みなさんこんにちは。 ナガと申します。
今回はですね映画『バーフバリ2 王の凱旋』についてお話してみようかと思います。
話題になっていた作品なので前々から見たいと思っていたのですが、なかなか見る機会に恵まれず、ようやくもって鑑賞することが出来ました。
今になって鑑賞すると、スケールも大きな作品ですし、どうしても劇場で見ておけば良かったという後悔の念が強いですね。
2部作としての完成度も凄まじいですし、映画としての規模感は『スターウォーズ』級と言っても過言ではないほどです。
そんな本作について、感情そのままにというよりは、少し冷静な考察という形で書いていきます。
本記事ではネタバレになるような内容も含みますので、未鑑賞の方はお気をつけください。
良かったら最後までお付き合いください。
目次
『バーフバリ2 王の凱旋』
あらすじ・概要
伝説の戦士バーフバリの壮絶な愛と復讐の物語を描いてインド映画史上歴代最高興収を達成し、日本でもロングランヒットを記録したアクション「バーフバリ 伝説誕生」の完結編となる第2作。
蛮族カーラケーヤとの戦争に勝利してマヒシュマティ王国の王に指名されたアマレンドラ・バーフバリは、クンタラ王国の王女デーヴァセーナと恋に落ちる。
しかし王位継承争いに敗れた従兄弟バラーラデーヴァは邪悪な策略で彼の王座を奪い、バーフバリだけでなく生まれたばかりの息子の命まで奪おうとする。
25年後、自らが伝説の王バーフバリの息子であることを知った若者シヴドゥは、マヘンドラ・バーフバリとして暴君バラーラデーヴァに戦いを挑む。
監督・脚本のS・S・ラージャマウリや主演のプラバースをはじめ、前作のスタッフやキャストが再結集。
(映画com.より引用)
予告編
『バーフバリ2 王の凱旋』考察(ネタバレあり)
インドの歴史事象からの諸引用
この映画を見ていて、インドの史実に関する本を読んでいた時に聞いたことがある固有名詞が登場していたので、まずそこに個人的に興味が湧きました。
ただ如何せん時代や場所をバラバラに引用している節があるので、この映画が史実に即した映画化と言われると、そうではないと思いますね。あくまでもインドの歴史から一部引用があるというだけです。
バーフバリ
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そもそも本作の主人公であるバーフバリの名前がジャイナ教の聖者から引用したものなんですよね。
これに関しては、インド国内でも話題になっていたようです。
ただこの引用に関してはジャイナ教徒から多くの苦情が寄せられたと言います。
バーフバリの像を見てもらえれば分かると思うんですが、ジャイナ教では衣類を身につけずに瞑想するというのが修行法の1つとされているんです。
最近「断捨離」という言葉をよく耳にすると思いますが、あれはインドのヨガの思想に影響を受けていて、それはつまりジャイナ教にも通じているということです。
ものへの執着から解脱し、悟りを開くという修行の方法がバーフバリ像には反映されているわけです。
そしてジャイナ教の5戒律というのが、映画『バーフバリ』に対する批判の根拠と言われています。
ジャイナ教では、人を傷つけないこと(アヒンサー)というのを5戒律の1つ目に定めているんです。
だからこそバーフバリというジャイナ教の聖者の名前を冠したキャラクターが映画の中で人を殺めまくるという描写には、一部の人たちから苦情が寄せられたのでしょう。
ただ、バーフバリという名前やジャイナ教的な要素が彼に反映されているとは言い難く、これも名前の引用程度かなあとは思いますね。
マヒシュマティ
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本作に登場するマヒシュマティ王国ですが、これもまた実在していた王国の名称です。
11世紀から13世紀ごろに繁栄していたとされるこの都市はインド中央部の有力都市で、アヴァンティ王国に属した後、アヌパ王国の首都になったとされています。
バラーラデーヴァ
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バラーラデーヴァはアマレンドラバーフバリの兄に当たり、彼を陥れた本作のヴィランです。
彼の名前はおそらくですが、ホイサラ朝の王族バッラーラの名前から引用したのだと思われます。
弟がいたということから推測できるのは、バッラーラ1世の影響を受けたということでしょうか。彼にはヴィシュヌヴァルダナという弟がいました。
ただバッラーラ1世ってチャールキヤ朝の支配を打倒しようとして失敗したんですよね。その後弟のヴィシュヌヴァルダナやバッラーラ2世の治の下にホイサラ朝は力を強め、独立へと向かいます。
カーラケーヤ
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カーラケーヤはインドの叙事詩「マハーバーラタ」に登場しますね。
