はじめに
この記事においては、今朝公開されたシンゴジラの予告編に基づきさまざまな考察や予想をしていこうと思います。ゴジラのビジュアルについてはみなさんいろいろな気づきや解釈を持ってらっしゃると思うので今回はあえて語らないこととします。
©東宝 「シンゴジラ」予告編より引用
個人的に要注目したのが、「ニッポン対ゴジラ 現実対虚構」と「諦めず、最後までこの国を見捨てずにやろう」という2つのキャッチフレーズです。
ゴジラは社会派映画作品である
ゴジラと聞くと、ただの怪獣映画というイメージを持たれるかもしれません。しかしゴジラはとても社会派な映画作品なのです。日本の原爆や水爆実験による核戦争勃発に対する恐怖がゴジラを生み、そのゴジラが人間の文明たる都市を破壊するという形で初代ゴジラが作られました。
そして1979年のスリーマイル島の核施設で起きた事故に呼応するかのように、1984年に再びゴジラ1984が公開されています。これは人間には原子力は手の余るものであり、暴走してしまうとどうすることもできないのだというメッセージが込められているともとれます。また冷戦下の核戦争勃発の危険性をも描いているのも興味深いポイントです。
そして1995年にゴジラvsデストロイアが公開される運びとなります。この作品は1986年に起きたチェルノブイリ原発事故の影響を大きく受けていると言わざるを得ないでしょう。というのもこの作品において、人類は、ゴジラがメルトダウンし、世界を滅ぼすほどの核爆発を引き起こす危険に直面するのです。
このようにゴジラは原子力への抵抗や反発が強く、唯一の原爆被爆国である日本だからこそ生み出せた、象徴的な存在なのです。
『シン・ゴジラ』は社会派ゴジラの系譜ではないか?
今回のゴジラ2016はやはり、2011年に起きた福島第一原発事故の影響を大きく受けているのではないでしょうか。
ゴジラのビジュアルから考えても想像は膨らみます。狂気じみた化け物のような見た目は、未だ全貌が明らかにならない不気味な原発の状態を表し、バーニングゴジラを彷彿させる体内の赤い発光は、潜在的な何か大きな危険を表しているようにも取れます。
そのサイズの大きさはあの事故がこれまでのどんな事故よりも大きな規模だったことを物語っているようにも見えます。原発再稼働か原発脱却か。いま日本で論争の的となっている問いです。
ゴジラは2016年に事故から5年がたち、あの事故の恐ろしさを忘れつつある我々日本人にふたたび警鐘を鳴らさんとしているのではないでしょうか。
現実対虚構の反転構造
最初に取り上げたキャッチフレーズでは、「日本=現実、ゴジラ=虚構」とされています。しかし、私は本編ではこのフレーズと全く逆のことをやろうとしているのではないかと思っています。
我々が現実だと思ってきたものが虚構に変わっていく、そして虚構と思われていたものが真実味を帯びてくる。信じられるものなど何もない世界、ポストモダニズムの世界。この作品が描きたいのはそこなんじゃないかと個人的にはかんがえました。
福島第一原発において今何が起こっているのかなんてほとんどの国民は知らない。我々が知りうるのはマスコミが作り上げた現実に過ぎません。原発のことに限らず、我々が現実だと信じているのはメディアや情報が作り上げた真実であり、とても脆い真実なのです。
そういう人間の情報によって世界のレイヤーを作り上げていく様の恐ろしさをドンデリーロという作家が『Runner』という短編小説の中で痛烈に描き出しています。
逆にゴジラなんて怪物は誰がどう考えてもフィクションです。これを言い換えると、原発がとても恐ろしいことになっているとしても、マスコミが作り上げた現実に反するのだからそれは虚構であり、フィクションなのだ。ということになります。
しかし、こんなにも脆い現実、つまり真実というものは何かの拍子で簡単に虚構へとなり下がってしまいます。我々がゴジラなんて虚構の産物だと思っていても、それがある日突然表れたならそれは紛れもない現実になるのです。
「シン・ゴジラ」は我々が脆い現実に慢心し、潜在的な危険性を秘めた虚構を虚構と切り捨てる我々に警鐘を鳴らそうとしているのではないでしょうか。
「日本=虚構、ゴジラ=現実」となるさまを描いてくれるのではないかという私の予想です。
未来の我々へのメッセージ
「諦めず、最後までこの国を見捨てずにやろう」これは、今の我々ではなく、虚構であると切り捨てていた原発やその他の潜在的危険が現実となった未来の我々へのメッセージなのかもしれません。
今まで信じてきたものが崩れていく瞬間、人間はただただ呆然と立ちすくむのみです。しかし、そこからどうするのか、諦めて終焉を見届けるのか、それにあらがうのか。実に深い意味が込められたフレーズだと感じました。
おわりに
我々が待ち望んだゴジラが帰ってくると期待していいのではないでしょうか。ゴジラは2016年の我々にどんな警鐘を鳴らしてくれるのか、公開日が楽しみで仕方がありません。
アイキャッチ画像:©東宝 「シンゴジラ」ポスターより引用
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