みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね公開からかなり経過しましたが「スパイダーマン ホームカミング」について軽くお話してみようかと思います。
サムライミ監督のナイーブなスパイダーマン像が浸透したこともあり、今回の新スパイダーマンのポップさは否定的に受け止められる可能性もあります。
しかし、本来アメコミ段階でのスパイダーマンないしピーター・パーカーのイメージは今回の「スパイダーマン ホームカミング」が一番近いと言われています。
『キャプテンアメリカ シビルウォー』で初参戦となった、新しいスパイダーマンが活躍した本作について、今回は自分なりの考察をまとめさせていただきました。
短めの解説・考察になりますが、本編の内容に踏み込んで書いていきますので、ネタバレを含みます。作品を未鑑賞の方はご注意ください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『スパイダーマン ホームカミング』
あらすじ・概要
サム・ライミ監督&トビー・マグワイア主演の「スパイダーマン」(2002~07)、マーク・ウェブ監督&アンドリュー・ガーフィールド主演の 「アメイジング・スパイダーマン」(12~14)に続き、3度目の映画化となる新たな「スパイダーマン」。
主人公スパイダーマン=ピーター・パーカー役には、「インポッシブル」のトム・ホランドを抜てきし、「アベンジャーズ」シリーズをはじめとした、同じマーベルコミック原作の作品同士で世界観を共有している「マーベル・シネマティック・ユニバース」に参戦。
16年に製作・公開された「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」で初登場を果たした後のスパイダーマンの戦いを描く。
ベルリンでのアベンジャーズ同士の戦いに参加し、キャプテン・アメリカのシールドを奪ったことに興奮するスパイダーマンこと15歳の高校生ピーター・パーカーは、ニューヨークに戻ったあとも、トニー・スタークからもらった特製スーツを駆使し、放課後の部活のノリで街を救う活動にいそしんでいた。
そんなニューヨークの街に、トニー・スタークに恨みを抱く謎の敵バルチャーが出現。ヒーローとして認めてもらい、アベンジャーズの仲間入りをしたいピーターは、トニーの忠告を無視してひとりで戦いに挑むのだが……。
悪役のバルチャーを演じるのは、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のマイケル・キートン。監督は、ミュージックビデオ出身で「クラウン」「COP CAR コップ・カー」で注目された新鋭ジョン・ワッツ。
(映画com.より引用)
予告編
『スパイダーマン ホームカミング』解説・考察(ネタバレあり)
ヒロイックとパーソナルの二層構造について
「スパイダーマン」の醍醐味と言えば、やはり普通の人間として生きるか、それともヒーローとして生きるかという2つの世界における葛藤なんですよね。
サム・ライミが描いたナイーブで内省的なピーターパーカー像は観客にとっても等身大のヒーロー像であり、「親愛なる隣人」として多くの人の共感を獲得しました。
「アメイジングスパイダーマン」シリーズに入ると主人公の学校生活にもよりフォーカスが当たるようになり青春映画としての側面が強まりました。
ティーンエイジャー特有の若さや弱さとスパイダーマンとしての圧倒的な力の間に苦悩する新たなピーター像がここで描かれました。
さてそんなこれまで5本の映画が世に送り出されてきた「スパイダーマン」シリーズの最新作が「スパイダーマン ホームカミング」に当たるわけですが、本作も「アメイジングスパイダーマン」シリーズ同様に主人公の青春映画としての側面ががなり強まっています。
純粋にヒーローに憧れ、周囲に与える影響や、自分の未熟さを顧みず、ただただ悪を打倒するという行為に傾倒していく本作のピーター・パーカーにはこれまでの2シリーズと比べてもより一層若さを感じます。
そして本作の非常に興味深いポイントは多くの点で物語がヒロイックなレイヤーとパーソナルなレイヤーの二層構造から構成されているところです。
ヒロインのリズとの関係性
まず第一に、好意を寄せる女性リズとの関係性が二層の構造になっています。
(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved. 映画「スパイダーマンホームカミング」予告編より引用
リズは本作の冒頭でスパイダーマンに好意的な感情を持っていることを明らかにしています。
そのためピーターは冴えない自分のままでは彼女を振り向かせられないが、自分がスパイダーマンであることを明かせば、彼女を振り向かせられるのではないかと葛藤します。
その後トニーに未熟者だと叱責を受け、スーツを剥奪されると、何とか自分の力でリズをものにしようとホームカミングデイのパーティに彼女を誘います。
この試みが実を結ぶかと思われたその瞬間、一瞬にしてそれが水泡に帰します。何とリズの父親はトゥームス、つまりヴァルチャーだったのです。
つまり本作の冒頭時点では、スパイダーマンであることを明かせばリズを振り向かせる可能性があるという状況だったにも関わらず、物語の後半でスパイダーマンであるがゆえにリズと恋仲になれないことが決定的になったのです。
彼は普通の青年ピーター・パーカーとして生き、リズと恋仲になるか、それともスパイダーマンとして生き、リズの父親の野望を止めるのか、その二択を迫られます。彼がトゥームスの車を降りて、リズの下へと向かうシーンのピーターの表情は非常に印象的です。
結果的に彼はヒーローとしての道を選び、トゥームスの野望を食い止めるも、リズと恋仲になることは叶いません。ヒロイックなレイヤーでは彼は確かに何かを成し遂げました。
しかしパーソナルなレイヤーで見ると、彼は恋人を手に入れることができなかったわけです。
青春映画とヒーロー映画の両面性
第二に、青春映画とヒーロー映画の二層構造が明確に存在しています。
