みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『ティーンスピリット』についてお話していこうと思います。
公開前からエルファニングのロングMVであるという前評判を聞いていたので、ストーリー等にはあまり期待はせずに見てきました。
確かにストーリーそのものは、かなり薄味だったんですが、「エルファニング」という強烈なスパイスが加えられていることによって、めちゃくちゃ味はするという不思議な映画でしたね。
内容は、いわゆる王道のティーンものであり、王道のサクセスストーリーです。
田舎で自分の夢を追うことをなかなか認めてもらえず、自分で自分を信じられない閉塞感からどう抜け出していくのか?を描いていくわけですが、やはりエルファニングが映えますよね。
彼女は笑顔ももちろん素晴らしいのですが、ちょっと目つきが悪い表情が非常に映える女優ですので、そういう表情をこの映画では何度も見ることができ、ファンとしてはただただ幸せでした。
今作はまさに「エルファニングの静脈注射」であり、映画を見終わった後にふわふわと幸せな気持ちになれます。
ストーリー?そんなものはどうでも良い、私はエルファニングが見れたらいいんだ!という方は、絶対にチェックしておいてください。
本記事は作品のネタバレになるような内容を一部含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『ティーンスピリット』
あらすじ
ポーランド系移民として母子家庭で育った少女ヴァイオレット・ヴァレンスキは、小さな島で平凡な毎日を過ごしていたが、いつか歌手になることを夢見ていた。
しかし、彼女を育てる母マーラは、歌手になる夢を認めようとせず、歌いたいのなら聖歌隊でと言うだけである。
町はずれの小さな酒場で少しの観客を前に歌手活動をしていたが、ほとんど見向きもされることもない。
そんなある日、彼女は街の看板に「ティーンスピリット」というオーディションイベントの広告が掲載されているのを目撃する。
母の反対もあったため、参加を躊躇う彼女だっだが、ダメもとで応募し、オーディションに参加したところ最終審査に残ることとなった。
保護者が必要であると言われ、母に相談することができなかった彼女は、酒場でいつも彼女の歌を聞いてくれていたヴラッドに同伴を依頼する。
元オペラ歌手だった彼がヴァイオレットの歌唱を指導するようになり、その活動を渋々ながら認めてくれた母の後押しもありながら、彼女はロンドンでのテレビ出演をかけた最終審査に挑むのだが・・・。
スタッフ・キャスト
- 監督:マックス・ミンゲラ
- 脚本:マックス・ミンゲラ
- 撮影:オータム・デュラルド
- 音楽監修:スティーブン・ギシュツキ
マックス・ミンゲラは元々俳優としていくつか映画に出演してきていて、2018年に日本でも公開された『ルイの9番目の人生』という作品で脚本を担当し、今作で監督を務めるに至りました。
そして何と言っても彼は主演のエルファニングの恋人であると言われています・・・。
しかも年齢が、マックスは34歳でエルは22歳ということでかなり歳の差があるカップルでもありますね。
監督と出演している女優が恋愛関係になるのは、ハリウッドではよくある話ですが、ファンとしては複雑な気持ちですね(笑)
撮影監督には、オータム・デュラルドが起用されており、エルファニング演じるヴァイオレットの内面を引き出すショットを多く撮り、そしてその閉塞感を爆発させる圧巻のライブシーンを見せてくれました。
音楽観集には『ラ・ラ・ランド』の音楽の監修も担当したスティーブン・ギシュツキが加わっています。
- ヴァイオレット・ヴァレンスキ:エル・ファニング
- ジュールズ:レベッカ・ホール
- ヴラッド:ズラッコ・ブリッチ
- マーラ:アグニェシュカ・グロホウスカ
- ロキシー:クララ・ルガアード
監督のとにかくエルファニングが撮りたいんだ!という思いが炸裂したような作品でしたので、途中から「監督、他のキャスト撮る気ないでしょ(笑)」とツッコミたくなりました。
それくらいに主演の彼女にひたすらフォーカスした歪な作品ではありましたが、脇を固めるキャストも個人的に好きでした。
まずヴァイオレットの母親役のアグニェシュカ・グロホウスカはアンジェイワイダ監督作品にも出演していた女優で、母子家庭で苦労してきた彼女なりの娘への愛情が伺える素晴らしい演技でした。
また彼女のマネージャー役を務めるズラッコ・ブリッチはニコラス・ウィンディング・レフン監督の『プッシャー』シリーズに出演していることでも知られていますね。
より詳しい情報を知りたいという方は、映画公式サイトへどうぞ!
