督の『台風クラブ』ですね。
この2つの作品はどちらも突き抜けて底抜けに明るい青春映画ではなく、青春の陰の部分にスポットを当てたような作品になっています。
とりわけ『ホットサマーナイツ』には巨大ハリケーンが、『台風クラブ』には台風が登場し、それが迫ってくるまでの少しいつもとは違う異常性を孕んだ少年少女の行動を描いたという点は非常に近似しています。
そして何より、この2つの作品は「青春」とそして「大人になるための青春の終わり」を描いたという点が一致しています。
相米監督の『台風クラブ』は台風が迫ってくるまでの中学生たちの「汚い大人」たちへの反骨心や抵抗を鮮やかに切り取り、そして台風の夜にその感情を爆発させました。
しかし、台風が去るとともにそんな少年少女の感情に折り合いをつけ、そして彼らは少しだけ大人への階段を登ります。
この作品は、ケープコッドに訪れた記録的な猛暑が2人の少年を異常な行動に走らせ、狂気の中へと引きずり込んでいく過程を描いています。
とりわけダニエルとハンターという2人の青年はお互いに家族に対して喪失感を抱えています。
前者は最愛の父を失った喪失感を、後者は母親に対して不誠実な行動を取ったことや妹に距離を取られてしまったことに対する喪失感を抱えています。
2人は、その空白を埋めるかのように麻薬の売買がもたらすヒリヒリとした緊迫感と達成感、幸福感に取り込まれていき、どんどんとエスカレートしていきます。
そこで彼らに1つの道を示すのが、フランク・カルフーン巡査部長でしたよね。
この点も『台風クラブ』にすごく似ているんですが、基本的に少年少女たちは大人という存在を汚いものとみなしており、ある種小馬鹿にしているんですよ。
ハンターはフランク・カルフーン巡査部長に対しても鈍い男であり、自分を逮捕することなどできないと高を括っていました。
ただ、彼はハンターを逮捕してやりたいというよりも、心から彼に真っ当な道に進んでほしいと願っていたんですよね。
かつてフランクはハンターの父親とと共にやんちゃな青春時代を過ごしました。
しかし、大人にならなければならない時が迫り、ハンターの父親は自分がもはや真っ当な道には戻れないことを悟り、何とかフランクだけでも道に戻してやろうと、自分を犠牲にしたんです。
大人になるためには、青春時代の罪に対する罰を受けなければならないのだと、フランクは語っています。
そして街に巨大なハリケーンがやって来て、3人の少年少女はそれぞれに決断を迫られます。
ダニエルはマッケイラへの恋心を捨て、そして街を捨てました。
マッケイラは恋心と兄の命と、そして街を捨てることになりました。
ハンターは、自分の親友とそして最愛の妹を真っ当な道に戻すために自らの命を捨てました。
青春とはキラキラとしたことだけではないですし、私たちはそれを終えるにあたって、確かに何かを失うんだと思います。
「アオハル」を回帰不能な永遠にして、私たちは確かに大人になっていくのでしょう。
『ホットサマーナイツ』が描いた青春とそこからの卒業の通過儀礼はどこかほろ苦い味わいを残しながらも、狂気的な輝きを放っていました。
その繊細な感覚を見事に映画の中に閉じ込めたイライジャ・バイナム監督にまずは賛辞を贈りたいと思います。
ポップカルチャーと90年代の世界観構築
近年80年代や90年代を回顧するようなテイストで描く映画作品は非常に増えてきていますよね。
昨年の『レディプレイヤー1』『ジュマンジ ウェルカムトゥジャングル』『アンダーザシルバーレイク』『デッドプール2』などの作品たちは、80年代のポップカルチャーへの愛に満ちていました。
今年に入ってからも『バンブルビー』のような作品が公開されていて、短期間でこれだけ挙がるというのも稀有なことですよね。
とりわけ『レディプレイヤー1』なんかはスピルバーグ監督自身というよりは、きちんとスタッフを雇ってポップカルチャーへのオマージュを作り上げていったという方向性のようです。
一方で、それ以外の作品を見てみると、比較的「俺の80年代」「俺の好きなポップカルチャー」な視点で作り上げられた作品が非常に多いんですよね。
例えば、『アンダーザシルバーレイク』なんかはデヴィッド・ロバート・ミッチェル監督の趣味が全開のポップカルチャーのチョイスになっていますよね。
また、その他の作品も監督や脚本家の「俺の~」感が強く感じられますし、そんな中でジョン・フューズ監督へのオマージュが相次ぐという現象には驚かされます(笑)
基本的に、この手のオマージュってやっぱり監督がどうしても「やりたい!」という意向があって実現するものですし、『デッドプール2』のようにとりわけ本筋にすら絡まないネタであることもしばしばです。
ただ今回の『ホットサマーナイツ』という作品は、他とは違うアプローチでノスタルジックな世界観の構築を目指しました。
