みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『エイスグレード』についてお話していこうと思います。
映画館では見逃していたんですが、先日ネットフリックスで鑑賞した『スイート17モンスター』がテイストとしては非常に似ていました。
『エイスグレード』は物語を中学生最後の学年という過渡期の時期に持ち込み、そこにスマホとSNSの要素を足しこむことで、全く新しい青春映画となっています。
青春映画ってクラスの人気者か、人気者ではないけどクレイジーなやつにスポットを当てるのが普通で、基本的に日陰者にフォーカスする作品って少ないんですよね。
一方で、この作品は、「クラスで1番人気がない子」をリアルすぎる切り口で切り取っているので、映画を見ているだけで心を切りつけられていくようなヒリヒリとした痛みに襲われます。
何か大きな変化や出来事が起きるわけでも無いけれど、それでも少しずつ変わっていく彼女と世界との関係がSNSやスマホというデバイスを介して描かれているのが、非常に丁寧で心を揺さぶられました。
この理由は後程詳しく書いていきますね。
さて、本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『エイスグレード』
あらすじ
中学校生活最後の1週間を迎えた8年生のケイラは対人関係が苦手で他人と上手く関係を結ぶことができずにいた。
そして卒業式直前の生徒投票による表彰では、「クラスで一番無口な子」として表彰され、ショックを受ける。
そんな自分を何とか変えようと、Youtubeに動画を投稿したり、SNSでコンタクトをとろうとしたりするが泣かな上手くいかない。
父親はそんな自分のことを気にかけてくれるが、それも「お節介」に感じられ、素直に受け取れない。
高校生活が始まる前に、好意を寄せる男の子にアタックしたり、人気者の女の子のパーティーに参加してみたりするものの、やはりコミュニケーションに抵抗を感じてしまう。
そんな時、高校の体験入学の機会があり、彼女は年上のお姉さんオリヴィアに気に入られ、遊びにも誘ってもらえるようになる。
苦悩と葛藤を重ねながらも少しずつ成長していく13歳の少女の青春の1ページを鮮やかに描き出す。
スタッフ・キャスト
- 監督:ボー・バーナム
- 脚本:ボー・バーナム
- 撮影:アンドリュー・ウィード
- 編集:ジェニファー・リリー
- 音楽:アンナ・メレディス
今作『エイスグレード』は監督を務めるボー・バーナムが自身の学生時代の経験をもとに製作した映画のようです。
ちなみに彼は俳優として活躍していて、昨年日本でも上映されていた『ビッグシック』にも出演していました。
駆け出しの俳優がいきなり監督作を撮って、それが全米4館での上映から一気に1000館規模にまで膨れ上がったというのがまた凄い話ですよね。
そしてこの映画が驚きなのは、他のスタッフ陣も含めて、長編映画未経験のような方も多いということです。
そういう新進気鋭のスタッフ陣によって製作されたからこそ、これほどまでに尖った作品になったのではないでしょうか。
- ケイラ:エルシー・フィッシャー
- マーク:ジョシュ・ハミルトン
- オリヴィア:エミリー・ロビンソン
- ゲイブ:ジェイク・ライアン
- エイデン:ルーク・プラエル
主人公のケイラを演じたのは、これまで『怪盗グルー』シリーズで声優を務めていたエルシー・フィッシャーです。
彼女は何とこの『エイスグレード』という作品で、ゴールデングローブ賞の最優秀主演女優賞にノミネートされて、一気に注目度を高めました。
父親役のジョシュ・ハミルトンは『マンチェスターバイザシー』などにも出演していて、こちらも本作の演技が高く評価されました。
その他の若いキャスト陣はほとんどが新人ということもあり、かなりフレッシュな仕上がりだったと思います。
より詳しい情報を知りたいという方は、映画公式サイトへどうぞ!
