みなさんこんにちは。ナガと申します。
今回はですね本日公開の映画「パシフィックリム2:アップライジング」についてお話していこうと思います。
前作のような画的なクールさは大幅に減退しましたが、ロボットアクション映画としては、昼間のシーンも増え、見応えはありました。
あとは単純にプロットとしての出来で少し差が出てしまった印象はありますね。
そんな本作について今回は、自分なりに感じたことを書いていけたらと思います。
記事の都合上ネタバレを含む内容となります。未鑑賞の方はご注意ください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
「パシフィックリム2:アップライジング」
あらすじ・概要
人が乗り込み操縦する巨大ロボットのイェーガーと「KAIJU」と呼ばれる巨大モンスターの戦いを描いて話題となったSFアクション大作「パシフィック・リム」の続編。前作から10年後、平穏を取り戻しはずの地球に進化を遂げたKAIJUが現れたことをきっかけに、新世代のイェーガーに乗り込む若きパイロットたちの戦いを描く。「スター・ウォーズ フォースの覚醒」で一躍世界的に知られる存在となったジョン・ボイエガが主演を務め、スコット・イーストウッドや新田真剣佑が新たに参加。前作からはチャーリー・デイ、菊地凛子らが続投している。前作を手がけたギレルモ・デル・トロは製作にまわり、テレビシリーズ「デアデビル」などで知られるスティーブン・S・デナイトが監督を務めた。
(映画com.より引用)
予告編
「パシフィックリム2:アップライジング」感想・考察(ネタバレあり)
デナイトはデルトロ版第1作をリスペクトしていないようで実はしている!?
さて映画「パシフィックリム」と言うと、ある種のカルト的な人気を誇っている1作と言って差し支えないと思います。
それくらいにコアなファンを多く抱えている作品だと思います。
監督は超一流怪獣オタクのギレルモ・デル・トロ監督です。
先のアカデミー賞では「シェイプオブウォーター」で作品賞と監督賞を含む数々の賞を受賞しました。
ただそんな「パシフィックリム」の続編の監督はスティーブン・S・デナイト監督です。
彼は映画に関しては初監督だそうですが、来日した際のインタビューなどで日本の特撮や怪獣映画、アニメ等への思いを語っておられ、デルトロ監督に負けず劣らずのオタクだということが推測できました。
ただですよ。作品を見てみると、前作の良さが綺麗に消えてるんですよ・・・。
端的に言いましょう「パシフィックリム2:アップライジング」はKAIJU映画ではなくなり、ただのモンスター映画になってしまいました。
これは全作の怪獣要素を愛していた人からするとすごくがっかりしたポイントだと思うんです。
前作のOPのモノローグはギレルモ・デル・トロ監督が大好きな人であれば、それだけで泣いてしまうようなエモーショナルさを孕んでいます。
俺はガキの頃、不安や孤独を感じた時、星を見上げた。
「エイリアンはいるのかな?」と。
俺は間違った方向を見ていたんだ。
地球外生命体が現れたのは太平洋の底からだった
・・・(中略)・・・
パイロットたちは人気になった。
危機はイベントに変わり
怪獣はオモチャに
危機は去った・・・そう思われた
だが、あの日・・・全てが変わった
(映画「パシフィックリム」より引用)
これは幼少の頃から怪獣に心を奪われ、特に日本のアニメや特撮の大ファンだったというデルトロ監督が自身の過去を振り返っているようにも聞こえるモノローグなんですよ。
不安や孤独を感じた時に彼を救ってくれたのは怪獣だったとデルトロ自身もコメントしています。
だからこそ「シェイプオブウォーター」でアカデミー賞監督賞を受賞した時に「怪獣たちに感謝を」とコメントしていたのを聞いて、涙腺が緩みました。
彼の怪獣リスペクトはイェ―ガとKAIJUのバトルシーンにも多分に反映されていました。
「パシフィックリム」におけるバトルシーンは基本的に日本の特撮のような戦い方をするんですよね。相撲や柔道(柔術)などを想起させるような組み合いがあるのも1つの特徴ですし、剣を扱うシーンでは侍の抜刀のような構えと切り方を映像化していました。
他にもこの「パシフィックリム」という作品には彼の怪獣オタクとしての嗜好が多分に反映されていて、それがコアなファンを獲得することに繋がったんだと思います。
だからこそ今作「パシフィックリム2:アップライジング」は評価が割れるのも頷けます。
なぜならKAIJU映画では無くなったからです。
特にそれがよく分かるのがやはりバトルシーンなんですよ。
前作にあった日本の怪獣映画リスペクトの相撲や柔道(柔術)のような組み合いが排除されて、基本的にボクシングを模したような戦い方になり、剣術も西洋的なアクロバティックなものになり、イェーガーの動作も前作より自由度を増しています。