カーラケーヤというのは、アスラ(神々の集団)の名称で、彼らは巨大な蛇の怪物であるヴリトラと共に神々と戦っていました。ただヴリトラはインドラとの対決に破れてしまいます。
ヴリトラがいなくなったためにカーラケーヤたちは海の水の底に逃げ込み、身を隠すのですが、アガスティアという神々が海の水を飲み干してしまい、結局神々に打倒されてしまいます。
映画『バーフバリ』においてマヒシュマティ王国が神々の国だったとするならば、それに挑んだカーラケーヤという構図は「マハーバーラタ」からの引用にも見えますね。
カッタッパ・ナダール
カッタッパの名前についているナダールという言葉はインドにおけるカーストの中の1つです。南インドやスリランカで用いられていた身分と言われています。
彼らはかつてのタミルの王族の子孫だと主張しています。
私は人物名と国名に絞ってご紹介しましたが、細かく見ていけば、もう少しインドの史実や叙事詩等からの引用は多く見られると思います。
ただ、引用しているモチーフがあまりにもバラバラなので、正直この作品そのものが史実に即しているかと言われると微妙なラインですね。
物語のマザータイプの反映
比較神話学などで有名なジョーゼフキャンベルという教授が世界中のヒロイズムを繁栄した物語を集めて研究し、そしてそれらの物語が全て1つのマザータイプに集約されるという結論を見出しました。
そしてその最古のものがホメロスが著した『オデュッセイア』です。
彼が見出した物語のマザータイプというのは、「セパレーション」→「イニシエーション」→「リターン」の三段構造です。
これが英雄伝説型の物語の雛型であり、これを踏襲した作品が世界中で受け入れられているということを彼は発見したわけです。
確かにこの作品はこの上なくマザータイプに忠実なマヘンドラバーフバリの英雄譚ということが出来ます。
まずは「セパレーション」です。
彼の「セパレーション」はそもそも赤子の時にマヒシュマティ王国を追われたことに端を発します。
それに加えて1作目の『バーフバリ 伝説誕生』で自分を育ててくれた親の下を離れたこともまた「セパレーション」です。そして冒険の始まりには大きな壁が立ちはだかるのですが、それがこの映画ではあの巨大な滝だったというわけです。
そして物語の中で「隠された父」に出会います。これが「イニシエーション」に当たります。
父との邂逅を通して自分がどう生きるべきかを考える、そしてその問いに対して答えを出し、戦いに勝利する。ここまでが一括りで「イニシエーション」と呼ばれます。
マヘンドラバーフバリは、カッタッパからかつてのマヒシュマティ王国と父アマレンドラバーフバリの物語を聞かされます。これがまさしく「父」との出会いです。そして自分の運命を知った彼は、マヒシュマティ王国に乗り込み、バラーラデーヴァを打倒します。
ラストは彼が王としての帰還、つまり「リターン」を果たす場面で幕を閉じます。かつて身を追われたマヒシュマティ王国に英雄として帰還し、そして王となります。
映画『バーフバリ』がインド国内でスマッシュヒットを記録し、世界中で大きな話題となり、日本でも受け入れられたのには、この物語のマザータイプが反映されていることが重要だったと見ることもできます。
これは『スターウォーズ』が世界的コンテンツになったのと全く同じ現象と言えるやもしれません。
神の物語から人間の物語へ
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私はこの映画『バーフバリ 王の凱旋』を紐解くに当たって父アマレンドラと子マヘンドラを隔てたものは何だったのか?という点をすごく考えてしまいました。
なぜ父アマレンドラはバラーラデーヴァに勝利することが出来なかったのか、子マヘンドラは勝利することが出来たのか。2人の違いは何だったのでしょうか。
それを考えた時にふと浮かんだのが近年のディズニー『スターウォーズ』が打ち出した方向性です。
ディズニー「スターウォーズ」の世界というのは、オリジナルトリロジーで描かれたルークたちの物語が「神話」になった世界なんですよね。つまりジェダイの物語が神話となった世界なんです。
そこで描かれるのがある種のパラダイムシフトです。
特に昨年公開の『スターウォーズ:最後のジェダイ』はその色が濃かったように思います。スカーイウォーカー家の物語であったジェダイの物語を「名も無きすべての人たちの物語」へとコンバートしようとしています。これは言わば神話から人間の物語へのシフトのようにも見えます。
私は『バーフバリ伝説誕生/王の凱旋』が描いたのもまた神話を人間の物語へと還元していくという構造だったのではないかと思いました。
アマレンドラバーフバリの時代のマヒシュマティ王国の描写というのはすごく神話チックです。