『ティーンスピリット』感想・解説(ネタバレあり)
本当にエルファニングを撮ることにしか興味がない映画
(C)2018 VIOLET DREAMS LIMITED.
監督のマックス・ミンゲラがエルファニングの恋人であると言われていることにも起因しているのだと思いますが、今作『ティーンスピリット』はとにかく彼女を撮ること以外に全く興味がないのではないかと感じさせられます。
もちろん本作が90分尺の比較的短めの映画であるという事情もあるとは思います。
今作のストーリーにおけるメインラインは大きく分けて3つありますよね。
- ヴァイオレットのサクセスストーリー
- 母マーラの出て行ってしまった夫への思いの帰結
- ヴラッドが距離を置いてしまった娘との関係の帰結
この3つがリンクしながらラストに向かって進行していくというのが、『ティーンスピリット』の主な流れになリます。
まず、1つ目の「ヴァイオレットのサクセスストーリー」については映画のほとんどの尺を割いて、丁寧に描かれているので問題ないでしょう。
母マーラが出て行ってしまった夫に対して抱いている思いであったり、終盤にかけて、その思いがどう帰結していくのかについては、かなり想像の部分に委ねられている部分が多いので、もう少し描写が必要かなと感じました。
そこを描けていないと、彼女がヴァイオレットが「歌手」になって家から飛び出してしまうことに対して強く反対している心情もぼんやりしてしまうでしょう。
また、ヴラッドと彼の娘の関係についても、彼がなぜ距離を取ることになったのかについても、あまり描かれず、大半が想像での補完に委ねられていることも映画としては物足りない印象を受けました。
というより「ヴァイオレットのサクセスストーリー」だけを描いていたいのが本音で、ただそれだと映画が成立し得ないので、少しだけ彼女の家族と師のエピソードを描いてみましたという、それくらいの思い入れしか感じないんですよね・・・。
それは「ティーンスピリット」の番組での歌唱パフォーマンスシーンにも如実に表れていて、今作はヴァイオレット以外のパフォーマンスをほとんど登場させていないんですよ。
このタイプのコンペティション映画はどう考えても、対戦相手のイメージを掴めなければ、観客は乗りづらいんです。
ミュージカル映画の『ピッチパーフェクト』もかなりライバルの描写には力を入れており、尺もかなり割いていましたが、これが本当に映画として大切だったことに気がつかされます。
『ティーンスピリット』には、それらが全くもってなく、ひたすらにヴァイオレットのパフォーマンスだけを映し出していくので、彼女が一体何と戦っているのかもよく分かりませんし、オーディションを戦っているというリアル感も薄いのです。
それだけ本作は、ひたすらにエルファニングだけを撮っていたかったんだろうな・・・という思いが透けて見えてしまいます。
だからこそ本作はエルファニング好き以外には勧めづらい映画なのです(笑)
自分を信じることの大切さを描く
先ほども本作には3つのストーリーラインがあるということをお話させていただきましたが、これらは全て「自分を信じることの大切さ」というテーマに紐づけられています。
ヴァイオレットは歌手になりたいという夢はありますが、自分に自信を持てず、オーディションに参加することすら躊躇っている状態でした。
彼女は確かに才能があるわけですが、それを自分自身が信じられていない状態なのだと思います。
だからこそ、自分には才能があると言ってくれたヴラッドに強く傾倒するようになりましたし、ロンドンで契約したいと言ってくれたレコード会社の人にすぐに依存しそうになってしまいます。