これでは普通のモンスター映画なんですよね。
ただKAIJU映画をモンスター映画にコンバートしてしまったデナイト監督がデルトロ監督や前作に敬意を払っていないのかと言うと決してそうではないと思います。
ニュートンがプリカ―サーに乗っ取られる
(C)Legendary Pictures/Universal Pictures. 映画「パシフィックリム2:アップライジング」予告編より引用
ニュートンがプリカ―サーに乗っ取られていたというのが本作「パシフィックリム2:アップライジング」の肝になってくるわけですが、これは思っているよりもずっと重要なコンテクストだと思うんです。
前作におけるこのニュートンというキャラクターについてデルトロ監督は「見た目は35歳、精神年齢は12歳だ。」とコメントしているんですね。そしてこのキャラクターは怪獣オタクです。
つまりこのニュートンはデルトロ監督自身を投影したキャラクターだと思うんです。イェーガーたちが力技でKAIJUに勝つのではなく、ニュートンのような怪獣オタクの力を借りて勝利するというところにデルトロ監督はロマンを感じていたのでしょう。
そんなニュートンというキャラクターが「パシフィックリム2:アップライジング」ではプリカ―サーに乗っ取られるわけですが。これってもしかしてデナイト監督流のデルトロリスペクトではないかと思うんです。
だって怪獣オタクを怪獣クリエイターにコンバートしたんですよ?これってある意味で怪獣オタクとしては本望だと思いませんか?
つまりデルトロ監督という一流の怪獣オタクを今作ではプリカ―サーに乗っ取らせて、KAIJUたちを指揮する立場に置くことで、デナイト監督は彼へのリスペクトを表明しているのではないでしょうか?
怪獣合体!!怪獣素材で作るイェーガー!!
(C)Legendary Pictures/Universal Pictures. 映画「パシフィックリム2:アップライジング」予告編より引用
本作「パシフィックリム2:アップライジング」での怪獣描写として最高にアガるシーンが怪獣素材で作られたイェーガーが暴走するシーンと怪獣が合体するシーンですよね。
これも日本の怪獣映画、アニメ、特撮へのリスペクトであり、同時にデルトロ監督へのリスペクトでもあると思っております。
まずイェーガーが暴走してKAIJUのように動き出すシーンは「新世紀エヴァンゲリオン」のビーストモードを想起させますよね。
またイェーガーにモンスターの脳や素材を使っているという設定が、日本のゴジラ映画に登場するメカゴジラ(機龍)を思い出させてくれます。
そして怪獣合体のシーンと言えば、日本の特撮、怪獣映画の定番ですよね。
こういった風に必ずしもKAIJUリスペクトないしデルトロ監督リスペクトはこの「パシフィックリム2:アップライジング」にも確かに息づいているんです。
しかもですよ、KAIJU由来のイェーガーもKAIJUの合体も全てニュートンの指示で作られたものなんですよね。彼がデルトモ監督の自己投影のようなキャラクターだと仮定するとより一層熱いですよね。
前作との戦いの構図の違い
(C)Legendary Pictures/Universal Pictures. 映画「パシフィックリム2:アップライジング」予告編より引用
前作「パシフィックリム」の戦いの焦点は割れ目を如何にして閉じて、人間の世界にKAIJUがやって来ることを防げるかという点でしたよね。
そのため人間側が大量の爆弾や核燃料を準備し、KAIJUたちが通ってきている割れ目へと向かい、そこで爆発を引き起こすことで割れ目を塞いで、KAIJUの侵入阻止に成功しました。
一方で本作「パシフィックリム2:アップライジング」の焦点はKAIJUたちが富士山に侵入してレアアースとの核融合爆発を引き起こせるかが焦点になっていました。
つまりKAIJUが人間のテリトリーへとやって来て、そして自分たちが通るための道を再び切り開こうとしているわけです。結果的にジェイクらの活躍でそれは阻止されました。
この違いが一つ重要だと思うんです。ここにデルトロ監督とデナイト監督の違いが見え透いているからです。
KAIJUオタクとイェーガーオタク
(C)Legendary Pictures/Universal Pictures. 映画「パシフィックリム2:アップライジング」予告編より引用
前作「パシフィックリム」に印象的登場したのが、先ほどから何度も名前を挙げているニュートンです。彼はKAIJUオタクで、デルトロ監督を投影したようなキャラクターです。
一方の「パシフィックリム2:アップライジング」に登場したのがアマーラで、彼女はロボットオタクなんです。対比するとしたら、これがデナイト監督を投影したキャラクターなのではないでしょうか?
