みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね映画『グッドライアー』についてお話していこうと思います。
予告編の時点では、『鑑定士と顔のない依頼人』を想起させるような大人のラブゲームという印象で、非常に内容が気になっておりました。
この手のどんでん返しものは「話が読めた・読めない」で評価されるという何とも残酷な運命にあるわけですが、基本的に当ブログ管理人としては、そこを重視するつもりはありません
話が読めたとしても演出が優れており、それをきちんと見せるだけの工夫がなされていれば、映画としては「優れている」と評して問題ないと思います。

うん。めちゃくちゃ話が読めますね(笑)

もちろんそこが低評価に直結するというわけではないので、ご安心ください。

演出はダメダメでした。

つまり、単純に映画としても、いわゆる「どんでん返し」モノとしてもイマイチだったということです。
正直もっとプロットにひねりを効かせるべきなのはもちろんとして、演出力不足が顕著に表出した映画ですし、それ故に見ていて退屈という状況でした。
そんな映画『グッドライアー』について今回は少しお話していこうと思います。
本記事は作品のネタバレになるような内容を含む感想・解説記事となっております。
作品を未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『グッドライアー』
あらすじ
夫を亡くした資産家であるベティと詐欺師のロイは、インターネット上の出会い系サイトを通じて知り合う。
食事を重ねていくうちに2人は距離を縮め、足の不自由なロイを不憫に思ったベティは彼を家に住まわせることにする。
ベティが資産家であることに気がついた彼は、投資系の詐欺師の友人と結託して彼女から資産を強奪しようと画策し始めた。
彼女は、すぐにその投資話に乗ることはなかったが、関係性が親密になっていくにつれて、徐々に前向きになっていく。
順調に進んでいたかに思われていた計画だったが、彼女の息子のステファンの存在が足枷となり、なかなか大胆な手を使えずにいた。
そんな時、ステファンも交えた3人で旅行をすることとなり、その際に訪れたベルリンでロイのとんでもない過去が暴かれてしまう。
彼の詐欺計画の行方は・・・?
スタッフ・キャスト
- 監督:ビル・コンドン
- 原作:ニコラス・サール
- 脚本:ジェフリー・ハッチャー
- 撮影:トビアス・シュリッスラー
- 編集:バージニア・カッツ
- 音楽:カーター・バーウェル

まず、本作『グッドライアー』の原作はニコラス・サール著の『老いたる詐欺師』です。
いつもは映画を見る時は、原作もチェックするように心がけてはいるんですが、今回は時間が足りず読めておりません。
そして、監督を務めるのが『ドリームガールズ』『美女と野獣』『グレイテストショーマン』などで知られるビル・コンドンです。
『シカゴ』で脚本を担当したことも含めて、やはりミュージカルのイメージが強い監督なので、こういった人間ドラマのイメージが薄いですよね。
今作『グッドライアー』は明らかに演出力不足を感じてしまったので、その点ではジャンル的な不得手なのではないかと感じてしまいました。
そして脚本には、以前にもこの監督と『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』でタッグを組んだジェフリー・ハッチャーが起用されています。
撮影と編集には、実写版『美女と野獣』のトビアス・シュリッスラーとバージニア・カッツの2人がクレジットされています。
劇伴音楽を担当したのは、『スリービルボード』や『キャロル』のカーター・バーウェルでした。
- ベティ:ヘレン・ミレン
- ロイ:イアン・マッケラン
- ステファン:ラッセル・トベイ
- ヴィンセント:ジム・カーター

主人公のベティとロイを演じるのは、ヘレン・ミレンとイアン・マッケランです。
ヘレン・ミレンはやはり『クィーン』での名演が有名で、アカデミー賞主演女優賞も受賞しています。
イアン・マッケランは『アマデウス』ブロードウェイ公演でトニー賞の男優賞を受賞し、映画でも幾度となくアカデミー賞にノミネートされるなど、英国を代表する名優として知られています。
そこに『ダウントンアビー』のジム・カーターも加わり、映像に重厚感が増しています。
演出的な乏しさが目立ちながらも何とか映画としての体裁を保つことができたのは、この俳優陣の技量ありきかなとも思います。

『グッドライアー』感想・解説(ネタバレあり)
嘘をつくと宣言されたらその嘘はもう真実
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
この映画は予告編の時点である種の「どんでん返し」がありますよという触れ込みをしている映画なので、観客もやはりそこを期待して見に来ると思うんですね。
それを前情報として期待させた以上、作り手としては「伏線を張りつつも予測がつかないような展開を用意する」「演出面で工夫を施し魅せるドラマを作る」のどちらかは満たす必要があると考えます。
ただ、『グッドライアー』という作品は、そもそも予告編の時点でもそうですし、本編の序盤も序盤から「世間知らずで孤独な未亡人」という設定のベティが「私も嘘をついてますよオーラ」をビンビンに出しているわけです。
そうなって来ると、「彼女が嘘をついていました!実は~」というのは、観客にとって「どんでん返し」にはもはやならないわけですよ。
冒頭から意味ありげな表情をたびたび披露し、彼女の家の前には謎の車が止まっており、まるでロイを監視しているようであるという状況が序盤から露呈されるわけですから、そりゃそうでしょと。
もし、前者のアプローチを取るのであれば、もっとベティには「世間知らずで孤独な」という部分が観客に伝わる演技をして欲しかったですし、序盤からあからさまに彼女が嘘をついているフラグを乱立させないで欲しかったですね。