そして母のマーラは、自分の下を離れて行ってしまった夫の存在に今もなお囚われ続けているようです。
自分のことを信じることができず、ひたすらに夫のことを信じて待ち続けている様は見ていて哀しくなりますし、だからこそ彼女は夫との思い出の品である十字架のペンダントを持ち続けていました。
ヴラッドもまた自分が娘と関わり続けることに対しての自信を喪失している状態と言えます。
パリにいる管弦楽団に入り、成功している娘にとって自分の存在は邪魔なのではないかと感じ、会いに行く自信を持つことができないのです。
だからこそ彼は、ヴァイオレットに自分の娘の姿を重ね、彼女に関わることで、娘と距離を取っていた自分を許そうとしていたようでもありました。
つまり、この3人のキャラクターの共通点は、自分に対して自信が持てず、他人に強く依存することで、自分を安心させようとしているところなのです。
『ティーンスピリット』の物語は、そこからの脱却を終盤にかけて描いていきます。
マーラは、ヴラッドに「あなたは毎日花を贈られるべき女性だ。」と言われていたこともそうですが、夫の残したペンダントをヴァイオレットに託すことで、夫への思いを断ち切ろうとしました。
一方で、ヴラッドはヴァイオレットに関わる中で、レコード契約の話がありながらも、それでも自分と一緒に活動を続けていきたいと言ってくれたことで、自身を取り戻し、パリにいる娘に会いに行く決断をします。
そして何と言っても物語の主軸にいるのは、ヴァイオレットです。
彼女が、自分に自信がないが故に依存しようとしていたものは、「十字架のペンダント」「ヴラッドの存在」「レコード契約」の3つだと思います。
彼女は、両親の反対を振り切って、強引に歌手の夢を追うという決断ができるほど、自身があったわけではなく、それ故に家族に後押しされることを強く望んでいました。
だからこそ「十字架のペンダント」は彼女にとって、母親が自分の背中を押してくれていることの証明なのです。
そして「ヴラッドの存在」「レコード契約」は、彼女に才能があると担保してくれるものですよね。
ヴァイオレットは自分に自信が持てないからこそ、自分を評価してくれる外部の存在に強く依存してしまうのです。
そんな彼女の心境はロンドンでの一連のシーンの中で、如実に表れていて、ペンダントがないことに酷く狼狽したり、レコード契約の話に安易に飛びつこうとしたり、また本番前にヴラッドが来てくれないことに動揺を隠せない様子でした。
それでも彼女は本番前に強く決意した様子で、ペンダントを外し、レコード契約を断り、最終審査のステージに立ちます。
圧巻のパフォーマンスを披露し、優勝した彼女は、バックヤードでヴラッドと抱き合い、彼にこれからもマネージャーを続けて欲しいと願うわけですが、彼はすぐにそこから去ってしまいます。
エンドロールで、彼女が歌手活動を始めたことが仄めかされますが、ヴァイオレットが歌手として大成するために、最後に依存を断ち切らなければならなかったのが、自分の存在であるとヴラッドは感じ取っていたのかもしれません。
このように本作『ティーンスピリット』はヴァイオレットが3つのことを断ち切り、自分自身に自信が持てるようになるまでのイニシエーションとサクセスストーリーを見事に描き切っています。
かなり薄味で、特にヴァイオレット以外の2人の物語は描写がかなり不足気味だとは思いますが、3つの物語をリンクさせてラストできちんと昇華させるという構造は非常に良かったと思います。
本作で登場した4つの楽曲について
(C)2018 VIOLET DREAMS LIMITED.