デナイト監督はインタビューの中でこう語っています。
「『マグマ大使』には家族の大切さが描かれている。初代『ウルトラマン』は自己犠牲と義務の物語。」と。
つまりデルトロ監督とデナイト監督はひと口に日本の特撮・アニメ好きとは言えないと思うんです。
前者は根っからの怪獣好きである一方で、デナイト監督が魅力を感じているのはロボットやヒーローの方だとこのコメントから伺えるからです。
つまりオタクはオタクでもこの2人の監督のフォーカスは違うところにあるのだと思います。
まとめ
(C)Legendary Pictures/Universal Pictures. 映画「パシフィックリム2:アップライジング」予告編より引用
つまりここまでの4つの論拠を纏めて何が言いたいのかと言いますと、この「パシフィックリム2:アップライジング」という作品は確かにKAIJU映画としての魅力は大幅に減退しましたが、決してデルトロ監督や「パシフィックリム」1作目をリスペクトしていないわけではないということです。
愛は消えてなどいません。愛は確かに残っています。
ただその愛の形が変わっているんです。
この「パシフィックリム2:アップライジング」という作品は「怪獣オタクVSロボットオタク」「デルトロVSデナイト」「KAIJU VS イェーガー」という3つのレイヤーから構築されていると私は考えています。
まず第1に本作の主眼は間違いなくKAIJUからロボットへと移行しています。
主人公サイドに立つオタクがKAIJUオタクからロボットオタクに変換されたのも1つ重要なポイントでしょう。
また何よりバトルシーンのアクロバティックな動きはロボットの魅力を増大させるためのものでしょうし、だからこそロボットが映える昼間の戦いを選んだのも頷けます。
そして第2にデルトロとデナイトのオタク対決のレイヤーが存在していると思います。
デルトロ監督を司るニュートンというモンスターギークのキャラクターがプリカ―サー側につき、デナイト監督を司るロボットオタクのアマーラが人間側につきました。
つまりこの「パシフィックリム2:アップライジング」という作品の中でオタクによるオタクのための怪獣愛VSロボット愛が描かれているのではないかと思う次第です。
第3にもちろんKAIJUとイェーガーの戦いが存在します。
注目したいのは先ほど少し触れた戦いの構図なんです。
前作「パシフィックリム」はKAIJUを人間の世界から撃退し、海の中に帰すないし閉じ込めるという部分が作戦の焦点になりました。これはきわめて日本の怪獣映画に近いものを感じますし、やはり海に帰ると言えばゴジラなんですよ。
デルトロ監督のフォーカスはやはり怪獣にあるんだと思います。
一方で「パシフィックリム2:アップライジング」は富士山を防衛するという点が焦点になっています。これって言わば人間の立場から見た「大切なものを守る戦い」なんです。
つまりKAIJUに焦点があるのではなくて、あくまでもそKAIJUから地球を防衛する人間側にデナイト監督はフォーカスしていると思いました。
だからこそ本作がKAIJU映画として弱くなったのは必然なんですよ。
デナイト監督が描こうとしたのは、フォーカスしたのはあくまでもイェーガーだったのですから。そしてデルトロ監督という怪獣ギークを敵に据えることで、彼へのリスペクトを表明するとともに、彼を超えることで自分の作家性を表現しようとしたのではないかと思いました。
インタビューの中でデナイト監督がデルトロ監督の前作を超えるものを作りたいという思いをコメントの節々に感じたのもこのためだったのでしょう。
自分のアイデンティティたるロボット愛で、デルトロ監督の怪獣愛を超えて見せる!!