『エイスグレード』感想・解説(ネタバレあり)
SNSやスマホがあるからこそ踏み出せる1歩
(C)2018 A24 DISTRIBUTION, LLC
近年SNSやスマートフォンが発達し、それが子供たちの生活にも徐々に浸透していっています。
ただ、大人たちはどちらかと言うと、この傾向に否定的な目線を持つ傾向にあると思うんですね。
なぜなら、SNSやスマートフォンが子供たちの学校生活、交友関係、遊び、娯楽、休日・・・その何もかもを一変させてしまったからです。
大人たちは自分たちが送った青春時代こそが「あるべき」なのだという考えや価値観に囚われがちで、それ故に「あるべき」姿とは異なる青春時代を過ごす子ども世代に勝手に危機感を感じているのです。
そのため近年公開されている映画を見ても、「スマートフォン×コミュニケーション」のトピックを扱えば、二言目には「スマートフォンやSNSによってコミュニケーションの希薄化が・・・」と声高に叫ぶようなものが多いのです。
確かに未熟な子供がスマートフォンを持ち、SNSを使うようになることで生じる危険性はあります。
この映画もそういう部分から逃げているわけではありません。
例えば、ケイラが同級生のエイデンに好意を寄せるようになった際に、自分のエッチな写真を送れるよということを仄めかして近づこうとします。
こういった写真を軽い考えで送ってしまうと、その後の人生に大きな影を落とすことになるかもしれません。
もし仮にエイデンがその画像をインターネット上にばらまいてしまったとしたら、それは一生消すことができなくなってしまいます。
しかし、それ以上に今作ではスマホやSNSというものが子供たちにとって重要なコミュニケ―ションツールになっているところに着眼しています。
というよりも主人公のケイラにとってそれらは唯一の居場所だったといっても過言ではありません。
学校では友人がおらず、誰とも話せない彼女ですが、SNSの世界の中では一生懸命他の人とコミュニケーションをとろうとしていたり、自己発信をしたりしています。
これを大人たちが従来的な価値観で捉えてしまうと、「またスマホばっかり見て・・・ちょっとは外で友達と遊んできなさい!」とうんざりしてしまうことでしょう。
しかし、ケイラにとってSNSやスマートフォンは自分に他人とコミュニケーションをとる勇気ときっかけをくれる存在なんですよ。
本作において印象的なモチーフがスマートフォンのモニターとガラスの扉ではないでしょうか。
スマートフォンの向こうには彼女の「理想」があります。
それを1つ象徴しているのが「スナップチャット」というアプリですね。
画像は綺麗に加工され、ニキビだらけの自分の顔もモニターの向こう側には美しく映し出されています。
ある時、彼女は、エイデンの画像を見ていた際に父親が部屋に入ってきて、その驚きと共にスマートフォンを投げ捨ててしまいます。
そして彼女のデバイスのモニターはバキバキに砕けてしまうのです。
ただその一件以来、彼女は積極的に他人とコミュニケーションをとろうと意識を入れ替え、クラスの人気者のパーティーに足を運びます。
そこで彼女はパーティーが行われているプールへのガラスの扉という壁に直面します。
手前は自分の世界、そしてガラスの扉の向こうには、華やかな青春の風景が広がっています。
その扉が何だかスマホのモニターと重なるのですが、彼女は扉を開けて一歩踏み出すことに成功します。
バキバキに砕けたスマホのモニターと小さく開け放たれたガラスの扉。
こうして彼女は華やかな青春への仲間入りを果たせるのではないかと思った矢先に、自分のプレゼントを友人にぞんざいに扱われてしまうというショッキングな出来事が起こります。
すっかり自信を喪失し、スマホの世界に逆戻りする彼女はモニターのひび割れで指を怪我します。
この演出が絶妙で、まさにスマホのモニターやガラスの扉の向こうに広がる華やかな世界に足を踏み入れようとしたことで、彼女が負った心の傷を見事に表現しています。
しかし、彼女にその1歩を踏み出す勇気ときっかけをくれたのも間違いなくSNSであり、スマートフォンです。