今作『ティーンスピリット』は、基本的にエルファニングが自ら歌唱とパフォーマンスをしたことでも大きな話題になった作品です。
その中で、彼女がステージで披露したのは、次の4つの楽曲です。
- I Was a Fool / Tegan & Sara
- Dancing on My Own / Calum Scott
- Lights / Ellie Goulding
- Don’t Kill My Vibe / Sigrid
まず、1曲目の寂れた島の酒場で歌っていた「I Was a Fool 」は王道の失恋ソングテイストですが、自分に自信を持てないヴァイオレットの心情を直接的に反映したものともいえますね。
次に2曲目の「Dancing on My Own」ですが、この楽曲は次の歌詞が非常に印象的です。
I’m right over here, 僕はまさにここにいるのに
why can’t you see me, oh なぜ君はこっちを見てくれないんだ
And I’m giving it my all, 僕は全てを捧げてる
but I’m not the guy you’re taking home, ooh でも,君が家に連れて行くのは僕じゃないんだね
こちらも失恋ソングなのですが、ヴァイオレットが「ティーンスピリット」というオーディションが自分を違う世界へと連れ出してくれることを期待しているような心情を感じさせます。
ただ、自分に自信が持てない彼女は、「君が家に連れて行くのは僕じゃないんだね」という歌詞に、自分はオーディションで選ばれたりはしないんだろうという弱気な感情を乗せてしまうのです。
また、この時の彼女のステージでのパフォーマンスに注目していただけると印象的なのが、目を閉じて自分の世界で歌っているという出で立ちです。
「Dancing on My Own」には、こんな歌詞があります。
I keep dancing on my own 僕は1人虚しく踊り続けるんだ
後に、ヴラッドが彼女に目を開けて観客を意識して歌うことが大切だと語っていましたが、この時点の彼女はまさに「1人踊り続けていた」わけで、その状況をも見事に歌詞が代弁しています。
そして3曲目がロンドン行きをかけた予選で彼女が歌った「Lights」という楽曲ですね。
この楽曲で特に印象的なのが、下記の歌詞でしょうか。
You show the lights that stop me turn to stone あなたの光は私が石になるのを止めてくれる
You shine it when I’m alone 孤独な時にあなたが私を照らしてくれる
それまでヴァイオレットは孤独に自分の夢に葛藤してきたわけですが、ヴラッドが彼女の才能を認めてくれ、歌唱のトレーニングを担当してくれました。
そんな彼への思いも内包されていると考えると、非常に感慨深く感じる楽曲ですよね。
そして何と言っても終盤にヴァイオレットがロンドンで披露する「Don’t Kill My Vibe」は最高ですね。
「Vibe」という語は英英の定義では「a distinctive emotional aura experienced instinctively」と説明されており、「(人・場所から受ける) 雰囲気, 感じ」という意味を持っているとされます。
ですので、「Don’t Kill My Vibe」という言葉そのものが、「自分のオーラや魂を殺さないで!」という強いメッセージに満ちていて、これはまさにヴァイオレットが自信を確立しつつあるからこそ映える1曲なのです。
このように主人公の心情の変化や成長にマッチした4曲が選曲されており、非常に効果的に機能していることも評価できるポイントでしょう。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『ティーンスピリット』についてお話してきました。
正直ストーリーはかなり薄味で、あまり印象には残らないものでしたが、エルファニングを大量に摂取出来て幸せなのでOKですという感じの映画でした(笑)
スクリーンでエルファニングを存分に拝んでおきたいという方は、見に行っておいて損はない作品です。
『ラ・ラ・ランド』のスタッフが!!という点を日本の宣伝では強く打ち出していますが、本作はミュージカル映画ではありません。
あくまでも「音楽映画」ですので、その点にはご注意ください。
ただし、エルファニング自身が歌唱やダンスを担当しているので、その点については非常に見応えがありますし、何よりキュートです!
興味のある方はぜひチェックしてみてください。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。