やはり「パシフィックリム2:アップライジング」も愛に溢れた作品だと思います。
前作より改善されたポイント
(C)Legendary Pictures/Universal Pictures. 映画「パシフィックリム2:アップライジング」予告編より引用
比較的批判的な論調が強い本作ですが、前作よりも改善された部分はありましたよ。ま
ずやはりバトルシーンですよね。
日本の怪獣映画オマージュが存分に感じられた前作の立ち回りは失われましたが、同時にアクロバティックな動きをイェーガー達が獲得し、戦闘シーンのダイナミズムが大幅に増大しています。
またバトルシーンが昼間に設定されたことで、イェーガーたちの造形や戦闘モーション、エフェクトその他諸々が鮮明に見えるようになり、視覚的な快感がこれまた大幅に増大しました。
また前作に感じた個人的な弱点が作品内に起きている怪獣襲来が地球ないし人間に与えている損害の程度の分かりにくさなんですよね。香港が陥落すれば世界が滅ぶという状況をいまいち説明しきれていないので、最終決戦感がまるでないですし、世界観がすごくミニマルで閉じたものに感じられます。
一方の「パシフィックリム2:アップライジング」は世界観はミニマルで閉じたままなんですが、より戦いの構造を単純明快にしているのが良いですよね。
今作の戦いの焦点は富士山を防衛できるか、それともできないかの二択ですし、他の世界がどんな状況になっていようと、防衛できなければ地球規模の崩壊が起こるということが解説されていますから最終決戦感が非常に伝わってくるんですよね。
もう1つは前作はエリートパイロットたちがかき集められて最終決戦に挑んだというシチュエーションだったのに対して、今作は落ちこぼれ、落第生や訓練生の寄せ集めで最終決戦に挑んでいるんですよね。
デナイト監督が「スパルタカス」というスパルタクスの乱をモチーフにした奴隷蜂起の物語をドラマ化したことを考えるとこのキャラクター配置は腑に落ちます。
名も無き雑兵たちが英雄になるために戦うということでその姿がスパルタクスに重なり、一層魅力的に見えました。
この檻に入れられているシーンも「スパルタカス」感ありますね。
(C)Legendary Pictures/Universal Pictures. 映画「パシフィックリム2:アップライジング」予告編より引用
粗に関しては指摘すればいくらでもあるような気はしますが、この作品に関しては愛だけを語りたいと思ったので、止めておきます。
おわりに
いかがだったでしょうか。
今回は映画「パシフィックリム2:アップライジング」についてお話してきました。
確かに前作「パシフィックリム」に比べてKAIJU映画としての魅力は格段に下がり、ほとんど無くなってしまったかもしれません。
ただ「愛がない」なんて言っている人はちょっと待ってくれ。
愛はあるぞ。
デルトロ監督とデナイト監督の怪獣・特撮・アニメ愛のベクトルはひと口に同じとは言えないのです。だからこそデナイト監督はその違いを利用して、作品の中でその2つを対立させることで物語を構築しようとしたのではないでしょうか?
名も無き雑兵たちというのは、映画初監督であるデナイト監督自身にも重なります。
そしてそんな彼が今やアカデミー賞監督にまでなったデルトロ監督を超えてみせる!!という決意を表明したのが「パシフィックリム2:アップライジング」でもあると思うんです。
だからこそ愛はあるんです。
賛否は別れると思いますが、私は大好きですね。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。