彼女は対面でその友人と話した時には、「パーティーに行きます。」なんて返事をすることはできませんでしたからね。
確かに様々なデバイスやシステムが発達したことで子供たちの青春時代の風景は大きく変わりました。
避難訓練の際や卒業式の控え室でまで子どもたちがスマホのモニターを見つけてSNSやゲームに打ち込んでいる風景が健全とは言えないだろ!という意見もわかります。
しかし、忘れて欲しくないのは、スマホやSNSの存在に救われている少年少女がこの世界には少なからず存在しているということです。
『エイスグレード』は若い世代が作り上げた新時代の青春映画の1つのマスターピースだと思います。
今の親世代にこそ見て欲しい映画
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今作『エイスグレード』において印象的な役割を果たしていたのは、やはり父マークでしょう。
確かにこの映画は主人公ケイラの青春奮闘記ではあるんですが、一方でそんな娘を見つめる父親の映画でもあります。
先ほど、大人たちは自分たちとは異なる青春時代を過ごす子供たちの風景に、従来的な価値観と尺度による判断で危機感を覚えるのだという点に言及しましたが、マークにはそれがないんですよね。
私がすごく彼の娘への接し方として惹かれたのは、ケイラがスマホに没頭することや誰にも見てもらえない動画をYoutubeに投稿することを否定しないことなんだと思います。
きっとこういう光景を見たら、多くの親が「スマホばっかり見てないの!」とか「Youtubeなんてやめておきなさい!」と一喝してしまうことでしょう。
なぜなら、親世代にとっての「健全な青春」の尺度がもはや今の時代とは乖離してきているからです。
でも、ケイラにとってそういった行為は自分なりに「健全な青春」を送りたいと試行錯誤している結果なんですよね。
誰にも見てもらえない動画だって、これは言わば自分を勇気づけるためのメッセージです。
そして父親と会話するよりもスマートフォンの中の世界に没頭するのも、何とか友人とコミュニケーションをとりたいと切望しているからですよ。
こういう自分たち世代とは「ずれた努力」というものを親世代が理解してあげることができるかどうかで、子どもの未来は間違いなく変わってきます。
ケイラが、父親に「使いすぎだから、いい加減にしなさい!」ということでスマートフォンを没収されていたり、「誰にも見てもらえていないんだから!」とYoutubeへの動画投稿を否定されていたら、どうなっていたでしょうか・・・。
きっと彼女は周囲の輪の中に入っていく勇気もきっかけも得られないままだったでしょう。
マークという父親は、きちんと娘の目線になって考えてあげていますし、同時に彼女なりの努力を理解してあげています。
ケイラが、6年生の時に抱いた夢や希望の詰まったタイムカプセルを庭で焼き捨てるシーンがあります。
しかし、マークはそんな姿を見ても尚、彼女のことを全力で肯定します。
彼女なりの努力を認めてあげ、そして今の彼女が自分にとって誇りなんだと心からの言葉で彼女に伝えるのです。
何と言うか親子の愛って「言葉にしなくても伝わる」ことが美徳みたいなところがあるじゃないですか。
でも、親子にだって言葉にしなければ伝えられない本当の思いって確かにあると思うんですね。
そうやって、きちんと言葉にして愛を伝える思いを伝えていく。
コミュニケーションを題材にした映画だからこそ、きちんとその思いを言語化して伝え合うことで初めて通じ合える親子関係を描いたのが素晴らしかったと思います。
理想の自分になれなくても
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誰だって自分がこうなりたいという理想と言いますか、青写真のようなものを持って生きているはずです。
未来の自分に対して「こんな自分になれていますか?」なんてメッセージを書いて、実際に10年後にそれを読み返して、全くそんな大人になれていない自分に絶望するなんて経験は自分にもあります。
でも、きっと誰だって理想の自分になんてなれないんだと思います。