皆さんは神と聞くと、神々しく、自らを犠牲にしてでも他者を救おうとする高貴な存在であるというイメージを持っているかもしれませんが、ギリシャ神話やインド神話における神ってそんなに利他的ではありません。むしろすごく傲慢で、利己的な側面が強いです。
インド神話であれば、ガネーシャの物語は有名です。
彼はシヴァとパールヴァティの息子なんですが、シヴァは彼が自分の息子であることを、ガネーシャはシヴァが自分の父親であることを知りませんでした。
ある日ガネーシャはシヴァに無礼をはたらいてしまいます。するとシヴァは激怒し、怒りに身を任せてガネーシャの首を切って、それを投げ捨ててしまうんです。
後にシヴァは彼が自分の息子であることを知り、後悔の念に駆られて首を探す旅に出るんですが、結局見つけることが出来ず、旅先で見つけた像の首を切り落としてガネーシャの胴体に接続してしまうんです。
他にもギリシャ神話のヘラなんかはもうめちゃくちゃなエピソードがたくさんあります。
カリストという美しい少女を見ると、嫉妬心に駆られて彼女を熊の姿に変えてしまいます。他にもゼウスに寵愛されたイオという美しいニンぺを牛の姿にして飼育したりしています。まあとても神とは思えない所業です。
あとはレトという神のエピソードは個人的に大好きですね。レトは2人の子供の母ですが、彼女はニオベという人間で、7人の母親である女にディスられたのに怒り狂って、ニオベの7人の子供を手にかけてしまいます。
結局何が言いたいのかというと、アマレンドラの時代のマヒシュマティ王国におけるシヴァガミ(この名前がもはやインド神話における絶対的な存在であるシヴァを想起させるが)はまさに神のような存在なんですよね。
それは彼女が「自分を神だと思え」という類の言動を繰り返していることからも明らかです。
そしてシヴァガミとそれを取り巻くアマレンドラやバラーラデーヴァの物語もまた極めて神話的です。シヴァガミが『バーフバリ王の凱旋』で見せる権力者としての横暴さや野蛮さはすごく神話の神々に近しいものを感じさせます。
バラーラデーヴァも絡んでくる話ですが、血縁関係がある者を殺したり、不遇な目に遭わせたりするのもすごく神話的と言える展開なんです。
だからこそカタパッパの口からマヘンドラに語られるのは、あくまでも「神話」なんですよ。
「神話」の中で綴られるのは、あくまでも神々の血で血を洗う争いであり、アマレンドラはその一人でしかなかったのです。
作中でアマレンドラはすごく神話的に描かれています。視覚的に印象的だったのは、彼がカタパッパに殺される直前の戦いで見せた雷で敵を焼き殺すシーンでしょうか。雷を操るのはシヴァの能力と言われております。
つまりアマレンドラバーフバリは「神」だったがゆえに神同士の戦いに勝利することが出来なかった、バラーラデーヴァに敗北してしまったのではないでしょうか?
マヘンドラバーフバリは彼の息子ですから、もちろんその血を引いています。しかしマヘンドラはマヒシュマティ王国という神の王国を追われ、人間に育てられました。
だからこそ彼は「神」に育てられ、「神」として生きた父アマレンドラとは違います。あくまでも「人間」に育てられた「人間」なんですよ。
だからこそ彼は父とは違う存在であり、それがゆえにバラーラデーヴァを打倒することが出来たのではないでしょうか?
ラストシーンではバラーラデーヴァの黄金の像というマヒシュマティ王国の「神話」のモチーフが滝の下のマヘンドラが育った「人間」の世界へと落ちていきます。このラストシーンは物語の主体が神から人間へと移ったということを視覚的に仄めかしているようにも見えます。
『バーフバリ2 王の凱旋』は神々の物語に終止符を打ち、その物語を人間の手に取り戻すという壮大な叙事詩だったのかもしれませんね。
おわりに
いかがだったでしょうか?
今回は『バーフバリ2 王の凱旋』についてお話してきました。
映画ファンの間でも凄く話題になっている作品ですが、このタイプの作品が個人的にハマる傾向にないので敬遠していた節はあるんですが、見ておいて正解でした。これは素晴らしい作品です。
この映画を見ると、インドで特大ヒットを記録したことも、世界中で大きな話題になっていることも、日本のファンが熱狂しているのも頷けました。
ぜひぜひインドが贈る壮大な脱神話叙事詩をご覧になってみてください。『スターウォーズ』が好きな人は間違いなく好きです。私が保証します。
今回も読んでくださった方ありがとうございました。
完全版がこれまた最高だったのでそちらも是非観てほしいですね!こちらにはきちんとエンドロールが収められていたんですが、エンドロールの中にも仕掛けが入っていて監督は天才だなって思いました。本当に面白い作品なんですが熱をもって伝えるほど周囲には分かってもらえないのが辛いです。
@たぬきさん
コメントありがとうございます。
一応完全版で見ましたよ^ ^