つまり『グッドライアー』が選べ得るのは、展開が観客の予想の範疇に収まることは織り込み済みで、「演出面で工夫を施し魅せるドラマを作る」アプローチだったと思うんです。
ただ、肝心のドラマパートは、基本的にヘレン・ミレンとイアン・マッケランの演技ありきでしたし、単調な会話シーンを特に撮影や演出の工夫もなくダラダラと続けていくだけで、見ていて退屈さを感じずにはいられません。
また、先ほども書きましたが、ベティがあまりにも「嘘をついてますよオーラ」を漂わせすぎていて、それがすごく気になってしまうんですよ。
嘘をつきますよと宣言された後に、「嘘をつくこと」はもう真実じゃないですか(笑)
ヘレン・ミレンも含みを持たせた演技をして欲しいと言われているのだとは思いますが、演出や撮影にしても彼女には影があるのだという点を冒頭から描きすぎているように思います。
そのため、作品の終盤に彼女が嘘をついていましたと発覚したところで、観客としては「うん、そうだよね。」としかならないんですよ。
そして、後に述べる内容にもつながってきますが、本作の主題性を鑑みても、ヘレン・ミレン演じるベティは、もっと「無垢で騙されやすい」キャラクターとして演出されていても良かったと思うんです。
消えない罪、騙されてきた女性が立ち上がる
(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
『グッドライアー』という作品は、ミステリ的なテイストこそ漂わせていますが、その実情は、女性ヒーロー映画に近いと思っています。
本作におけるベティというキャラクターは、これまで男性に虐げられ、騙され、性的に搾取されてきた女性の象徴とも言えます。
彼女は、幼少期にロイ(かつては名前が違いましたが)と家庭教師と生徒の関係で出会い、その際に部屋でレイプされるという辱めを受けました。
しかし、彼女はそれが恥ずかしいことだと思い、誰にも打ち明けることができず、それに加えてロイが家業について密告をしたことから、彼女の家族は没落しバラバラになってしまいました。
ただ、彼は自分が過去にそんなことをしたなんて覚えてもおらず、加えてナチスの戦争犯罪人を逮捕するための作戦中に死んだ仲間の名前を奪い取って生活をしていました。
傷つけた側の男性はすぐに忘れてしまうのに、傷つけられた側の女性はそれを誰にも打ち明けることができず、抱え込んで生きていくことしかできませんでした。
今のハリウッド映画界を見てみると、ワインスタインの失脚劇を見てもそうですが、「Metoo運動」なども活発化し、男性が過去に犯しながら、握りつぶしてきた罪の一端が明るみに出るようになってきました。
そんな流れを受けて作られたのが、今作『グッドライアー』のようにも感じられます。
ベティをずっと苦しめてきたロイという男の存在。そんな彼に、彼女が長い年月を経て復讐を果たすのです。
今作が描いているのは、まさに犯した罪はそれを贖おうとしない限りは消えることがないのだというメッセージだと感じました。
新約聖書の『コロサイ人への手紙』を読んでみると、こんな一節があります。
互にうそを言ってはならない。あなたがたは、古き人をその行いと一緒に脱ぎ捨て、
造り主のかたちに従って新しくされ、真の知識に至る新しき人を着たのである。
(『コロサイ人への手紙』より)
キリスト教の価値観に基づいて考えても、やはり「嘘」は認められないものと言う側面があり、ベティをレイプしたという事実に蓋をして生きていくことは認められません。

女性側の発言が認められず、かえって虐げられるような状況があったからこそ、自分が辱めを受けたという「真実」を明るみに出すことができなかったのです。
そんな時代が少しずつ変わりつつあり、だからこそベティはそんな時代の象徴とも言える人物となり、ロイという男にリベンジを果たすのであります。
最後の最後に、彼の金をすべて奪い取るのではなく、彼が直近で犯した詐欺で被害に遭った人に対する返済用のお金だけを口座に残しておくというのが、またクールでしたよね。
そういう意味でも、本作はさながらヒーロービギンスのような映画だったと言えるかもしれません。
そして、こういったテーマの作品だからこそ、先ほども書きましたが、ベティはもっと純粋なキャラクターとして描かれていた方が良かったと思うんです。
その方が、いわゆる男性がこれまで女性に当てはめてきた旧来的な女性像にマッチしましたし、そこからの話の転換も際立ったと感じます。
主題性がと演出、演技が少しマッチしていないように感じられたのはこのためです。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画『グッドライアー』についてお話してきました。
題材もテーマ性も良かっただけに、演出面や撮影面でもう少し魅せる工夫があれば・・・とは思ってしまいますね。
決して駄作とかそういうわけではないんですが、もっと面白くなる要素がたくさんあったように感じられるだけに惜しい作品だと思います。
ビル・コンドン監督は、どちらかというと細かい演出や繊細な感情の作劇に長けたタイプではないのかもしれません。
彼のミュージカル映画は非常に優れていますが、演出は確かに大味ですし、作品のビジュアルや勢いで突き抜けるようなところはこれまでの作品でも見え隠れしていた点です。
ジャンルが変わり、その良くなかった部分が前面に出てしまい、逃げも隠れもできない状況でしたね。
ビル・コンドン監督には、とりあえずまた純粋に楽しめるようなエンタメミュージカルを撮って欲しいです。
また、劇中で2人が鑑賞していた『イングロリアス・バスターズ』も合わせてチェックしてみてください。
こちらの作品は、ナチスドイツを題材にし、それを現実とは違う結末に向かうように脚色したタランティーノ監督の映画です。
今回も読んでくださった方、ありがとうございました。