理想というものはいつだって自分の目の前にあるからこそ理想なのであって、そこに辿り着くことは永遠にかなわないんだと思います。
それはきっと理想を持ち続けることとそこに向かって前進を続けていくことそのものです。
ケイラはYoutubeで自分の理想を語り、何とかしてそうなりたいと常に思いながら、そのために行動を起こしています。
確かに失敗することもしばしばですが、それでもそうなりたいと思い行動を起こしている彼女は素晴らしいのです。
映画や物語というものは、「変化」を描くメディアです。
物語の最初と最後で何も変化していない作品は評価されませんし、今作のような物語であれば何らかの主人公の劇的な変化やサクセスを描くべきでしょう。
しかし、『エイスグレード』は確かに「変化」を描いてはいますが、本当に小さな心の「変化」を描いているに過ぎません。
この映画が私たちに伝えたいのは、理想の自分になることが尊いのではなくて、理想を捨てないことが尊いのであるというメッセージです。
だからこそ、本作のラストシーンはケイラは再び「世界一クールな女の子へ」と名前をつけたタイムカプセルを庭に埋めます。
明確な「変化」を描くのではなく、「変化」へと前進し続けることの重要性を謳ったことで、多くの理想に近づけずに葛藤する人々の背中を後押しする映画になれたのではないでしょうか。
私もそんな『エイスグレード』という作品に少しだけ救われたような気持になり、最後は涙がこぼれました。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『エイスグレード』についてお話してきました。
この映画を見ていると、私の高校生時代の古傷を抉られるようで、直視できないシーンが多々ありました。
何と言うか、この映画の描写ってリアルすぎると思うんです。
クラスの人気者に勇気を出して話してみるんですが、相手は露骨に退屈そうな顔をしているなんてシチュエーションは私自身も体感したことがありますし、その時の光景が鮮明に頭の中に蘇って心が苦しくなりました。
本当に見る前にある程度心の準備をしておかないと、心をずたずたに引き裂かれるような鋭利なリアリティがあるんですね。
ただそのリアルさが多くの人にとって「for me」な映画に感じられる所以なのだと思いますし、本作が高く評価された理由なのだと思います。
ぜひぜひ悶々とした青春時代を過ごした人たちに見て欲しい映画ですし、子どもを持つ親世代に見て欲しい映画です。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。
私も『スイート17モンスター』を連想したんですが、『エイス・グレード』の方がいわゆるドラマ的な要素が控えめな分だけかえって痛みが生々しく伝わってきました。ちょっとした観る拷問(良い意味で)でしたね。個人的には年のせいか父マークに完全にやられまして、庭のシーンで号泣でした。あんなシーンで尚おだやかって、ズルすぎますねアレは。そういや『スイート17モンスター』でもウディ・ハレルソン演じる教師が好きだったな~なんて思い出しながら帰りました。どちらも傑作なんで多くの人の目に触れてほしいです。あと、ケイラが横になっている後ろで赤・青・緑の電飾が1個ずつ光っているのが印象的でした。
途中入場してきた中年の白人男性が甲高い声で終始爆笑していたので映画体験としては最悪でしたが、英語圏の方々にとっては大笑いする要素が多い映画なんでしょうかね?クスッとなる場面は色々ありましたしショッピングモールでのマークは笑いましたけど・・。
tamenさんコメントありがとうございます。
>『エイス・グレード』の方がいわゆるドラマ的な要素が控えめな分だけかえって痛みが生々しく伝わってきました。<
めちゃくちゃ共感です!すごくリアルな痛みが描かれてましたよね・・・。
自分の学生時代に重なる部分もあり、私もマークの庭のシーンは完全にやられてしまいました。
>中年の白人男性が甲高い声で終始爆笑していたので<
笑いのツボが分からないですね!
爆笑する映画というよりは、苦笑いしてしまうような映画かな~と思いました。