というのも自分の「好き」を詰め込むのではなくて、当時の社会を回顧して誰もが懐かしいと感じられるような音楽、映画、ポップカルチャーやエンタメのチョイスをしたのです。
これについてはパンフレットのインタビューの中で監督自身が明言しています。
ドライブシアターやゲームセンター、夜の遊園地などの娯楽施設も懐かしさを掻き立てる舞台装置です。
作中で流れる音楽もただ当時の人気の曲を羅列したわけでも、監督の好みだけで選曲したわけでもなく、誰もが懐かしさを感じられるような選曲にしてあります。
個人的には、やはりボウイの「Space Oddity」を使った夜の遊園地でのキスシーンですね。
トム少佐の宇宙での惨劇を描いた切ない1曲ではあるのですが、同時に孤独な彼を激励するかのような1曲でもあります。
そんなトム少佐をダニエルの姿に重ねて、月ではなく、好意を寄せる女の子のもとへとキスをしに行く勇気を出せよ!という激励の意味合いを込めて用いていたのは非常に巧かったと思います。
また、映画で言うと、91年の7月に公開された『ターミネーター2』をドライブシアターで見るというシーンも非常に心惹かれましたね。
それに加えて、『ホットサマーナイツ』という作品の終盤の展開そのものが『ターミネーター2』に準えてあるのが、またツボでしたね。
誰もが懐かしさを感じられる普遍的なポップカルチャーのチョイスを心掛けつつも、それらに対する愛がなければ、こんな使い方は思いつかないだろうというような点も多くあり、非常に満足できる内容でした。
「いとをかし」な青春の描き方
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当ブログ管理人が個人的に『ホットサマーナイツ』という作品が描く青春が好きだな!と思ったのは、愚直にキラキラとした少年少女のひと夏を切り取ったわけではなかったところなんですよね。
まず、良かったのがダニエルとハンターの恋愛描写の描き方ですね。
彼らの恋愛描写において目立ったのが、両者とも秘めたる恋だったという共通点です。
前者は兄のハンターに見つかることを怯えていたり、ダニエル自身が麻薬の売買をしていることが発覚しないかどうかに怯えているという事情がありました。
後者はエイミーという警察の1人娘との恋愛だったので、どうしても父であるフランクに発覚してしまうわけにはいきませんでした。
だからこそ彼らの恋愛はビーチや煌びやかな遊園地ではなく、遊園地の裏の暗闇や夜更けの川辺など人気のないところで密かに育まれていきました。
ハンターがエイミーと初めて性交渉をする際に、煌びやか遊園地のネオンをバックにした薄暗い場所に駐車した車の中というロケーションを選んでいたのが個人的にはグッときました。
また、ダニエルとマッケイラが夜更けの川辺で2人並んで蛍を眺めているシーンがまた素晴らしかったでですよね。
清少納言の『枕草子』にこんな一節があります。
夏は夜。月のころはさらなり。やみもなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、 ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
(清少納言『枕草子』より引用)
今作『ホットサマーナイツ』ってすごく日本的な季節感と言いますか、情緒を解する感覚を作品の節々に感じます。
キラキラとまばゆい輝きを放つ青春というよりは、夜の闇の中で蛍のように小さく何かに怯えるかのような淡い光をひっそりを放っているような青春とでも言いましょうか・・・。
そういう「いとをかし」な青春描写があるからこそ、2人が手を染めている麻薬売買という世界の異常さや狂気が際立ちます。
キスをしているわけでもないのに、無性にエロスを感じてしまうキャンディの口移しシーンなんかも本当に絶妙ですよね。
分かりやすく「アオハル」を見せるのではなく、あくまでも「わびさび」の心を込めたかのような見せ方にこだわった点は、高く評価されるべきだと思います。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『ホットサマーナイツ』についてお話してきました。
何といっても当ブログ管理人のオールタイムベストである『台風クラブ』にもリンクを感じられる内容だったので、その時点で嫌いなはずが無い作品でした。
またアメリカの青春を切り取った作品なのに、どこか日本的な「わびさび」の心のようなものを感じられる仄かで淡い青春譚になっていた点は高く評価したいと思っています。
8月の中旬にこの映画を見て、何だか「俺の夏終わった感」をひしひしと感じてしまうような映画でした(笑)
107分の映画に青春のすべてが凝縮されているといっても過言ではありません。
ぜひぜひ劇場でご覧ください!!
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。