(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved. 映画「スパイダーマンホームカミング」予告編より引用
これは「スパイダーマン」シリーズでは毎度お馴染とも言える作品構造ですが本作では特に青春映画のパートが強調されたことで、その2つのレイヤーが一層際立っています。
そして本作においてピーター・パーカーの課題となったのは責任感でした。パーソナルなレイヤーで見ると、彼は母親との約束を守らず、学校でも規則を守らず、友人やリズとの約束も放棄します。
一方でヒロイックなレイヤーで見ても彼は独りよがりで、自分の力を過信し、周囲の人を傷つけてしまうですとか、自分の戦いに他人を巻き込んで殺してしまうかもしれないという責任感が欠如しています。
つまり本作はパーソナルなレイヤーとヒロイックなレイヤーの二層構造になっていますが、その2層の目指すゴールは互いに同じところに設定されています。
本編の終盤、学校から去っていくリズにピーター・パーカーは「自分を頼って欲しい。」と告げます。これまで彼女を裏切り続けてきた彼ですが、彼は仮にも彼女から父親と幸せな暮らしを奪った張本人でもあるわけです。
だからこそ彼は自分の等身大の言葉でリズに対して責任を負うわけです。
また彼はスタークからのアベンジャーズ加入の勧誘を断り、「親愛なる隣人」として地域の警備にあたることを告げます。これはこれまでの自分の力に対する過信や未熟さに彼自身がきちんと向き合ったことの証明であり、今自分の負うことができる最大限の責任を負うという宣言でもあります。
ヒロイックとパーソナルの2つのレイヤーが最後の最後で交錯し、彼は自らのパーソナルな力でヒーローとしての責任を負い、ヒーローとしての功罪からリズに対してパーソナルな責任を負うのです。
ヴァルチャーが孕むヴィランの顔と父の顔
そして第三に、主人公とヴィランの関係性が二層構造になっています。
これが本作の最も興味深いポイントだと思いました。
(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved. 映画「スパイダーマンホームカミング」予告編より引用
まずヒロイックなレイヤーにおけるスパイダーマンとヴァルチャーの関係性ですが、これ自体はよくあるヒーローとヴィランの関係性ですよね。
危険な兵器を作り、それを密売しているヴァルチャーとそれを阻止しようとするスパイダーマンという明確な勧善懲悪の構造が構築されています。
しかしここにパーソナルなレイヤーが絡んでくると、この構造は一層複雑化します。
ピーター・パーカーとトゥームスは彼がリズをホームカミングデイのパーティーに誘ったことでパーソナルな対面を果たします。そしてお互いに相手がスパイダーマンであり、ヴァルチャーであることを悟ります。
(C)Marvel Studios 2017. (C)2017 CTMG. All Rights Reserved. 映画「スパイダーマンホームカミング」予告編より引用
ホームカミングデイの会場に到着した車の中でトゥームスはピーター・パーカーに脅しをかけます。この時の彼は武器を密輸するといったヒロイックな事情からは解き放たれ、単純に家族を守る、娘を守るという動機からピーターに迫っています。つまり父親としての「娘に手を出すな。」という警告であるわけです。
一方でピーターにもリズへの恋路への障害として父親のトゥームスが立ちはだかることとなりました。
ヒロイックなレイヤーにおいて、彼を打倒すれば、恋路は叶わぬものとなり、パーソナルなレイヤーでリズと恋人になるには、スパイダーマンというアイデンティティを放棄せざるを得なくなるわけです。
さらに言うと、ここで善悪の構造も複雑化しています。パーソナルなレイヤーで見ると、ピーターはリズから家族を、父親を、幸せな暮らしを奪おうとしているヴィランとも捉えられるからです。
結果的に彼はヒーロとしての道を全うするわけですが、そこに至るまでに感じた迷いや葛藤は彼の未熟さを物語るものであり、彼がアベンジャーズへの加入を固辞する要因ともなっています。
このように「スパイダーマン ホームカミング」という作品の面白さは何といってもピーターのヒーローとしての物語と1人の青年としての物語が時に分離し、時に結び付きながら描かれるところにあります。
そして何より斬新なのが、ヒーローとヴィランがヒロイックなレイヤーのみならず、パーソナルなレイヤーにおいても正対するという構図です。この構造により本作は単純な勧善懲悪ヒーロー映画の域を脱し、より高次の視点へと到達しています。
おわりに
いかがだったでしょうか?
今回は『スパイダーマン ホームカミング』についてお話してきました。
「アベンジャーズ インフィニティウォー」に向けて劇場で鑑賞できなかったMCU作品を徐々に追いかけているのですが、「スパイダーマン ホームカミング」は非常に楽しめました。
確かに他の「スパイダーマン」シリーズと比べると、アクション的にも見応えが薄いですし、作品全体の軽さが目立ちます。ただ青春ヒーロー映画として非常に完成度が高いと思いました。
またマイケル・キートン演じるヴァルチャーは傑出したヴィランで、家族を守る父親としての顔と富裕層への強い反骨心を持ったヴィランとしての顔を併せ持っており、その表情の差異に鳥肌が立ちました。
あの終わり方をしておいて、「アベンジャーズ インフィニティウォー」にアイアンスーツを着てそのまま参戦というのは、正直納得がいかないので、ワンクッション欲しいところですが、果たして彼がアベンジャーズとして戦う動機はきちんと描かれるのでしょうか?
(C)Marvel Studios 2018. 映画「アベンジャーズインフィニティウォー」予告編より引用
その点も含めて非常に楽しみです。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
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